石堂シュウ「私が…初星学園のプロデューサー…?」 作:のーば
──初星学園 プロデューサー室
「し、失礼します……」
翌日。早速リーリヤさんに声をかけ、プロデューサー室へと来てもらった。清夏さんに声をかけてもらう形でも良かったが、折角なら少し話してみたいこともあったので、自分から声をかけた。
その結果、今目の前のリーリヤさんはどこか怯えているようだ。話の中身を説明しなかった自分も悪いのだが。
「どうぞ、適当におかけください」
着席を促すと、目の前のパイプ椅子にちょこんと座る。以前清夏さんがリーリヤさんは小動物みたいだ、と言っていたことがあったが、たしかに今の彼女の様子はそれに近い。
「えっと、それで……何の用でしょう……?」
「まああまり身構えず。こちら、コーヒーです」
まずは緊張を解くべく、コーヒーを渡す。昨日の今日だが、今の手持ちで最も良質なものを選んできたコーヒーである。
「わ、ありがとうございます……コーヒー、お好きなんですね」
「……何故そう思いました?」
「えっ……?それは、コーヒーマシンがありますし……多分、豆から挽くタイプですよね」
「……思った以上ですね。実は、もしかするとそれなりに詳しいのではないかと思ってはいたんです。母国でも嗜んでらっしゃったのでは?と」
「そこまで詳しくはないですけど……両親はすごく好きで。その影響です」
リーリヤさんはにかんだように笑う。よし、コーヒーは効果てきめんだ!
「素晴らしい……ではなかった、すみません。お呼びした理由ですよね」
「あっ、そうでした。清夏ちゃんに何かあったとかですか……?」
「いえ、実は清夏さんから『リーリヤさんの様子がおかしい』と伺いまして」
「えっ……あっ、それは……」
まさか自分のことを指摘されるとは思っていなかったのか、リーリヤさんは少し俯きながらたじろぐ。
「それで、なにか力になれることはないかと思いまして……」
「力に、ですか……」
「全部聞きづてなので確かなことは私も知らないんですが……先日の怪獣災害以降、どこか浮かない様子だと聞いています。クラスメイトともトラブルになりかけたとか」
「それは……そう、ですね」
「清夏さんもとても心配していましたよ。差し出がましいのは重々承知していますが、清夏さんからも頼まれまして」
「……なるほど」
……少し警戒されているな。やはり、いきなり声をかけて『力になるぞ!』と言うのは良くなかったか……?
「……ここだけの話に、してくれますか?」
「勿論、清夏さんに話は共有しませんよ」
「……確かに、ここ最近、あの……怪獣の件があってから、色々考えちゃって。集中できてないんです」
「あの日、確かリーリヤさんは学園内にいなかったんですよね?」
「はい、ショッピングモールで買い物をしてて。帰り道で……」
「無理に思い出さなくて大丈夫ですよ。その時のことがまだ尾を引いている……という感じでしょうか」
「そうと言えば、そうかも……?」
……少し引っかかるな。どうやらトラウマというわけでもなさそうだ。
「あの……信じてもらえないと思うんですけど、実は……目の前で怪獣が現れて、そのまま気絶しちゃったんです。でも、気がついたら学園の前で……」
ふむ。ユウマくんの報告通りだ。やはりアークが助けたのはリーリヤさんで間違いないようだ。だとしたら、その違和感を引きずっているのか。
「私はその時、駅前で防衛隊の指示に従って避難していましたが……確か、アークは現れたと同時に何かを初星学園に運んだように見えました。今のリーリヤさんの話を聞くと……アークに助けてもらったのはリーリヤさんなのかもしれませんね」
「信じてもらえますか!?」
リーリヤさんは咄嗟に立ち上がって自分を見つめる。そこがネックだったか……
「自分でも信じられないんです。だって、怪獣の足元にいたはずなのに、目が覚めたら学園の前で、いた場所を見たらアークが戦ってるんですよ!」
怪獣関連でトラウマになってないか……と予想していたが、真逆だ。これは、星元市にやってきた時の自分の昂りを客観視しているようで、少し気恥ずかしい。
「……なるほど。確かに刺激的な体験ですし、信じてもらえなそうで悶々と過ごす気持ちは理解できました」
「その事ばかり考えちゃって……月村さんにも迷惑かけちゃって」
「話は清夏さんから聞いてましたが、もし自分なら確かにちょっと申し訳がない気持ちになりますね」
「なので、いつまでもそれを引きずってたらいけないな、って思ってるところなんです」
