臨海学校初日
織斑一夏はバス中で周囲にいるクラスメイトと談笑しながらこれから起こるであろう事件のプランを考えていた。
転生者である織斑一夏は物語であり、原作があるこの世界の知識がある。
インフィニット・ストラトスという、主人公の織斑一夏を中心に織り成すドタバタラブコメディだが、物語の根幹であるインフィニット・ストラトスというマルチフォーム・スーツを駆使し様々な出来事でバトルを繰り広げるバトルものの側面も持つ。
そして、これから向かう臨海学校でのイベントは、物語の中でも一つの山場、一大イベントが待ち受けている。
冷静に考えると、馬鹿じゃないかと思う。
専用機を持っていようが、各国の代表候補生だろうが、所詮未成年の小娘たちなのだ。
そんな小娘に、暴走した軍用ISを止めて日本への被害を食い止めろとか、どこのだれがそんな無茶なミッションを計画したのだろうか。
……ああ、千冬姉か、と一夏はため息をつく。
しかし、IS学園にしても、日本政府、アメリカ政府にしても各国のダイヤの原石の代表候補生や、専用機に何かあったときどう責任を取るつもりだったのだろうかと、問い詰めたい。
原作では、一度一夏が撃墜されたが、弔い合戦とばかりに専用機持ちが銀の福音を強襲、第二形態移行した白式で辛くも勝利した。
原作通りならば、痛い思いをするが、白式がパワーアップする大事なイベントではあるが、今は状況が異なる。
チラリと、離れた席でクラスメイト達と談笑しているセシリア、シャルロット、ラウラを見る。
本来なら、織斑一夏にベタ惚れになりハーレム要員となるはずの彼女たちが、原作にいるはずのないイレギュラー、双子の弟、照秋と仲良くやっているのだ。
セシリアなど、照秋と婚約を結ぶほど進展しているし、ラウラは堂々と愛人宣言をする始末。
シャルロットはそんな関係ではないにしろ、照秋と一緒にいる場面を良く見る。
何故、こうなった――
自分のとった行動を振り返る。
一夏は、自分に原作通り行動し、落ち度などないと分析している。
ただ、そこに照秋というファクターが加わることで行動が裏目裏目となっていったのだ。
セシリアの事は、最初から原作通りの対応をしていたが、気が付けば照秋側に付いてしまっていた。
その反省を踏まえ、シャルロットには積極的に歩み寄り、自分に気が向くように仕向けたが、結果はお粗末なものだった。
欲を出し、照秋を陥れようとしたのがダメだったのか、計画が失敗し、またもや照秋にいいところを持っていかれ、揚句にシャルロットへの心象を最悪にさせてしまった。
ラウラにしても、学年別タッグトーナメントまで接触しないようにしていたら、いつの間にか照秋と仲良くなっていたし、もうわけがわからない。
現状を把握するに、原作ヒロインの悉くが照秋に恋している。
箒が、セシリアが、ラウラが照秋に恋している。
シャルロットは友達というスタンスを取っているようだが、それでも一夏への態度とは雲泥の差だ。
さらに、原作のサブキャラであるクラリッサやナターシャまでもが照秋に付いている。
照秋の周囲に集まるヒロインたちが、まるで原作の一夏へ向けるソレであるかのようだ。
だがしかし、そんな現状に甘んじている一夏ではない。
一夏には一発逆転の一手がある。
それが、銀の福音事件である。
ここで、原作通り一夏が銀の福音を撃退すれば、原作ヒロインたちも見る目を変えるだろう。
さらに照秋へ向けられた恋愛感情も一夏へとシフトするかもしれない。
なぜなら、照秋は箒たちに積極的な行動を取らず、放置に近い扱いをしてるからだ。
一夏にはそう見えた。
だから、箒たちを蔑ろにする照秋よりも原作ヒロインを大事にする一夏に心傾くだろう。
照秋が積極的に行動しているのかと言えば、そうでもない。
一夏は照秋の行動を観察しており、把握している。
照秋は基本自分のクラスメイト以外との接触はしないし、朝のトレーニング、放課後の剣道部の部活、IS訓練と遊んでいる時間を取っていない、練習バカである。
一夏も一度照秋の朝のトレーニングに参加したが、馬鹿じゃないかというような濃密な内容だった。
800メートルダッシュ10本に立木打ち3000回とか、朝からする内容ではない。
シャルロットとの事件の後、千冬直々に特訓を受けISの操縦技術が飛躍的に向上した。
