ウマ娘配達屋   作:配達ξ紳士

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時事ネタです


17話:第一回ライデン万博開催

窓の向こうに広がる朝靄に包まれたライデンシャフトリヒの街並みを、俺はオフィスの窓辺から静かに眺めていた。

 

完成したばかりの巨大な電波塔は、朝陽を浴びて黄金色に輝き、この都市の新たな象徴として堂々とそびえ立っている。

街路には最新型の自動車が忙しげに行き交い、空を見上げれば優雅な姿の飛行船が静かに漂っていた。

 

ライデンシャフトリヒ――ここ数年の経済発展は目覚ましく。

小さな宅配業だった俺の企業、『ウマ娘配達屋』も、飛行船事業や電波塔通信技術、自動車産業への積極的な投資が実を結び、今や国家的にも重要な存在となっていた。

 

軽やかなノックが朝の静寂を破る。

 

「どうぞ」

 

俺が静かに答えると、丁重な礼装をまとった秘書(リヴェティーナ)が扉を開けた。

 

「中佐、ライデンシャフトリヒの首相がお見えになっています」

 

彼女の声音に隠しきれない緊張感が漂っている。

俺は軽く頷いて見せた。

 

「お通ししてくれ」

 

すぐさま堂々とした佇まいの壮年の男性が部屋に入ってきた。

それは、この国の舵を取る“首相”その人だった。

 

「突然の訪問にお許しを、セレス君」

 

低く落ち着いた声には深い礼儀が感じられた。

俺は丁寧に頭を下げつつ答えた。

 

「光栄です。緊急のお話でしょうか?」

「いや、緊急ではありません。むしろ、未来のための話ですよ」

 

首相は柔らかな微笑を見せ、椅子にゆったりと腰掛けた。

 

「聞かせていただきましょう」

 

俺は真っ直ぐに首相を見つめ、静かに促した。

 

「ライデンシャフトリヒは今、あなたのおかげでかつてない発展を遂げています。そこで、我々は国の威信を世界に示すため『ライデン万博』を開催することに決定しました」

 

俺は驚きを抑えきれず、一瞬言葉を失った。

 

「万博、ですか?」

「ええ。この万博は、経済力や技術力、文化力を世界に誇示する絶好の機会です。そして、この重大なイベントの運営を全面的にあなたに任せたい。政府内で色々な意見は出ましたが、セレス君の企業が最も適任だと判断されたのです」

 

首相の言葉に、俺は心の底から湧き上がる喜びと同時に大きな責任を感じた。

 

「ウマ娘配達屋が……ですか」

「ええ、そうですよ」

 

俺が築いてきた企業が、国家の威信を背負うまでになっていたのだ。

 

「その話お受け致しましょう。期待に応えられるよう、私セレス全力を尽くします!」

 

俺が力強く答えると、首相は満足げに頷いた。

 

「頼もしい限りだ。この万博を成功させれば、我が国はさらなる飛躍を遂げるでしょう」

 

首相が退出した後、俺は再び窓の外を見下ろした。

 

街の喧騒はますます活気を帯びている。

この万博は単なるイベントではない。

この国が世界の中心になるための重要な一歩なのだ。

 

俺は秘書を呼び、明確な指示を出した。

 

「全部署に伝達を。『ライデン万博』の準備を最優先すること。通信技術の実演準備、飛行船の特別展示、自動車部門には最新型車両の展示を。さらに――」

 

少し言葉を止め、俺は笑みを浮かべた。

 

「ヴァイオレット・エヴァーガーデンに連絡してくれ。特別ゲストとして『新技術』のデモンストレーションを彼女に頼もう」

 

 

ξ

 

 

そして、万博当日。

長々とした準備や政府各所との連携により、『ライデン万博』が催されていた。

 

昨日までの準備の喧騒もどこへやら。

当日は多くの来場者でごった返し、既に大盛況の様子だ。

 

「いやあ、思った以上に盛り上がってるな」

 

俺は胸の中に広がる感慨を噛みしめつつ、会場の全景へと視線を巡らせる。

 

巨大なメインゲートをくぐる。

まず目に飛び込んでくるのは『電波塔』の実演ブースだ。

 

塔自体は会場から少し離れた場所に建っているが、その機能を紹介する“技術パビリオン”がこちらに併設されている。

 

