ウマ娘配達屋 作:配達ξ紳士
配達屋はもちろん、電波塔がバッチリ完成し、飛行船サービスも軌道に乗った結果。
うちの会社は大陸でもそこそこ名が知られる存在になった。
『ウマ娘配達屋(株式会社)』
いや、“そこそこ”ってのは謙遜で。
正直にいって、ライデンシャフトリヒじゃトップクラスと言ってもいいのだが。
そんな俺が今、オフィスの社長室で何をやっているかというと――。
「ふむ、株主総会か。どうせ配当を増やせってうるさいんだよなあ」
机に山積みの書類を眺めながら、俺は独り言をつぶやく。
最近の決算報告書をパラパラめくると、飛行船配達サービスが絶好調で、売上が前年比150%増。純利益もグングン伸びてる。
数字を見る限り、今年は文句なしの好成績だ。
と、そこへドアが勢いよく開いて、リヴェティーナが飛び込んできた。
「中佐! “株主総会”の書類が届きましたよ!」
漆黒の尻尾をピンと立てて、彼女が分厚い封筒を抱えてる。
俺は椅子にどっぷり座ったまま、軽く手を振って応える。
「ジョンソンくん、いつも元気だな」
「ありがとうございます。カブヌシですから、元気です」
「そうか。……で、なんで株主で君が元気になるんだ?」
「……えっと、それは、その……何ででしょうか? 中佐、株主って何ですか?」
彼女が首をかしげる姿が可愛くて、俺はニヤリと笑う。
こういう素朴な質問、嫌いじゃない。
「ふむ、では教えよう。株主ってのはな、簡単にいえば私たちの会社にお金をポンとくれたお偉いさんたちのことだ。私たちはそのお金で飛行船買ったり、電波塔の仕事受けたりして、儲けを出している。で、株主にはその儲けの一部を『ありがとう』って感じで分けて出してやるわけさ。配当って言うんだがな」
「なるほど? では、私たちが走って稼いだお金を、その人たちにあげるんですか?」
「まあ、そういうことだ。君たちが走り回って荷物を届けてくれるおかげで、会社が儲かってるわけだしな。で、その儲けを株主に還元するってのが我々ウマ娘株式会社の大事な仕事ってわけなんだよ」
リヴェティーナが目を丸くして、「ふむふむ」と頷く。
俺は決算報告書を手に取って続ける。
「ほら、この数字見てみるんだ。今年の売上は300万ライデン貨幣、純利益は80万貨幣だ。去年より150%も売上が増えてる。どうだ、すごいだろ?」
「流石です、中佐! やっぱり天才ですね」
「言い過ぎだ。これは、君たちの頑張りのおかげさ。とまあ、この数字を株主に見せて、『ほら、こんなに儲かってますよ』ってアピールするのが俺の仕事だな」
そして話を戻す。
電波塔や飛行船での事業のために多額の出資を受けた俺の会社は、多くの株式を発行しており、その株主からは『配当を増やせ』とのお達しがきている。
「まあ、株主にとっては『儲かってるなら、もっと配当(お金)ちょうだいよ』ってなるのは自然な話だ。特にうちみたいに急成長してると、投資家は自分たちの出資に見合うリターンをすごく期待してくる。俺が『配当はそこそこにして設備投資に回したい』と言えば『もっと出せるだろ』って突っ込まれる、そういうわけだ」
リヴェティーナは唸るように「難しそうですね」と言いつつ、封筒の中身を取り出した。
書類はやたら厚くて、どうやら大口株主連名による“配当要望書”らしい。
「中佐、これ……『今期は純利益の五割くらいを配当に回せ』って書いてありますよ? そんなに出しちゃって大丈夫なんですか?」
「そこが悩みどころなんだ。飛行船二号の建造計画とか、電波塔の拡張工事も控えてるから、できれば投資資金を確保したい。それなのに配当ばっかり増やしてしまうと、肝心の設備投資がままならなくなる」
俺は決算報告書に目を落とす。純利益は八十万貨幣。
仮に半分を配当に回すと、四十万しか会社に残らない。
数字だけ見れば決して少なくはないが、飛行船の建造費や通信設備の拡充を考えると、まだ足りない気がする。
リヴェティーナが書類をめくりながら唸るように言う。
「でも株主さんも、今すぐ配当を増やせって言うからには、それなりに事情があるんでしょうね。投資してる以上、早くリターンを得たいのかもしれませんし……」