地獄のような特訓だったが、スペックの高い肉体によって乗り切りさらに力に変えた。
千冬曰く、代表候補生くらいならいい勝負をするだろうと。
事実、鈴と模擬戦を数度行い、勝率は半々だった。
これには鈴も驚いていたし、喜んでくれた。
自分が強くなったという実感が湧き、鈴が喜んでくれることが嬉しくて浮かれた。
これなら照秋にも勝てる、と。
そして学年別タッグトーナメントで第一試合から照秋のペアと当たった。
そして、浮かれ伸びきった鼻っ柱をポッキリと簡単に折られた。
全く歯が立たなかった。
気絶し、気付けば保健室のベッドだった。
傍には鈴がいて、一夏は試合の結果を聞いた。
「一夏は頑張ったよ」
労いの言葉で理解した。
負けたのだ。
自室に帰り自分の試合の映像を貰い改めて見る。
正直自分がどんな戦いをしていたか覚えていない。
試合開始後から、照秋は一歩も動くことなく一夏の攻撃を剣一本で捌いていた。
さらに、一夏の攻撃は稚拙だった。
ただ、雪片を我武者羅に振り回しているだけ。
子供のダダを捏ねるような、無様な戦い。
怒りに、焦りに、感情に任せなりふり構っていないお粗末な攻撃。
「……何やってんだ、俺は」
なぜこんなにもアホな試合をしているのだろうか。
鍛えてくれた千冬に、一緒にいてくれた鈴に申し訳が立たない。
そして、改めて思う。
どうしてここまで差が開いたのだろうか、と。
小さい頃は才能のかけらも見いだせない程愚鈍でひ弱な弟だったのに、気付けば中学では剣道日本一。
それに引き替え自分は何をしていた?
IS学園に入学するとわかっていたから、赤点取らない程度に勉強し、友達とバカやって、遊んで、小遣い稼ぎ程度にバイトして。
……原作の一夏なら、どうしていただろうか。
そう考えて頭を振る。
違う、俺が一夏なんだ。
俺が主人公なんだ。
原作の一夏なんて、関係ない。
旅館に到着し、千冬と同部屋になると言われ荷物を置き海へ行くために更衣室に向かう。
その途中、一夏は渡り廊下で庭を見回していた。
原作通りならば、庭に不自然にウサギの耳が飛び出ているはずで、それを抜くと空から篠ノ之束が降りてくる。
一夏はウサギの耳を探し続け、途中照秋とニアミスしたが今は照秋のことなど気にしている暇はない。
しばらく探し、見つけることができずに考える。
そもそも、原作において臨海学校で束が搭乗した理由の一つは箒に紅椿を渡すためである。
だが、今おかれている状況では箒はすでに紅椿を得ているし、日本の代表候補生でもある。
これは原作に剥離しているため、もしかしたら束は来ないんじゃないかと思い始めた。
さらに考え、今ここで会えなくても支障はないと判断し、明日改めて考えようと思い海に行くことにした。
更衣室を出て広がる海を見ていると、大勢の女子が照秋を囲んで騒いでいた。
なにやら体がどうとか、筋肉がどうとか、尻がどうとか言っているが、それを無視し、待ち合わせていた鈴やクラスメイト達と海辺での遊びを満喫したのだった。
夜、部屋で千冬にマッサージをしていると箒たちが部屋にやってきた。
千冬の出していた声を勘違いして扉に耳をつけ聞き入っていたようだ。
そして一気に人口密度が高くなる部屋。
鈴、箒、セシリア、シャルロット、ラウラの順で千冬の前に並び正座する。
一夏はこれから始まる会話の内容を知っているので居心地が悪く出ていこうと思ったのだが、千冬に止められる。
なんの罰ゲームだと思いながら、飛び出てくる惚気。
鈴は自分のことであるから恥ずかしいながらも嬉しさがこみあげてきたが、その後に続く箒、セシリアの照秋賛辞。
聞いていて胸糞悪くなる。
本来なら二人は一夏にベタ惚れでハーレム要因になるはずだったのだ。
そんな彼女たちの口から出てくる違う男の名前。
そして驚いたのはシャルロットの告白である。
いつのまにかシャルロットは照秋に会いの告白をして付き合っているのだそうだ。
転生前はシャルロッ党だった一夏は悔しげに顔を歪める。
一夏なりにシャルロットのためを思って行動した事が裏目に出て結果信用を失い、照秋に奪われるという屈辱。
さらに千冬がラウラに投げかけた言葉に衝撃を受ける。
ラウラの実力が国家代表と同等で、そのラウラを照秋が倒した?
