メメント・モリ   作:阪本葵

70 / 77
第70話 臨海学校二日目

臨海学校二日目

 

朝食を採り、生徒全員でISスーツを着て砂浜に集まる。

今日のカリキュラムは午前中から夜まで丸一日使ってISの各種装備試験運用とデータ取りが行われる。

特に専用機持ち達は本国や企業から送られてきた大量の新装備の全てをチェックしなければいけないから時間がかかり大変なのである。

全生徒がクラス別に二列縦隊で並び、千冬達教師が生徒の顔を見渡す。

 

「ようやく全員集まったか。――おい、そこの遅刻者」

 

「は、はいっ」

 

千冬さんに呼ばれて身を竦ませたのは、意外な人物であるラウラだ。

軍人であるラウラが珍しく寝坊したらしく、集合時間から五分程遅れてやってきてしまい遅刻となってしまった。

なんでも昨日の夜は同部屋のクラスメイト達とお菓子を集め寄り遅くまでガールズトークに花咲かせたらしい。

そういった話とは無縁の生活をしていたラウラは、皆が話す内容に興奮し皆が寝静まった後も寝つけなかったそうだ。

その後朝になりラウラを起こした同部屋の生徒達だったが、ラウラは二度寝してしまい遅刻したというわけだ。

 

「そうだな、ISのコア・ネットワークについて説明してみろ」

 

「は、はい。ISのコアはそれぞれが――」

 

ラウラは千冬に言われたとおり説明を始めた。

しかも一切噛むことなくスラスラと。

大したもんだと感心する照秋を余所に、千冬はフンと鼻を鳴らす。

 

「さすがに優秀だな。では遅刻の件はこれで許してやろう」

 

そう言われると、ラウラはふうと息を吐いて安堵した。

あの様子を見る限り、恐らく千冬のドイツ教官時代にかなりしごかれたのだろう。

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

生徒一同が一斉にはーい、と返事をし、判別に分かれ割り当てられたISの元に向かう。

一学年全員が一斉に並んでいたので、なかなかの大人数だが皆一刻も早くISを操縦したいのか動きが早い。

ちなみに、今日ここでデータ取りを行うIS試験用のビーチは、四方を切り立った崖に囲まれている。

プライベートビーチ扱いになっている場所で、常にIS学園関係者以外立ち入り禁止となっている。

普段なら開放してもいいんじゃないかと思われるだろうが、もしこの場所に事前に盗撮機器などが設置されたらそれは新装備を開発した企業や国家にダメージを与えることになるし、なにより生徒達の心が傷つく。

昨今、こういった盗撮まがいのAVが多く出回り、IS関係者も頭を悩ませている。

ISスーツという体にぴっちりとした扇情的な姿でアクロバティックな動きをする。

しかもISの操縦者じゃ例に漏れず美女美少女ばかりである。

そんなおいしい素材を逃さない手はないと、盗撮が横行しているのである。

学園側は盗撮などの犯罪行為に敏感で、かなり堅牢なセキュリティを確立している。

だがそれはあくまでIS学園内のみである。

校外に出てしまうと、やはり穴というものは出来てしまうので、ならば土地を借りるんじゃなくて学園で買い取り確保してしまえば何もできないだろうという結果になったのだ。

だからこそ、生徒たちは周囲の目を気にすることなく安心して装備試験に臨むことができるのである。

 

専用機持ちたちに分けられた班では、一組から順に横一列に並ぶ。

一夏、セシリア、シャルロット、ラウラ、鈴、照秋、箒、マドカ、趙、簪の順である。

目の前には千冬が立っている。

専用機持ちの受け持ちは千冬のようである。

スコールは他の生徒達にアレコレと指示を出し、他のクラスの教師も説明をしていた。

 

「さて、では専用機を所持している者たちは、これから企業、国から送られてきた専用パーツのテストを行ってもらう」

 

「はい」

 

声を揃えて返事をし、千冬は運ばれた多数のコンテナを指す。

 

「コンテナにお前たちの名前が書かれている。ではそれぞれ自分の装備テストを行え」

 

「はい」

 

