メメント・モリ   作:阪本葵

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第65話 恩師との再会

学年別タッグトーナメントが終了し、一学期も終盤に差し掛かる。

一学期の終盤と言えば、期末試験がある。

ちなみに、IS学園には中間試験は無い。

その分、期末試験の試験範囲が広くさらに成績の比重が重い。

さらに、期末試験は一般教養だけではなくIS関連の筆記、実技も含まれるため試験勉強は大変なものである。

が、しかしその前にまだ生徒の気持ちを高揚させるイベントがある。

それが、臨海学校である。

各学年それぞれ行き先が異なり、一年生は初めての校外学習と先輩のいない解放感を想像し今から浮足立っている。

二泊三日で、初日は自由時間、二日目がISの操縦や、専用機持ちは新しい装備の試運転などに充てられ、最終日も午前に机上教育と自由時間で終了という行程である。

全寮制のIS学園内で親元を離れ、同年代との共同生活というのは殊の外ストレスを伴う。

それを発散させるために、カリキュラムも自由時間が多めになっているのである。

照秋の在籍する三組でも、生徒達がやれ水着がどうとか、日焼けがどうとか、遊ぶことで頭がいっぱいなのかそんな話題でもちきりだ。

 

そんな光景を見て、照秋は中学時代の臨海学校を思い出す。

規律に厳しいと有名だった全寮制の学校だったので、臨海学校だといっても生易しいものではなかった。

まず、到着するや軍隊のように統率した隊列で砂浜を褌と裸足で長距離ランニング、そして近くの島まで遠泳、寺で精神修行を行い、夜は精進料理をいただき、9時に就寝。

朝は5時に起床し寺と近隣を全生徒で清掃活動し再び朝食前に精神修行。

遊ぶなどという事とは完全剥離した、正しく校外学習であるがこれこそ、本来の校外学習のあるべき姿ではないだろうか。

辛いものだったが、それでも心が研ぎ澄まされていく感覚を感じる濃密な数日だったのでいい思い出である。

 

「どうした、遠い目をして?」

 

照秋が昔に思いを馳せていると箒が話しかけてくる。

照秋は中学校での臨海学校の事を話した。

すると、それを聞いた箒とマドカはポンポンと照秋の肩を叩き、憐憫の目を向けた。

 

「お前、灰色の中学生活を送っていたんだな。マジで同情するわ」

 

「大丈夫だ! 臨海学校のスケジュールでは自由時間が設けられている! 存分に遊べるぞ!!」

 

人の思い出に対し酷い言いようである。

しかし、箒の言う自由時間というのも照秋にとっては戸惑うものである。

照秋は練習バカの体力バカと自他ともに認めている。

そんな照秋の、自由時間の使い道というのも、そう考えると容易に応えは導きだされるだろう。

そうならないためにも、箒は照秋に付きっきりで海水浴を満喫しようと画策しているのだが、それは口にしない。

 

昼休みになり、いつものように一組からセシリア、シャルロット、ラウラが合流し食堂で昼食を採る。

そして、その時に箒とマドカが照秋の中学時代の臨海学校の思い出を話したら、案の定セシリアとシャルロットが憐憫の目を向ける。

 

「安心してください! 今年の臨海学校はわたくしと楽しい思い出をたくさん作りましょう!!」

 

「そうだよ! 僕もめいっぱい付き合うからね!」

 

がっしり手を握られ力説するセシリアと、その横で拳を握りしめフンと鼻息荒いシャルロット。

ただ、ラウラは照秋の思い出に対し何が悪いのかわからず首を傾げている。

 

「遠征での訓練だろう? まあ、教育機関にすれば多少厳しいとは思ったがそれほど問題視することか?」

 

根本的に何かを勘違いしているラウラは、箒たちの力説がまったくわかっていなかったのだった。

 

さて、ここで疑問に思った方もいるかもしれないが、シャルロットが公然と照秋に対しアピールをしている。

それも、箒やセシリアに負けないほどのプッシュでだ。

照秋は後で聞かされ内容自体は知らないのだが、先日照秋達と一緒に風呂に入る(水着着用)というイベントをこなした際、マドカに素直になれと唆され自分の気持ちに正直になろうと決心したシャルロットは、自分の気持ちをまず箒とセシリアに打ち明けたらしい。

何故照秋ではなく箒とセシリアに先に報告したのかはわからないが、そこで何やかやがあり、箒とセシリアはシャルロットの気持ちを認めたそうだ。

 