「ご覧ください! ここに用意された集音装置に声を吹きかけると、数キロ先にある電波塔を介して瞬時に送信されるんです!」

 

白衣姿の技術者が興奮気味にマイクを握り、見物客にアピールしている。

特別にガラス張りの室内に設えられた端末には、まだ見慣れない機械部品がぎっしり詰まっているが、来場者は目を輝かせて見つめていた。

 

「電信じゃなくても会話ができる時代が来るなんて……! すごいなあ」

「軍でも使われたとか聞いたけど、こうして民間にも広がるんですねえ」

 

人々のざわめきは尽きない。

 

 

 

電波塔ブースをあとにして会場の奥へ進む。

そこに広がるのは『飛行船』の特設ドック。

 

空を見上げれば、大きなシルエットを誇る飛行船がゆったり漂い、その下には最新のゴンドラやエンジン構造を解説する大型パネルが並んでいる。

 

「さあ、こちらが話題の『ウマウィング号』! もともとはウマ娘の脚力と組み合わせて物資運搬を行うなど、大陸でも例を見ない試験事業が成功を収めました!」

 

アナウンスが場内に響き渡り、見物客が一斉にカメラ――いや、スケッチブックを取り出す姿が微笑ましい。

子供連れの家族や、遠方から来た商人たちが目を丸くしては、「空を飛ぶ船……そんな時代なのね」と唸っている。

 

「試乗会、すごい行列ですね」

 

リヴェティーナが指差す先で、既に飛行船に乗ろうとする客たちが長蛇の列を作っていた。

ウマ娘が荷物を受け取って即座に走り去る実演も行われているらしく、拍手喝采が起こっているのが見える。

 

 

 

一方、会場の南エリアに目を向ければ、エンジン音が威勢よく轟く。

そこは『自動車』の特設コースが設けられており、試作品から最新型まで、数多くの車両がずらりと並んでいた。

 

「おお……この車は燃料効率がいいとか、あちらは馬力が高いらしい……」

「戦時中は軍馬やウマ娘が主力でしたが、今はこのような機械が人々の暮らしを変えていくのですね」

 

観客だけでなく、国内外の技術者も大勢訪れ、新エンジン構造を覗き込んだり、メモを取り合ったりと活気に満ち溢れている。

 

特にうちで出資している企業・スタイン博士のブースでは、蒸気とガスを併用するハイブリッドエンジンが注目を集め、「いつか峠道だって余裕だろう」と期待が高まっていた。

 

「スタイン博士も張り切ってるみたいだな」

「はい、中佐。あの人、多くの投資家に囲まれて嬉しそうですよ」

 

列をなす投資家のスーツ姿が目立ち、「ここに出資させてくれ」と迫っている光景すら見えて、思わず苦笑してしまう。

 

 

 

会場中央に用意された大きなステージでは、ちょうど、今や大陸中の有名人である。

ヴァイオレット・エヴァーガーデンによるデモンストレーションが始まるところだった。

 

腕に装着した義手とタイプライターを携えた彼女が、ゆったりと登壇する。

 

「皆さま、お待たせしました。こちら展示では、“文字を打った瞬間に遠方へ伝わる”という新技術をお見せいたします」

ヴァイオレットの凛とした声がステージを包み、観客から一斉に静まり返るような集中が生まれた。

 

彼女がタイプライターで文章を打ち込むと、背後のスクリーン――今回特別に設置された“電波投影装置”が微かに光り、そのまま遠方の都市の装置へ送信。

しばらく待つと、何百キロ離れた別の会場にいる担当者が“返信”を打ち込み、こちらのステージのスクリーンに受信される――という仕組みだ。

 

「うわあ……手紙が即座に返ってきたぞ!」

「遠い街と“リアルタイム”で文字のやり取りができるなんて、まるで魔法だ……」

 

歓声とどよめきが起き、ヴァイオレットは静かに微笑む。

彼女の瞳には、かつて戦火を駆け抜けた名残があるものの、今はこうして人々の平和な歓喜を支える存在となっていた。

 

 

 

そして――会場内外を最大限に使った目玉イベント、“平和のマラソン”がスタートを迎えようとしている。

 

周辺にはすでに大勢の観衆が集まり、華やかな音楽と歓声が入り混じって、まるで“世界の祝祭”がここに凝縮されたかのようだ。

 