あくまで推測だが、リーリヤさんはアークに助けてもらったことで、とびきりの非日常を経験してしまった。それが後を引き、ここ数日集中できていなかった。
ならば、トラブルの件で少し正気に戻ったのかもしれない。自分が関与するまでもなかったかもしれないが……折角だ。”本来の仕事"に関することを聞いてみよう。
「なるほど。にしても、羨ましいですね。あのウルトラマンアークに助けてもらえるだなんて。実は私、アークが戦っている時期に星元市に住んでたんです。」
「……星元市って、アークが怪獣とずっと戦ってた町ですよね?」
「その通り。アークの活躍は何度も見てきていましたし、星元市の人たちはみんなアークが大好きなんです。なので、羨ましいなあと」
実際は自分もアークに助けてもらった回数は数知れない。子どもじみた優越感をひけらかす意味もないのだが、その点はシンパシーを感じている。
「(そ、そう言われるとなんだか誇らしいような……?)」
「でも、その時気絶してしまってたんですよね……それは残念です」
「は、はぁ……?」
「いやあ、アークに助けてもらうなんて滅多にありませんよ。なにか覚えてることがあれば知りたいなと思ったんですが」
「うーん……何か覚えてること、ですか……」
リーリヤさんは考え込んでいる。まあ、話を聞く限りでは何も覚えていないとは思うが……
「……怪獣が出てきてから、すぐ気を失っちゃったと思います。怪獣が出てくるとき、気づいたら目の前にいて……」
ネロンガは透明になれる怪獣だった。確かに、気づいたら現れていたと表現するのは正しい。だが、一つ気になっていたこともある。
「アレは確か、ネロンガと言うんでしたかね。自分もかじった程度ですが、透明になることができるんだとか」
「あと、直前に、いきなり携帯の電源が落ちて、そしたら怪獣が……でもこれは、アークは関係ないですね」
概ね、ユウマくんの調査結果と一致している。むしろ、知りたいのは『そっち』だ。
「私の友人も、避難の際に同じようなことを言ってました。やはり、怪獣はよくわからない能力を持ってるみたいですね」
「お友達も?」
「ええ、あの日、本当はその友人と落ち合う予定だったんです。結果避難所で仲良く避難してましたが」
「へぇ……あ、怪獣についてだと、もう少し気づいたことが」
「?」
「この間のは、山から出てきたって感じでしたけど、今回のは本当にいきなり出てきたって感じというか……うまく説明できないんですけど、もしかしたら気のせいかもしれません」
……リーリヤさんでもそう思ったか。ならば、読みは当たっているかも知れない。
「確かに、透明になれるのだとしても、兆候みたいなものは少し前からあってもいいですね……それは、違和感といっていいでしょう」
「それくらい、ですね……」
「ともかく、無事なら何よりです。あまり気負わず、なにか不安なことがあれば私も協力しますので、気軽に声をかけてくださいね」
「はい、気を遣わせちゃって、すみません」
「いえいえ。また、コーヒーの話もしたいですね」
いきなり現れたような気がする。これは、自分がここ数日調査していて行き当たったものだ。
ネロンガがどこからやって来たのか。調査を進めた結果、『わからない』ということがわかったのだ。
つまり、あのネロンガはいきなりどこかから『現れた』ことになる。推測だったので、他の可能性も考慮していたのだが……今のリーリヤさんの話で、確信が持てた。
ネロンガは、天川付近ではないどこかから、何かを求めてここへ『突然』やってきた。そして、アークのエネルギーを狙っていた。
それはつまり、何らかの存在がアークを狙っていて、ネロンガはその刺客として送り込まれてきた可能性があることを意味している。
あまり考えたくもないことだが、地球侵略を企むのはもちろん、アークを狙う宇宙人もいることを、ユウマくんから聞いている。今回の案件はその可能性が高いと自分は睨んでいる。
もし宇宙人の仕業ならば、その怪獣を間近で見てしまったリーリヤさんの身に危害が及ぶ可能性もある。
監視というわけではないが、清夏さんとしばらくレッスンを同じにしてもらうなどをして様子を見てみたほうがいいかもしれない、が……それは清夏さんがイエスと言わないだろう。彼女はメンタル面の弱みをリーリヤさんに見せたくなくて、あのおちゃらけたキャラクターを演じているフシがある。
何かしらの手段で、リーリヤさんを守る手段があればいいのだが。