ウマ娘配達屋 作:配達ξ紳士
拝啓、我が社長日誌の読者諸君。
今日は、俺が社長として悠々とオフィスに腰を下ろしながら、現場で奮闘するウマ娘たちの活躍ぶりを、報告書という形でまとめてみることにした。
なお、名前は多すぎるので伏せる。
現場で働く彼女たちは、ただ己の脚力と熱意で日々の配達任務に挑んでいる。
以下、その一部始終を記そうと思う。
――【ミッション報告】――
本日朝六時、冷え込む空気の中、ウマ娘たちは目覚めると同時に一斉に出動。
俺が屋敷の上で双眼鏡を構えて状況を確認すると、彼女たちは車両には乗らず、素足に近い専用のランニングシューズ――を武器に、まるで風を切るかのごとく出発していた。
最初の任務は、郊外の某貴族邸へ届く“極秘資料”の配送である。
いまだ大きな音のなる近代兵器に頼る訳にはいかない重要任務だからこそ、彼女たちのスピードと敏捷性が求められるというもの。
「道中、急な坂道や狭い路地、そして予期せぬ小石や落ち葉が舞い散る障害物が立ちはだかりましたが、かつて軍で鍛え上げられた脚力を遺憾なく発揮し、難なくと目的地へと到着し、荷物を運び届け終えました。“その後のやりとり”も通常通りです」
早速届いた、ウマ娘からの報告を聞きつつ、俺はこっそりほくそ笑む。
「ふむ、うまくいったみたいだな」
今回の依頼主から望まれた“極秘資料”とは実のところ、文字通り、男であれば誰しもが隠し通したくなるような……つまるところ“えっt”な写真集、なのであった。
また、“その後のやりとり“とはつまり、その貴族の奥様にバレないよう、こっそりと受け渡しをするという意味であって、別に他意はない。
「セレス中佐……いえ、社長。私はこの程度の任務で宜しかったのでしょうか? ただ……袋ごと荷物をこっそり渡してきただけなのですが」
先ほど帰還してきたばかりの、仕事帰りウマ娘からそんな疑問を投げかけられる。
「だーいじょぶだって! 安心しろよー。実はね、私は君のことを見込んで、超貴重な国宝の配送を任せていたのだよ」
「はっ、そうなのでありますか?」
「うむ。きっと依頼主の、頬を赤く染めて喜びに満ちた顔を見ただろう?」
「ええ、なぜかやけに元気そうでした。見た目的には、もう五十を過ぎた頃でありましょうに、珍しい御方だとは思いましたが……」
中身は彼女に見せていない。
もしこの娘が、自分の運んだ荷物の内容を知ってしまえばきっと悲しむだろう。
だから俺は嘘と真実を交えてこう言うのだ。
「よくやった。“大戦果“だよ」
「……‼︎ はっ! 勿体なきお言葉、感謝申し上げます‼︎」
「よし! じゃあ次の娘‼︎」
ξ
C.H郵便社、その社長室にて。
ホッジンズと俺は二人きりで会話を交わしていた。
「てな感じでな、実績を積み重ねているわけだよ」
「え、えぇ……」
伝えた内容は先の仕事の件。
彼が、呆れたような目線を向けてくるので、こちらも真似して肩をすくませてみる。
「ふふふ、分かっていないようだね、中佐殿」
「いや、君も中佐だったろうに……いやいや! 違う、そうじゃなくて」
「そう、そうじゃないんだ。これの本来の目的は、な」
「……目的?」
もったいぶったように、そう言ってみると、ホッジンズはどういうことかと、話の続きを促してくる。
