二章 亡霊の見る夢   作:サメ‹。

1 / 1
第1話

 

 

[概要]

 

収容違反を鎮圧した執事は、一般フィクサーたちと合流し、次なる指示を下す。

しかし、「夢見る亡霊」の影響が完全に消えたわけではなく、霧の残滓が施設内に広がっていた。

執事は冷静に状況を整理しながら、フィクサーたちに適切な指示を与え、収容施設の安定化を図る。

だが、フィクサーたちの中には、“過去の幻影”に囚われかけている者もいた。

再び精神を蝕む霧が漂う中、執事は彼らを導きながら、自らも試されることになる——。

 

◆ ロボトミーコーポレーション・深部施設

 

執事が霧を斬り裂き、アブノーマリティの影を消し去ったとき、警報音が少しずつ弱まっていった。

しかし、完全に静寂が訪れたわけではない。

 

「——まだ終わりではない、ということですか」

 

執事は剣を手にしたまま、廊下の奥を見つめた。

霧は晴れたものの、その”残滓”が施設内に漂っているのがわかる。

微かに歪んだ空気が、精神の奥底をざわつかせるような感覚を残していた。

 

そこに、無線が入った。

 

『こちら処理班! 霧の影響を受けた職員の精神が不安定です!』

 

『まだ施設の一部に幻覚が残ってる可能性があります!』

 

執事は軽く息をつき、無線に応答した。

 

「各隊は現在地を報告してください」

 

『第1班、東棟通路! 職員4名の意識混濁!』

『第2班、監視室! 収容セルの一部が異常反応!』

『第3班、南棟入口! 幻覚に囚われたフィクサー1名!』

 

報告が立て続けに入る。

執事は即座に状況を整理し、指示を下した。

 

「第1班は精神安定剤を使用し、対象を鎮静してください」

「第2班は監視室のアーカイブを確認、異常が拡大しないように封鎖を」

「第3班——そのフィクサーの状態は?」

 

『……独り言を呟いています。「何度も同じことを繰り返している」と』

 

執事は微かに眉をひそめた。

 

「私が向かいます。即座に対象を拘束し、無理に刺激しないように」

 

『了解……!』

 

執事は剣を消し、霧の残る通路を歩き出した。

 

◆

 

南棟入口に到着すると、一人のフィクサーが壁にもたれかかっていた。

 

30代前後の男。顔は青ざめ、虚空を見つめている。

彼のそばには、同じくフィクサーと思われる数名が困惑した表情で立っていた。

 

「おや……」

 

執事が近づくと、男はゆっくりとこちらを向いた。

 

「……あんた、“前にもここにいた”か?」

 

男の言葉に、周囲のフィクサーたちは戸惑った表情を浮かべる。

 

「お前は、何度もここに来ている」

「何度も、何度も、同じことをしている」

 

執事は表情を変えずに彼を見つめた。

 

「——“夢見る亡霊”の影響ですね」

 

男は過去の幻覚に囚われ、時間の感覚を狂わされている。

 

執事はゆっくりと片膝をつき、男と視線を合わせた。

 

「貴方が見ているものは”現実”ですか?」

 

男はしばらく黙り込んだ後、小さく首を振った。

 

「……いや……でも……」

 

執事は手袋を直しながら、静かに告げた。

 

「ならば、それを終わらせましょう」

 

執事が手を伸ばすと、男の体が一瞬こわばった。

だが、その手は乱暴なものではなく、そっと肩に添えられた。

 

「深呼吸してください」

 

男は戸惑いながらも、言われた通りに息を吸い、吐いた。

 

霧が薄れていく。

 

そして、男の目が僅かに澄んでいくのが見えた。

 

執事は微かに頷き、立ち上がる。

 

「さて、全員、持ち場へ戻りましょう。収容違反はまだ完全に解決していません」

 

フィクサーたちは顔を見合わせた後、敬礼をして持ち場へ戻っていった。

 

執事は霧の残滓を見つめながら、そっと呟いた。

 

「……何度も繰り返している、ですか」

 

それは、あの戦場で捨てられた自分への言葉のようにも聞こえた。

 

しかし、今の彼には”役割”がある。

 

「私は執事。今は、それで十分です」

 

執事は静かに踵を返し、次なる指示を出すために歩き出した。

 

 

 

 




◆ エピローグ

「夢見る亡霊」の影響は、完全に消えたわけではない。
それは施設の隅々に染み付き、いつかまた”誰かの過去”を呼び覚ますかもしれない。

だが、執事は知っている。

過去がどれほど重くても——

それを乗り越えた”今”こそが、自分を形作るものなのだと。

彼は、次の指示を下すために歩み続ける。

それが、“執事”としての彼の生き方なのだから。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。