速やかに動き、自分の名前が書かれているコンテナを探し始めた照秋達だったが、照秋と箒、マドカ、シャルロット、簪の名前が書かれたコンテナが無かった。

つまり、ワールドエンブリオ所属のISだけコンテナが無かったのだ。

ちなみにセシリアにはイギリス政府、ラウラもドイツ政府から専用パーツが送られていた。

これに照秋達は困り果てた。

 

「……どうしようか?」

 

「ううむ……」

 

「とりあえず機体の整備をしようよ」

 

「それがいい」

 

照秋と箒が唸っているとシャルロットが提案し、簪が同意する。

たしかに何もしないより整備でもした方がいいと考え、照秋は専用機[メメント・モリ]を展開し空いていたハンガーに固定する。

 

「起きているか、メメント・モリ」

 

[私はいつでも起きています、照秋様]

 

途端、周囲の目が照秋に向く。

 

「あ、ISが……喋った……?」

 

「しかも、なかなかセクシーな女性の声だったぞ」

 

シャルロットが驚き、箒があらぬ疑いをかける。

だが、メメント・モリがしゃべることを知っているマドカと簪は普通に自分の作業をしている。

そして、簪も自分の専用機[甲斐姫]をハンガーにかけ話しかけた。

 

「おはよう、甲斐姫」

 

[おはようございます、簪様]

 

今度は簪のISから渋い声が聞こえ驚く箒とシャルロット。

 

「な、なんだそのダンディな声は!?」

 

「ナイスミドルな声でビックリしたよ!」

 

「え、あ、ごめん」

 

何故か謝る簪。

 

「一体どういう事だ? なぜISから声が出る?」

 

「これはメメント・モリに搭載されていたサポートプログラムのひとつで、それを使ってるの」

 

「サポートプログラム?」

 

首を傾げる箒とシャルロットにわかりやすく教えるように、簪はデジタルワイヤーフレームフィールドを展開する。

甲斐姫の前方5メートル四方ほどのデジタルフィールドの中央で簪が立ち、手を上げる。

 

「甲斐姫、システムチェックと私のメディカルチェックを」

 

[了解、システムチェックと簪様のメディカルチェックを行います]

 

すると、簪の足元からスキャニングを開始する甲斐姫。

 

[チェック終了しました。甲斐姫の稼働率10%、損傷なし、疲労なし、負荷なし。あと稼働時間10時間ほど慣らし運転が必要です]

 

「ん」

 

[簪様のメディカルチェックの結果、身長が前回記録されたときより1センチアップ、体重……失礼しました、秘匿フォルダに保存、筋量が前回より1%アップしています]

 

甲斐姫の報告に際し、体重部分で簪は素早くバーチャルコンソールを展開、隠しフォルダへ移動する指示を行った。

が、そんなことより甲斐姫がつらつらと流暢な言葉を使っている事に驚きっぱなしの箒とシャルロットだった。

そして、二人はアッと思い離れた場所にいる照秋を見た。

 

[メメント・モリクリーンアップ中。照秋様のメディカルチェック終了。前回の記録より身長は2センチアップ、体重が1.2キロ増量、三角筋、大腿筋、広背筋を主に、全体で筋量が3%増量、体脂肪は0.2%増量し8.6%となっています]

 

「……未だにビルドアップしてるのか、照秋は」

 

「……すごいね、体脂肪率8%とか、女の敵だよねその数字」

 

照秋のメディカルチェックの報告に、嫉妬する箒とシャルロット。

 

「そっかー。てるくんまた体が大きくなったのかー。うんうん、お尻のさわり心地がアップしたね!!」

 

え? と箒とシャルロットがもう一度照秋を見ると、そこにはいるはずのない人物がいた。

それは、ISの生みの親であり、この場にいるはずのない人物、篠ノ之束であった。

エプロンドレスに、ウサギの耳の様な機械のカチューシャを付けた篠ノ之束は、さすりさすりと照秋の尻を撫でながらもニコニコ笑顔である。

 

「ほほう、なかなか面白いフラグメントを構築しているねメメント・モリは。ふむふむ、これは少しメンテナンスした方がいいねえ」

 

頷きながらメメント・モリが表示する情報を見る束だが、未だ照秋の尻を撫でることを止めない。

 

「あの、束さん。いきなり現れたことに驚くべきなんですが、いい加減俺の尻を触るのやめてください」

 