「つまりだな、私たちが今やっていること……ずばり“投資家”たちとの脈作りなのだよ」
「どうしたら、そこに話が飛んでいくのか良くわからないよ。セレス」
胡散臭げにこちらを見やるホッジンズ。
「私のことを理解しようなど百年早いということだ。で、それよりもだ」
私はそんな様子を無視して話を続ける。
「近頃、ここライデンにてとある大規模プロジェクトが始まることを知っているかね?」
「なんだ……それは?」
それは――電波塔の建設計画。
「電波って、あの……前線で使われていた?」
「そうだ、あの重くて運びにくかったお荷物さ」
「それで、その電波塔が君と僕に何の関係があるのさ」
分からないといった様子の彼に、俺はため息をついてみせた。
「だからね……これは“チャンス”なんだよ」
「…………」
ホッジンズは静かにこちらの話を伺う。
「まず前提として、我々の仕事というのは近いうちに、早くて十年で機械にとって変わられるであろう」
「そ、そんなに早くか⁉︎」
驚いたその様子に、俺は落ち着くよう微笑む。
「いやなに、完全に仕事がなくなるわけではない。だが確実に、手紙の需要は電信に取って代わられて、今後ますます減っていくに違いない……」
「……それは、君のところも……?」
俺はやれやれと肩と両手を揺らして、それに答える。
「うむ、配達屋も似たようなものだ。いくらウマ娘たちが野道を走れようと、いずれそこには舗装された道路が引かれるだろう。それに今は機械の進歩が著しい。車両の発達によって私たちの仕事はお役御免だ。だから、“チャンス“なのだよ」
「……つまり?」
ごくりと喉を揺らすホッジンズ。
「今はまだ、ほぼ限られた者たちしか電波塔、その価値に気づいていない」
「…………無線のことか?」
「そのとおり! よく分かったな」
「まあ……そんなに引き伸ばされちゃあ、少しは自分で考えるさ」
そう、無線である。
今後、ライデンのほぼ中心に建設される予定の電波塔の価値は、その建物自身ではない。
むしろ、その頂上先端についた機械に意味があって……。
「いわゆる、“既得権益“さ。私たちはそれに乗ろうじゃないかって話」
「ふむ……セレス、君が何をいいたいかよく分かった。だが、なぜ僕にそれを?」
もっともな質問、俺はその答えを待ってましたとばかりに答え――る前に土下座した。
「お願いします! お金足りないんです! だから出資してください‼︎」
「おいおい!」
急に土下座を始めた俺に、ホッジンズは頭を上げさせようとしてくる。
ので、顔だけあげて、そのまま説明に入る。
「いやさ、ホッジンズの家って正直いって金持ちじゃん? それに今社長もやってるし」
「う、うーん」
「それってつまり、金持ち同士、横のつながりも広ければ、社長同士の繋がりもあるでしょ?」
「それは……そうだけど」
「だからだ! ホッジンズ‼︎ 一生のお願いだ! うちの会社に投資してくれ! 後ついでに他の出資者も探してくれ!」
必死の形相に、彼は困惑したままだ。
とりあえず俺を土下座の姿勢から、椅子に座らせてくる。
「そんな……どうして急に」
「お前との子供ができてしまったからだ!」
「え、えぇぇええ⁉︎」
動揺するクラウディア・ホッジンズ。
まさか自分の子供が知らぬ間に、それも元同僚兼、現社長同士でできてしまったとは!
