魔法少女リリカルなのは STAND BY ME 作:ユキアン
ここはどこだ?
目を覚まして一番に思った事はその疑問だった。クロス・アルケミーと視界を共有すると何処かの研究室らしき場所の液体の詰まったカプセルに全裸で放り込まれている事が分かる。そして、左腕と左足に右目と内臓が機械で補填されている。あと、ついでに誰かに見られている感じがする。サーチャーか?
まあいい。とりあえずは外に出よう。
右手に波紋を集中させてカプセルを殴って破壊する。液体と共にカプセルから流れ出される。
「あ~、とりあえず服を手に入れるしかないな」
誰かに見られている状況ではクロス・アルケミーを使うわけにはいかない。波紋ならある程度は魔法と誤摩化せるかも知れないのでそちらで切り抜けるしか無い。
「それにしてもかなり良い義肢だな。ほとんど生身と変わらないぞ」
左腕と左足の具合を確かめてみるが、特に反応が遅いという事も無く、人工皮膚も本物と見分けがつかない。メンテナンスが気になるな。まあ、地球に戻ってから材料を集めて治療すれば良いだろう。
「それで、そこでオレを見ているあんたは誰だ?」
『ほう、気付いていたのかね』
サーチャーがあると思われる方を向いてそう問いかけると目の前にモニターが展開される。モニターには白衣を纏った男が映し出されている。
「とりあえずあんたがオレを治してくれたのだろう。礼を言っておく」
『気にする必要は無い。私の方も依頼されただけだからね。そして、君には感謝している。独特の呼吸法から精製される特殊なエネルギーの存在を、生命の神秘を私に教えてくれたのだからね』
やはり波紋の事は知られているか。
「波紋の事か」
『ほう、アレは波紋と呼ぶのかね。確かに君を入れていたカプセル内で独特な波紋が描かれていたね。なるほど、確かに波紋だ』
「本当は秘奥なんだが、まあいい。とりあえず、オレを帰してくれるか?」
『ああ、もちろんだ。と言いたいのだがね。少し厄介な事が発生していてね。簡単に説明するなら、私は犯罪者でね、今この研究所に時空管理局、まあ所謂警察がここに侵入してきている。私としてはこの研究所を廃棄するのは構わないのだがデータの移動に時間が少しかかっている。君には自力でこの研究所から脱出してもらいたい』
「なぜだ?オレは言ってしまえば被害者だ。保護を求めても良いはずだが」
『普通ならそれで問題ない。だが、君の身体は特殊でね。違法技術をふんだんに使ってある。運が悪いと、保護を偽ってモルモットにされる可能性がある』
「警察じゃなかったのか?」
『ああ、正義を標榜する組織さ。上層部のほとんどは腐り、下っ端は正義の免罪符に現実を見ようとしないがね。もちろん中には本当に市民の為を思っている者も居るがね。まあ、どちらにするかは君に任せるよ。そして、その為の力として君のデバイスを用意しておいた』
その言葉と同時にドラム缶の様なロボットがオレの傍にやってきて指輪を手渡してくる。
『君の専用として作ったデバイスだ。詳しい事は彼に聞きたまえ。名前も無いが私の最高傑作だ』
「初めましてだ、マスター」
「ああ、よろしく頼む。名前は、そうだな、アルフォンス。略してアルだ」
「個体名登録完了、術式はどうする?」
「知らん。その時その時で使い分けろ」
「了解だ。最後にバリアジャケットのデザインを考えてくれ」
バリアジャケットのデザインか、考えるまでもない。思い返すは柱の男達との決戦の時の服装、黒の上下に星と雲が描かれた赤いトレンチコート、両手にはシーザーから託されたグローブ。光に包まれた一瞬の間に想像と同じ形のバリアジャケットを纏う。グローブだけは多少変化し、右手の甲にレイジングハートの先についていた様な宝石が付いている。
「右手の宝石はコアだ。出来れば壊れない様に扱ってくれ」
「多少は気にしてやるがあまり期待するな」
軽く身体を動かしてみて異常が無いかを確かめてみる。波紋も簡単に通せたのを確認してからモニターに向き直る。
「気になるのだが、オレの魔力で大丈夫なのか?確かDランクだったはずだが」
『無論対策はしてある。そのデバイスにはタンクを用意してある。そこに魔力をプールしておけばいつでも使う事が出来る。時間さえかければ君に使えない魔法は無いだろうね。魔法の方はデバイスに私が知りうる限りの術式を登録してある。どんな魔法が使いたいか、言えば最適な物を選んでくれるはずさ』