シャルロットは箒とセシリアを連れ、すぐに行動に出て、照秋に告白した。

照秋と付き合うイコール婚約者、結婚という図式が出来つつある現状、照秋はその告白に困り果てた。

照秋はシャルロットに対し恋愛感情を抱いておらず、あくまで友達としての関係でいたいと正直に言ったが、シャルットは恥ずかしそうにこう言った。

 

「で、でも、僕の写真、たまに見てくれてるんだよね?」

 

「ん? ……ああ、箒と一緒にな」

 

「……んん? 箒と?」

 

「いや、男装してた時は化粧してなかっただろう? 今は軽くしてるだろうけど、それでもあの写真は綺麗に化粧してたし、化粧するのとしないのとではここまで違うのかって。箒もメイクの参考になるって言ってたし」

 

「へ、へえ~……」

 

口元をひくつかせ、笑顔を張り付けるシャルロットは心の中で叫んだ。

 

(謀ったなマドカーーっ!!)

 

目の前でどうしたものかと首を傾げている照秋の背後で、悪魔の角と尻尾を生やし三日月の様な笑みで笑っているマドカの幻影を見た気がしたシャルロットは泣きたくなった。

マドカにけしかけられ一大決心したが、そのきっかけの言葉が『自分に良いように解釈しとった事』だったのである。

だが、照秋が好きなのは事実であるし、そう簡単に諦められる気持ちでもない。

とりあえず『お試し期間』という言葉を使いシャルロットは照秋と付き合おうとまで言いだした。

それでも照秋は渋ったのだが、なんと箒とセシリアがシャルロットの援護をし始めたのだ。

 

「女の一大決心を応援しないはずがないだろう。それに私はシャルロットならば構わないと思っている」

 

「そうですわ。わたくしたち、シャルロットさんの周囲で起こった出来事を全て聞きましたの。ならば、テルさんが責任を取るのは当然かと思うのですわ」

 

なんと、シャルロットは箝口令の出ていた『一夏との美人局事件』から、『デュノア社事件の真相』まで全てを話したらしい。

マドカもあの二人には話してもいいと言ったそうで包み隠さず告白したという。

これに、箒とセシリアは驚きはしたがシャルロットに怒ることなく、逆に慰めてくれたという。

ただ、一夏に対しては殺すとか埋めるとか物騒の言葉が飛んでいたそうだが。

まあ二人が言いたいことは、今まで辛い思いをしたんだからここで幸せになってもいいだろう、ということだった。

 

「俺の意志は?」

 

「何を言っている。照秋もシャルロットのこと、まんざらでもないだろう?」

 

箒にズバッと指摘される。

 

「そうですわね、先日シャルロットさんに抱き付かれて鼻の下伸ばしてましたものね」

 

否定できない事を言うセシリア。

 

「別に、二人みたいにそのままの流れで結婚してくれとか言わないよ。僕もそこまで考えてるわけじゃないしね。僕は今の幸せで十分だから」

 

笑顔で謙虚な事を言うシャルロットだが、その背後で照秋を睨む箒とセシリア。

 

お前は女を捨てるなんて外道な事はしないよな?

人の思いを踏みにじるような人道に外れるようなことはしませんわよね?

 

そう目で言う二人に、照秋は頷くしかなかったのだった。

 

「……俺って最低な人間だな」

 

自己嫌悪になる照秋。

人として、複数の威勢と付き合うとかそれこそ外道ではないかと頭を抱える。

事実、照秋は箒が好きだし、セシリアも好きだ。

シャルロットにしても美少女だとは思うし、告白されて嬉しかったし、渋々付き合うと言ったが心の中では喜んでいた。

さらにここにはいないクラリッサとナターシャもいるし、愛人宣言をしているラウラもいる。

合計6人の美女、美少女を侍らせるという、IS委員会から世界公認の一夫多妻を認められているとはいえ、全世界の男を敵に回す所業に照秋自身気持ちが下がる。

なんという人でなしの最低野郎だと自分を叱責するが、箒たちからすればそれは違うらしい。

箒も、セシリアも皆照秋の置かれている立場を理解しているし、仕方ないと割り切っている。

それに、コレはコレで楽しいと意外と楽観的だった。

 

「皆を平等に愛してくれればいいさ」

 

笑顔でそう言う箒と、頷くセシリアとシャルロット。

 

――女って強い。

――そして、怖い。

 

心からそう思った照秋だった。

 

