魔法少女リリカルなのは STAND BY ME 作:ユキアン
魔法の存在を知った翌朝、なのはが寝ている隙に士郎さんに魔法の存在とジュエルシードのこと、そしてそれになのはが巻き込まれていることを説明する。
「そうか。なのはにそんなことが。じゃあ、ジョジョ君が帰ってきたのは」
「はい。最初はスタンド以外の何かがこの街に現れたことだけでしたが、もしもの時の為にこちらに戻ってみれば、既になのはがこの事件に巻き込まれていました」
「なるほど。だけど心配はしていないよ。君が着いていてくれるんだろう」
「もちろんです。それに裏の人間に依頼もしています。遅くとも来月中には解決させるつもりです」
「そうか。なら僕からは一つだけ。二人とも怪我だけには気をつけてね」
「はい」
「そうそう話は変わるんだけどジョジョ君、今度温泉旅行に行くから」
「温泉旅行ですか」
「今度のゴールデンウィークにね。ジョジョ君も一緒に来るだろう」
「そうですね。もちろん参加させてもらいます」
その日の昼間に運び屋が翠屋に顔を出した。
「おや、こんな所にいたのですか」
「ああ、運び屋か。ここはオレがお世話になっている人たちの店でな。基本はここにいる」
「そうですか。とりあえず、ケーキを幾つか持ち帰りで頼めますか?」
「種類は?」
「お任せしますよ」
「了解だ。少し待っていてくれ」
厨房に入って持ち帰り用の箱に人気のある順に5個と、別の箱に名物であるシュークリームを同じく5個詰めて持っていく。
「お待たせ。こっちは普通のケーキで、こっちは翠屋名物のシュークリームが入っている」
「確かに。いくらになります?」
「全部で2470円だ」
「おや、ずいぶんお安いんですね」
出された1万円を受け取り、おつりを渡す。
「シュークリームの方を原価ギリギリで売っているからな」
「ジョジョ君、お客さ、Dr.ジャッカル!?」
「おやおや、神速の守り屋高町士郎ではありませんか。懐かしい、お体の方は大丈夫なので?」
知り合いだったのか?そういえば士郎さんに関しては表の事しか調べていなかったな。
「普通に暮らす分はね。ジョジョ君、まさか依頼した裏の人間とは」
「彼と、もう一組です」
「確かにDr.ジャッカルならこの件でも大丈夫だと思うが」
「ふふふ、貴方にそう言って貰えるとは光栄ですね。おっと、そろそろ戻らなければ」
「ああ、そうだ。追加情報が入った。どうやらあの謎の生物は例の宝石を取り込んだ動物だ。昨日、一匹発見して体内から摘出されたから間違いない」
「では」
「好きなだけ狩ると良い。それと宝石は全部で21個存在するようだ。その内5個は既に回収済みだ」
「分かりました。それでは私はこれで」
運び屋を見送ってから携帯で奪還屋にも同じ情報を送りつけておく。
時は流れてゴールデンウィーク。
あれから運び屋が2個、奪還屋が1個のジュエルシードを回収したと報告があった。どれもが動物の体内から回収されている。基本的に取り込んだ動物は巨大化し凶暴化するだけでなく魔法の様な物を使用するらしいが、彼らにとっては雑魚でしかないようだ。
それはさておき、現在オレ達は車に揺られて海鳴市の外れにある温泉宿にたどり着いた。季節外れということもあり、混んでいるという程ではないがそれなりに入っているようだ。
とりあえず荷物を運び込んでから最初に温泉に入るそうなのでユーノを掴んで士郎さんと恭也さんと一緒に男湯に向かう。最初に頭を洗い、身体を洗ってから湯船につかる。タオルはもちろん頭の上で湯船には付けない。マナーはキチンと守ろうな。
「……ジョジョ君、一体それは?」
恭也さんがオレの方を見ながら、そう言ってきて気付いた。オレを中心に湯の上に通常では有り得ない波紋が描かれているからだ。
「おっとしまった」
波紋の呼吸を止めて波紋を消す。幸い、オレ達の他には誰も人はいなかったので問題は無いはずだ。
「まあ、なんと言いますか、気の様な物が漏れ出ていただけですよ。別に害はありませんから」