「なんと!? てるくんは束さんの娯楽を奪う気かね!!」

 

「人の尻撫でるのが娯楽とか止めてくださいよ」

 

呆れ果てる照秋の尻を未だ撫で続ける束だったが、いつまでもそうしていうわけにはいかない。

気付けば、専用機持ち全員が照秋の尻を撫で続ける束を見つめていた。

一夏が、セシリアが、簪が、鈴が、趙が声も出せず驚き、千冬が睨んでいた。

 

「おやおや、いつの間にか注目されてるねー」

 

「いい加減尻撫でるのやめろ痴女が!!」

 

束の頭を思いっきり殴るマドカ。

ドゴンッ! と頭から聞こえてはいけない打撃音が響く。

 

「痛いよまーちゃん! さすがの束さんでもまーちゃんの拳骨はダメージあるんだからね!」

 

「知るかバカ!!」

 

束とマドカの漫才が始まり、唖然と見守る箒たち。

そんな中で、千冬がいち早く気を取り直し束に近付く。

 

「……何しに来た、束」

 

睨むような眼差しの千冬に対し、束はニヘラと笑う。

 

「やあちーちゃん、久しぶりだねー」

 

「……質問に答えろ、何しに来た」

 

挨拶も返さず、睨み続ける千冬に、やれやれと肩をすくめる束。

 

「愚問だね。私はてるくんや箒ちゃん、まーちゃんの上司なんだから」

 

束の言葉に、最初何を言っているのかわからなかった千冬だったが、徐々に意味が分かり始めると表情を怒りから驚愕に変えた。

 

「……お前が、ワールドエンブリオを作ったのか……?」

 

「ピンポーンそのとーりー! 束さんはワールドエンブリオの真の社長なのだー! はい、正解したちーちゃんには飴ちゃんあげよう!」

 

束から手渡される飴を、千冬はパンッと手で払い飴が砂浜に落ちる。

そして、束のワールドエンブリオ社長宣言を聞いて驚き声も出ないセシリア、簪、鈴、趙、一夏。

千冬には言いたいこと、聞きたいことが山ほどあった。

他人に関心を寄せない人間が会社を立ち上げ、社員を養う?

あの鴫野アリスはなんなんだ?

なぜ照秋がISを扱える事を知っていた?

なぜ照秋を保護する理由を私に言わなかった?

なぜ私の電話に出ない?

なぜ連絡してこない?

なぜ私に何も言わない?

なぜ嘘の情報を言わせた?

 

……お前は、何なんだ?

 

「……一体、何がしたいんだ?」

 

千冬はそう言い、しばらく束と見つめ合うが、束は答えない。

すると束が千冬に近付き、ボソッと小声で千冬に耳打ちした。

 

「――――――」

 

束はすぐに千冬から離れ、再び照秋の元へ向かう。

束が照秋に抱き付き、それをマドカと箒が怒りながら離そうとし、展開についていけない他の専用機持ちはただ唖然としているだけだった。

千冬は、束の呟いた意味が分からず眉根を寄せる。

 

「――物語を正常に戻す、だと?」

 

一体何を言っているのか理解できなかった千冬。

だが、それは正しく真実であり、束の行動理念そのものだったと千冬が理解するのは少し後だった。

 

束は照秋のIS[メメント・モリ]のチェックとメンテナンス設定を行い待機状態に戻すと、次は箒のIS[紅椿]のチェックを始めた。

 

「ほほ~、すごいね! 稼働率83%! ほぼ自分の手足のように扱えてるね! うんうんいいねいいね!!」

 

束は嬉しそうだ。

そんな嬉しそうな束を見て、箒もニコリと微笑む。

 

「でも、結構疲労がたまってるね。紅椿もメンテナンスしようか」

 

「お願いします」

 

箒は束の言葉に従い、紅椿はメンテナンス設定を行い待機状態にすると、束は箒の姿をジロジロと見つめニコリと笑った。

 

「むふふ~またおっぱいおっきくなったね! これもてるくんに揉まれてるからかな~?」

 

「なっ!? 姉さん何故それを!!」

 

「お姉ちゃんの箒ちゃん愛は底なしなのだ~」

 

「プライバシーの侵害です!!」

 