「まあ嘘なんだが」
「はーっ⁉︎ おい!」
ペシンと頭が軽く叩かれた。(ウマ娘比)
と、まあ。
それから何やかんや暫く時間が経ち、弁明も済んだところで。
「それで? どうして出資なんか。正直、逃げ切れるだけの財産はあるんだろう?」
「いてて……まあその通りなんだが」
「じゃあ一体どうして」
「しかし、我々の後の世代はどうする?」
俺の真剣な表情に、ホッジンズはうっと表情を歪める。
「先ほど言った通り、自動手記人形の仕事も、配達屋の仕事も、いずれのほとんどが人から機械に役割が代わられる。その時、君の将来の子供達は何で食っていけばいい?」
「そ、それは……後のことだから分からないだろ……」
ごもっともな意見、だが。
「私には見える。これより後の世界は貧富の格差が大いに拡大する。技術の発達においてそれは加速度的に進化する!」
「…………」
「ゆえに、せめてもの私たち身内にはマシな道を歩んでもらいたい」
「…………」
「どうだ、わかるか?」
俺の問いに、彼は真剣な表情のままこちらを見つめる。
「……わかっているさ、いや、わかってしまったよ」
「よかった……。で、どうだ? この出資の話、どうか乗ってくれんか?」
「いいだろう、C.H郵便社の次世代のため、僕は君の話に乗ろう」
――ここに、固い握手が交わされた。
ξ
「それで、電波塔に直接出資するわけではなく、君の会社を通じて出資するわけだが……そこにはどんなメリットがある?」
ホッジンズは経営者として、真っ当な質問を投げかけてきた。
「電波塔への出資は現在のところ、国が大半を占めている。民間の出資はほぼゼロといっても構わない。なんてったって、見返りが、“電波塔に名前が刻まれる”程度であるからな」
「それは……誰も出資したがらないわけだ。でもどうして君は?」
「実はな、私は先日軍部を通して、国の主要人物――電波塔の建設を推し進める――と極秘に会談してきたのだよ」
そこでは、電波塔の出資について議論が交わされた。
費用がいくらで、無線ではこうしようとしていて、それが国家戦略上……etc
「とまあ、色々話したわけだが。この話の結論は、“民間からの出資”があまりに低いということに帰結するわけだよ。ゆえに私は提案した」
電波塔の建設総費用の内、49パーセントを出資する代わりに、いくつかこちらの提案を飲んで欲しい、と。
「それは?」
「いくつかチャンネルを分けてほしいと言ったのだよ」
無線においてチャンネルとは、その名のとおりで、もっと詳しく言えば周波数のことだ。
「それで、私たちはこのチャンネルにおいて、情報活動を始めようと思ってだな」
「なるほど……つまり、君は“電波塔”という国有の巨大プロジェクトに、ただ名誉を刻むためじゃなく、実益を生むシステムとして大きく介入しようとしているんだな?」
ホッジンズは鋭い眼光を携え、俺の言葉の先を探ろうとする。
その表情は先ほどまでの呆れ顔とは違い、明らかに経営者としての覚悟を漂わせるものになっていた。
俺はこくりと肯定する。
「その通りだ、それで話を戻そう。ホッジンズ、君は私にこんなことを尋ねたな?」
――私の会社(ウマ娘配達屋)を通して出資する意味。
「それは……説明が難しいのだが。まあ聞いてくれ」
――株式会社の設立。
それが、俺の目的である。
言うまでもないが、株式会社というのは、出資者たち(株主)が“お金”を出す代わりに“株式”を受け取る仕組みだ。
株式を持つことで、その会社の一部を所有している、ということになる。
つまりその株式を引き受けた投資家は、会社が上げた利益の一部を“配当”という形で受け取る権利があるわけだ。
「ほう……そんなシステムがあるのか」
また、49パーセント出資の意味も伝える。
株主は、会社の経営方針について発言したり、株主総会で決議に参加したりもできる。
もちろん、株式を多く持っている者ほど、その決定権や取り分の大きさが増す……のだが。
株式の大半を、他の巨大資本が握ってしまうと、こちらが思い描くビジネスモデルが自由に動きづらくなる。
俺たちが「四割以上」を出すというのは、会社の舵取りを握るうえで重要なのだ。
ちなみに、5割以上にできないのは、国家主導の建設計画だからである。
「つまりだな、簡単に言えば、永遠のマネーマシンが作れるわけだ」
ホッジンズは数瞬と思索する。
「それでいて国家お墨付きの“既得権益”だから、当分犯される心配はないと」
「その通りだ、どうだ。最高じゃないか?」
するとホッジンズはふふっ、とこちらに笑みを浮かべた。
「セレス。君は軍にいた頃もそうだが、よく面白いことを思いつくね。本当、僕は……君のことを羨んでしまうよ」
「ふむ、そうか。だが君もなかなかの才能を有しているぞ?」
「謙遜はいいさ……。うん、決めた。僕は決めたよ、僕たちの次世代のためにも、この提案に乗ると、今確信できた」
彼はそう言うと、立ち上がり。
社長室から外を眺めた。
そして、こちらに表情を見せぬまま、こう優しく呟くのだ。
「僕の子供……本当にいたりしない?」
『ウマ娘配達屋(株式会社)』の未来はつづく――。