ウマ娘配達屋   作:配達ξ紳士

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13話:国営競馬(バ)場

やがて半年以上の歳月が経ち。

鉄道の駅が拡張され、道路も舗装され、商店も出店され、更には先見性のある者たちによって、別荘地や宿舎も建てられていく……。

 

かつてはただの寂しい原野であったそこは、――立派なレース街へと進化していた。

 

見渡せば、華やかな看板を掲げた飲食店が軒を連ね、道行く人々は手に手にチラシを握りしめては「どのウマ娘に賭けよう?」と盛り上がっている。

 

まだオープン前だというのに、この活気。

 

そんな熱狂的な空気の中。

首相と俺は、護衛を伴いながらメイン通りをゆっくりと進んでいた。

 

政府高官や護衛隊がピシッと並び、要人を守るためいつになく厳重な布陣だ。

しかし首相は堅苦しさを和らげるように穏やかに笑み、時々通行人に手を振っている。

 

「いやあ、すごいなセレス君。半年やそこらで、まるでお祭りのようじゃないか」

 

首相は小声で感嘆しながら、周囲を見回す。

 

「こうやって人が集まるのを見ると、やっぱり娯楽の力は大きいですね。ほら、あちらなんてずいぶん賑わっていますよ」

 

俺は指先で示した先、即席の屋台群が立ち並ぶ一画を見やる。

ウマ娘向けの特大ステーキを売る店、地元農家が自慢の野菜を振る舞うブース、さらには似顔絵を描いてくれる小さなアトリエまで、何でも揃っている。

 

護衛隊が観衆を誘導しながら進めど、押し寄せる人波は増すばかり。

 

「あっ、あれ首相じゃね⁉︎」

「ねえ、あのウマ娘の方って確かセレス社長よね」

「すっごーい、大きな人たちがいっぱーい!」

 

まるで何かの凱旋パレードのような熱気に、首相も思わず苦笑する。

 

「賭博で税収を得ることが、ここまで肯定的に受け取られるとはね。セレス君の広報手腕があってのことだろう」

「ありがとうございます。いえ、政府の皆様方と、住民の方たち自身が“街を盛り上げたい”と頑張ってくれたのが大きいですよ」

 

そう言いつつ先を見やれば、向こうの広場でウマ娘の新人たちが即興ステージを作り、ミニパフォーマンスを披露している。

トラックの練習より体操ダンスを優先しているらしく、まるでサーカス団さながらの賑わいだ。

 

拍手喝采を背に受けて、彼女らの笑顔はまさに“戦後の平和”を体現しているように見えた。

 

「さて、行きましょうか。次は観客席の進捗も見に行きたい」

 

首相は護衛の一人にそう声を掛けると、俺へ視線を戻す。

 

「君が発案したこの競馬場が、いよいよ今日、初の公式レースを迎えるんだ。どうやら想定以上の賑わいになりそうだが――支障はなさそうかな?」

「全く問題ありません。各部署が総出で準備を進めていますからね。むしろ少し混雑しすぎるくらいですが……ありがたい悲鳴です」

 

 

 

そして、首相と共に観客席の壮大な景色を確認しつつ。

我々政府関係者(俺は民間人だけど)はVIP専用の席へと通された。

 

もうまもなく、後、数十分後にはレースの開会式が行われることだろう。

すでに、ウマ娘の姿たちが遠くながらもよく見える。

 

「首相、セレス様。もうまもなく開会時間です。式のご準備を」

 

秘書官と思わしき人物がこちらに向けてそんな言葉をかけてくる。

 

「うむ、わかった。では準備しよう」

「私は、この格好が正装ですので、構いません」

 

首相が着替えている間に。

俺は少用だと、こそっと抜け出し、とある人物のもとに会いに行った。

 

そこは本来、レースに出場するウマ娘たちしか基本立ち入り禁止の場所で……。

 

「そこの方、ここは立ち入り禁……あ。す、すみません! どうぞお通りください‼︎」

「気にするな、青年」

 

しかし、政府高官専用のチケットを見せて通ることができた。

そしてお目当ての人物……そう、漆黒の尻尾を持つ。

うちの副官とも言える、ウマ娘配達屋の重鎮。

 

――リヴェティーナに会いにきていた。

 

「ちゅ、中佐! どうしてここに?」

「シーっ。いやなに、君を出場枠に捩じ込んだのは私だからな、君の様子を見ておこうと思ってね」

「そ、そうでありましたか……。はっ! 私リヴェティーナ、精一杯走り、一位を取ることを目標にさせて頂きます‼︎」

「うむ、その心意気やヨシ。まっ頑張ってくれよ〜、それだけさ」

 