「いいじゃんいいじゃん、はやく大人の階段のぼっちゃいなYO!! お姉ちゃんははやく子供の顔が見たいです!」

 

「ね、姉さーーん!!」

 

仲睦まじい(?)姉妹のふれあいをし、素早く紅椿の作業を行った束は、次にセシリアを見た。

ビクッと肩を震わせるセシリア。

セシリアは世間の評判で束の評価を知っている。

やれ、自分の興味の対象にならない人間は認識しないだとか、極端な人間不信だとか、いわゆる変人だという評価だ。

一体、どのような事をされるかわかったものではない。

だが、まさかワールドエンブリオの社長がISの生みの親たる篠ノ之束博士本人だったとは。

しかし、つまりこの改修されたブルーティアーズも篠ノ之束博士の手が加えられていることになる。

あまりにも突拍子もなく予想外の事態にセシリアは思考が追い付かなくなっていた。

しかし、それでも淑女として礼を欠くような態度は出来ない。

セシリアは若干硬くなりながらも挨拶をする。

 

「初めまして、篠ノ之束博士。わたくし、イギリスの代表候補生、セシリア・オルコットと申します」

 

ジッと見つめるセシリアを束は、やがてニコリと笑った。

 

「初めまして、セシリア・オルコット。君のことは知ってるよ。なんたって、てるくんのお嫁さんだもんね!」

 

「え? あ、はい!」

 

「うんうん、良い子じゃないか! さあ、君のIS[ブルーティアーズ]を見せてくれるかな」

 

「は、はい、ただいま」

 

言われるまま、セシリアはブルーティアーズを展開する。

すると、束は即座にバーチャルコンソールとモニタを展開しブルーティアーズを調べ始めた。

その操作は凄まじく早く、残像が見える程の指捌きにセシリアは口をポカンと開け何も言えなかった。

 

「ふーん、なかなか面白いダイアグラム構築してるね。この分だと近いうちに偏向射撃も可能になるんじゃないかな?」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「うん、ビットのAIも順調に学習しているしねー。……ん? このイギリス政府から送られた専用パーツの試験するの?」

 

「は、はい」

 

「……これ、酷いな。よくこんな出力でトライアルに出そうとしたな……なにこの不安定な数値……こんなんじゃあISとのシンクロ率も低下するよ。ねえ、これ改修するからちょっと預かるね」

 

「え?」

 

「大丈夫、イギリスには私から言っとくし」

 

「え、あ、はい……」

 

テキパキと動く束の指示に従うしかできないセシリアだった。

その後、簪、ラウラ、シャルロット、マドカのISをチェックした。

 

「うん、なかなかいいね。この薊って装備は」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「それに、サポートプログラムの声の選択が渋いね! まさかの玄○哲章とはね」

 

「戦隊もののおもちゃのCMで不動の活躍、そして洋楽吹き替えの王道。コ○ボイやシュ○ルツェネッガーは鉄板です」

 

「いいよね! シュ○ちゃん! いやーやっぱり君とはいずれじっくり話をしたいね!!」

 

「その時は、ぜひ」

 

「おうさー!!」

 

こんな会話をしたり。

 

「母様、クロエは元気ですか?」

 

「うん、あいかわらず部屋に籠って録画したアニメ見てるよ。でも、くーちゃんにお母さんて言われないのに、君に母様って言われるのはなんか複雑だなー」

 

「そんなことより母様、私は胸が大きくなりたい。照秋はおっぱい星人らしいので、母様くらいのわがままボディを手に入れたいです」

 

「ん、んー、君の骨格とか成長速度では難しいんじゃないかなー?」

 

「いえ、私は母様の娘、母様がそれほどのわがままボディなら、娘の私もわがままボディを手に入れられるはずです!!」

 

「……ちょっと待とうか。ホント君ドイツの軍人で少佐かい? なんかアホの子に見えてきたよ」

 

珍しく束が引いたり。

 

「んー、まだ慣らし運転の段階だからさほど稼働率も上がってないねー」

 

「す、すいません」

 

「謝らなくてもいいよー。あ、そうだ、君もてるくん狙ってるんだって?」

 

「え!? あ、は、はい……あ、でも、博士の妹さんの邪魔をしようとは思ってませんので!」

 

