ウマ娘配達屋   作:配達ξ紳士

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15話:飛行船の新時代が訪れる

ライデンシャフトリヒの空が、朝焼けに染まるころ。

 

ウマ娘配達屋のオフィス――新たに建築された、もはや立派な社屋と呼ぶべき建物――では、いつものように活気が響き合っていた。

俺、ルナ・セレスは、社長室の窓から街並みを眺めつつ、今日の予定を頭に叩き込む。

 

「中佐、おはようございます!」

 

扉を開けて入ってきたのは、リヴェティーナだ。

漆黒の尻尾を揺らしつつ、元気よく敬礼してくる。

軍時代の癖が抜けないのはいつものことだが、その笑顔は平和な時代の証でもある。

 

「おはよう、ジョンソンくん。今日も元気そうだな」

「リヴェティーナです、中佐。はい、今日から新しい仕事が始まると聞きまして、朝から走り込みしてきました!」

 

彼女が言う「新しい仕事」とは、俺が最近C.H郵便社のホッジンズと進めてきたプロジェクトのことだ。

電波塔が完成し、無線通信が大陸中に広がりつつある今、問題は物資や手紙の輸送速度だった。

馬車や鉄道では時間がかかりすぎる。

 

そこで俺が思いついたのが、『飛行船』を使った長距離輸送サービスだ。

 

飛行船は、馬車よりは速く、鉄道が届かない地域にも行ける便利な乗り物だ。

ただし、急ぐようなものではない。

空をゆったり進むその姿は、俺が転生前に見た飛行機とはだいぶ違うが、それでも十分使える。

 

とはいえ、飛行船だけで配達が終わるわけじゃない。

大きな街の上空に着いた後、周辺の村々への細かい配送が必要になる。

 

そこでウマ娘の出番だ。

飛行船から降りて、俺たちならではの脚力で荷物を届ける。

これが『飛行船配達サービス』の肝だ。

 

「で、その飛行船、今日から試験運用なんだよ」

 

俺がそう言うと、リヴェティーナの目がキラリと光る。

 

「ほんとですか! 私、飛行船に乗れるんですか?」

「乗るだけじゃない。君がリーダーになって、飛行船から降りて配達するチームを率いてくれ。名付けて『スカイチーム』だ」

「スカイチーム……かっこいいですね! 了解しました、中佐。私、絶対成功させますよ!」

 

彼女のやる気に、俺は小さく笑う。

転生者としての知識をフル活用して飛行船を導入したはいいが、やっぱり現場を動かすのはウマ娘たちの力だ。

 

 

 

その日の昼前、俺たちは飛行船の格納庫へ向かった。

 

郊外に作られた広場には、巨大な銀色の船体が浮かんでいる。

全長100メートルほどで、ゴンドラ部分には荷物と乗員を乗せるスペースが確保されている。

設計はホッジンズの知り合いの技術者が担当し、資金は投資家たちがポンと出してくれた。

 

「おお、セレス。来たか」

 

格納庫の入り口で待っていたのは、赤髪を揺らすホッジンズだ。

 

「やあ、ホッジンズ。いい船だな。名前は決めたのか?」

「まだだよ。君に任せるって投資家が言ってたから、好きな名前をつけてくれ」

 

俺は少々悩んだのち……。

 

「ふむ、じゃあ『ウマウィング号』でどうだ? ウマ娘の翼って意味で」

「悪くないね。じゃあ、それで行こう」

 

ホッジンズと軽く握手を交わし、俺たちは飛行船に乗り込む。

内部はシンプルで、荷物を積む倉庫と、操縦室、そしてウマ娘たちが待機するデッキが設けられていた。

十名のウマ娘が既に乗り込んでおり、荷物を背負う準備を進めている。

 

「中佐、荷物はこれで全部です。最初の目的地はライデンから北にある地方都市、ゾムラン。そこから周辺の村に配達します!」

「よし、了解。飛行船でゾムランまで行って、君たちが地上で走る。そこそこ遠いから数日はかかるだろうけど、その後半日で配達を終える。問題ないな?」

「問題ありません! 私たちなら楽勝ですよ!」

 

リヴェティーナの自信満々な声に、他のウマ娘たちも「おお!」と応える。

さすが元通信中隊、士気が高い。

 

 

 

正午過ぎ、ウマウィング号はゆっくりと浮かび上がった。

 

エンジンの低い唸り音とともに、船体が地面を離れ、空へと昇っていく。

窓から見える景色はゆったりと流れ、それでも新鮮だ。

 

「中佐、空って気持ちいいですね!」

 

デッキで風を浴びるリヴェティーナが叫ぶ。

 

「そうだな。地上を走るのもいいけど、空からの眺めも悪くない」

「これで配達がもっと便利になれば、私たちの仕事も増えますよね?」

「ああ、その通り。飛行船で遠くまで運んで、君たちが近場を走る。これで大陸中どこでも届くぞ」

 