ラウラの国家代表並みの実力という事にも驚いたが、それに勝てる照秋の強さ。
なんなんだ、アイツは。
原作にはいないアイツ。
原作にはないIS。
そして、悉く一夏のポジションを奪う。
決して自分から動いているわけではない。
気付けば、周囲が照秋に寄って行く。
そう、まるで原作の織斑一夏のように。
そう考えてハッとして頭を振る。
しばらく考えていると、千冬が改まって佇まいを正し弛緩した空気が張りつめるのが分かった。
いつの間にかマドカも参加し、皆先程までの緩んだ表情がなくなり真剣だ。
そして語られた、これまでの人生。
親に捨てられ、まだ小娘だった千冬にのしかかる幼い二人の弟の命。
篠ノ之夫妻に助けられながらも、それでも自分たちだけで生きていこうと必死になったこと。
千冬自身に文武に才能があり、学校でも、道場でも如何なく発揮した。
そして、一夏も千冬に似て小さい頃から神童と呼ばれていたこと。
逆に、照秋は才能のかけらもなく、学業も、運動も人一倍努力を要していたこと。
そんな照秋に、きつく当たっていたいたこと。
「言い訳になるが、私も学校、バイト、剣道、弟たちの世話と、日々のストレスを抱え、フォローできない部分もあり、自分のペースに付いて来れない照秋にいら立ちを覚え辛く当たっていた」
中学生、高校生とまだまだ小娘が、幼い兄弟二人を養わなければならない毎日に、同世代の友達たちと遊べず、バイトの毎日、それらが千冬の余裕を蝕んでいく。
千冬の口から語られる生々しい苦悩に、一夏は顔を伏せる。
それ程負担になりながらも育ててくれたのかと、感謝に絶えない。
千冬は語り続ける。
一夏は近所からも、学校でも評判のいい弟で、鼻高々であったのに対し、照秋は愚図だ、のろまだ、鈍臭いバカだと、良い評判は聞かなかった。
千冬とて、照秋に期待して教えるが、それが出来ない。
出来るのが遅い。
だから、自分の基準で照秋を叱る。
何故出来ない
一夏は出来たぞ
遅い、もっと早くできなければ無意味だ
お前がテストで100点? カンニングでもしたか?
罵倒に近い叱責である。
そんな照秋に向ける千冬の叱責は一夏も傍で聞いていたので覚えていた。
何故なら、そう言うように仕向けたのが誰であろう、一夏自身なのだから。
普段から、照秋のあそこがダメだ、アレが出来ないと千冬に言い、さらに自分と照秋の差がどれだけあるかをわからせた。
一夏を信頼している千冬は、いともたやすく一夏の言葉に乗せられ照秋を叱責し始めた。
そんな照秋は生来の大人しい性格と、普段から一夏に押さえつけられていた状況から千冬にも委縮し、言いたいことも言えないオドオドした子供なってしまった。
そういう気弱で意気地の無い態度がまた千冬の癇に障り叱り、照秋はまた萎縮するという負のスパイラルが出来、それを見た一夏はほくそ笑む。
そして、とうとう千冬は言ったのだ。
お前は本当に私の弟か?