「ただの競走ではありません! これは“平和”の名のもとに、各国のウマ娘同士が絆を結ぶ象徴的なイベントなのです!」

 

司会が高らかな声で呼びかけると、万博会場に設置されたスタートゲートの周辺が、さらに熱気を帯びる。

 

スタートライン上には、世界中の国々から集まった五十名を超えるウマ娘たち。

赤や青、金色など、それぞれ自国の旗やシンボルカラーをあしらったユニフォームを身につけ、その尻尾や耳を誇らしげに揺らしている。

 

まるで“色とりどりの虹”が地面に降り立ったような光景だ。

 

「さあ……よーい、スタートッ!」

 

パンッ!

乾いた発砲音が響くや否や、ウマ娘たちは全身のバネをいっきに解き放ち、スタートゲートを飛び出した。

 

その瞬間、会場からは雷鳴のような大歓声が湧き起こる。

地面を蹴る力強い音と、観客の拍手や応援が一体となって、首都ライデンの街並みが震えるほどの熱狂を生み出していた。

 

「がんばれー!」

「フレー、フレー!」

 

各国語が入り混じる声援の渦の中、選手たちは軽やかに足を運び、まるで風のように街を駆け抜けていく。

 

豪奢な石畳の大通りを行く者、昔ながらの路地を勢いよく曲がる者――モダンな建物の壁面には観衆がずらりと張りつき、花吹雪を投げかける姿が見える。

 

頭上には万国旗がはためき、そしてウマ娘たちが走るたびに、色とりどりの旗やリボンが一斉に振られる。

もはやどこを見ても「祝祭」一色だ。

 

遠くまで伸びるコースに目を向けると、強い足取りで次々とカーブを抜けるウマ娘たち。

その背筋は凛と伸び、躍動する尻尾が、まるで「未来の可能性」を振りまいているかのようだ。

 

ゴール地点には、さらに多くの観客が詰めかけていた。

 

走り抜いたウマ娘が一人、また一人とフィニッシュラインを通るたび、拍手と歓声が波のように押し寄せる。

そのときに湧き上がる音量たるや、一瞬鼓膜がしびれるほどだ。

 

「よくやった!」という言葉や、名前を呼ぶ声援、そしてスケッチブックをかざす画家たちの姿……そのどれもが、大切な瞬間を記憶に刻もうと必死だ。

 

やがて、次々と選手たちがゴールを迎えると、スタンドからは大量の紙吹雪が舞い降りた。

花びらに似せてカットされた紙片が、陽光に照らされてきらきら輝き、ゴール地点をドラマチックに染め上げていく。

 

涙ぐむ選手、仲間と肩を寄せ合う者、祝福を受け取って笑顔を振りまく者……。

その光景に、観客たちはまた新たな拍手を送る。

 

「ゴール! 一位、フリューゲル=ドロッセル王国代表。――――選手‼︎」

 

そうして。

世界各国から集ったウマ娘たちを讃える祝福の声が、首都ライデンの空へと広がっていく。

その声はやがて、大陸中の街や村へ、平和と希望を届ける風になって吹き渡るのだった。

 

 

ξ

 

 

日がすっかり高くなり、万博会場の広場ではさらなる催しが絶えない。

会場には続々と要人や観光客が訪れ、互いに名刺を交換したり、新技術の引き合いをしたりと、まるで世界の中心がここに集まっているかのようだ。

 

「中佐、首相がお探しです。オープニングセレモニーの次は、“表彰式”にも参加してほしいとのことですよ」

 

リヴェティーナが慌ただしく走り寄ってくる。

俺は満面の笑みを浮かべ、ゆっくりと彼女に応える。

 

「わかった。行こう。ところでだ――この万博が成功すれば、きっとライデンシャフトリヒは大陸の未来を引っ張る国になる。そう思わないかい?」

「ええ! 私たちウマ娘も、世界中の人たちも、もっともっと幸せになれますよね!」

 

盛大な歓声。

飛行船のエンジン音。

車のクラクション。

タイプライターの音。

ウマ娘の足音。

 

……ありとあらゆる“新時代の響き”が混ざり合い。

 

ライデン万博の会場をますます熱く盛り上げていた――。

 




もうそろそろで大阪万博ですね!

火星の石……どんな味がするのでしょうか?
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