ウマ娘配達屋   作:配達ξ紳士

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4話:ウマ娘配達屋(後編)

「よし、次の交代はモニカたちだ。準備はいいか?」

「任せてください! ここから山越え区間までは私たち中距離型がバトンを繋ぎます」

 

依頼書にあった時間制限は、明日の日没まで。

予定通りいけば、日が暮れるころには地方都市の手前まで到達し、夜間走行の得意なメンバーが最後の区間を担当する手はずだ。

 

短距離組が街外れまで一気に駆け抜けてくれたおかげで、初日の計画はほぼ順調に進んでいるようだった。

 

あの娘たち、興奮した様子で一斉にダッシュしていたので、最初は少しヒヤヒヤしたが、どうにも荷物は無事に次のチームへ渡してくれたらしい。

 

「いいか、絶対に脚を痛めるなよ? もし足首をひねったりしたら、遠慮なく連絡して交代要請をするんだ。無理をして走った結果、全体が崩れたら中佐に顔が立たない」

「もちろんです。でも、戦争は終わったんですから、“死ぬ気”で走る必要はないですよね」

 

モニカと名乗るそのウマ娘は微笑みながら、隣に立つ仲間と視線を交わし合う。

軍時代に比べ、心のゆとりというか“もう生き急がなくてもいいんだ”という感覚が、彼女たちの中に芽生えている。

 

戦争が終わるというのは、こうも世界が変わるものなのか――。

 

「じゃあ、そろそろ行くぞ! 鞄はしっかり背負って……よし、出発!」

「行ってきます!」

 

中距離班は一列になり、リレーのバトンを受け取るように鞄を渡すと、そのまま勢いよく地面を蹴って駆け出す。

 

地を蹴る力強い音が、草原の道に響いた。

周囲には緑が広がり、かつて戦場にいた頃と比べて穏やかな風景が映っているを見ると、ちょっとだけ感慨深い。

 

「いやあでも、この調子で行けば順調ですね」

 

 

 

夕方――山越え手前の町に到達したモニカたち。

彼女たち中距離班は、そこで次の交代グループ……と合流した。

 

夕食を兼ねたミーティング。

手分けして町の食堂から大量の食事を調達する。

ウマ娘たちの胃袋は尋常じゃないから、店のおばさんは驚いていたようだが、金さえ払えば文句は言われまい。

 

「おかわり!」

「おかわりお願いします!」

「それで〜中佐が〜」

 

食堂の片隅に陣取った彼女たちは、わいわいと大盛り上がり。

軍隊では隊食の時間は一瞬たりとも気を抜けなかったが、今は多少のリラックス。

 

荷物はしっかり手元にあるし。

交代制で見張りを立てているから万一のことがあっても対応できる。

 

そして暫く時間が経ち。

 

「「「お腹いっぱい!」」」

 

こうして、彼女たちは最終区間に挑むことになる。

地方都市カラミアは目前――と言ってもまだまだ山越えが残っているが、ウマ娘たちの脚力をもってすれば、夜を明かさずとも踏破できるはずだ。

 

 

 

それからは怒涛のリレー攻勢。

深夜の山道は冷え込みが厳しく、足場の悪いところも多い。

 

だが、夜目が利くウマ娘たちは暗闇を恐れずに進んでいく。

途中、岩場で転倒して膝をすりむいた娘がいたようが、他のメンバーがすぐさま救護し交代することで大事には至らない。

 

誰一人置いていかない――それが『ウマ娘通信中隊』時代からの鉄則であり、この“ウマ娘配達屋”にも受け継がれている精神だった。

 

「見えてきた……あれがカラミアの外灯だ!」

 

夜空の下、微かに街の灯りが見える。

 

「よし、急げ! 朝日が昇る頃には到着しておきたい!」

 

 

 

――そして、明け方。

 

地方都市カラミアのメインゲートの前。

門はまだ閉ざされているが、夜明けとともに開門作業が始まり、街に入ることができるようになる。

門番に手続きを頼むのは少し面倒だが、C.H郵便社から事前通達があるはずだから問題なく入れるだろう。

 

「皆さん、お疲れさまです。結局、ほぼノンストップでここまで来ちゃいましたね」

 

ウマ娘たちが安堵の息をつきながら笑う。

彼女たちも大半が息を切らしてはいるが、誰も文句を言わない。

 

むしろ達成感に満ち溢れている。

何しろ、初めての大仕事だ。

極秘文書を無事に届けられるという安心感と誇りが、ごちゃまぜになって胸が熱くなる。

 

「ええ、なんとかやりきりました。まあ、最後の難関は“書類の受け渡し”ですが。ここの役人に渡すだけでも慎重に。油断して紛失するなんてオチにならないように」

「ふふふ、最後の最後で大ゴケしないようにしますよ!」

 

開門されると同時に、彼女たちはその脚で街中へ入っていく。

朝日が石畳に差し込んで、都市の建物を金色に照らす。

 

ここは壮観な景色だ。

戦争が終わった今、この街は復興と平和を謳歌している最中……そんな空気の中、『ウマ娘配達屋』の一団が堂々と走り抜けるのだから、通行人の注目を集めて当然だろう。

 

「見て見て! ウマ娘が走ってるよ!」

「すごい脚だなあ!」

 

ちらほら街人の好奇の視線が集まるが、別に冷やかされるわけでもない。

むしろ興味津々で見ている。

 

子供たちが走り寄ってきて「すごいね!」なんて言ってくれると、ウマ娘たちも照れたような笑みを浮かべて手を振っている。

 

戦時中は“人間離れした兵隊”として忌避されることもあったウマ娘たちだが、今はこうして人々に「すごいね」と称賛される存在になりつつある。

それはとても良い流れだ――。

 

 

 

「君たちが『ウマ娘配達屋』、ですね? お疲れさまです。すごい、時間ピッタリだ。書類のほうは……?」

「ここに。まったく問題なく届けました」

 

鞄のロックを丁寧に外し、内容物を確認してもらう。

役人も手早くチェックし、封緘がきちんとされているのを確認したあと、安堵の表情でこちらを見た。

 

「確かに受領しました。ご苦労さまでした。いやはや、まさか一晩でこの距離を運んでこられるとは……驚嘆に値しますね」

「いえいえ。これが『ウマ娘配達屋』の仕事ですので」

 

 

――そんなこんなで、俺たちの初仕事は大成功となったのであった。

 

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