ウマ娘配達屋   作:配達ξ紳士

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8話:二つの運搬任務(上)

眩しい朝日がオフィスを満たす――と思いきや、今日はあいにくの曇り空。

重たい雲を背景にして立つウマ娘配達屋の社屋(兼・俺の屋敷)は、それでも変わらず活気に溢れていた。

 

「中佐、おはようございます!」

「セレス中佐、おはようございます」

 

ウマ娘たちが一斉に挨拶してくる。

もう軍隊ではないと言っても、昔ながらの習慣はなかなか抜けないらしく、敬礼までセットなのが微笑ましい。

 

俺は、「やっぱ社長って呼んでもらおうかな」と苦笑しつつ、彼女たちに手を振り返す。

ただの業務開始の朝だというのに、彼女たちは既に走り込みを済ませ、整然と点呼すら終えている。

士気は相変わらず高い。

 

「うーん、今日も忙しくなりそうだぞ」

 

机には複数の依頼書が並んでいる。

ここ数週間で、ウマ娘配達屋は着実に知名度を上げた。

 

全国の隅々まで、人馬一体(文字通り)の驚異的な速さで荷物や手紙を届けると評判になり、新たな依頼がどんどん舞い込んでいるのだ。

 

「中佐、お疲れさまです。今朝届いた依頼が二つあるんですが――まずはこちらを」

 

 オフィスの受付係のウマ娘が、分厚い封筒を手渡してきた。その表面には、王家の紋章のようなものがしっかり押されている。

 

「おっと……またずいぶん格の高い依頼だな」

 

王侯貴族か、それに準ずる上流階級からだろう。

 

近頃は“最速かつ安全”を求める上流の客がこぞってウマ娘配達屋を利用してくれるのは嬉しいが、同時に責任が重い。

 

「内容は『宝石と書簡を、隣国の公爵家に即日届けてほしい』とのことです。届け先は国境を越えたヴァイスラント領……山間地帯の奥深くみたいですね」

 

受付係のウマ娘が地図を指し示す。

そこは標高が高い峠道が続く難所だ。

車はもちろん、鉄道もまだ繋がっておらず、馬車で行くには何日もかかるだろう。

 

「なるほど。“宝石”まで運ぶとなると、盗賊とかには気をつけたいな。それに、国境越えの手続きもある……けど、そこはC.H郵便社が手配してくれてるはずだ。うん、多分。きっと問題ないだろう」

 

かつて戦場を走り回ったウマ娘たちにとっては、標高や悪路ぐらい大した障害にはならない……ただし、警戒が必要なのは“人間の敵”。

 

峠道や国境沿いは治安が万全というわけではない。

とはいえ昔の軍経験が活かせる場面だ。

 

「よし、これは短距離班と夜間走行班を巧く組み合わせて、明日の夜までに届ける形にしよう。……宝石が入った箱は堅牢に梱包して、衝撃で割れないように注意するんだぞ」

「了解しました、中佐!」

 

受付ウマ娘が元気よく返事をして、書類にメモを取る。

 

「もうひとつの依頼は?」

「はい、こちらです」

 

別の封筒を手渡される。

 

今度は王家の紋章とかではなく、どこか地味な印象。

差出人欄には個人の名前が記されているだけだ。

 

「なんだ? “機材の輸送”……? ああ、これはどうやら開発者が自作の“自動車”を運ぶために協力してほしい、みたいな話ですね。場所は首都の外れにある工房で……車体を遠方の見本市まで移送したいらしいです」

 

それはまた興味深い。

車に対してウマ娘たちは複雑な思いを抱いている。

 

俺は紙面を見ながら、少し考え込む。

依頼主は“アルフレッド・スタイン”という技術者らしい。

どうやら戦後に軍事工廠を辞めて独立し、機械を作っているとか。

 

「ふむ、試作品を運ぶのか。まだ動力が不安定なので、自走させるのはリスクが大きい……ゆえにウマ娘配達屋が運搬するというわけか」

「実際、車のタイヤが泥道でハマってしまうと回収が大変ですからね。どうやら新型のエンジンを開発しているそうですが、ここから山道を越えるにはまだ不安があるらしく……」

 

そう言いながら受付ウマ娘は苦笑する。

 

なるほど、車の普及はまだまだ先……というわけでもないが、この段階では細かいトラブルが多いらしい。

技術者としては早く成果を見せたいし、でも道中で壊れたら大事。

 