それを聞いたとき、一夏はミッションを完遂したと確信した。
千冬は照秋へ向ける愛情が無くなり、一夏を溺愛するようになる。
その頃からだろうか、照秋がまったく会話をすることが無くなったのは。
さらに語られる照秋との関係で、ついに千冬は認めた。
「すでに、照秋の事を見限っていたのかもしれない」
事実、千冬は一夏の策略により照秋のことに関して関心を寄せることが少なくなった。
世間から何を言われようが何も思わなくなった。
だからこそ、一夏が照秋に対して行っていた仕打ちに気付かず、学校で、家での照秋の状況に興味を持たなかった。
だから、何も思わなかった。
照秋が笑わなくなったことを。
照秋と会話をすることがなくなっていたことを。
照秋が他人のように距離を取っていることも。
淡々と語る千冬だったが、隣で見ていると若干肩が震えていた。
語りは続き、一夏がIS世界大会で誘拐されたことに移る。
シャルロットのみ知らなかったようで、ものすごく驚いていた。
そこから、一夏の知らないことが語られる。
知らない間に一夏と照秋に護衛が付いていたという。
まあ、当然と言えば当然の対策だが、せめて教えていてほしかったと思う。
さらに、語られた衝撃の事実に一夏も驚きを隠せなかった。
ドイツへの一年間のIS教導から帰国後、IS学園の教職に就いた頃から、千冬の携帯電話にイタズラ電話が多くなった。
内容は女尊男卑の急先鋒であるIS学園の凶弾、千冬への罵詈雑言などくだらない無いものから、弟の一夏、もしくは照秋を誘拐したから、言うとおりにしろといったものまであった。
最初こそ千冬は誘拐電話を信じ、一夏と照秋の安否を確認していたという。
当然電話は狂言で、二人とも無事だった。
そんなイタズラ電話がほぼ毎日掛かってくると、自然と危機意識が麻痺していく。
千冬も、イタズラ電話の対応がおざなりになっていった。
そんな中、そのイタズラ電話が現実のものになってしまった。
「照秋が中学三年になり、春の修学旅行で京都にいる時、照秋を誘拐したという電話が掛かってきた……」
言い淀む千冬。
それを、まっすぐ見つめる箒とマドカ。
一夏もジッと千冬の顔を見上げていた。
そして、千冬はゆっくり口を開き、最大の罪を口にする。
「……私は、それを、いつもの狂言だと判断し、相手にしなかった。……だが、その電話が掛かってきた二時間後、学校側から照秋が何者かに誘拐され怪我を負ったと連絡を受けたのだ」
苦しそうに、吐きだすような言葉であるが、衝撃の事実に言葉も出ないセシリアとシャルロット、ラウラ、鈴。
なにより一番驚いたのは誰であろう一夏だ。
「私は、急ぎ照秋が運ばれた病院へ向かった。発見された現場は府内の廃工場、照秋は気絶し、全身数か所の打撲と肩に拳銃による負傷。幸い銃弾は貫通し、障害が残るような傷ではないとのことだったが、れっきとした重傷だった」
重傷だったという照秋のことより、そんな危険な事に巻き込まれた可能性が自分にもあったと思うとブルリと震えがくる。
「照秋を助けたのはワールドエンブリオであり、結淵マドカだった。それから、照秋は日本政府の要請でワールドエンブリオが預かることになり、一切の接触を禁じられた」
それを聞いた一夏は、ん? と首を傾げる。
以前から考えていたのだが、そもそもワールドエンブリオはいつから照秋を監視していたのだろうか?
