ウマ娘配達屋   作:配達ξ紳士

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12話:競馬(バ)場計画

ここライデンシャフトリヒは貴族院を中心とした議院内閣制の国である。

元来は王政であったこの国も、辺境伯の出現から、昨今の大戦の影響で、今では立派な民主主義国家へと生まれ変わっている。

 

さて、大戦から二年が経ち。

皆の顔には笑顔が灯り、街も開発されていき活気がみなぎっている。

我々ウマ娘配達屋の仕事も、現在は機械と共同で行うような、そんな飛躍的な時代。

 

何もかもが上手くいっているかと言えば……そういうわけでもない。

 

いまだ、戦後は戦後。

政府側にとっては、多くの問題があった。

 

「それでだ、セレス元中佐……いや、今は社長といった方が良いだろうか?」

「いえ、セレスで構いません。“首相“」

 

そういうわけで。

俺は、とある理由でこの国家の中枢人物と面会をしていた。

そう、この国の選ばれたトップ……なんと首相である。

 

なぜ俺がこんな場所に呼ばれているか、それは複数理由があるのだが。

強いて言えば、“国家に全力を尽くしてきたから“であろう。

 

解雇されたウマ娘たちの雇用創出から、株式会社という新形態の発明、ライデン首都中央に建設真っ最中の電波塔への多額出資……。

 

その他にも、隣国との関係改善など。

俺は(厳密にはウマ娘配達屋)国から勲章を貰うほどに成長していたのであった。

 

ゆえの信頼された上で、面会をあちらの方から取り付けられていた。

 

かねてより「戦後復興の財源が足りない」などという政府の悩みを聞いてきて、何となしに助言して協力してきた俺。

今回も、そんな感じの理由であろう。

 

「今回も、セレス君の話を聞きたいと思ってだね」

「はっ! 私に可能なことであれば何なりと」

「うん、助かるよ。……それでなんだが」

 

首相からの質問、もとい悩み。

それは、「地方を活性化するにはどうすれば良いか?」ということであった。

 

政府高官たちに囲まれる中、俺はうーんと悩む。

キラキラした目で見つめられているが、正直胃が痛くなる。

だが、案がないわけでもない。

 

しばらく時間が経ち、俺はこう答えた。

 

「そうですね、鉄道や電信などインフラはともかく。我々の国に足りないのは『娯楽』ではないでしょうか?」

「ほう……娯楽」

「ええ、昨今の庶民たちの娯楽は。本を読むか、手紙でやり取りするか、駒を回すか……もしくは“賭博”でありましょう」

 

首相はその言葉に頷く。

 

「確かに、その通りだ。旅行や巡礼などもあるが、それはいまだ限られた者たちのみが行なっている。それで? そこをどうしていくのだね」

 

一拍子とってから、再度口を開く。

 

「かねてより私も首相と同じことを考えておりました。地方都市をどうすれば、活性化できるのかと。そこで、一つ案を思い浮かんだのです」

「教えてほしい」

 

それは、『国営の賭博場』を作ることだ。

 

「国営の賭博場……か。なるほど、それは面白い発想だね」

 

首相が興味深そうに身を乗り出すと、周囲の政府高官もざわついた。

 

「ほう」

「賭博場とは」

 

彼らは賭博という言葉に抵抗があるのか、少し戸惑っている様子だが、それよりも、純粋な関心の色の方が強い。

 

「はい。私が考えるに、戦後のこの国には“大規模な娯楽の場”が必要だと思うのです。しかも、それを国の管理下で行えば、違法な賭博がはびこる危険も減りましょう。さらに、もし鉄道アクセスが良い場所に造れれば……国民はもちろん、隣国からの観光客だって呼び込めるのではないかと」

 

そこまで言ったところで、俺は胸ポケットから一枚の地図を広げた。

それは首都ライデンから鉄道で一本の距離にある、まだ大きく開発されていない平野部を示すもの。

 

「ここですね」

 

地図を覗き込んだ首相と高官たちは、地形図や鉄道ルートを指でたどりながら、小声で意見を交わし合う。

 

「なるほど、確かに広大な土地がある。地盤も悪くないと聞いたし、インフラは駅さえ整えばスムーズに敷設できそうだね」

「領地としては、元来は王家の直轄地に近い扱いだったと記録にあるが……なるほど、放置されていたのか」

 

彼らのやり取りを確認し、俺は続ける。

 