――それなら、長距離を走破できるウマ娘に手伝ってもらおうという発想も納得だ。

 

「……面白い。よし、この依頼、受けようじゃないか。運搬の最中に車とやらを見ておくのも悪くない。たぶん、そう遠くない将来に、こっちが学ばされる場面もあるだろうしな」

 

俺がそう呟くと、周囲のウマ娘たちが「車なんかに負けませんよ!」と息巻いている。

だが、俺は自分が転生者であるがゆえ、車という存在がいずれ強大なライバルになり得ることを薄々感じていた。

 

とはいえ――今はまだウマ娘配達屋が優位。

フットワーク軽く、悪路を駆け抜けるには生身の脚力が最適解なのだから。

 

 

ξ

 

 

「短距離班、集合ー!」

 

呼びかけに応じて、リヴェティーナ(愛称ジョンソンくん)をはじめ何名かが前に出る。

ピンと立った耳と尻尾が、やる気を示すように揺れた。

 

「今回の依頼は例の宝石運びだ。目的地はヴァイスラント領の奥深く。国境を越える峠道が続くらしい。昼夜問わず走らないと間に合わないかもしれないが……大丈夫か?」

「もちろんです、中佐! うちの短距離組がペースを引っ張りますし、夜間走行班も控えています。宝石だろうが何だろうが、一晩で山を超えてみせます」

 

いかにも武闘派らしい眼光を放っている。

だが彼女だけでなく、ほかのウマ娘も鼻息荒く意気込んでいるようだ。

 

「よし。国境警備とのやり取りはC.H郵便社が手配してくれてるはずだが、いちおう書類を忘れんようにな。あと……」

 

俺は声のトーンを落とし、少しだけ周囲を見回す。

 

「峠道で盗賊の類に遭う可能性はある。万一の場合、命を最優先、決して無茶するなよ」

「了解です! ……でも盗賊なんか、私たちが一瞬で蹴散らしてみせますけどね」

「まあな、あんまり派手にやると後々面倒だからほどほどに」

 

かつては軍事作戦の最前線を走っていたウマ娘たち。

彼女たちからすれば、よほど組織だった山賊でもない限り脅威にならないのだろう。

 

だが俺は“民間企業として”動いている以上、あまり血生臭い話にはしたくない。

何より、せっかく築き上げた配達屋の信頼を損なうわけにはいかないのだ。

 

こうして宝石チームは出発の準備に取りかかった。

宝石を梱包した頑丈な箱を慎重に確かめ、書簡を落ち着いた表情で袋へしまう。

 

出発は今日の正午。

夜明け前には峠を越え、明日の夜までに公爵家へ到着する計画だ。

 

 

 

一方、 “車両を運ぶ”という輸送依頼。

こちらの依頼はちょっと毛色が違う。

 

アルフレッド・スタインという男が開発した新型エンジン搭載車を、遠方の見本市まで運ぶ――しかも道中の泥道や山道がネックになるので、自走ではなくウマ娘配達屋に頼りたいとのこと。

 

「車……ほんとにそんなに重いのか? 馬車と比べてどれぐらいの大きさなんだろうな」

「噂によれば、普通の馬車より少し小さいけれど、エンジン部分に金属を使っているから結構な重量があるみたいですよ。あと、タイヤがゴム製だとか……」

 

ロジスティクス担当のウマ娘たちが、地図と依頼書を睨みつつ打ち合わせをしている。

 

こちらは力自慢の面々が多い。

山道や段差を越える際、どうしても車体を持ち上げたり押したりする必要が出てくるかもしれない。

 

「そもそも車を運ぶって発想がおかしいんですけどね。自走できるはずの物をウマ娘が運搬するなんて……」

「まあ、開発途中ってそういうものでしょ。実験走行で壊れたら目も当てられないし、試作品を見本市に無事届けないと資金援助も得られないらしいしさ」

 

彼女たちは“どんな姿勢で運ぶか”、“安全性をどう確保するか”などを議論している。

ハンドルやエンジン部分が壊れないように、きちんと梱包材で覆う必要もあるようだ。

 

「おーい、スタイン氏本人がこちらに来るらしいぞ。みんな準備しとけ」

 

通りがかった俺が声をかける。

それを聞いたロジ班のウマ娘たちは気合を入れ、準備運動を始めるのであった。

 

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