飛行船は順調に北へ進み、数日かけてゾムランの上空に近づいていた。

ウマ娘たちはデッキで荷物の点検をしたり、軽くストレッチをしたりして過ごす。

俺は操縦室でホッジンズと雑談しながら、地図を確認していた。

 

「セレス、このサービスが軌道に乗れば、隣国との交易も増えるだろうね」

「うむ、そうなれば投資家も喜ぶし、俺たちの名前ももっと広がる。いいこと尽くめだ」

「君らしい発想だよ。飛行船とウマ娘の組み合わせなんて、誰も思いつかなかった」

「まあな。こういうアイデアは得意なんだよ」

 

高度を下げて、地上との距離を縮める。

リヴェティーナがデッキに立ち、荷物を背負ったウマ娘たちに指示を出す。

 

「よし、みんな! ここから降りて、周辺の村に配達だ。荷物は全部で20個、半日で回りきるぞ!」

「「「了解!」」」

 

ウマ娘たちは次々とロープを使って地上に降り、走り出す。

 

俺はデッキからその様子を見守る。

ゾムランの街の人々が、空から降りてくるウマ娘たちを見て手を振ってくる。

リヴェティーナが先頭を切り、脇道を抜けて村々へ向かう姿は、まるで戦場を駆ける騎兵のようだ。

 

「順調だな。これなら予定通りに終わる」

 

俺は満足げに呟き、ホッジンズに報告する準備を始めた。

 

 

 

飛行船ウマウィング号がゾムランの上空に浮かぶ中、リヴェティーナ率いるスカイチームは地上で大活躍していた。

 

飛行船から降りたウマ娘たちは、それぞれ荷物を背負い、周辺の村々へ向かって走り出す。

 

「中佐、第一村に到着しました! 荷物、渡してきましたよ!」

 

リヴェティーナの声が、無線機越しに届く。

各地に張り巡らした電波塔のおかげで、飛行船と地上の連絡がスムーズだ。

 

「よし、順調だな。残り19個、頼むぞ」

「了解です! 次は東の村、すぐ行ってきます!」

 

彼女たちの脚力は、飛行船のゆったりした移動を補って余りある。

 

ゾムランから少し離れた村々を半日で回るなんて、ウマ娘じゃなきゃ無理だ。

飛行船が数日かけて運んだ荷物を、地上で一気に配達するこの連携が、今回のサービスの鍵だった。

 

午後になると、スカイチームは次々と配達を終え、飛行船に戻ってくる。

リヴェティーナが最後にデッキに上がり、汗を拭きながら報告する。

 

「中佐、全部届けました! 村の人たち、飛行船から荷物が来るなんてびっくりしてましたよ」

「そうか、評判はどうだった?」

「最高です! 『もっと頼みたい』って言ってました。子供たちが手を振ってくれて、ちょっと嬉しかったです」

彼女の笑顔に、俺もつられて笑う。

「よし、初仕事は大成功だ。ホッジンズにも報告しておこう」

 

操縦室に戻ると、ホッジンズが地図を広げて待っていた。

 

「セレス、どうだった?」

「完璧だよ。ゾムランまで運んで、半日で周辺配達を終えた。依頼主も満足するだろう」

「そりゃいいね。これで飛行船サービスの基盤ができた。次はどうする?」

「次はもっと遠くへだ。隣国から依頼が来たら面白いなと思ってる」

 

ホッジンズが頷きつつ、地図に新しいルートを書き込む。

俺は転生者としての知識から、「飛行船なら大陸のあちこちに届く」と密かに確信していた。

 

 

 

そしてまた数日かけて、ウマウィング号はライデンへと帰還した。

 

格納庫に着陸すると、投資家たちが拍手で迎えてくれた。

試験運用の成功を聞きつけて、早速結果を見に来たらしい。

 

「お見事だ、セレス社長! これならもっと出資してもイイと思いましたよ」

「ありがとうございます。次はもっと大きな船を作って、依頼を増やしますよ」

 

投資家たちと軽く言葉を交わしつつ、俺はウマ娘たちにねぎらいの声をかける。

 

「みんな、よくやった。飛行船と君たちの脚力があれば、どこでも行けるな」

「「「おお!」」」

 

ウマ娘たちの元気な返事に、格納庫が少し揺れた気がした――。

 

 

ξ

 

 

俺はC.H郵便者の社長室でホッジンズと次なる計画を話し合う。

 

「セレス、この調子なら飛行船を増やしてもいいかもしれないね」

「うむ、2隻目を作って、同時運用できれば効率が上がる。投資家にも相談してみよう」

「まったく。君たちは、陸も空も制してしまいそうだね……」

 

ホッジンズの笑顔に、俺も頷く。

 

 

 

その後、飛行船サービスの成功は瞬く間に評判となった。

大陸各地から依頼が殺到し、ウマ娘配達屋は「陸と空の最速企業」として名を馳せる。

 

また、二隻目の飛行船『ウマスカイ号』の建造も決まり、事業はさらに拡大していく。

 

「ふむ……次は海かな?」

 

 

――まだまだ、世界は動き始めたばかりだ。

 

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