石堂シュウ「私が…初星学園のプロデューサー…?」 作:のーば
──初星学園 プロデューサー室
「……」
なんでここに来ちゃったんだろう。咄嗟に逃げたはいいけど、寮に戻ってもリーリヤと話すのも気まずいから?そうかもしれない。
わかっていた。プロデューサーが何かを隠していたことくらい。なんなら、ずっとそれが気がかりだったんだから。
プロデューサーには話してなかったけど、紹介してもらったカウンセラーさんから、プロデューサーのことを少しだけ聞いた。インテリな割に無理をする性格で、クールとは程遠い……だっけ。そんなことを言ってた。
それはそうなんだろうなって思ってたし、それ以上ははぐらかされたから、別の仕事から何かがあってプロデューサーになったんだと、勝手に想像していた。だからそれ以上は追及しなかった。
でも、それが防衛隊だなんて。しかも、あたしのプロデュースをしながら、ずっと裏で戦っていたなんて。
防衛隊の仕事なんて、過酷に決まってる。自分の想像なんて優に超えるようなことだってたくさん経験してきたはずだ。それに、調査のためにプロデューサー科にいたってことは、あたしのプロデュースは何のために……ああ、考えがまとまらない。
ふとプロデューサーの机に目をやると、一冊の手帳が見えた。
「これ……日誌?」
プロデューサーの持ち物なのは間違いない。真新しいが、かなり書き込まれている。
興味本位で手帳を開くと、どうやら日誌のようなものらしい。
「……」
手帳にはあたしのプロデュースに関することがびっしりと書かれていた。どのページにも、予定と所感で埋め尽くされている。直近だけではなく、試験に向けての対策とスケジュールはもちろん、それで不合格だった場合のことまで書いてあった。
……一瞬考えたことは、やっぱりありえないんだって理解できた。咲季っちの言う通りだ。いくら隠していることがあったとしても、プロデューサーは本気で自分のことを考えてくれている。でも、そのあたしのせいであんな怪我を……
「ああ、もう!どうすればいいの…!?」
自分でもわからない。この感情の答えも行き先もわからない。本当の意味で心がぐちゃぐちゃになっている。
頭を抱えていると、プロデューサー室の戸が開く。
「……Pっち!?」
「探しましたよ、清夏さん」
「まさか、追いかけてきたの!?」
「当然でしょう。話はまだ、終わってませんから」
「ッ……何で、そこまであたしに……」
「言ったでしょう、貴方の味方だからですよ」
「そういうことじゃなくて……!」
「……正直に言いましょう。私は最初、あまり深く考えていませんでした。確かに調査員である以上、いつかはこのプロデュース関係にも終わりが来る。それは考えないようにしていました。だから、その時に裏切ってしまうことは確実だった。でもそれには知らないフリをしていた。なぜなら、全部衝動的だったんです」
「衝動的?」
「ええ。初日に貴方と出会って、どこか放っておけないと感じたときから、ずっと。気づけば生徒名簿から貴方のことを調べて、スカウトしていたんですよ」
「……へ?」
「それだけ強い気持ちがあったのは、なぜか……色々考えましたが、やはり」
「ちょ、ちょっとストップ!」
いきなり何なの!?何の告白を始めてんの!?
「……とにかく、隠していてすみませんでした」
「はぁ……いいよ、あたしもあえて聞いてなかったんだもん」
むしろ謝るのは自分のほうだ。こんなに振り回して……怪我も癒えてないはずなのに。
「隠していたのは、立場の都合もありますが……巻き込まないようにするためでした。隠し事の話をしていたのに、すみません」
「……それくらいわかるよ。むしろ、謝るべきなのはこっちでしょ…?Pっちが謝ることじゃ」
「いえ、清夏さんに不義理を働いていたのは事実です。ですから、まずは謝罪をさせてください」
プロデューサー……石堂さんは深く頭を下げる。この人、もしかして結構不器用なのかな……?
とにかく、考えてた通りの人間性なのは間違いない。そこが安心できるし、それが伝わってるから、一人で考えていたのが少し馬鹿馬鹿しくなってくる。
「……信じて、いいんだよね」
「勿論です。これまでの清夏さんへのプロデュースに、嘘はありません」
……ズルいなあ。こういう事は、即答なんだ。
「……じゃあ、全部説明して。今、何が起こってるの?」
「ええ、全て説明します。ですが、そうなった以上は……」
「わかってる、もう普通じゃないことに巻き込まれてるんだし、今更だよ」
「……私も、覚悟が甘かったかもしれませんね」
きっと、プロデューサーもあたしを巻き込みたくなくて。でも、実際リーリヤは2回も巻き込まれて、あたしまで巻き込まれたことは、相当堪えてると思う。だからって、ここまで巻き込まれたのに綺麗さっぱり忘れてこれまで通りなんていくもんか。
プロデューサー……Pっちには、あたしに前を向かせた責任を取ってもらうんだから!
目が覚めた頃には全てが手遅れだった。そういう経験は誰しもあるかもしれない。まさに今回の自分がそうだ。
清夏さんたちを巻き込んでしまっただけでなく、敵も取り逃した。挙句、アークの力を奪われている。最悪な状況だ。
……改めて、清夏さんには申し訳ないことをした。あれだけ隠し事を吐露させておいて、自分は正体を明かすこともしてこなかったことは、弁解の余地はない。
事情を全て話した時の清夏さんの表情が脳裏に焼き付いている。と言っても、悪い意味ではない。ただただ真剣に、自分のことを知ろうとしている表情だった。そんなに真剣な表情を見たのは初めてだった。
しかし、これでもう清夏さんは無関係とは言えない。明日の篠澤さんとの作戦会議にも参加してもらうことになる。尤も、それはリーリヤさんも同じだ。
リーリヤさんに事情を話したのはユウマくんだそうで、後で話を聞いたところ「巻き込んだ以上説明しないわけにはいかない」と、最低限ユウマくんの立場と、自分がそれに類する仕事を引き受けている人間である程度しか共有していなかったようで……余計な情報まで与えてしまったかもしれない。
だが、今回の場合それで良かったのかもしれない。何かあったときに動くべきなのは自分かユウマくんで、そこに連絡すればいいのだとわかっている方が、リーリヤさんも安心できるだろう。清夏さんも当然同様だ。
なんにせよ、まずは作戦を立てなければ。痛みに悶えている場合ではない。