二章 亡霊の見る夢   作:サメ‹。

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第1話

 

 

[概要]

 

収容違反を鎮圧した執事は、一般フィクサーたちと合流し、次なる指示を下す。

しかし、「夢見る亡霊」の影響が完全に消えたわけではなく、霧の残滓が施設内に広がっていた。

執事は冷静に状況を整理しながら、フィクサーたちに適切な指示を与え、収容施設の安定化を図る。

だが、フィクサーたちの中には、“過去の幻影”に囚われかけている者もいた。

再び精神を蝕む霧が漂う中、執事は彼らを導きながら、自らも試されることになる——。

 

◆ ロボトミーコーポレーション・深部施設

 

執事が霧を斬り裂き、アブノーマリティの影を消し去ったとき、警報音が少しずつ弱まっていった。

しかし、完全に静寂が訪れたわけではない。

 

「——まだ終わりではない、ということですか」

 

執事は剣を手にしたまま、廊下の奥を見つめた。

霧は晴れたものの、その”残滓”が施設内に漂っているのがわかる。

微かに歪んだ空気が、精神の奥底をざわつかせるような感覚を残していた。

 

そこに、無線が入った。

 

『こちら処理班! 霧の影響を受けた職員の精神が不安定です!』

 

『まだ施設の一部に幻覚が残ってる可能性があります!』

 

執事は軽く息をつき、無線に応答した。

 

「各隊は現在地を報告してください」

 

『第1班、東棟通路! 職員4名の意識混濁!』

『第2班、監視室! 収容セルの一部が異常反応!』

『第3班、南棟入口! 幻覚に囚われたフィクサー1名!』

 

報告が立て続けに入る。

執事は即座に状況を整理し、指示を下した。

 

「第1班は精神安定剤を使用し、対象を鎮静してください」

「第2班は監視室のアーカイブを確認、異常が拡大しないように封鎖を」

「第3班——そのフィクサーの状態は?」

 

『……独り言を呟いています。「何度も同じことを繰り返している」と』

 

執事は微かに眉をひそめた。

 

「私が向かいます。即座に対象を拘束し、無理に刺激しないように」

 

『了解……!』

 

執事は剣を消し、霧の残る通路を歩き出した。

 

 

南棟入口に到着すると、一人のフィクサーが壁にもたれかかっていた。

 

30代前後の男。顔は青ざめ、虚空を見つめている。

彼のそばには、同じくフィクサーと思われる数名が困惑した表情で立っていた。

 

「おや……」

 

執事が近づくと、男はゆっくりとこちらを向いた。

 

「……あんた、“前にもここにいた”か?」

 

男の言葉に、周囲のフィクサーたちは戸惑った表情を浮かべる。

 

「お前は、何度もここに来ている」

「何度も、何度も、同じことをしている」

 

執事は表情を変えずに彼を見つめた。

 

「——“夢見る亡霊”の影響ですね」

 

男は過去の幻覚に囚われ、時間の感覚を狂わされている。

 

執事はゆっくりと片膝をつき、男と視線を合わせた。

 

「貴方が見ているものは”現実”ですか?」

 

男はしばらく黙り込んだ後、小さく首を振った。

 

「……いや……でも……」

 

執事は手袋を直しながら、静かに告げた。

 

「ならば、それを終わらせましょう」

 

執事が手を伸ばすと、男の体が一瞬こわばった。

だが、その手は乱暴なものではなく、そっと肩に添えられた。

 

「深呼吸してください」

 

男は戸惑いながらも、言われた通りに息を吸い、吐いた。

 

霧が薄れていく。

 

そして、男の目が僅かに澄んでいくのが見えた。

 

執事は微かに頷き、立ち上がる。

 

「さて、全員、持ち場へ戻りましょう。収容違反はまだ完全に解決していません」

 

フィクサーたちは顔を見合わせた後、敬礼をして持ち場へ戻っていった。

 

執事は霧の残滓を見つめながら、そっと呟いた。

 

「……何度も繰り返している、ですか」

 

それは、あの戦場で捨てられた自分への言葉のようにも聞こえた。

 

しかし、今の彼には”役割”がある。

 

「私は執事。今は、それで十分です」

 

執事は静かに踵を返し、次なる指示を出すために歩き出した。

 

 

 

 




◆ エピローグ

「夢見る亡霊」の影響は、完全に消えたわけではない。
それは施設の隅々に染み付き、いつかまた”誰かの過去”を呼び覚ますかもしれない。

だが、執事は知っている。

過去がどれほど重くても——

それを乗り越えた”今”こそが、自分を形作るものなのだと。

彼は、次の指示を下すために歩み続ける。

それが、“執事”としての彼の生き方なのだから。
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