ウマ娘配達屋   作:配達ξ紳士

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3話:ウマ娘配達屋(前編)

翌朝――俺、ルナ・セレスは早くも新事業「ウマ娘配達屋(仮称)」を始動すべく、元・ウマ娘通信中隊の娘たちを屋敷の広間に集めていた。

 

この広間には長いテーブルが真ん中にどかんと置かれ、その周囲を取り囲むようにウマ娘たちが並んでいる。

天井はやけに高く、外壁は厚みがあって防音性が高いらしく、たとえ大騒ぎしてもあまり外には響かない――。

 

「さて、皆。今日から、俺たちは正式に“民間企業”として動き出す。名付けて、『ウマ娘配達屋』だ!」

「「「うおおおお!」」」

 

……やはりこの娘たちは血がたぎると声がでかい。

軍隊にいた名残で、「おお!」という返事の仕方が習慣化しているのだろう。

広い会議室が、まるで空気を振るわせるように揺れる。

しかし、この活気こそが彼女たちの魅力でもある。

 

「おいおい、静かにせんと壁が崩れるぞ。ここは軍施設じゃないんだ」

「す、すみません、中佐! つい気合が入ってしまいました!」

 

特に声が大きかったのは、リヴェティーナ(愛称:ジョンソンくん)だ。背は高く、漆黒の尻尾と耳が特徴的で、目力も強い。

いかにも突撃隊の先頭を任されていそうな武闘派タイプだが、本人いわく「いつかは花屋になりたい」とのことで、何とも可愛げがある。

 

「別に謝らなくていい。ただまあ、これからは“上官と部下”という立場でもないし、もっと気楽にやってくれ。俺も軍籍は無し、階級は剥奪されたようなもんだ」

 

ま、細かいことは気にしない。

 

さあ、会議(という名の朝のミーティング)を始めるとしよう。

 

「まず最初に、ホッジンズの『C.H郵便社』との業務提携が成立したことは既に伝えた通り。だが、向こうとしても我々を完全に信用しているわけではない。最初の試験運用として、いくつかの“高報酬だが困難な配送依頼”をこちらに回してきている」

 

「高報酬……!!」

「つまり、それらを確実に、しかも迅速に届けることができれば、我々への信頼は一気に高まるってことさ。その第一弾の依頼内容が――今日、ドンと届いた。はい、これが依頼書だ」

 

そう言って、俺はテーブルの上に一枚の紙をバサリと広げる。

依頼書は書式が整っており、ホッジンズの直筆サインが入っていた。

 

「依頼No.1『極秘文書の急送』……? なんだか物騒ですね、中佐」

「だろう? まさに戦時中の任務みたいな雰囲気がプンプンするが、どうやらこれは戦後復興に関わる重要書類らしい。ライデンシャフトリヒ政府が、隣国との条約を円滑に進めるために交わす手紙――と書いてあるな」

 

「なるほど、その手紙をうちが受け持つということは、政府も我々を利用したいんですね」

「それにしても……さっそく極秘文書か。まるでウズウズしてきますね、中佐!」

 

「興奮するのは勝手だが、今回の任務は軍隊ではなく“民間”としての仕事だからな。失敗は絶対に許されないぞ。その極秘文書が盗まれたり破損したりしたら、莫大な賠償金を請求される羽目になる」

 

「ば、莫大な……」

 

金額に弱いウマ娘たちは、一気に顔をこわばらせる。

 

そりゃそうだ、俺たちが軍にいた頃なら、最悪戦火のどさくさに紛れて書類を紛失してしまっても、ある程度は仕方ないで済まされたかもしれない。

だが、今は完全にビジネスだ。ミス一つで会社が傾きかねない。

 

「まあ、焦るな。俺たちにしかできない速達がある、だからこそ依頼されたんだ。まずは落ち着いて準備を整えるぞ。ジョンソンくん、依頼の詳細をみんなに説明してくれ」

「了解しました、中佐! ――あ、じゃない、社長?」

「中佐でいいよ、慣れん呼び方はやめよう」

「は、はい! ではご説明します!」

 

彼女は依頼書にざっと目を落としてから、大きな声で内容を読み上げる。

要点はこんな感じだ。

 

ライデンシャフトリヒにある首都ライデン(現在地)から、地方都市カラミアまで極秘文書を運ぶ。

期限は本日正午から明日の日没まで。

万が一、文書を紛失や破損させた場合、多額の損害賠償。

報酬は現金一括、成功時に即日払い。

 