 

――とまあ、こんないきさつがありシャルロットは公然と照秋に接触してくるようになり、それに刺激されたのか箒とセシリアもいつも以上に照秋にベタベタくっついてくる。

青少年の悶々とした感情を処理するのに苦労する照秋は、何というぜいたくな悩みを抱いているのだろうか。

そんな嬉し恥ずかしな毎日を送る照秋は、いつか背中を刺されるかもしれない。

 

 

 

休日になり、照秋は箒とマドカ、セシリア、シャルロット、ラウラの四人に連れられてショッピングモール『レゾナンス』に来ている。

朝からいつものトレーニングを行い、朝食を採りのんびりとしようかと思っていると、箒とマドカが出かけようと言い出した。

臨海学校で必要なものがあるらしい。

そういえば、と照秋は自分も水着が無いなと思いだし、二人に付いていくことにした。

途中、箒が連絡したのか校門の前で待ち構えていたセシリアとシャルロット、ラウラと合流し5人でリニアレールに乗り込み出かける。

休日なので各々私服を着ているのだが、ラウラは制服だった。

聞くと、ラウラは私服を持っていないらしい。

あるのはドイツ軍の軍服とトレーニングに使用する簡素な服程度だとか。

これに親近感を覚えた照秋は、ラウラと意気投合、二人は声を揃えてこう言った。

 

「ファッションを気にする暇があるならトレーニングに費やすべき」

 

これには箒たちもげんなりし、ラウラにファッションを気にすることによる恩恵を教え込むことを誓うのだった。

大型ショッピングモールレゾナンスは、世界各国のエリートたちや各国の企業、要人が集うIS学園が近くにあるからか、商品の充実さは驚愕に値する。

世界各国の食料品から雑貨、有名ブランド、何でもござれで、逆に無いものを探す方が大変だ。

ここに来れば揃わないものは無いと言っても過言ではないほどであり、他県からも買い物に来るほどである。

 

「そういえば、ここのスポーツ用品店の品揃えは国内で一番だって中学時代に聞いたな」

 

「ああ、ここは取り寄せしなくても常に在庫があるので有名だからな」

 

照秋が思い出したようにつぶやくと、箒が頷く。

 

「だが今日は、水着が先だ」

 

そう言って照秋の手を握り引っ張り出す箒。

それを見て、あっ抜け駆けだ! と騒ぐ三人と、またかとため息をつくマドカ。

騒ぎ出した4人は全員が美少女であり、ただでさえ周囲の注目を受けていたのに騒ぎ出すことで余計に人の目を引くことになる。

その中心にいる、目立ちたくない照秋は思った。

 

(勘弁してくれ)

 

しかし、その騒ぎが思いもよらぬ出会いを果たす。

 

「おい、お前織斑照秋か!?」

 

突然声をかけられ箒たちは騒ぐのを止め照秋に声をかけた人物を探そうと周囲をキョロキョロと見渡すが、その声に覚えがあった照秋はすぐに声の主を見つける。

そして照秋は、箒たちから離れ走り寄り、声の主と喜びの声を上げる。

 

「久しぶりだな織斑!!」

 

「ああ、ああ! 久しぶりだな宮本!!」

 

肩をバンバン叩き、握手する二人。

突然走り出したかと思ったら男と親しそうにする照秋を見てポカンとする箒たち。

 

「どうしてここに?」

 

「ああ、ここには品ぞろえの良いスポーツ用品店があるからな。剣道部の奴らと新風先生と一緒に道具を買いに来たんだ」

 

「新風先生もいらっしゃるのか!?」

 

「ああ、会うか?」

 

「勿論だ!!」

 

これほどテンションの高い照秋を見ることがほとんどない箒たちはポカンとしている。

そんな中、ラウラがクイッと照秋の服を引き首を傾げ問いただした。

 

「照秋よ、この男は誰だ?」

 

いきなり現れた銀髪の美少女に驚く宮本だが、照秋はそんなラウラの頭をポンポンと優しく撫で言った。

 

「中学校の同級生で、同じ剣道部だった宮本だ」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「そうか。照秋の愛人のラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「あ、愛人?」

 

フランクな態度だった宮本が若干緊張した感じでラウラに挨拶を返す。

それに続き、箒たちも照秋の元へ寄る。

一気に美少女が5人になったことで、さらにガチガチに緊張し始めた宮本。

無理もない、全寮制の男子中学校で、そのままエスカレータ式に男子校へと入学したのだから、女生徒の免疫など皆無に等しい。

さらに、目の前にはアイドルや女優でも通用する美少女ばかりである。

緊張するなという方が難しい。

そんな中で見知った顔を見つけた。

 

