ウマ娘配達屋 作:配達ξ紳士
冷たい風が戦後の街を吹き抜ける。
かつて戦火に染まった記憶と新たな希望が交錯する季節。
そんなある日。
俺は、『ウマ娘配達屋』としての事業を始めるべく。
『C.H郵便社』の社長である、クラウディア・ホッジンズとの面会をしていた。
「君がくるなんて珍しいな、セレス」
「おや、私が来たらまずかったかい?」
「そんなことないさ。元同僚の君だ、歓迎するよ」
ふさふさの赤髪を揺らしながら、こちらに紅茶を提供してくる彼。
ホッジンズは俺の元同僚であり、つまり元軍人である。
彼の最終階級は中佐、“同僚”とはつまり文字通り俺と同じくらいの人間なわけだ。
まっ、俺はウマ娘だから厳密には人間と言えないけど。
「それで、一体どうして君がここに?」
「実はね、私も君と同じように事業を始めてみようと思ってだな」
「ほーう! あの傍若無人の君が社長になるってことか」
「一言余計だが、その通りだ」
「だけど軍はどうしたんだい?」
「解雇されるらしいから、その前にやめてきたよ」
小高い山の上に位置するC.H郵便社本社。
ガラス越しに映る街並みはとても美しく、空気が澄んでいるのか港も一覧できる。
「……ふむ。詳しくは聞かないでおこう」
「助かる。それで単刀直入にお願いしたいのだが……」
――私たちと、ビジネスをしないか?
「ビジネス?」
「そうだ。先ほど言った通り、私はこれから“とある事業“を始めようとしていてだな。君の会社には、そのファーストパートナーとして、業務提携して頂きたくね」
「きゅ、急に言われてもなあ……。で、どんな会社を起こそうとしてるんだい?」
「うむ、『ウマ娘配達屋』だよ。」
俺はホッジンズに懇切丁寧に説明を始める。
「我々ウマ娘配達屋は、軍で鍛えた迅速さと正確性を活かし、全国各地へ手紙や大切な荷物を届けようと思う。そして、C.H郵便社のネットワークと連携することで、単なる民間配送を超えた、新たな通信インフラを築けると確信している」
「ふむ……」
「どうだ?」
彼は真剣な表情でこちらを見つめると、手を顎に乗せて頭を揺らしながら考えるそぶりを見せる……そして。
「確かに、僕たちがこれまで積み上げてきたシステムと、君たちウマ娘の驚異の脚力が合わされば、全国規模はもちろん、国境を越えた迅速配送も夢ではないだろう。戦場で培ったあの瞬発力と、民間での信頼が結びつけば、郵便事業はさらなる拡大を望める、ね……」
だけど、
「もし、僕が今ここで君の案を蹴ったら、君たちはどうなる?」
……俺はその問いに対しニヤリと笑うと。
「その時は、この国でクーデターが起きるだろうな」
「…………」
「…………」
「……それは、その……?」
ホッジンズのごくりと唾を飲みこんだ様子に、俺はプッと吹き出す。
「なーに本気にしているのだね中佐殿。冗談だよ、じょーだん」
「……君が言うと、冗談には聞こえないけどね。ははは……それに、今は中佐じゃない」
呆れたように笑うホッジンズは、ふう、とため息をつくと。
ぐったりと席に腰掛けたまま、降参のように片手を上げたかと思えば、それをゆっくりと下ろしていき……そのままぐっと。
二人の間で固い握手が組み交わされた。
ξ
第一関門クリア。
俺は、それに対して大きなため息をつく。
なんたって、あそこがOKしてくれなければ、我々『ウマ娘配達屋』計画は最初からして頓挫してしまう可能性が、大いにあったからなのだ。
「はぁーっ……良かったあああ」
「セレス中佐! 会談はうまくいったということですね⁉︎」
「そうだよ、ジョンソンくん」
「リヴェティーナで……やっぱり何でもありません。流石です、セレス中佐」
ここはライデンシャフトリヒの一等地にある我が屋敷。
そこで、俺は先の娘を含め、元通信中隊の皆を集めていた。
「と、いうわけで。仕事は見つかった」
「「「うおおおおおおお‼︎」」」
もうね、何と言うか熱気が凄い。
もしこの計画というか、ホッジンズへのお願いが失敗していたら、今頃俺はクーデターの主犯として祭り上げられていたと考えると、どっと疲れが落ちるものだ。
「それで、具体的に私たちは何をすれば良いのでしょうか?」
そうだ、それをそもそも彼女達に説明しなければならないのだ。
言うことはホッジンズの前で話した事と同じなので、それを簡潔に説明する。
「了解しました。我々の脚を用いて、手紙から荷物までと幅広い輸送を受けおうということですね?」
「そのとーり。だから仕事の内容は軍にいた時と似ているな。安全に確実に即日に、任務をこなす。ただそれだけだ」
すると一人のウマ娘が手を挙げる。
皆が考えているであろうことを代弁した。
「ですがセレス中佐……それだけで私たちの衣食住を賄うだけの金銭は稼げるのでしょうか?」
俺はその質問に対して答える。
「ん、問題なし! 我々ウマ娘配達屋が運ぶのは、基本的に一単価の高い商品ばかりだからな。手紙とて、それが王家や富豪のものであれば、必然的に確実性と速さを求められる。だからこそ、我々少数精鋭の出番というわけだ。たんまり稼ぐぞー」
その言葉が部屋に響くと、しばらくの間、静寂が流れた。
だが、やがてウマ娘たちの間からは興奮と期待に満ちたざわめきが広がり、部屋全体が一気に熱気に包まれ――。
「よし、みんな!」
俺は高らかに宣言する。
「明日から、初の合同プロジェクトが始動する。君たちが培ってきた脚力と、我々の軍で磨いた即応力をもって、全国の隅々へと希望を届けるぞ!」
「「「おおおおおおお‼︎」」」
――ウマ娘たちの熱意は、まるで戦場での突撃のように一斉に燃え上がった。