石堂シュウ「私が…初星学園のプロデューサー…?」 作:のーば
──初星学園 理事長室
「……ということで、葛城リーリヤさんを保護対象としたいのですが」
翌日。早速、リーリヤさんの監視……保護のための提案をしに、理事長室へと赴いた。
「うむう……まさか、生徒が狙われる可能性があるとは思わんかったわい。保護は率先してもらいたいんじゃが、どうする予定かね?」
「彼女はつい先日、怪獣災害のなかでも特に強烈に巻き込まれています。下手に精神面を刺激してはいけないので、彼女にはそのまま日常を過ごしてもらって構いません。ですが、しばらく監視をつけます」
「それが、隣の青年ということじゃな?」
隣りにいるのはユウマくん。思いつきを提案したら、二つ返事で快諾してくれた。
「その通りです。紹介します、飛世ユウマ君です」
「飛世ユウマです。よろしくお願いします」
「彼は宇宙科学局の人間ではありませんが、傘下にあたる怪獣防災科学調査所……SKIPの人間です。我々よりも怪獣の生態にも詳しいので、私のツテで協力していただくことに」
「ふうむ。石堂君の推薦なら、大歓迎じゃな。よろしく頼むぞい、飛世君」
「よろしくお願いします」
意外にもすんなりと、ユウマくんの協力が決まった。
──初星学園 プロデューサー室
「驚きましたよ。まさかアイドルのプロデューサーだなんて」
移動がてら、ユウマくんにこれまでの経緯を説明した。初星学園に潜入していたことは既に伝えていたが、まさかその影響でアイドルの生徒をプロデュースしているとは思ってもなかったようで、驚かれた。以前、ヒロシさんに思春期の女の子との接し方について相談したことがあったが、その時もユウマくんは不在。気づきようもなかったか。
「今まで黙っていてすみません。ですが、立場が立場でしたから……」
「いえいえ!ちょっと驚きましたけど、なんというか……様になってると思いますよ」
「そうですか。なかなか客観視できてなかったんですが、ユウマくんにそう言ってもらえて安心です」
「それで、例の助けた子を監視するってことでしたけど……具体的にどうします?」
「ユウマくんは定期的に出入りを許可されている調査員、という体で進めようかと」
「僕のほうが調査員なんですね」
「ええ。ユウマくんになら、安心して任せられそうです」
ユウマくんは自分のほぼすべてを理解してくれている(と信じている)。自分から細かい指示をしなくても、ある程度動いてもらえるだろう。
「ですが、学園内であまりコミュニケーションは取らないようにしましょう。私の勝手な都合になってしまいますが」
「……シュウさんのほうがバレないように、ですね」
察してもらえてありがたい。
「その通りです。手間になってしまいますが、基本的に共有は外でお願いします」
「わかりました!」
内容は後ほどチャット類で共有するが、基本的には日常的に立ち入りながら、避難所としての機能検査と学園内に危険が及ばないように調査をする……という普段の自分がやっていることを、ユウマくんがやっているという体裁で、所謂影武者をお願いすることになる。二度手間になってしまうのだが、既に自分がプロデューサーという役割を担ってしまっているので、自然にやるにはそうするしかない。
連絡事項をまとめながら、今日の授業が終わるのを待つ。今度はプロデューサーとして動く時間だ。
──数時間後
「Pっち、お疲れ〜」
「お疲れ様です、清夏さん」
「昨日、リーリヤとどうだった?」
「そこまで心配することはありませんでした。非現実的な体験に困惑していただけだと」
「今日は普通にしてたし、話せてスッキリしたのかも。ありがとね、Pっち」
「なら、良かったです。清夏さんの方はどうですか?」
「お、聞きたい?」
清夏さんはどこか上機嫌だ。なにかいいことがあったのかも知れない。
「実はね〜……今日はダンス、5分以上続けられたんだ〜♪」
「おお、それは!いい傾向ですね」
件のペアレッスンでトレーナーの感触が良かったことを受けて、実は少し長めにできるようにチャレンジを促していたのだ。この調子なら少しくらいは……と思っていたが、かなりいい傾向だ。
「どう?ちょっと嬉しいっしょ?」
「ええ。人づてで聞いていますが、カウンセリングも続けてくれているようで、少しホッとしてます」
「ちょっとずつでも効果出てきてるんだな〜って。助かってるよ」
「何よりです。それなら、試験も期待できそうですね」
「げ〜……嫌なこと思い出せないでよ」
試験まではあと2週間半。それまで、何もなければいいのだが……いや、あったとしてもなんとか清夏さんを"アイドル"にしてみせる。
「……不安ですか」
「そりゃそうでしょ〜。今日も『表情がまだまだ』って言われちゃったし」
「確かに、今はダンスへの精神的負担がある。それがそのまま表情にも現れているのは、私もレッスンを見ていて思います」
アイドルにとっては、表情は重要な要素であり、『武器』になる。今はメンタル面との戦いがメインなのだから、そこが疎かになるのは仕方がないが……。
しかし、試験を勝ち抜くならばそれは避けようのない評価ポイント。ダンスパフォーマンスで魅せる方向に特化してもいいが、彼女が目指すのがダンサーではなくアイドルである以上は、ある程度は表情も魅せられるものが求められるだろう。
「清夏さんは、どんなアイドルが理想ですか?」
「うーん……やっぱり、あたしを見てくれたみんなが楽しんでくれるようなライブができること、かなあ」
「とてもストレートでいいですね。シンプルで魅力的だ」
「……そうだね」
清夏さんは少し照れくさそうだ。何、照れることなどない。気持ちはシンプルな方がよく伝わるものだ。
「そのなりたいものがしているであろう表情を作りにいくのはおすすめですよ」
「取り繕うってこと?」
「悪く言えばそうなりますが、要は『理想の自分を演じる』んです」
「演じる……」
「清夏さんはここまで、あなたの痛みや心の傷を隠し、明るい自分を演じてきましたね」
「……よく言えば、そうだね」
「それと似ているかもしれません」
「同じってこと?」
「同じではありませんよ。違うところは、『傷を隠すため』ではなく『そうありたい』ために演じる、という点です。これは大きく違う」
「そうありたい……うん、それは、そうかも」
腑に落ちてくれたようだ。
現に、清夏さんは今も自分の傷を隠すために明るい自分のペルソナを作り上げている。これは別に全てが嘘なわけではなく、昔からそういった明るい面はあったのだろう。
しかし、それが同時に『普段の自分』で重大な嘘を隠す手段になってしまうことが、精神の負担をより強めることはある。自分も身に覚えがある。
「本当の傷は隠しながら、理想の自分を追求する。難しい言い方をしていますが、なりたい自分をイメージして表情作りをしてみよう、というだけですね」
「あんまりイメージできてる気はしないけど……」
「トレーナーさんにも話しておきましょう。時間があまりないですが、清夏さんならできる、と信じてます」
「信じてる、かぁ……信頼重いなぁ〜……」
「もちろん。だからこそのプロデューサーですから」
「あ〜もうすぐそうやって!そういうところがウザい!」
やることは常に山積みだが、一つ一つ、大切にこなしていければいい。
清夏さんのここまでの努力は無駄にさせたくない。自分も全力を尽くしてサポートしよう。
続く