「その空き地を、国営の賭博場兼、大規模なレジャー施設として開発するのはいかがでしょうか。いわゆる“競馬場”を中心に据えて、ウマ娘によるレースを開催し、そこで生まれる賭け収益を復興財源にあてる、という案です。周辺には商店や飲食街を作り、地元の雇用を増やす。遠方からの観光客も呼び込み、活性化につなげる――そんなイメージでございます」

 

「ウマ娘の競馬……」

「ええ。ご存じの通り、我が国にはまだウマ娘が多く残っていますし、その走力は国民にも十分知られています。人間の騎手が乗る従来の競馬も悪くはありませんが、ウマ娘自身の力で見事なレースを披露すれば、きっと大きな話題になるのではないか、と」

 

そう言うと、首相は軽く微笑んだ。

 

「なるほど。かつては戦の最前線を走っていた彼女たちが、今度は平和の象徴としてレースをするわけか。しかも賭博を国営とすることで、税収を得ながら不正を防ぐ……ある意味理にかなっているのかもしれない」

 

彼の隣に控えていた財務大臣らしき人物も、思わず頷いた。

 

「戦費の後始末と復興費用はまだまだ必要であるし、財源が増えるなら願ってもないことだ。ただし、あまりに準備を急ぎすぎると工期がズタズタになる上、そもそも設計や人員確保はどうするのかという問題がある。――セレス君、仮にこの土地を買い上げて整備するとしたら、どれくらいの期間を見込んでいるんだい?」

 

そこが要点だろうと、俺はあらかじめ練っていたプランを開示する。

 

「最短でも半年、うまくいって一年ほどはいただきたいですね。まずは鉄道会社との協議、整地・基礎工事、そしてウマ娘専用のトラックや施設整備に時間をかける必要があります。加えて、観客席や関連する娯楽施設も同時に建設すれば、地方の方々の雇用を一気に生み出せるでしょう。地元の企業や農家と提携して、飲食物の供給ルートを作るのも大切です。そちらの調整も考えれば、やはり半年から一年は欲しいかと」

 

財務大臣と国土開発担当の高官が顔を見合わせ、言葉を交わす。

 

「鉄道敷設計画は既に内々で話が進んでいたから、駅舎の拡張や路線の延長はそこまで難しくはないはずだな」

「賭場場の管理については、内務省が中心となる形で良いかもしれない。国営賭博のノウハウはまだ少ないが、法整備を急げば対処は可能だろう」

 

どちらも前向きな意見だ。

少し安心した俺は、畳みかけるように続ける。

 

「実際、この構想を進めると決まれば、失業中のウマ娘や、職を失ってしまった住民を雇用できる余地が大きいです。ウマ娘のレース選手だけでなく、受付や警備、トラック整備、施設スタッフ、飲食店経営者――さまざまな職種が必要になりますからね」

「賛成だ。まさに地方を活性化できるプランかもしれん」

 

首相が満足そうに頷いた。周囲を見回すと、他の高官たちも明るい表情をしている。

 

「よし、ではさっそく関係省庁と打ち合わせを始めよう。鉄道会社にも連絡しなければ。半年、いや一年かけてじっくりと、ウマ娘競馬(バ)場の建設を進めるとしようじゃないか。何より、国民にとっても夢のある話だ」

 

その言葉に、場の空気が一段と和む。

首相と高官たちは早くも互いに意見を交わし合い、担当部署や大まかな予算規模などをまとめ始めた。

 

“国営賭博”は刺激的な響きがあるが、今この国には多様な娯楽が求められているのも事実。

戦後復興と地域振興の一石二鳥を目指すには、これほどわかりやすいビッグプロジェクトはないだろう。

……それに、もしうちのウマ娘を送り込めれば、鳥の数はさらに増えるに違いない。

 

「ところで、セレス君。肝心の“ウマ娘レース”の企画は、誰が音頭を取るんだね?」

「そこはウマ娘配達屋――いや、私たちが中心となりましょう。幸い、全国のウマ娘たちと繋がりがありますからね。この案に賛同する彼女らをリストアップすれば、レースの選手から施設運営スタッフまで集めやすいかと」

「よし、それならば早急に準備にとりかかってくれ。政府としても、この計画を早めに公表して国民の期待を高めたいところだ。何か問題があれば、遠慮なく言ってくれたまえ。よいな?」

「はっ、かしこまりました!」

 

かくして、俺の発案した“競バ場”計画は、着実に動き始めたのであった――。

 

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