「まあ、株主にすれば“儲かってるなら配当で還元しろ”ってのが筋だ。特に大きな金を出してる投資家は、すぐにでも成果を見たいだろう。でも、それを全部飲んでたら、来年以降の伸びが鈍くなる。それに、隣国からも飛行船増やしてくれって声が出始めてるんだ。今こそ設備投資で一気に攻めたいんだよ」
思わず机を軽く叩いてしまう。
せっかく電波塔や飛行船が軌道に乗ったのに、ここでおとなしく配当を出すだけじゃもったいない……投資を続けて、さらに高みを目指したいというのが俺の本音だ。
「だったら、中佐が株主総会でその辺をしっかり説得すればいいんですよね。『今は会社をもっと大きくして、あとでたんまり配当しますから』って」
「そうそう、そういうこと。彼らにも数字を見せればわかるはずさ。いま設備投資をしっかりやれば、来期の売上はさらに拡大して、結果的に配当も増える――って理屈をな。とりあえず、この要望書に対しては、配当率三割ぐらいで妥協を探るつもりだが……まあ交渉次第だな!」
リヴェティーナはうなずきながら、分厚い封筒の中身を整理していく。
そこには株主連名の意見や質問リストも入っているらしく、「どうして電波塔の設備にそんなに費用がかかるのか?」とか「飛行船二号はいつ完成するのか?」など、細かい問いが山ほど書いてある。
「質問に対する答えもしっかり準備しなきゃですね。電波塔を増やせば通信サービスの契約料が伸びるとか、飛行船が増えれば遠方との取引がもっと増えるとか……」
「ああ。おまけにウマ娘配達だ。脚力で競合他社を圧倒している強みをアピールすれば、『この会社はまだまだ稼げる』と納得してもらえる。要は将来の見込みさえ示せば、目先の配当を少々抑えても文句は言われにくいはずだ」
俺は決算書を手元に引き寄せ、一つひとつページをめくる。
今年の成績は文句なし。
売上も純利益も、大幅に伸びている。
だが、ここで終わりじゃない。
まさしく“今こそ攻め時”なのだ。
「となると、あとは当日、俺がどれだけ上手くプレゼンできるかにかかってくる。株主どもを唸らせて、『もう少し我慢してくれるなら倍返しするぜ』ってところを見せる。まあ、やりがいのある勝負だよ」
そう言いながら、俺は苦笑する。
戦場にいた頃は砲弾が飛んで来る中で走ってたわけだが、今や書類と数字の攻防が俺の“最前線”だ。
「中佐なら大丈夫ですよ。飛行船の稼ぎも、電波塔の利用料も、ちゃんとアピールすれば絶対説得できますって!」
「だといいな。まあ、交渉の席で出てくる質問やツッコミにも応じられるよう、準備万全にしよう。飛行船二号の完成予定も早めにまとめなきゃ……」
再び机の上に視線を落とし、書類を仕分ける。
明日の総会が終われば、また新たな計画が動き出すはずだ。
極端な話、“会社は成長しないほうがいい”なんて株主はいない。
俺が見せる未来図を気に入ってもらえれば、配当に対する要求も落ち着くだろう。
「よし、時間が惜しい。さっそくまとめるぞ。リヴェティーナ、数字に詳しいホッジンズにも声かけてくれ。あいつと一緒に予想シミュレーションを作りたい」
「了解です、中佐! いよいよですね。なんか、戦場での作戦会議みたいでワクワクします!」
彼女は部屋を飛び出し、足早に向こうのオフィスへ消えていく。
その尻尾がドアの向こう側でふわりと揺れるのが見え、俺はつい微笑んでしまう。
――戦場を駆け抜けた通信中隊のウマ娘たちが、今は平和なビジネスの一線で“大きく走る”ために奮闘している。
それを思うと、株主との交渉も悪くないと思えてくるから不思議なものだ。
「さて、やるか……」
決算報告書を改めて開き、純利益や売上伸び率、飛行船事業の好調ぶりを示すデータを整理する。
これを分かりやすくプレゼンすれば、株主は喜ぶだろうし、俺が希望する“配当三割案”だって通せるかもしれない。
何にせよ――。
「会社を大きくするのも、ウマ娘たちが思いっきり走れる環境を整えるのも、俺の腕にかかってるからな」
そう独りごち、資料のペンを走らせる。
砲弾の代わりに株主の目が飛んでくるかもしれないが、それも上手くかわせばいい。
ライデンシャフトリヒのトップクラス企業。
その看板に恥じない成長を遂げるために、今こそ気合を入れるとしよう――。
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