「んー、まあそんなに気にしなくてもいいよ? むしろ、障害が多いほど関係って燃え上がるじゃない?」

 

「……そういう意味だと、僕たちって、当て馬なんじゃあ……」

 

「むふふ~、ご想像に任せるよ~。でも、君たちにもちゃんとチャンスが出来るように一夫多妻認可法通したんだから、頑張んなよ!」

 

「ええ!? も、そしかしてあの条約って博士が発案なんですか!?」

 

「さてさて、どうなんでしょうね~」

 

「……マドカにも言ったんですけど、ワールドエンブリオってフットワーク軽すぎません?」

 

「この世は早い者勝ちってことだね☆」

 

「怖いですよ! うわー、僕とんでもないことに巻き込まれてるかもしれない!!」

 

シャルロットとそんな会話をしたり。

 

「んー、まーちゃんまた腕を上げたねー。でもこれからまだ伸びると予想すると、今の竜胆のスペックでもしんどいかな? 竜胆のリミッター解除した方がいいかな?」

 

「そうすると駆動系への負担が増えるだろう」

 

「一応、強化案はあるんだよね。試してみる?」

 

「ああ、頼む」

 

「りょーかーい。それにしても、まーちゃん全然体は成長しないね」

 

「どこ見て言ってる。これでも身長は伸びたんだぞ」

 

「えー、0.5センチって誤差の範囲じゃない。それよりもたゆまぬ努力が報われないココが気になるよ」

 

「やかましい! これでも胸も成長してるんだ!! お前らみたいなホルスタイン基準で胸の大きさ見るな!!」

 

「むふふ~、そうだね~大きな胸基準で考えちゃダメだよね~。あ~肩がこる~、あ、肩がこらないまーちゃんにはわからないか~」

 

「くっ……ちくしょう!!」

 

和気藹々とした雰囲気のワールドエンブリオ関係者をしり目に、ついていけない一夏、鈴、趙。

千冬も、まさかセシリアやシャルロット、ラウラとあんなに気さくに会話をするとは思ってもいなかったようで驚いていた。

そんな中で、一夏が徐にマドカとじゃれ合っている束に近付き声をかける。

 

「お久しぶりです、束さん」

 

とたん、先ほどまで和やかな空気で笑っていた束が表情を無くし、無表情に一夏を見る。

空気も重苦しいものに変わりマドカが驚くが、一夏は気付かない。

 

「何か用かな」

 

「え? あ、いや久しぶりに会ったから挨拶をと……」

 

「そう、そんなの要らないから」

 

手をヒラヒラと一夏に向け興味ないと全身で表現する。

流石の一夏もこの対応は予想外だったのか、グッと顔を歪めるが、すぐにニコリと笑う。

 

「そ、そうだ! 俺の白式も見てくださいよ!」

 

「なんで?」

 

一夏の言葉にかぶせるように言う束。

声色にまったく親しみが籠っていない束。

だが、一夏は食い下がる。

 

「いや、だって白式は束さんが作ったんでしょう? だったらアイツらのISばかりじゃなくて俺のも見てくれてもいいじゃないですか」

 

その言葉に、遠くで聞いていた千冬が驚く。

まさか白式に束の手が加えられているとは考えもしなかったのだろう、千冬は束が何をしたいのか全く分からなかった。

 

「確かに白式に手を加えたよ? でもなんで君がそれを知ってるの?」

 

「えっ!?」

 

束の予想外の質問に言葉が詰まる一夏。

確かに、一夏が白式の製作に束が関わっていることを知っているのは不自然である。

どうしようかと頭の中で考えていると、束は冷めた表情でフンと鼻を鳴らした。

 

「君の白式は倉持技研の物だ。私は関係ないし、見る義理もない」

 

「え……」

 

冷たく突き放す言葉に絶句する一夏。

 

「さっさと自分で倉持から送られた専用装備の試験しなよ。こっちは君に関わってられる程暇じゃないんだ」

 

シッシと手を振る束。

束からまさかの邪険に扱われるという事態に、理解することが出来ずただ立ち尽くす一夏。

それを見て束はチッと舌打ちし、マドカを連れて一夏から離れる。

マドカは、あからさまな態度の束を見て苦笑するのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。