[概要]
収容違反を鎮圧した執事は、一般フィクサーたちと合流し、次なる指示を下す。
しかし、「夢見る亡霊」の影響が完全に消えたわけではなく、霧の残滓が施設内に広がっていた。
執事は冷静に状況を整理しながら、フィクサーたちに適切な指示を与え、収容施設の安定化を図る。
だが、フィクサーたちの中には、“過去の幻影”に囚われかけている者もいた。
再び精神を蝕む霧が漂う中、執事は彼らを導きながら、自らも試されることになる——。
◆ ロボトミーコーポレーション・深部施設
執事が霧を斬り裂き、アブノーマリティの影を消し去ったとき、警報音が少しずつ弱まっていった。
しかし、完全に静寂が訪れたわけではない。
「——まだ終わりではない、ということですか」
執事は剣を手にしたまま、廊下の奥を見つめた。
霧は晴れたものの、その”残滓”が施設内に漂っているのがわかる。
微かに歪んだ空気が、精神の奥底をざわつかせるような感覚を残していた。
そこに、無線が入った。
『こちら処理班! 霧の影響を受けた職員の精神が不安定です!』
『まだ施設の一部に幻覚が残ってる可能性があります!』
執事は軽く息をつき、無線に応答した。
「各隊は現在地を報告してください」
『第1班、東棟通路! 職員4名の意識混濁!』
『第2班、監視室! 収容セルの一部が異常反応!』
『第3班、南棟入口! 幻覚に囚われたフィクサー1名!』
報告が立て続けに入る。
執事は即座に状況を整理し、指示を下した。
「第1班は精神安定剤を使用し、対象を鎮静してください」
「第2班は監視室のアーカイブを確認、異常が拡大しないように封鎖を」
「第3班——そのフィクサーの状態は?」
『……独り言を呟いています。「何度も同じことを繰り返している」と』
執事は微かに眉をひそめた。
「私が向かいます。即座に対象を拘束し、無理に刺激しないように」
『了解……!』
執事は剣を消し、霧の残る通路を歩き出した。
◆
南棟入口に到着すると、一人のフィクサーが壁にもたれかかっていた。
30代前後の男。顔は青ざめ、虚空を見つめている。
彼のそばには、同じくフィクサーと思われる数名が困惑した表情で立っていた。
「おや……」
執事が近づくと、男はゆっくりとこちらを向いた。
「……あんた、“前にもここにいた”か?」
男の言葉に、周囲のフィクサーたちは戸惑った表情を浮かべる。
「お前は、何度もここに来ている」
「何度も、何度も、同じことをしている」
執事は表情を変えずに彼を見つめた。
「——“夢見る亡霊”の影響ですね」
男は過去の幻覚に囚われ、時間の感覚を狂わされている。
執事はゆっくりと片膝をつき、男と視線を合わせた。
「貴方が見ているものは”現実”ですか?」
男はしばらく黙り込んだ後、小さく首を振った。
「……いや……でも……」
執事は手袋を直しながら、静かに告げた。
「ならば、それを終わらせましょう」
執事が手を伸ばすと、男の体が一瞬こわばった。
だが、その手は乱暴なものではなく、そっと肩に添えられた。
「深呼吸してください」
男は戸惑いながらも、言われた通りに息を吸い、吐いた。
霧が薄れていく。
そして、男の目が僅かに澄んでいくのが見えた。
執事は微かに頷き、立ち上がる。
「さて、全員、持ち場へ戻りましょう。収容違反はまだ完全に解決していません」
フィクサーたちは顔を見合わせた後、敬礼をして持ち場へ戻っていった。
執事は霧の残滓を見つめながら、そっと呟いた。
「……何度も繰り返している、ですか」
それは、あの戦場で捨てられた自分への言葉のようにも聞こえた。
しかし、今の彼には”役割”がある。
「私は執事。今は、それで十分です」
執事は静かに踵を返し、次なる指示を出すために歩き出した。
◆ エピローグ
「夢見る亡霊」の影響は、完全に消えたわけではない。
それは施設の隅々に染み付き、いつかまた”誰かの過去”を呼び覚ますかもしれない。
だが、執事は知っている。
過去がどれほど重くても——
それを乗り越えた”今”こそが、自分を形作るものなのだと。
彼は、次の指示を下すために歩み続ける。
それが、“執事”としての彼の生き方なのだから。