「その歳で気まで扱えるのか!?」
「そこまでの物じゃないですよ。現に恭也さんも一瞬だけ使ったことがあるでしょう」
「何?そんなことは、まさかあの時の」
「波紋、オレ達はそう呼んでいます。見ての通り水面に特徴的な波紋を描くことからそう呼ばれています」
今度は桶に湯を掬い、指先に波紋を集中させて浸ける。先程の様に有り得ない波紋が桶の中に広がり、それをそのまま持ち上げてみせる。驚いている二人の前まで固めた湯を滑らせる。
「そして強力な波紋は奇跡を起こしてみせる。波紋とは波動であり、太陽と同じ波動、すなわち太陽と同質で同量のエネルギーを引き出せる。これが吸血鬼退治に欠かせない武術です」
この説明は恭也さんと士郎さんに説明している様に見せかけて、実際は離れた所の桶にいるユーノに対しての説明である。波紋にできることなら魔法の方が簡単にできてしまう。スタンドについてはあまり説明する気は無い。オレの中では未だにユーノを信用は出来ても信頼は出来ない。なのはもユーノに教えてしまう可能性があるので話していない。
「恭也さんの膝も完治させようと思えば完治させれますよ。また無茶をしたみたいですし、個人的にはとっとと忍さんと結婚して落ち着いて欲しい所ですけど」
さっき気付いたばかりなのだが、微妙に重心をずらして歩いているのを見てしまった。
「一度鍛え直した方が良いんじゃないですか恭也さん」
「子供のくせに生意気を言うんじゃない」
「いやいや、ジョジョ君の強さは恭也を上回るよ。純粋な力では勝てないかも知れないけど、技術も経験も意地汚さも恭也を上回っているよ。もしかしたら僕も負けるかも知れない」
「なっ!?」
驚いている恭也さんの顔に向かって軽くジャブを放ってみる。いきなりの事で反応出来なかったのか顔面に当るか当らないかの距離になるまで完全に動けていなかった。
「ほらほら、そんなんじゃ忍さんを守れませんよ。裏の世界にはこれ以上の速度を出すのはごろごろいますから。それでも神速の守り屋の息子なんですか?油断していたなんて言い訳はしないですよね。恭也さん」
拳を戻……すとみせかけて今度はタオルを桶に浸けて、濡らしてから鞭として振るう。またもや反応出来ずに前髪を濡らす結果に終わる。
「これで分かったでしょう。恭也さんには決定的に力が足りない。何時か自分の力の無さに嘆く日が来ちゃいますよ。いや、もう一度来ています。偶々ジョセフさんがいたおかげで助かったに過ぎない」
あの日のことを思い出したのか苦い顔をする恭也さん。
「良かったら、波紋をお教えしましょうか?見ての通り、身体強化に治癒力向上、他にも色々と出来る様になりますけど」
「…………いや、遠慮させてもらう。オレには御神の剣がある」
悩んだ末にはっきりとだが拒絶する。それでこそ士郎さんの息子だな。
「そうですか。ですが、膝の治療だけは受けてもらいますよ。それが原因で伸び悩んでいるんですから」
クロス・アルケミーに針を錬成させて、それに波紋を込めてから恭也さんの膝のツボに差し込む。
「そのまま5分程動かさないで下さいよ。数日に分けて体全体を調整しますから。ハッキリ言うと身体の使い方が下手過ぎて、ダメージが大き過ぎます。士郎さんに一から基礎作りをしてもらって下さい。技なんかよりも先に基礎です。基礎さえあれば技は実践で開花します。そう、命の危機がある実戦を1、2度くぐり抜ければ恭也さんは士郎さんに追い付けるでしょう」
「実戦をくぐり抜けたのか?」
「大きなのだけでも3回、小さい物でも少しも油断出来ない物ばかりでしたけど幾らか、よく命があった物ですよ」
カーズにディオ、そしてディアボロ。ディアボロとはほぼ相打ちだったし、ディオにしても承太郎に能力を覚醒してもらう為に時間を稼いだりしただけ。カーズだけはなんとか究極生命体になられる前に仕留めることが出来た位で左足を吹き飛ばされた。他にダービー兄弟のアトゥム神とオシリス神はヤバかった。両方に負けてしまって原作通りに承太郎が勝利したことで何とかなったが。ちなみに兄とはハイorロー、弟とはゴルフゲームをして負けた。
