ウマ娘配達屋 作:配達ξ紳士
ライデンシャフトリヒの空が、朝焼けに染まるころ。
ウマ娘配達屋のオフィス――新たに建築された、もはや立派な社屋と呼ぶべき建物――では、いつものように活気が響き合っていた。
俺、ルナ・セレスは、社長室の窓から街並みを眺めつつ、今日の予定を頭に叩き込む。
「中佐、おはようございます!」
扉を開けて入ってきたのは、リヴェティーナだ。
漆黒の尻尾を揺らしつつ、元気よく敬礼してくる。
軍時代の癖が抜けないのはいつものことだが、その笑顔は平和な時代の証でもある。
「おはよう、ジョンソンくん。今日も元気そうだな」
「リヴェティーナです、中佐。はい、今日から新しい仕事が始まると聞きまして、朝から走り込みしてきました!」
彼女が言う「新しい仕事」とは、俺が最近C.H郵便社のホッジンズと進めてきたプロジェクトのことだ。
電波塔が完成し、無線通信が大陸中に広がりつつある今、問題は物資や手紙の輸送速度だった。
馬車や鉄道では時間がかかりすぎる。
そこで俺が思いついたのが、『飛行船』を使った長距離輸送サービスだ。
飛行船は、馬車よりは速く、鉄道が届かない地域にも行ける便利な乗り物だ。
ただし、急ぐようなものではない。
空をゆったり進むその姿は、俺が転生前に見た飛行機とはだいぶ違うが、それでも十分使える。
とはいえ、飛行船だけで配達が終わるわけじゃない。
大きな街の上空に着いた後、周辺の村々への細かい配送が必要になる。
そこでウマ娘の出番だ。
飛行船から降りて、俺たちならではの脚力で荷物を届ける。
これが『飛行船配達サービス』の肝だ。
「で、その飛行船、今日から試験運用なんだよ」
俺がそう言うと、リヴェティーナの目がキラリと光る。
「ほんとですか! 私、飛行船に乗れるんですか?」
「乗るだけじゃない。君がリーダーになって、飛行船から降りて配達するチームを率いてくれ。名付けて『スカイチーム』だ」
「スカイチーム……かっこいいですね! 了解しました、中佐。私、絶対成功させますよ!」
彼女のやる気に、俺は小さく笑う。
転生者としての知識をフル活用して飛行船を導入したはいいが、やっぱり現場を動かすのはウマ娘たちの力だ。
その日の昼前、俺たちは飛行船の格納庫へ向かった。
郊外に作られた広場には、巨大な銀色の船体が浮かんでいる。
全長100メートルほどで、ゴンドラ部分には荷物と乗員を乗せるスペースが確保されている。
設計はホッジンズの知り合いの技術者が担当し、資金は投資家たちがポンと出してくれた。
「おお、セレス。来たか」
格納庫の入り口で待っていたのは、赤髪を揺らすホッジンズだ。
「やあ、ホッジンズ。いい船だな。名前は決めたのか?」
「まだだよ。君に任せるって投資家が言ってたから、好きな名前をつけてくれ」
俺は少々悩んだのち……。
「ふむ、じゃあ『ウマウィング号』でどうだ? ウマ娘の翼って意味で」
「悪くないね。じゃあ、それで行こう」
ホッジンズと軽く握手を交わし、俺たちは飛行船に乗り込む。
内部はシンプルで、荷物を積む倉庫と、操縦室、そしてウマ娘たちが待機するデッキが設けられていた。
十名のウマ娘が既に乗り込んでおり、荷物を背負う準備を進めている。
「中佐、荷物はこれで全部です。最初の目的地はライデンから北にある地方都市、ゾムラン。そこから周辺の村に配達します!」
「よし、了解。飛行船でゾムランまで行って、君たちが地上で走る。そこそこ遠いから数日はかかるだろうけど、その後半日で配達を終える。問題ないな?」
「問題ありません! 私たちなら楽勝ですよ!」
リヴェティーナの自信満々な声に、他のウマ娘たちも「おお!」と応える。
さすが元通信中隊、士気が高い。
正午過ぎ、ウマウィング号はゆっくりと浮かび上がった。
エンジンの低い唸り音とともに、船体が地面を離れ、空へと昇っていく。
窓から見える景色はゆったりと流れ、それでも新鮮だ。
「中佐、空って気持ちいいですね!」
デッキで風を浴びるリヴェティーナが叫ぶ。
「そうだな。地上を走るのもいいけど、空からの眺めも悪くない」
「これで配達がもっと便利になれば、私たちの仕事も増えますよね?」
「ああ、その通り。飛行船で遠くまで運んで、君たちが近場を走る。これで大陸中どこでも届くぞ」
飛行船は順調に北へ進み、数日かけてゾムランの上空に近づいていた。
ウマ娘たちはデッキで荷物の点検をしたり、軽くストレッチをしたりして過ごす。