「なるほど、理解した。ではオレは行くとしよう。もう出会う事は無いだろうが、最後に名乗っておこう。オレは東条城矢、ジョジョと呼ばれる者だ」
『覚えておこう。私の事はドクターとでも呼んでくれれば、いや、ちゃんと名乗っておこうか。私はジェイル・スカリエッティ、次元犯罪者だ。楽しかったよ、ジョジョ』
その言葉を最後にモニターが消える。さてと、とりあえずはこの施設から脱出しようか。
「アル、この研究所の地図を出してくれ」
新しく展開されたモニターに地図が表示され、最短ルートも示される。現在地は施設の中央部らしく出口までそこそこの距離があるようだ。
『施設の自爆装置が作動しました。20分後に施設は自爆します。繰り返します、施設の自爆装置が作動しました』
地図を確認し終えた所でアナウンスが聞こえてくる。出口までは12、3分で辿り着ける。
「マスター、伝えておきたい事がある」
「どうした」
「管理局以外の者と思われる生体反応が2つある。おそらくはドクターが手をかけていた実験体だと思われる」
「ちっ、場所は」
モニターに表示された場所は出口とは逆方向でそれほど離れてはいない。
「助けにいく。ナビを頼む」
「了解だ。多少の壁もぶち抜いて行く事を前提にしたルートを表示する」
この短時間でよくオレの事を理解しているな。表示されているルートは分厚い装甲に覆われている実験室を一つ迂回する以外は直進する道だった。
「行くぞ、アル。身体強化系の魔法を」
「スピードとパワー、どちらを優先するんだ?」
「もちろんスピードだ。スピードがあれば大抵の事は出来る」
「了解」
波紋とは違う力が流れるのを感じる。これが魔法による強化か。
「今のマスターの魔力では2分が限界だ」
「十分だ」
魔法での強化の上に波紋の強化を上乗せする。一歩目を踏み出しどれだけ強化されたのかを確認し、二歩目で力を込め始め、三歩目で全力で床を踏み抜き、四歩目と同時に壁をぶち抜く。
予想以上にスピードが上がっている。およそ2~3倍といったところか。まあ、嬉しい誤算だと判断しよう。次々と壁をぶち破り、迂回予定の壁も一度試した所抜けたので直進する事にする。1分24秒で目的地に辿り着く。そこにはオレと同じ様にカプセルの中で眠っている全裸の少女達がいた。おそらくは姉妹だろう。
……オレは全裸の姉妹に縁があるのか?
馬鹿な思考を切り捨てて少女達をカプセルから出そうとした所で足を止める。
「なあアル」
「どうしたマスター、急がなくては爆発に巻き込まれるぞ」
「カプセルから出したら死んだりしないよな」
「……データベースにはこれから起動させる予定だったらしい」
「起動?」
「身体のほとんどをマスターの様に機械で強化しているらしい。戦闘機人と言うみたいだな。彼女達はそれのプロトタイプだそうだ。右側がタイプゼロ・ファースト、左がセカンドだ。また、人造生命体でもあるみたいだ」
おいおい、人造生命体まで被るのかよ。これは管理局に保護を求めるしか無いな。最悪の場合は二人を拉致って地球に逃亡するプランまで用意する必要がある。頭を抱えながらカプセルを開いて二人をトレンチコートで包む。まだクロス・アルケミー・レクイエムを見られる可能性がある以上は我慢してもらうしか無い。眠ったままの二人の少女を抱えて出口に向かって突き進む。両手が塞がっているので壁を壊せなくなったが時間には間に合うはずだ。
「マスター、前方から管理局と思われる反応がある」
「構わん。このまま直進する」
今重要なのは抱えている二人の少女を保護する事だ。それ以外の事は後から考える。次の角を曲がった所で管理局の者と思われる人物が視界に入る。その顔を見て少しだけ驚く。なぜならオレが抱えている二人の少女と似た顔立ちをしているのだから。
「そこの貴方、止まりなさい」
「断る。自爆に巻き込まれるのはごめんだ。というかそっちも早く逃げろ。残り10分を切っているぞ」
お互いに大声を出しながらも距離を詰めて行く。それにしても向こう側は楽だな。ローラースケートにエンジンを取り付けてるのか、もの凄いスピードでこちらに滑ってくる。本当に楽そうだな、あれ。
「私はいざとなれば仲間が召還してくれるから大丈夫よ。それよりその子達は」