「……スケジュールがタイトですね。カラミアはここからざっと馬車で三日はかかる距離だと聞いたことがありますが」

「確かに、一般的な馬車や列車を使えば三日はかかるな。しかし俺たちなら、ウマ娘の脚力をフルに使えば、一昼夜でだって不可能じゃない」

「ですが、けっこうハードじゃありませんか? 山越えもあるはずです」

 

別のウマ娘が心配げに質問してくる。

戦時中なら“命を懸けて”突っ走るなんてザラだが、今は戦争ではなく民間活動。

無茶な行軍を強いるのはよろしくない。

それに、無駄に身体を壊されたら、せっかくのビジネスが続かなくなる。

 

「そこはチームで分担する。まずは最初の数時間を短距離走が得意な者が担当し、その後は中距離型が交代。さらに夜間の山越え区間は、暗視に慣れた娘を投入する。そうやってリレー方式で運べば、負担を分散できるはずだ」

「なるほど、たしかに戦時中も“リレー通信”のやり方がありましたね」

「そうそう。俺たち『ウマ娘通信中隊』で一番の強みは、チームワークと交代制による安定した脚力だった。今回もそれをまんまと活かせばいい」

「了解しました! それなら行けそうですね、中佐!」

 

ほう、だいぶ士気が上がったようだ。

全員が目を輝かせている。

おそらく、かつての“戦場通信”を思い出しているのだろう。

 

砲弾飛び交う戦場のど真ん中を、敵の目を掻い潜りながら突破したあの頃に比べれば、今回の依頼など平和そのものだ――とはいえ油断大敵ではあるが。

 

「よし、ではさっそく出発準備に入る。メンバー編成は俺が担当するから、適正ごとに分かれて準備を始めてくれ。……あ、念のため言っとくが、くれぐれも大声で“極秘文書”とか言うんじゃないぞ?」

「「「はっ!」」」

 

ウマ娘たちは整然と敬礼し、そのままぞろぞろと広間を出て行った。

彼女たちの引き締まった表情が頼もしい。

 

どうやら“上官”ではなくなったとはいえ、まだまだ俺の指揮のもとに動くことは違和感がないらしい。

 

 

ξ

 

 

――そして数時間後。

 

俺はジョンソンくん(リヴェティーナ)を伴い、ライデンシャフトリヒ南部の街外れにある“連絡所”にやってきた。

ここは、依頼品の受け渡しを手配してくれたホッジンズの部下が待機しているはずだ。

 

「お、来たか、セレスさん。こっちです!」

 

声をかけてきたのは、C.H郵便社の社員だという青年。

平服に金髪を少し長く伸ばした様子だ。

 

「いやあ、すまないね。急な依頼だったから大変だっただろう」

「大丈夫だ……です、それが仕事ですから。はい、これが極秘文書の入った鞄です」

 

青年が手渡してきたのは、いかにも頑丈そうな革製の鞄。

二重ロックがかかっており、覗き見ることも容易ではない。

さすがに厳重だな。

 

「では、確かに受け取った。あとは、我々が迅速にカラミアまで届ける。」

「どうぞ、よろしくお願いいたします」

「当然。金が絡む以上、こちらも命をかけよう」

 

荷物を受け取り、一旦俺の屋敷……もとい会社へと戻る。

すると、そこには既に。

 

「中佐! 配置につきました!」

 

リヴェティーナをはじめとする短距離型のウマ娘たちがいた。

彼女たちには市街地を抜ける初期フェーズの役目を任せる予定だ。

 

「頼むぞ、まずは最初の約二十キロ。街道が混雑しているかもしれないが、できるだけ安全第一で走ってくれ」

「お任せあれ! 突撃の要領で、あっという間に突破してみせます!」

「突撃はしなくていい……荷物を壊すなよ」

「は、はいっ!」

 

まったく、すぐに“突撃”という単語を使うのは戦場癖が抜けていない証拠だ。

しかし、いざ走るとなると彼女たちはほんと頼もしいのは確か。

視線は前を向き、耳がぴんと立ち、尻尾も力強く揺れている。

軍で培った規律が、ここでも最大限発揮されるのだろう。

 

 

――かくして、俺たち『ウマ娘配達屋』の初仕事が本格的に始まった。

 

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