俺は操縦室でホッジンズと雑談しながら、地図を確認していた。
「セレス、このサービスが軌道に乗れば、隣国との交易も増えるだろうね」
「うむ、そうなれば投資家も喜ぶし、俺たちの名前ももっと広がる。いいこと尽くめだ」
「君らしい発想だよ。飛行船とウマ娘の組み合わせなんて、誰も思いつかなかった」
「まあな。こういうアイデアは得意なんだよ」
高度を下げて、地上との距離を縮める。
リヴェティーナがデッキに立ち、荷物を背負ったウマ娘たちに指示を出す。
「よし、みんな! ここから降りて、周辺の村に配達だ。荷物は全部で20個、半日で回りきるぞ!」
「「「了解!」」」
ウマ娘たちは次々とロープを使って地上に降り、走り出す。
俺はデッキからその様子を見守る。
ゾムランの街の人々が、空から降りてくるウマ娘たちを見て手を振ってくる。
リヴェティーナが先頭を切り、脇道を抜けて村々へ向かう姿は、まるで戦場を駆ける騎兵のようだ。
「順調だな。これなら予定通りに終わる」
俺は満足げに呟き、ホッジンズに報告する準備を始めた。
飛行船ウマウィング号がゾムランの上空に浮かぶ中、リヴェティーナ率いるスカイチームは地上で大活躍していた。
飛行船から降りたウマ娘たちは、それぞれ荷物を背負い、周辺の村々へ向かって走り出す。
「中佐、第一村に到着しました! 荷物、渡してきましたよ!」
リヴェティーナの声が、無線機越しに届く。
各地に張り巡らした電波塔のおかげで、飛行船と地上の連絡がスムーズだ。
「よし、順調だな。残り19個、頼むぞ」
「了解です! 次は東の村、すぐ行ってきます!」
彼女たちの脚力は、飛行船のゆったりした移動を補って余りある。
ゾムランから少し離れた村々を半日で回るなんて、ウマ娘じゃなきゃ無理だ。
飛行船が数日かけて運んだ荷物を、地上で一気に配達するこの連携が、今回のサービスの鍵だった。
午後になると、スカイチームは次々と配達を終え、飛行船に戻ってくる。
リヴェティーナが最後にデッキに上がり、汗を拭きながら報告する。
「中佐、全部届けました! 村の人たち、飛行船から荷物が来るなんてびっくりしてましたよ」
「そうか、評判はどうだった?」
「最高です! 『もっと頼みたい』って言ってました。子供たちが手を振ってくれて、ちょっと嬉しかったです」
彼女の笑顔に、俺もつられて笑う。
「よし、初仕事は大成功だ。ホッジンズにも報告しておこう」
操縦室に戻ると、ホッジンズが地図を広げて待っていた。
「セレス、どうだった?」
「完璧だよ。ゾムランまで運んで、半日で周辺配達を終えた。依頼主も満足するだろう」
「そりゃいいね。これで飛行船サービスの基盤ができた。次はどうする?」
「次はもっと遠くへだ。隣国から依頼が来たら面白いなと思ってる」
ホッジンズが頷きつつ、地図に新しいルートを書き込む。
俺は転生者としての知識から、「飛行船なら大陸のあちこちに届く」と密かに確信していた。
そしてまた数日かけて、ウマウィング号はライデンへと帰還した。
格納庫に着陸すると、投資家たちが拍手で迎えてくれた。
試験運用の成功を聞きつけて、早速結果を見に来たらしい。
「お見事だ、セレス社長! これならもっと出資してもイイと思いましたよ」
「ありがとうございます。次はもっと大きな船を作って、依頼を増やしますよ」
投資家たちと軽く言葉を交わしつつ、俺はウマ娘たちにねぎらいの声をかける。
「みんな、よくやった。飛行船と君たちの脚力があれば、どこでも行けるな」
「「「おお!」」」
ウマ娘たちの元気な返事に、格納庫が少し揺れた気がした――。
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俺はC.H郵便者の社長室でホッジンズと次なる計画を話し合う。
「セレス、この調子なら飛行船を増やしてもいいかもしれないね」
「うむ、2隻目を作って、同時運用できれば効率が上がる。投資家にも相談してみよう」
「まったく。君たちは、陸も空も制してしまいそうだね……」
ホッジンズの笑顔に、俺も頷く。
その後、飛行船サービスの成功は瞬く間に評判となった。
大陸各地から依頼が殺到し、ウマ娘配達屋は「陸と空の最速企業」として名を馳せる。
また、二隻目の飛行船『ウマスカイ号』の建造も決まり、事業はさらに拡大していく。
「ふむ……次は海かな?」
――まだまだ、世界は動き始めたばかりだ。