「逃げる途中で保護した。ここの実験体らしい。オレもそうらしいが逃げてきた」
適当に嘘をつきながら少しだけ速度を落とす。その間に向こう側も反転して並走してくる。
「とりあえずは逃げるのを優先したい。二人を預かってくれ」
「ええ、ってその子達は!?」
「データには人造生命体ってなってたが、おそらくは貴方のクローンかなにかだと思う」
ここで問答になればそれこそ本当に命に関わる。無視する様にジュエルシードから魔力をアルに送り込んで、肉体強化を保持する。
「アル、ペースを上げるぞ」
次々と壁を抜き、とうとう外に出る事が出来た。
「やれやれ、やっと外に出れたか」
「自爆も研究所内部のみだ。既に安全圏と言える」
「それは良かった。それじゃあ、帰るか」
「待ちなさい」
蒼いバインドで拘束される。魔力は既に残っていないので波紋で強化した肉体で無理矢理バインドを破る。すると今度は首から足首までバインドで拘束される。これはちょっと無理です。
「あの~、オレは家に帰りたいんですけど。どれだけあの研究所に拘束されてたか分からないんで家族が心配してるはずなんですが」
「ええ、出来ればすぐにでも帰してあげたいんだけど、こちらも色々と聞きたい事があるのよ。家の方にはこちらから連絡してあげるから一緒に来て貰うわよ」
逃げれそうにないな。仕方ない、大人しく付いていきますか。
クイント・ナカジマさんに保護されてから三日が過ぎた。初日は軽い事情聴取を受けてから身体を調べ上げられた。検査の結果を聞くと、殆どサイボーグに改造されていると言われた。まあ、予想はしていた事だ。また時空管理局の施設ではメンテナンスも難しく、今後スペックは下がり続ける一方だとも告げられた。オレと一緒に保護された二人もオレと似た様な身体だったが、こちらの方はなんとかメンテナンスは可能であると言い難そうに告げられる。クロス・アルケミーの存在を知らない以上しかたのない事なので諦める。ちなみにまだレクイエム化したままだ。監視の目がある所で矢を取り出すのは色々と面倒しか起こらないからな。
二日目はアルを取り上げられ、隅々まで調べ上げられた。だが、何かの細工が施されているのか普通のデバイスとしての情報しか上がらなかったらしい。マスター権限もオレ固定になっているのでこのまま所有する事を認められた。三日目には保護した二人とコミュニケーションをとらされた。何でも職員を怯えてクイントさん位にしか懐いてないらしく、その日はボスに報告に行くらしく面倒を見て欲しいと言われた。子守りですか、また子守りなんですか?諦めてトランプやサイコロなどの手品に使う道具を借りて子守りをする事に。最初は警戒心バリバリだった二人に同類である事を教えて初めてなのはに出会った時の様に手品から警戒心を解いて一緒に遊び、クイントさんが帰ってくる頃にはお兄ちゃんと呼ばれる位に懐かれた。
「帰れない?」
「正確には今すぐには帰れないよ。航路が安定していないらしくて一ヶ月位は地球に行ける船が無いそうよ」
「それは最悪だな。それで、オレはどうなるんだ?」
「とりあえずは一緒に暮らさない?ギンガとスバルも懐いている事だし」
時刻は既に子供は夢の中の23時、保護した姉ギンガと妹スバルに抱きつかれたまま眠られてしまい身動きが取れない状況でクイントさんと話している。
「という事は二人を娘として育てるのか?」
「ええ、夫との間には子供が出来難くてね。ちょっと寂しかったのよ」
「人をペットの様に言うのはどうかと思いますよ」
「じゃあ生々しい方が良かったかしら。おませさんねぇ」
まあ9歳に聞かせる様な事じゃないのは確かだよなあ。他人の夜の性活話なんて聞きたくない。
「それより、どうする?嫌だったらメガーヌが引き取っても良いって言ってたし、このまま局の施設に居ても良いわよ」
どうするかって言われてもなあ。この二人が放してくれるとは思えないし。
「すみませんがお世話になります」
「ジョジョ兄さん、どうです?」
「ジョジョ兄、似合ってる?」
「ああ、二人ともよく似合ってるよ」
翌日、ギンガとスバルにクイントさんとその夫のゲンヤさんと一緒に服などの日用雑貨を買いに来ている。クロス・アルケミーの材料は既に空でオレの所有物はアルと『矢』だけで他は何も無い。いつかは金を返すと言ったのだが、無理しなくていいと言われ何着かの服と下着を買って貰っている。