「あ、女一刀斉だ」

 

「女一刀斉言うな!!」

 

中学時代の不本意な二つ名を言われ顔を真っ赤にして怒る箒。

隣で声をかみ殺して笑いを我慢しているマドカと、意味が分かっていない外国勢は首を傾げるばかりだった。

 

 

 

宮本は、とりあえず今は自由時間で各々ぶらぶらと好きなところに行っているから、集合時間と場所を教え、照秋達と別れた。

そして、照秋たちはその集合時間まで臨海学校で必要なものを買うためにショッピングを始める。

まず二階へ赴き、水着コーナーへ。

何故か自分の水着を選ばせようとする女子たちと半ば強引に別れ、照秋は男物コーナーへ行く。

男物はスペースが小さく品揃えも少なかったが、ファッションに毛ほども興味が無い照秋は競泳水着以外のトランクスタイプの水着で、サイズが合えばいいくらいにしか思っておらず、適当にサイズを確認してレジへ向かう。

その時、ガシッと後ろから照秋の肩を掴むマドカが。

 

「私が選んでやるから、その金ラメの演歌歌手が着る着物みたいな海パンはやめろ」

 

ものすごく切実な顔でギリギリと肩を掴む手に力を入れるマドカに、照秋は頷くしかできなかった。

結局マドカの選んだ黒を基調としたサーフパンツを購入すると、マドカに手を引かれ何故か女性水着のコーナーへ連れて行かれる。

そこには、何着もの水着を手に持ち、待ち構えている箒、セシリア、シャルロットがいた。

ラウラはなにやら一人真剣に水着選びをしており照秋を見ていない。

 

そしてここから約二時間ほどかけて、照秋と美少女達の嬉し恥ずかし水着鑑賞会が始まるのだった。

 

 

 

水着選びを終え、照秋たちは宮本が言っていた集合場所に向かう。

そして、そこには宮本と同世代の男子数名とラウンドサングラスをかけた白髪の初老の男性がいた。

照秋は逸る気持ちを抑えることなく、足早にその集団の元へ向かい、その集団の中にいた宮本が足早に近づいてくる照秋に気付く。

 

「みんな!」

 

照秋は男子たちにもみくちゃにされるが、笑顔で肩を抱いたり軽く叩いたりと荒っぽいコミュニケーションと取る。

やがて、初老の男性が近寄る。

その初作を見た箒とマドカ、ラウラがギョッと驚く。

見た目は細身で初老の男性ながら背筋をしっかりとした立ち姿に、肩口まで伸びた髪を後ろで一束にし、立派に伸ばした鬚を綺麗に整え、ラウンドサングラス、レザージャケットといったロックなファッションセンスが似合う老人であるが、その歩行にはまったくの無駄な動きが無く、さらに隙すらも見当たらない。

ただ、歩いているだけなのに、箒は「この人には勝てない」と悟ってしまった。

 

「久しいな、織斑」

 

声をかけられた照秋は、ピッと背筋を伸ばし初老の男性に正対し、腰を折り敬礼する。

 

「お久しぶりです、新風先生」

 

初老の男性、それは照秋の中学時代の恩師『新風三太夫』その人であった。

新風先生は照秋を足元から頭のてっぺんまでをゆっくりを眺め、やがてニコリと笑い顎髭を撫でる。

 

「鍛錬は怠っていないようだな」

 

「はいっ! 新風先生の教え通り、毎日立木打ちを欠かしていません!」

 

「そうか」

 

ものすごく嬉しそうな照秋。

とりあえず置いてけぼりを食らってしまった女子たちは照秋に近寄った。

 

「おや、見目麗しい女性ばかりだ。この方たちは?」

 

照秋は箒たちを置いてけぼりにしていたことに今更気付き、慌てて紹介を始めた。

そして、箒たちと照秋の関係を聞くや、新風先生は目を見開き、そしてカカと笑い始めた。

照秋たと箒たちの関係は世界中に公表している。

つまり、新風先生も照秋と箒たちの関係を知っていたのだが、メディアが公表してる情報と実際に本人たちから聞くのとでは印象が異なる。

 

「そうかそうか、彼女たちが噂の一夫多妻の婚約者たちか」

 