照秋が誘拐されるというイベントに介入するワールドエンブリオという企業が、照秋を保護し、誘拐事件以降にワールドエンブリオは量産第三世代機と第四世代機を世界に発表した。
あまりにも都合がよすぎる。
まるで、この世界の物語の始まりという時計の針を、照秋という人間を中心に進めるかのように。
一夏は、千冬の独白に割り込むように自分の疑問を投げかけると、意外にもマドカが割って入ってきた。
「わかってたんだよ」
わかっていた、つまり、ワールドエンブリオは照秋がISを扱えるという事を以前から知っていたことになる。
ISは女しか扱えないという世界の常識であった頃に、すでに男の照秋の事を知っていた。
これは、つまり……
「ワールドエンブリオは、日本政府が用意した護衛とは別に独自にテルを監視をしていた」
「何故だ?」
千冬が睨むようにマドカを見る。
マドカは、頭をガシガシと掻き、面倒臭えとつぶやき、一夏の予想通りの答えを言う。
「篠ノ之束博士の要請だ」
「束さんの!?」
マドカの言葉に、やっぱり! と思う一夏。
「まあ、そんなことはいい。今回の話は、アンタのことだ」
「いやよくねえだろ! 束さんが関係してるんだったら!」
一夏がマドカに食って掛かる。
そう、よくない。
それが事実なら、束は以前から一夏より照秋に対し興味を持ち優先順位は一夏より上という事になる。
それは、一夏にとって死活問題だ。
この世界で、束を味方に付ける意味を知る一夏にとって、一夏の最大の障害である照秋の味方に付いているという事はつまり、一夏の障害にもなるという事だが、当のマドカは大きくため息をつき、また面倒臭えとつぶやく。
「篠ノ之博士が関係したとして、お前に説明する理由があるのか?」
「当たり前だろう! 俺は……」
そこまで言って一夏は言葉を詰まらせる。
俺はこの世界の主人公、織斑一夏なんだぞ! とは言えない。
言葉に詰まる一夏を見て、マドカはフンと鼻を鳴らした。
「俺は、何だ? お前は篠ノ之博士にとって親友の弟だ。それ以上でもそれ以下でもない。特に興味を持つ対象でもないだろうよ」
「そんなことねえ!!」
「うるせえよクズが。耳元で叫ぶな」
心底嫌そうな表情で見つめるマドカに掴みかかろうとした時、マドカが底冷えする言葉を放つ。
「そもそも、私たちはお前がしてきたことをここで追及してもいいんだぞ。お前、覚悟が出来てんのか? ああ?」
マドカがそう言うと、一夏は一気に冷や水を浴びせられたように青ざめた。
箒やシャルロットたちの視線も一夏に集中する。
今ここで、一夏の真意を暴き照秋に謝罪させる。
そうすれば、照秋の幼いころからの深く傷ついた心が癒されるかもしれない。
そう思っているだろうことは容易に想像できるが故、無言で歯を食いしばる一夏には、追及されても弁解できるものが無い。
今更鈴に言った苦し紛れの「照秋に強くなってもらいたいから」という答えが通じるはずもない。
それに、頭が恐ろしくキレるマドカのことだから、一夏への追及はとてつもないものになるだろうことは想像に難くない。
そんな、必死に無い知恵を絞ろうとしている一夏を見てフンと鼻を鳴らすマドカ。
「ハン、ありがたく思えよクズ。今はお前の追及は後回しだ」
マドカは一夏から興味を無くしたように目を離し千冬を見る。
そして、千冬が一夏の襟首を掴み無理やり座らせ、何か言いたそうだった一夏をひと睨みし黙らせた。
そこからは、千冬が照秋との完成を修復したいから手伝ってくれと頭を下げ、皆がそれを手伝うと言い和やかな空気になる。
だが、一夏はそんな和やかな空気とは別に自分の危機的状況に焦りを感じていた。
今まで気付き上げていた自分の立ち位置が危ぶまれている。
陥れようとした照秋を、助けようと皆が手を差し伸べている。
何故こんな事になるんだ。
俺が主人公なんだぞ!
俺が織斑一夏なんだぞ!
なんで俺より照秋を助けようとするんだよ!!
この世界は俺を中心に回ってるんだぞ!
俺の都合が良いようになってるんだぞ!!
皆、俺の思い通りに動けよ!
原作通りに動けよ!!
一夏の心の叫びは、決して漏れることなく、和やかな空気の中苦々しい表情で皆の笑顔を見ることしかできなかった。