『もうまもなく開会式が始まります。観客の皆様方、席についてお待ちください』

 

アナウンスが大音量で鳴り、レース場一体に響き渡る。

人々は皆、席につき、今か今かとその様子を見届けていた。

 

「ふむ、これは遅刻か?」

「あっ、セレス様! 首相がお待ちです‼︎ お急ぎを!」

 

 

 

……何とか間に合った。

 

「ふむ、セレス君。君も中々おっちょこちょいだね」

 

首相からイジられる。

俺は、クール系の顔を装いながら素直に謝罪する。

 

「失礼しました。迷子の子供の面倒を見ていまして」

「嘘はよくないな、嘘は」

「はい、その通りであります。閣下」

「私は軍人ではないよ……と、もう始まるね」

「ええ、楽しみです」

 

『それでは、開会式です! 第一回。ウマ娘ライデンダービーがもうまもなく始まります! 本日は、初の式ということもありまして、特別に‼︎ このお方に登場して挨拶をして頂きましょう! それでは、どうぞ‼︎』

 

アナウンサーの興奮気味な、観客たちを熱狂させるような声が響く。

そして首相が登壇すると、人々は更に熱狂した。

 

首相は舞台上にゆっくりと進み出ると、一呼吸おいてからマイク(という形状ではないが、集音装置)へ口を寄せた。

 

ざわめいていた観客席がすっと静まる。

まるで国全体が注目しているかのような張り詰めた空気だ。

 

「皆さん、本日はようこそ。私はライデンシャフトリヒの首相を務める者として、ここにご挨拶を申し上げます。まだ戦争の傷痕が色濃く残るこの国が、こうして新たな娯楽と活気に満ちた場を築けたのは、誰の力でもありません。――そう、ここに集い、楽しもうとする“皆さん”一人ひとりの力あってこそです。

 

この競馬(バ)場は、我々政府にとっても“挑戦”でした。国営という形で、ウマ娘の皆さんにレースをしていただく。賭博を公に運営し、得られた収益を戦後復興や地方の雇用創出に役立てる――。一見、大胆すぎる策に思えるでしょう。しかし、この賭博場が希望をもたらし、多くの笑顔を呼び寄せている現状を、私は確信を持って言えます。

 

“正しかった”のだと。

 

どうか今日は、存分に楽しんでください。そしてウマ娘の皆さんの熱い走りを、全身で感じ取っていただければ幸いです」

 

首相はそう言うと、丁寧に一礼する。

わああああっ、と大きな歓声が競馬場全体にこだまする。

拍手喝采の波が押し寄せ、さっきまで神妙だった空気が一気に熱狂へと変わった――。

 

『首相、お話、ありがとうございました! それでは早速、第一レース。選手たちに登場して頂きましょう――!』

 

VIP席に戻り、首相と話を交わす。

 

「セレス君」

 

首相が、遠く歓声に湧く客席を見やりながら小さく囁く。

 

「君の提案は、この国に笑顔を取り戻す立派な一手だった。ありがとう」

 

首相の横顔はどこか安堵に満ち、俺はこそばゆい気持ちを覚える。

 

「とんでもありません。皆が、そしてウマ娘たちが一丸となってくれたおかげですよ」

 

その言葉に首相は笑みを浮かべ、「そうか」と短く返した。

その一瞬の静かさは、俺たちが背負っていた戦後の疲弊さえも、淡い光に溶かしていくようだった。

 

ちょうどそのとき、場内放送のテンションが最高潮に達し、『いよいよスタート目前です』という声が響く。

 

会場にはぎっしりと詰めかけた観衆。

彼らが待ち望むのは、この国で初めての――ウマ娘による国営競馬だ。

 

「がんばれー!」

「いけーっ!」

「がんばってえー!」

 

どれほどの奇跡と努力が重なれば、この場所にこんな賑わいと歓喜が生まれるのか。

 

しかし、もうこれ以上の言葉は不要だろう。

胸の奥で、成し遂げた充実感と、これから広がる新たな未来への期待が交錯する。

 

俺は、首相と同じく微笑みながら、熱気あふれる観客席を改めて眺めやった――。

 

 

ξ

 

 

一方その頃、観客席の片隅で。

 

「大佐! ディートフリート大佐‼︎ ――大佐は、どのウマ娘に”賭け”ましたか?」

「……ふん、そんなのくだらん」

 

そう言った男の手には、数枚のバ券が握られていたとか、なんとか。

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