笑った顔を引き締め、背筋をピシッと伸ばし箒たちに礼をする。

その姿があまりにも美しく、おもわず息を呑む箒たち。

 

「挨拶が遅れて申し訳ない。私は織斑の中学時代剣道部の顧問をしていた新風三太夫という」

 

「え、あ、よ、よろしくお願いします!」

 

慌てて頭を下げる箒と、新風先生の空気に呑まれワンテンポ遅れて礼をするセシリア、シャルロット。

ラウラとマドカは新風先生の醸し出す空気に感心し、キッチリと礼をした。

 

「ふむ、織斑、こんな見目麗しい女子を多く娶るとはなかなかやるな」

 

ニヤリと悪戯っぽい表情で照秋を見る新風先生。

とはいえ、新風先生も照秋の置かれている照秋の置かれている状況を理解しているため深く追及はしない。

すると、新風先生は箒たちの方を向き、再び頭を下げた。

 

「この男は、こと自分を鍛えるという事に関しては妥協というものを知らん粗忽者ゆえ、歯止めが必要だ。君たちが影となり日向となり織斑を見てやってほしい」

 

心当たりがありすぎる箒とセシリアは、すぐに頷いた。

そして、そんな反応をする二人を見て、溜息をつく新風先生。

 

「やはり、すでにやりすぎているか」

 

箒とセシリアは、照秋が自身に課しているトレーニングメニューを新風先生に言うと、再び深い溜息を吐いた。

 

「そんな無謀なメニューを毎日欠かさず、かね?」

 

「え、ええ……まあ」

 

「その、わたくしたちはテルさんの練習がやりすぎだと思いつつ当然のようにこなされるので、それが当たり前だと思ってたのですが……やはりダメだったのですね」

 

そう言って、箒は自分の割れつつある腹筋を触り、セシリアはたくましくなった自分の肩を抱く。

 

「そういうところは成長せんな、馬鹿者が」

 

ゴツンと照秋に拳骨を新風先生。

 

「お前はそれで一度痛い目を見ているだろう。同じ過ちを犯すな」

 

「……はい、申し訳ありません」

 

深くため息をつき、新風先生は落ち込む照秋の肩を掴み、口を開く。

 

「いいか、今のお前は守るべき女子たちがこれほどいる。もうお前だけの体ではないのだ。それはわかるな」

 

「はい」

 

サングラス越しにもわかる真剣なまなざしに、照秋は息を呑む。

 

「守るには力が必要なのはわかるが、そのためにお前がつぶれてしまっては本末転倒だろう。自分を労わるのも、大切な事だぞ」

 

「はい、申し訳ありませんでした」

 

恩師である新風先生に心配してもらっているという嬉しさと、自分の置かれている立場が未だわかっていなかったことに憤る。

とは言いつつも、照秋は練習メニューを減らすなど微塵も考えていないのだった。

さかし、ふと照秋は箒たちを見ると、皆がニコリと笑みを返してきた。

 

そうだ、守らなければいけないんだ。

自分の大切な人たちを。

自分の家族を。

 

だから、もっと力をーー

 

決意を新たにした照秋だったが、その後宮本たちに散々八つ当たりされた。

 

「このリア充が!」

 

そう言ってアームロックされ

 

「ちくしょー!! お前だけずるいぞ!!」

 

血涙し

 

「しかも何で全員美少女なんだー!! それが納得できーん!! それにお前、あの天使のナタルも婚約者なんだろ!? 俺あの人のファンなんだよ!!」

 

ナターシャのグラビア写真を携帯の壁紙にしているのを見せ

 

「俺たちにもその世界中の美女たちを虜にするモテ成分わけろ!! どこだ、どこにある? ここか?」

 

照秋の体を弄りはじめ

 

「ていうか彼女たちの友達でもいいから紹介してくれ!!」

 

最終的には懇願してきた。

 

自分の欲望に正直な青少年たち。

男子校で規律厳しいとはいえ、やはり彼女は欲しい。

 

「まあ、クラスメイトくらいなら紹介してやってもいいんじゃないか」

 

そういうマドカが神に見えたのか、マドカを囲み公共の路上で正座して拝み始めた宮本たち。

 

「お願いします! 俺たちにも春をください!」

 

「バラ色の学生生活を!!」

 

「リア充にしてください!!」

 

あまりにも必死すぎて、流石のマドカも戸惑い、箒たちはドン引き、新風先生はまたもや溜息をついていた。

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