石堂シュウ「私が…初星学園のプロデューサー…?」 作:のーば
──初星学園 プロデューサー室
「では、早速。今後の方針について話していきましょうか」
清夏さんが秘密を打ち明けてから、数日後。早速、その「秘密」を考慮した今後のプロデュースプランについて清夏さんに報告することにした。
「まず、現状最も重要なのはメンタルの問題です。他の技術面はレッスンの積み重ねで向上できますが、ここについてはどうしようもない」
「だね。それで、Pっちの案は?」
「慌てないでください、清夏さん。今回、私が持ってきた案はこちらです」
清夏さんへ印刷したドキュメントを提示する。
「メンタル面については、暫定でカウンセリングの時間を設けることにしました。既に、来週初回が行えるように手配済みです」
「え、もう手配してるの!?」
「ええ。信頼できるところに依頼したところ、すぐOKをいただけました」
依頼したのは、防衛隊御用達のカウンセリングセンターだ。防衛隊では、自分のように一時的に精神面で業務をこなせなくなった隊員向けの福利厚生として、相談窓口が設けられている。そのカウンセリングセンターでお世話になった方に直接相談してみたところ、快諾してもらえたのだ。
「うわー……Pっち、そこまで用意周到だとちょっとヒくかも」
「……まあ、否定はしません」
確かに、自分でもここまですんなり話が進むと思っていなかった。
「話を戻しましょう。ダンスレッスンについては、少し減らすことも検討しましたが、通常通り行うものとします。ですが、トレーナーの方々と相談しまして、もし「ダメだ」と思ったらすぐに中断できるようにしようかと」
今回の件は、解決のためにまず教員たちの協力が必須となる。既にトレーナーの方々には、清夏さんのトラウマについて共有し、いくつか助言をいただいている。
「中断してくれるのは、そりゃありがたいけど…その時はどうするの?」
「そこが肝です。それこそ、レッスン前から「今日はちょっと」と思うこともあるでしょう」
「う、うん」
「なので、辛くなったら以前通り、休んでしまって大丈夫です。穴を埋めるためのレッスンもしない、休養日として扱います」
「いいんだ?」
「はい、いいです。気分転換に出かけるのもいつでも付き合いますよ」
「え、Pっちがめっちゃ乗り気なのもちょっとコワ……ううん、あたしのためにやってくれるんだ?」
「以前何度か断ってしまっていたのは申し訳ないと思っていますよ」
彼女がレッスンをサボる口実である「気分転換」。実は、何度か断っている。
理由は至ってシンプル。怪獣災害が発生する前で、個人調査の時間が長かった時期だからだ。自分1人で調査しなければならない時期に、清夏さんを連れていては満足な結果が得られない上、いつ自分の正体がバレるかわからないリスクがあった。
だが、今は自分1人の案件ではなくなり、街の実情を見ながらでも充分にこなせるだろうと判断した結果である。何より、彼女のSOSに気付けない自分の罪滅ぼしという面もあるのだが。
「ふーん……わかった、これに従うよ」
「ありがとうございます。このプランを実行するのは来週からになりますので、今週はゆっくり、充電期間だと思って休んでいただければ」
「そんなに心配しないでよ。とりあえず、頑張ってレッスン出てみるから」
「……ご無理はしないように。一応、補足ですが」
「?」
「この件はトレーナーさんをはじめ、学園職員の皆さんには共有しています。ですが、お友達など、生徒には伝えていません」
「……ありがと。じゃあ、また来週ね!」
そう言って清夏さんはプロデューサー室を後にした。
清夏さんはこの件をずっと他人に打ち明けられなかった。だが、いつか打ち明けなければならない日が来るだろう。
それを、自分から明かしてしまうのは違うと感じた。秘密とは、嘘ではなく優しさとも言える……こともある、はずだ。
抱えきれない秘密をずっと抱えたままでい続けるのは危険だが、乗り越えようともがいている今の清夏さんのことは……自分から伝えたいだろう。きっと。
そうできるように、サポートを続ける。それが今の自分にできることだ。
「……とはいえ、心配だ」
信じてくれるのはありがたいが、清夏さんに無茶をさせてしまえば本末転倒だ。それに、心配事は他にもあるのだが……
「おっと、電話ですか」
ジャケットの内ポケットに入れていた携帯が振動する。取り出してみると、公衆電話からの発信だが、誰からの連絡だろうか。
ただでさえ、自分の電話は滅多に着信することはない。私用の電話ですら、普段から清夏さんや亜沙里先生でもなければまず電話に出ない。しかし。『こちらの番号』を知っているのは、間違いなく知り合いだ。
「はい、石堂です」
『僕です、ユウマです!』
「ああ、ユウマくんでしたか」
『実は、携帯の充電が切れてしまって…公衆電話から』
「ああ、なるほど。珍しいですね」
『まさに、それが連絡した理由なんです。実は……調査のために街中を散策していたら、急に携帯の充電がなくなって』
「……異常な電力消費、ということでしょうか」
『はい、特定のエリアでだけ、電子機器の消費電力が異常に早まってしまうみたいで。それで、携帯だけじゃなくて予備のバッテリーも』
「……わかりました、私のバッテリーを貸しましょう。すぐに向かいます、駅前で合流ということで」
『お願いします!』
電気の吸収……ということだろうか。
咄嗟に思い当たるのは、ネロンガだが。もし怪獣災害であれば可及的速やかに解決する必要が出てくる。
早急に準備を済ませ、私は市街地へと繰り出した。
──天川駅
「シュウさん!」
「ユウマくん、お待たせしました。こちら、私の予備のバッテリーです」
「あ、ありがとうございます!」
「それで、状況は」
「駅前で少し聞き込みをしたんですが、いくつか停電騒ぎがあるようで……状況から見るに、ネロンガやネズドロンのような電気を餌にする案件の可能性は高いです」
「やはりですか……」
自分が推定したネロンガであれば、ある程度エネルギーを貯蓄した後にいなくなる場合も考えられる。念の為防衛隊にも待機するよう連絡済みだ。過去実績から考慮すれば、さほど驚異になるとは考えにくいが……
「でも、少し気掛かりなことが」
「気掛かり?」
「もしネロンガのような電気を欲する怪獣なら、送電所や発電所であったり、大量に電気がある場所を優先して狙うはずです。ですが、僕がさっきまでいたのは団地のある住宅街、それに山岳部に近いですし……」
「あのエリアにそれほど電力が集中するようなものはない……確かに、不自然ですね。それに、携帯とバッテリーなんて微弱な電気まで食らうとは」
餌がないから……とするのは早計か。迅速な調査を進めなければならないのは間違いない。もしネロンガだとしても、餌となるものがないのであれば、餌を求めて都心部へ侵攻する可能性も充分考えられる。
「急ぎ防衛隊を派遣しましょう。ユウマくんはそちらと連携して、調査を続けてください」
「わかりました、連絡はどうしましょう?」
「確かに、電力を食われてしまえば連絡手段がまた消える……面倒ですが、またエリア外から公衆電話でやり取りしましょうか」
「そうするしかない、ですよねぇ……」
電化製品が使えない以上、仕方ない。連絡手段は限られるが……と、思った瞬間だった。
「「!?」」
強い地響きが鳴る。もしや……!
「シュウさん、今の……!」
「ええ、行きましょう!」