「それが君が海鳴市から離れた理由か」
「はい。どの戦いも誰かを守りながらでは勝てない物ばかりでした。身体が成長しないことにはこれ以上強くなることも出来ませんし、こればかりは時に任せるしかできません。悔しいですが、離れることでなのは達を危険に曝さなくて済むなら遠くから見守ります。力を着けるその日まで」
「恭也、これが以前まで恭也に足りなかった物だ。今は忍ちゃんのおかげで手に入ったみたいだけど、ジョジョ君程ではない。守りたい者の為なら躊躇い無く行動する。恭也は目の前にまで危機が迫らないとできないけど、ジョジョ君は可能性の時点で行動に移る。そして守るということの本質を理解している。それが恭也とジョジョ君の決定的な差だよ」
士郎さんが恭也さんに色々と話をしている間、オレは一人物思いにふける。何時も肝心な時に守れずにいたオレは臆病になっているだけだ。周りにはオレがジョジョだから、ヒーローだからと言い訳をして、本当は怖いだけなのだ。目の前でまた守れずに死んでいく人を見るのが。それを今世で実感したのは両親が死んだ時だ。あの時は、訳が分からず、石仮面の吸血鬼がやったことだと聞いたときはオレが原因だと思い自分に対する怒りから殲滅に移った。その後も、色々と情報屋を使って調べているのもオレが原因でこの世界に変な物が有るのではないかという恐怖から逃げる為だ。
怖い、一人で戦い続けるのが。
怖い、一人で生きるのが。
怖い、また目の前で守りたい誰かが死ぬのが。
怖い、怖い、怖い、怖い
温泉から上がり一人で近くの森を歩く。周囲に人の気配が無くなった所で恐怖に震える心と身体を落ち着かせる。
「心配してくれるのか、お前達」
いつの間にか森に住む動物達がオレの傍によってきていた。動物達の純粋な優しさに触れ、一応の落ち着きを取り戻す。そのまま動物と共にぼうっとしていると急に人の気配が現れた。おそらくはフェイトだろう。こちらに近づいてきているが、オレは特に反応すること無く力を抜く。
「こんにちは、フェイト」
「こんにちは、ジョジョ」
「こんな所にまでジュエルシード探しか?」
「母さんがそれを望むから」
先日とは違いはっきりと母親の命令でジュエルシードを集めていると言った。やはりフェイトもなのはと同じで頑固なのだろう。どこまでも似ている二人に苦笑しながらオレが見せれるだけの手札を差し出す。
「フェイト、今度会うまでに一度フェイトのお母さんに聞いてみてくれないか。オレは魔法とは違う特別な力を持っている。その力なら貴方の願いを叶えられるかも知れないと」
「魔法とは違う力?」
「魔法が進みすぎた科学なら、オレの持つ力『スタンド』はオカルトに進んだ力だ。基礎部分以外は使用者によって千差万別、その中でもオレのスタンドは応用性ではトップクラス。攻撃、補助、治療、あらゆることができる。それこそ世界の法則だって限定的にだが越えることは可能だ」
レクイエム化しなくても、やろうと思えば『ザ・ワールド』の時を止めた世界でも能力を使うが出来るし、死亡してすぐなら『ゴールド・エクスペリエンス』によって死を先延ばしにできたブチャラティの様に生きた屍にすることも出来る。もちろん、それ相応の対価を払わなければならないが、今は十分に対価を所有しているので問題ない。
「話すだけで良い。それに応じてもらえないのなら、せめて地球の近くでジュエルシードを使わない様にしてもらいたい。それだけでも聞いてくれるならオレが持っているジュエルシードを全て渡しても良い。それでフェイトは辛いことから解放されるんだろう?」
そう言ってオレが持つ4つのジュエルシードを取り出す。無論、中身は空だ。
「今後も回収した分を全て託す。だから、頼まれてくれないか?できればオレがフェイトのお母さんに会えるのが一番なんだが」
「……私には貴方に返せる物が無い。なのに、なのにどうして」
