ウマ娘配達屋   作:配達ξ紳士

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7話:事業拡大と近代技術

朝、オフィスの扉を開けると、眩しい朝日とともに、ウマ娘たちの活気あふれる声が室内に満ちていた。

 

「よし、皆。よく集まってくれた」

 

今日の目的は、これまでの小規模な依頼を超えて、全国進出に向けた大規模プロジェクトの第一歩である。

俺は重ねた契約書類と新たな提案資料を手に、彼女たちを見渡す。

 

「今日から、ウマ娘配達屋は新たな局面に突入する。私たちの強みは、戦場で鍛えた脚力だけではなく、仲間との連携だ。これより私たちの新たな目標を宣言する‼︎ それは、全国の市場を手中に収め、国境をも越える配送網を構築する――だ!」

 

会議室に響きわたる俺の声。

まるで砲声のような熱量を込めた宣言に、ウマ娘たちが一斉に反応する。

ここはどこか、かつての軍隊の作戦会議室を思わせる空気感がある。

 

俺の右腕とも言えるジョンソン君(リヴェティーナ)をはじめ、中隊時代から苦楽を共にしてきた仲間たちがテーブルを囲んでいた。

 

「はいはーい! 中佐が言うなら了解〜」

「ええ、私たちは中佐についていくのみです」

「それにしても……全国規模?」

 

俺たちが集うこの部屋。

まるで戦場での作戦会議のようだが、今はビジネスの未来を語る場だ。

俺は、先日まとめた分析資料を一枚ずつめくりながら、仲間へと説明を続ける。

 

「我々ウマ娘は、単に速く走るだけではない。現場の状況を即座に把握し、柔軟に対応できる。これが、今後の配送事業の革新を担うのだ!」

 

俺の声に、部下たちは真剣な眼差しで聞き入る。

かつての戦友のように、俺の言葉に頷きながら――。

 

この日、俺たちは地元の自治体から新規案件の打診を受けた。

地方都市の再建計画の一環として、急ぎの書類配送と、特定の重要品の即日配送が求められている。

具体的には、新たに敷設される公共施設の設計図や、住民たちへ迅速に物資を届けるためのネットワーク構築。

これらを、俺たちウマ娘配達屋が担当し、短期間で実績を出すことができれば――全国規模の事業拡大にも大いに弾みがつくだろう。

 

「契約が成立すれば、私たちウマ娘配達屋の名は全国に轟くだろう。新たな市場で、我らの速さと連携が証明されるのだ!」

 

俺がそう言い切ると、周囲のウマ娘たちの視線がひときわ熱くなる。

華奢に見える彼女たちの体躯は、戦場での厳しい訓練を経て今も鍛え上げられているし、何よりも誇り高い。

“走ること”に対して妥協を許さない精神が、彼女たちをここまで導いてきたのだ。

 

……とはいったものの、実はこの未来を切り拓くために、ある懸案が存在していた。

 

「でも中佐、最近なんだかクルマっていう乗り物があるらしいですよ」

「そうそう、ぶーんって煙出しながら、人の走るくらいの速度を出すんです」

 

会議室の片隅で、まだ若いウマ娘が耳と尻尾を揺らしながらそう呟く。

 

これまでは考えられなかった“車”という機械による輸送手段が、戦後の復興に合わせて、じわじわと普及し始めているという噂だ。

馬車や人力の輸送が当たり前だった世界が、技術革命によって変わろうとしている。

 

いまだ未発達ながら、車は車。

戦後、民間に流されたそれは、燃料がある限り疲れ知らずで動く。

いずれは我々の仕事に侵食していくことだろう。

 

し、か、し。

 

「皆、よく聞け。確かに車両は最新鋭かもしれんが、この世界では舗装された道はごくわずかだ。雨に濡れ、ぬかるみにまみれる現実の道の上では、車はその性能を発揮できず、むしろトラブルの元になる。むろん、彼の機械の脅威も分かっている。しかし車両はあくまで補助装置に過ぎん。君たちの足音が、この国の未来を切り拓く原動力となる。その誇りと連帯感を、決して忘れてはならん!」

 

俺が力強くそう言い放つ。

教官からの叱咤を思い出したかのようにウマ娘たちが背筋を伸ばす。

 

“ウマ娘配達屋”は単なる職業というより、かつての戦友が再集結した“ひとつの部隊”だ。

皆、血気盛んで、少し前まで砲弾や銃声の中を駆け抜けていた。

地図にない道でも、どんな悪路でも、走ることにかけては人一倍のプライドがあるのだ。

 

そんな自負があるからこそ、新技術に脅かされそうになると不安を抱く部分もあれば、「いや、まだまだ私たちの走りには及ばないだろう」と思う一面もある。

そこを、俺がはっきり言葉にしてやることが大切なのだ。

 

会議室全体に、再び活気が戻る。

ざわざわと交わされる声には、「やってやろうじゃないか」とでも言わんばかりの熱量がこもっている。

 

ジョンソン君が手を挙げて口を開く。

 

「中佐、そうは言っても車の技術がもっと進歩すれば、いつか今の馬車以上に高速移動できるようになるかもしれません。それに、鉄道もまだまだ発展途中です。整備されれば大量輸送が可能になりますし、過疎地にも線路が伸びるかもしれない」

「その通り。確かに、いずれどんな道でも車が走れるようになる時代が来るかもしれん。だが、それまでの間にも人の暮らしは続く。未舗装の山道や隘路だってあるし、国境を越える峠道もある。電信が通っていない地域だってまだまだ多い。そこで最速の配達をできるのは――我々ウマ娘配達屋しかいないだろう?」

 

その問いに、ウマ娘たちは一様に視線を交わし、笑みを浮かべた。

 

走ることだけが全てではない。

途中で故障しないかを気にする必要がなく、状況に応じてルートを選べる柔軟性は、大きな強みになるはずだ。

 

それはまるで戦場での遊撃戦や偵察任務に通じるものがある。

相手がどんな最新鋭の兵器を持っていても、地形を熟知したこちらが奇襲を仕掛ければ勝機が見いだせる――そんな感覚。

 

「よし、というわけで皆! 今日の仕事、開始‼︎」

 

俺の宣言とともに、会議室内には完全に新たな活気が満ちた。

車両の導入に対する不安は、俺たち自身の足音と情熱で完全に打ち消された――。

 

 

ξ

 

 

一人オフィスの窓から差し込む朝陽を背に、俺は深く息を吸い込んだ。

 

「とはいったもののなあ……後何年、この仕事ができるかは未知数だな」

 

正直に言って、戦争で技術は飛躍的に進化した。

車は、いまや都市部では貴族や大商人だけのものというわけではない。

それに、やろうと思えば、人は空を飛ぶことさえできる時代に到達している。

この後の未来を何となく知っている俺にとって、それは社長になってからの常に頭にある悩みの種であった。

 

「まっ、いつの日か彼女たちには車両に乗って運転してもらうことになるだろう……が、それまでの間は、たっぷり稼がせてもらおうじゃないか」

 

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