ギンガ達の下着を買う為にオレとゲンヤさんは離れた所で世間話をする事にした。
「へぇ、ゲンヤさんって地球出身だったんですか」
「まあな。たまたま魔法の事件に関わってな。そのまま管理局に入ってこっちに来てる。ちょうど勘当された所で渡りに船だったのも理由の一つだがな。お前さんは地球に帰ったらどうするんだ」
「とりあえずは心配をかけた人たちに会うのが一番ですかね。それからは、どうしましょうかね?ぶっちゃけ、まだ子供なんでね。やりたい事とか守りたいものが見つかってないんですよね。やらなきゃいけないことはあるんですけど」
「まあそれが普通だ。お前さんは背伸びしてると言うか落ち着き過ぎだが、子供なんてのはそれで良いんだよ」
「そうなんですけどね。昔から厄介事によく巻き込まれまして。まるで物語の主人公の様にあっちこっちで厄介事に出くわすんですよ」
「そりゃあ災難だな……それからな、ついでに言うもんじゃねえとは思うし、本当なら言うつもりは無かったんだがな、お前さん、長くは生きられないみたいだ。長くても2、3年。それが技術部の出した答えだ」
「メンテナンスが出来ないのが理由ですか」
「ああ、お前さんが成長せずにそのままの姿で居られるなら問題は無いらしいが、そんなのは無理だろう。もうすぐ成長期が来る。そうなれば」
「ゲンヤさん、魔法ってなんですかね」
「いきなり何を言っているんだ?」
「人には出来ない不思議な事を行なうもの。辞書にはそう書かれています。言ってしまえば魔法なんて物は存在しない。実際、この社会の基盤になっている魔法も突き詰めれば科学技術です」
「それはそうだろうよ。だがな、オレから見れば魔法だぜ」
「そう、リンカーコアを持たない者から見れば魔法です。逆に考えれば、リンカーコアを持つ者にも出来ない不思議な事を行なえば」
それは魔法と呼べるのでは?
目だけでそう語る。
「お前」
「そうですね、とりあえず5年後位に顔を見せに来ますよ。それまでにもちょろちょろこっちに来てるかもしれません」
ちょうどそこで三人が帰ってくる。戻ってくると二人がオレの手を取ってどこかに連れて行こうとするので、それに付き合って移動する。どうやら着ぐるみが風船を配っているようだ。魔法技術が発達しているこの世界でも珍しいみたいで多くの子供が集っている。オレは別にいらなかったのだが、一人だけ持っていないのもあれなので赤色のを貰う。ギンガは薄紫でスバルは水色のを貰っている。風船を持ったままでは手を繋げないので右腕に巻き付けた所で思い出す。そこに巻いていたはずのリボンの事を。
「「どうかしたの?」」
ギンガとスバルが不思議そうに尋ねてきた。
「いや、何でも無いさ」
おそらくはスカリエッティに捨てられたのだろう。仕方ないと諦めてお詫びの物を考える。リボンが良いと思うのだが、よくプレゼントしてたしな。身につけられる物も『矢』のレプリカのペンダントにトレードマークのブレスレット渡したしな。指輪はまだ早い様な、いや、今だからこそか?う~む、どうするべきか悩むな。そういえばアリサ達にも何も言わずに別れてるんだよな。とするとアリサ達の分も用意する必要があるな。帰れるのが12月の半ばらしいからクリスマスとも合わせて少し豪華な物を贈りたいな。となるとやはり指輪だな。誕生石を中心に贈る人のイメージに合わせた装飾を施した物にしよう。なのはとアリサとすずか、フェイト達も居るのかな?一応二人の分とアルフの分も用意した方が良いか。考えがまとまった所で、ある気持ちが強くなる。
なのはに会いたい。
なんとなく気付いてはいた。オレはなのはの事が好きなんだろうな。おそらくは一目惚れ。でなければ、出会った初日に波紋を見せたり、クロス・アルケミーで士郎さんの治療をするはずがない。一緒に暮らしている内にゆっくりとその気持ちは育っていった。だから、スタンド使いと出会ってすぐに側から離れようと決心した。なのはが事件に巻き込まれたと聞いて、金に物を言わせてすぐに戻ってきて、温泉の時になのはが死にかけて本気で焦って、より明確に守りたいと思った。
それなのになのはを置いて一人死闘を繰り広げて、自分の身体の半分と引き換えにテスタロッサ一家を救い、半年近く眠っていた上に更に一ヶ月程足止めを食う羽目になるとは。今頃なのはは何をしているんだろうな?