顔を伏せたフェイトがそう呟く。どうしてオレの周りにいる女の子はみんな自分のことを我慢するんだ?少しはアリサを見習って年相応の我が侭を言えば良いのにな。
「前にも言ったはずだ。オレはジョジョで、ジョジョはヒーローだからだ。それでも気に止むのなら、笑顔を見せてありがとうと言ってくれれば良い。それだけで、オレは満足だから」
「そんなことでいいの?」
「そんなこと、なんて言うなよ。助けた人から笑顔でありがとうと言われる。それはとてつもなく価値のある物だ。ましてやそれがフェイトみたいな可愛い女の子からなら余計にな」
「か、かわいい!?」
「ああ、フェイトは可愛いよ。だから、オレがフェイトを悲しませている原因を取り払えた時に笑顔でありがとうと言ってくれ」
赤くなるフェイトの頭を撫でてから空を見上げる。日がいくらか傾いているのでそこそこの時間が過ぎているのだろう。心配されてるだろうなぁと思いながらなのはに念話で夕飯前には戻るとだけ告げる。フェイトも一度母親の所に帰ってみるというのでそこで別れる。
大人達が晩酌をして子供組が寝ている時間、ジュエルシードの覚醒を感知する。隣で寝ているアリサとすずかを起こさない様に起き上がりながら顔をなのはの方に向ければ既に準備を整えていた。
『先に行け、すぐに追い付く』
抱きついているアリサの腕を解きながら念話で先に行く様に伝えると部屋から飛び出して行った。オレもアリサの拘束を解いた所で窓から空を走って追いかける。ぶっつけ本番だが問題なく空を蹴り、正確にはオレ自身が産み出したシューターを蹴りながらなのはを追いかける。レイジングハートが言うにはオレにも空戦適性はあるのだが、魔力量から不可能と判断された。そこでオレがこのシューターを蹴りながらの跳躍を提案した所、可能と判断され、それ専用に術式を構築し直した物を使用している。
昼間にフェイトに出会った場所から更に離れた所でなのはがジュエルシードを取り込んだ、たぶん梟だと思われるものと戦闘に入っている。ユーノは何処に行ったんだ?
それにしてもなのはの動きがぎこちなさ過ぎるな。やはり訓練も受けていない普通の女の子なら仕方ないが、まずい!?なのはが梟に捕まって、捕食に移る気か。
「させるか!!」
クロス・アルケミーに投槍を錬成させて波紋で強化する。
「銀色の波紋疾走(メタルシルバー・オーバードライブ)」
シューターの上では踏ん張れないので、それをクロス・アルケミーに投げさせる。投槍は梟を貫通してどこかに飛んで行く。おそらく心臓を貫いたのか、力なく落ちて行く梟を放置してなのはを抱きかかえて地上に降りる。
「なのは、大丈夫か?」
オレの腕の中で未だに目を瞑り、震えるなのはを落ち着かせる様に背中や頭を撫で続ける。少しずつだが落ち着いてきたのか震えが収まってくる。
「じょ、じょ……君?」
「そうだ。もう大丈夫だ」
オレの顔を確認すると同時に勢いよく抱きついてきた。
「こ、怖かったの、魔法は当らないし、ユーノ君は食べられちゃったし、捕まって、それで」
「大丈夫だ。アレはオレがなんとかしたから、ユーノも生きている……はず」
『生きてるから。丸呑みにされただけで生きてるから』
『一人でなんとか出来そうか?』
『大丈夫だよ。転移魔法が有るから』
『なら、ジュエルシードを確保して温泉にでも入って来い。オレはなのはを落ち着かせてから戻る。ユーノ、分かっているな。これはお前が原因でもあるんだぞ』
『……分かってる。これは僕の罪だ』
『安易に答えを出すことなど許さん。悩み続けることが貴様の罰となるだろう』
『うん』
ジュエルシードを摘出された梟が小さくなるのを確認して、放置する。今はなのはの方が重要だからな。
「なのは、この前も言ったけど本当に危ないことなんだ。今回はオレが間に合ったから良かったけど、オレもいつまでこっちにいられるか分からない。もし、オレがいない時に今の状況に陥ったら」
びくっと身体が跳ねるなのはをキツく抱きしめる。
「だから、オレは魔法から手を退いて欲しいと思う。なのははどうしたい?」
