今頃になって問題児が一人異世界から来るそうですよ? 作:神園龍一郎
「ほらよ爺さん。あんたから頼まれた果実だ」
東の門にたどり着いた天月はまず老人に果実を渡しに来ていた。
ちなみに炎神は先に知り合い挨拶に行くらしいので既に門をくぐって中に入っていった。
「おお、ありがとうなぁ。もう一生食べられんと思ってたわい」
「へっ、いいってことよ」
「それじゃあ約束通りその靴をお主にあげよう。大事に使ってくれ」
果実を受け取った老人はヘルメスの靴を指差していった。
「おお、ありがとよ。ところで爺さん、一つ聞いてもいいか?」
「ん?なんじゃ?」
ガルガボロの火山で炎神の話を聞いた時から気になっていた疑問だ。
「あんた一体何もんだ」
さっきまでの雰囲気が嘘であったかのように突然天月の雰囲気が変わる。
声は威圧しながらも少し警戒心がある。
「ふむ…」
天月の威圧など全く気にしないように老人は自前の髭に触れながら口を開いた。
「……いずれ分かる」
老人はそう言うと門の方を向き歩き出した。
その背中に得体の知れない何かを感じ取る。
今の天月にはわからない何かが。
天月は老人が去っていった方向を見つめたまましばらく動かなかった。
「いずれ…か…」
さっき老人が言った言葉をつぶやき、とりあえず炎神が戻ってくるのを中で待つために門をくぐった。
*
門をくぐると天月の頭上に眩しい光が降り注いだ。
遠くにそびえる巨大な建造物と空覆う天幕を眺め、
「外からは箱庭の内側は見えないのに内側からは外が見えるんだな」
都市を覆う天幕を上空から見たとき、彼に箱庭の街並みはみえていなかった。
だというのに都市の空には太陽が姿を現している。
天高く積み上げられた巨大な都市を見て疑問を口にした。
「そりゃそうよ。そもそもあの巨大な天幕は太陽の光を直接受けられない種族のために設置されてるんだから」
「お、戻ってきてたのか。意外と早かったんだな」
知り合いとの挨拶を済ませたのか、炎神がすぐ近くまで歩いてきていた。
「まあ、すぐそこだからね。それじゃあついてきて」
「ん?何処か行くのか?」
突然さっき歩いてきたであろう方向に踵を返し歩き出そうとする炎神に聞く。
「こんなところで立ち止まってても仕方ないでしょ?それよりも貴方を連れて行きたいところがあるの。そのために挨拶してきたんだから」
若干不満そうに返答し、炎神は再び歩き出した。
歩いている途中″六本傷″の旗を掲げるを店がちらほらと見える。
だが天月が気になったのはその旗の上にとまっている一羽の鳥だった。
「なあ、この世界には普通の世界にいる生き物もいるのか?」
「普通の世界?」
「言い方が悪かったな。俺がもといた世界にいる生き物もこの世界にはいるのか?」
「どうかしら?貴方のいた世界がどんなところかは知らないけど、多分いるんじゃない?」
「そうか…」
「どうかしたの?」
「いや…」
旗にとまっている鳥をもう一度見上げる。
全身真っ黒の鳥。
天月がいた世界ではよく見かけるどこにでもいる鳥。
だが何故かその鳥はもとの世界にいたそれとは全く違う気配がしていた。
その真っ黒な鳥、″カラス″は天月をじっと見つめていた。
真っ黒な体とは別に眼だけは血で塗られたように真っ赤に染まっていた。
無意識に足を止めカラスを見ていた天月に、
「ほら、早く行くよ」
炎神が天月の袖を引っ張って歩くことを促した。
「ああ…」
気になるが今はそれどころではないらしい。
とりあえず先を歩く炎神の後を追った。
*
「ええのぉ、ええのぉ。ほんとにええ勘をしちょるわ」
建物と建物の間にできた狭く暗い場所にゆらゆらと揺れる影。
「あんやつのギフト…なかなか手強いのぉ」
その影は新しいおもちゃを見つけた子供のように楽しそうに揺れる。
「待っとれよぉ〜。すぐにそんギフト奪っちゃるき…」
影はそのまま建物の影に沈み消えた。