今頃になって問題児が一人異世界から来るそうですよ?   作:神園龍一郎

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9話

白夜叉からギフトカードを貰い、さらにこの箱庭のことや、コミュニティのことなど、この世界で生きていくために必要なことを色々と聞き、二人は店を出た。

そとはすっかり暗くなっており、とりあえず二人は白夜叉がとってくれたという宿に足を進めた。

だが、その足取りは店に来る時とは違い少し重く感じられた。

「…………」

「…………」

二人の間には気まずい空気が流れている。

それもそのはず、ついさっき主従の関係が発覚したばかり。

天月にとってはもちろん奴隷など初めてだし、そもそも何故このような見た目幼女の女の子を自分の奴隷にしなくてはならないのだ。

だがどうしても男であるため奴隷という言葉に下心が出てしまうのは仕方のないことなのだろう。

しかし、この微妙な空気の中、意外にも先に声をあげたのは炎神だった。

「ね、ねぇ…」

「お、おう、どうした」

突然声をかけられ慌ててしまう。

炎神も緊張しているのか声が震えていた。

「白夜叉様が言ってた通り、あたしは貴方の奴隷なわけだけど…」

「そ、そうだな」

「やっぱり奴隷が主人のことを貴方って呼ぶのは駄目…かな?」

炎神の潤んだ瞳が上目遣いでこちらを見上げてくる。

不覚にも幼女相手に一瞬ドキッとしてしまった。

「い、いや…駄目じゃないぞ」

「ほんとに?」

「ああ」

炎神の視線に耐えられず高速で顔を反対に向ける。

一瞬首から変な音がなったのは気のせいだろう。

「じゃあ、なんて呼べばいいかな?」

再び炎神が殺人級の上目遣いで聞いてくる。

たぶん、ここで炎神と目を合わせると吐血しそうなので反対を向いたまま、

「別にどう呼んだって構わない」

と、なぜかぶっきらぼうに返事をしてしまった。

しかし、そんな返事をしたのに、炎神はなぜか嬉しそうに

「ほんとに?!」

「あ、ああ」

さっきまで緊張していたのが嘘だったかのように炎神は喜んでいた。

なぜ嬉しそうにするのか天月には理解できなかったが、炎神が喜んでいるのだから良しとした。

「じゃあ零って呼んでいい?」

天月が息をのむ。

今まで親を除いて下の名を呼ばれたことがなかった天月にとって、他人に下の名を呼ばれたのは初めての経験だった。

その経験はどこか照れ臭くて、だけどとても嬉しかった。

自然と天月の顔は笑顔になっていた。

「ああ、いいぞ」

だから、自分の名を呼んでくれた炎神に笑顔で返事をした。

「やったぁ!」

炎神は子供がはしゃぐように嬉しそうに飛び上がる。

その姿を天月は微笑ましく思った。

「あ、じゃあついでに炎神も名前で呼ぶよ。そういえば炎神の名前は?」

お互いを名で呼ぶことで信頼を深めようと思い、天月は炎神に聞いた。

「一応名前は親指姫って言うんだけど…でもこれは名前というよりも、周りにそう呼ばれてるだけで。ちゃんとした名前はないの…」

さっきまで嬉しそうにしていた炎神は少しおちこみぎみになった。

「そうなのか…。悪い、ちょっと無神経だった」

落ち込ませたことを正直に謝罪する。

「いいの、仕方ないことだから…」

さらに炎神は落ち込む。

再び気まずい空気が二人を包む。

「じゃ、じゃあ俺が名前を考えてやるよ!」

気まずい空気を変えようと何も考えずに頭に浮かんだことを発言してしまった。

正直、失敗したと天月は思った。

今日あったばかりの他人に名前を付けられて喜ぶ人などいない。

だが、そんな予想に反して炎神は逆の反応を見せた。

さっきと同様に…いや、それ以上に嬉しそうに俯きかけていた顔を上げて天月を見上げる。

「ほんとに?!」

「お、おう。まかせとけ」

目をきらきらさせこっちを見てくる炎神の期待に応えようと必死に頭を回らせる。

やがて、一つの名前が頭に浮かんだ。

「火凛…てのはどうだ?」

炎神の火にかけて思いついた名前だ。

「火凛……火凛……」

炎神は何度かその名前を呟くと、

「ありがと零!この名前大事にするね!」

最高の笑顔でこちらを向いた。

天月はまたその笑顔にドキッとしてしまい、そっけなく顔をそらして、

「おう、どういたしまして」

と、照れ臭そうに頬をかいた。

「火凛かぁ…いいなぁ…」

炎神は天月に名付けられた名前を何度も呟きながら、呟くたびに嬉しそうに笑っていた。

「それとさ、火凛」

「なに?」

あのとき炎神が奴隷だとわかり街を走り回って考えたことを口にする。

「火凛とは主従の関係なんかじゃなくて、仲間として俺と一緒に来てくれないか?」

天月が炎神に手を差し出す。

「え?」

唐突に天月から主人と奴隷の関係を無くそうと提案されて驚く。

それだけでなく炎神の事を仲間として一緒に来て欲しいと言ってくれた。

そのことがとても嬉しくて、いつの間にか炎神の目には涙が流れていた。

今まで孤独にガルガボロ火山で暮らしていた炎神にとってはどうしようもなく嬉しかった。

「おいおい、泣くこともないだろ」

「だって…だって…」

その涙は拭っても拭っても拭いきれないほど流れてくる。

「それで、どうなんだ火凛」

自分の主人が返事を待っている。

いや、主人ではなく、もうすぐ仲間となる存在がその手を取ってくれるのを待ってくている。

それに応えようと泣きながらも手を取ろうと手を伸ばしたその時だった。

 

 

「おうおう、お取込み中申し訳ねえがぁ、ちょいと面ぁかしてもらうきぃの」

 

 

炎神の視界から天月が消えた。




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