「怖かった。でも、でもジョジョ君はこの世界にいるんだよね」
「ああ、もうすぐ師匠から独り立ちする時期が近づいてもいる。そうなればオレは一人でこういう事件に身を投じることになる」
「どうして、どうして戦えるの?」
「昔、アリサ達に初めて会った日にも言ったと思うけどな、オレの代わりに誰かが泣いてくれる。例え誰にも知られなくても身を案じてくれる人が居る。それが分かっていればオレは戦える。怖いけどな」
それからしばらくして、なんとか落ち着いたなのはを背負って旅館へと戻る。
「結構汚れてるな。部屋に戻る前に温泉に入った方が良さそうだな」
明かりの下で見ると予想以上に汚れが目立つ。浴衣の方はクロス・アルケミーに分解させたので問題は無いが、さすがに髪とかに同じことは出来ないことも無いが面倒なので素直に温泉に入った方が良い。このまま戻れば何があったのか問いつめられ、今のなのはにはそれに耐えられる状態ではない。男湯と女湯の前まで来た所でなのはを降ろそうとしたのだが、なのはが手を放してくれない。
「なのは、降りてくれないか」
そう言っても首を横に振るだけで余計に力を込めてしがみついてくる。
「この時間なら露天の方は混浴になっている。先に行って待っていてやる」
今度は背中から降りてくれる。それでも何処か寂しそうに、捨てられた子犬の様な目でオレの事を見てくる。
「大丈夫だ。怖い物はここにはいない」
「うん」
なのはと別れて男湯に向かう。浴衣を脱いで備え付けられているタオルを腰に巻いて露天風呂に向かう。汚れを軽く洗い流してから湯船に浸かる。しばらくすると女湯の方の扉付近になのはの気配を感じる。
『反対方向を見ているから』
念話でなのはにそう伝えて男湯の方に顔を向けておく。扉が開く音がしてなのはが入ってくる。掛け湯をしてから湯船に入ってくる。傍にやってきたなのはを何も言わずに迎え入れる。
「……」
「……」
無言のまま時が流れる。意を決したのかなのはが何か言おうとする。
「あの「昔、ある所に一人の男がいた」
それを言う前にオレが昔話をする。昔話、そうオレの最初の人生の話だ。
「男は平凡な家庭に生まれた極々普通の男だった。普通に学校に通い、普通に友達と遊び、普通に家族と過ごし、とある事件に巻き込まれて人生が一変する」
もう殆ど覚えていない最初の人生での記憶の中で、一番衝撃的な記憶。
目の前には燃える空港とギリギリ動ける程の重傷を負った自分。ゲームの中にしか存在しないと思っていたB.O.Wの群れとそれと交戦する特殊部隊。近くに転がっている両親の亡骸を踏みつける装甲騎兵。
そこには死が充満していた。そこから先の記憶は殆ど同じだ。オレはあの場から生き残り、その才を認められ特殊部隊に入って、ただただ戦い続けるだけの人生だった。そして、そこに恐怖は無かった。なぜなら
「男は自分の命以外の全てを、走馬灯を見るまで記憶すら無くしてしまった。そして生きることに意味を見いだせずにただ生きるだけの、生ける屍となり生涯を閉じた」
最後はどんな死に方をしたっけ?ああ、思い出した。恐慌状態に陥った味方の流れ弾だ。
「人として生きるには、何よりも思いが必要だ。何も思わずに生きるのは本当に生きていると言えるのか?」
「……」
「そして思いの中で最も大きな物、それは恐怖。本能に刻まれた生きている証拠だ。それと巧く付き合うのが長生きの秘訣だ。なのは、答えを出すのは今じゃなくてもいいんだ。少なくとも今は立ち止まって考える時だ。大丈夫だ、なのははオレが守る。だから少し休め」
「……いいの?」
「ああ、少し位我が侭だって言ってくれれば良い。家族だろう、オレ達」
「うん」
「ほら、頭を洗ってやるよ」
少しはふっきれたなのはを見て安心する。デバイスの名と同じく彼女にも不屈の心が有る。遠くないうちになのは答えを出すだろう。そしていつかはオレが見守らなくても一人で歩いて行ける。寂しいと言うかなんと言うか、胸の奥にもやもやっとする物が芽生えるが勘違いだろう……たぶん。