石堂シュウ「私が…初星学園のプロデューサー…?」 作:のーば
──初星学園 アイドル科棟 廊下
翌日。早速清夏さんに声をかけるべく、行動を開始。
昨日のように外にいると探しようがないため、学園内にいる確率が高い昼休みに探すことにした。流石に、学園内には居ると思うが……
「ねえねえ、あの人ってもしかして……」
「絶対そうだよね……!」
そこかしこから囁き声のようなものが聞こえる。聞き漏れる会話から、私のことで噂話をしているようだ。
どうやら、担当の決まっていないプロデューサー科の人間が廊下を出歩いているだけでもかなり話題になるらしい。それが1年生の校舎にいるのだから、何かと噂されても不思議ではない。
「清夏さんの教室は確か……1組でしたね」
あまり長居をしても、調査の時間を食ってしまう。早々に用事を済ませるべく、1年1組へと向かう。
教室に到着し、廊下窓から様子を伺ってみたが、清夏さんの姿はない。またサボタージュだったら、探すのは困難だが……
「……あの」
どうするか考えていると、背後から声をかけられた。
「おや、話しかけた頂いたのは私でしょうか?」
振り返ると、そこにはレッスン着の白髪の少女が佇んでいた。1組の生徒だろうか。何処かで見たような……
「はい……えっと、もしかしてプロデューサー科の方ですか?」
「はい、そうですが……何かありましたか?」
「いえ、その……もしかして、清夏ちゃんを探したりしてませんか?」
……一瞬、思考が止まった。なぜ、プロデューサー科という情報から清夏さんの名前が?
「清夏ちゃんとは、紫雲清夏さん?」
「そ、そうです!……急にそんな事言うの変ですよね」
「いえ、そんな滅相もない。もしよければ、お名前を伺っても?」
「私、葛城リーリヤっていいます。清夏ちゃんとは友達で」
葛城リーリヤさん。思い出した。昨日、名簿で名前を見た覚えがある。あの時は清夏さんを探していたのであまり気に留めていなかったが、清夏さんのクラスメイトで間違いない。
「リーリヤさん。そうでしたか、清夏さんのお友達……なぜ、私が清夏さんを探していると?」
「昨日、清夏ちゃんがプロデューサー科の人と初めて会ったって話してて……見かけてもしかして、と思ったんです」
「そうでしたか。ということは、清夏さんがどこにいるかご存知なんですね?」
「多分、この時間なら屋上にいると思います。もしいなかったら、中庭かも……」
「具体的にありがとうございます、リーリヤさん」
「あの、これは全然答えなくて大丈夫なんですけど……清夏ちゃんのこと、プロデュースするんですか?」
「いえ、まだ決まってはいません。ですが……」
「……?」
「どこか放っておけない、そんな気がしまして」
「……………た」
リーリヤさんは小声で何かを呟いた。
「どうかしましたか?」
「い、いえ!何でもありません。それじゃあ、失礼しました!」
リーリヤさんは軽く会釈をすると、そのまま立ち去ってしまった。
清夏さんとは友達と言っていたし、昨日の今日で私のことを知っていたほどだ、かなり仲が良いのだろう。何か思うところがあるのかもしれない。
しかし、まずは清夏さんだ。無事に会えるといいのだが……
──初星学園 アイドル科棟 屋上
「……」
いた。清夏さんだ。
清夏さんは、儚げな表情で特別教室棟を眺めている。
「こんなところで何をしているんです?」
あくまで、自然に。たまたま出くわしたような態度を装い、清夏さんに話しかける。
「……あれ、Pっちじゃん。また会ったね」
「はい、またお会いしましたね……今、なんと?」
変な名前で呼ばれた気がするが……気のせいだろうか。
「プロデューサー科だから、Pっち。どう?結構イケてるっしょ?」
「そ、そうですか……」
「それで?Pっちはなんでこんなとこに?あ、もしかしてお目当てのアイドル探しとか?」
「……まあ、そんなところです」
あなたに会おうと探していました、なんて言おうものなら気を悪くしてしまいかねない。あくまで嘘はつかず、本題については自分から切り出そう。
「それならさ、お薦めの子がいるんだよね」
「お薦め、ですか?」
「同じクラスの子なんだけど……あ、ほら!ちょうど今そこでランニングしてる」
清夏さんが指を差した先には、つい先程見た姿があった。リーリヤさんだ。
「友達なんだ。一緒に入学したの」
やはり、二人は仲の良い友人同士らしい。私とユウマくん…と言うと卑近な言い方になるが、それだけ絆は固いもののはずだ。
グラウンドを走るリーリヤさんの姿はどこか鬼気迫るものがあり、ただのランニングとは思えない気迫だ。あのペースで続けていたら、倒れてしまうのではないか、と直感的にも思う。
「あの子はね、葛城リーリヤって言うんだ。ちょっと頑張りすぎちゃうし、気弱なとこもあるんだけど……すごいやつなんだ」
「……そこまで言うとは、大切なお友達なんですね」
「うん……絶対、アイドル向いてると思う」
「一つ、聞きたいことがあります」
この言葉を聞いて、私の中でずっと引っかかっていたものの正体が掴めた気がする。
「あなた自身は、どうなんですか?」
「……え?」
「初星学園はアイドル養成校でしょう。ここに入った以上、あなたもアイドルになるために初星学園に入ったのでは?」
「……」
清夏さんはそんなことを言われることを予想していなかったのか、少し言い淀む。
「昨日話した時にも感じたのですが……あなたはただ無断欠席をしているわけではないと思います。何か、授業やレッスンに出たくない事情があるのでは?」
「……そんなんじゃないよ」
清夏さんは露骨にバツの悪そうな顔をする。いきなり踏み込みすぎたか……不用心だった。
「あたしは見ての通り、やる気のないサボり魔だよー」
……やはり、嘘をついている。確信はあるが、それをハッキリと追求するのは果たして清夏さんのためになるだろうか。
答えは否だ。人には触れてほしくない記憶や感情がひとつやふたつは必ず存在する。その痛みを不必要に刺激する必要はない。私自身が何よりそうだ。
「では、なぜ初星に入学を?ここの試験は相当難しかったはずです」
「そこはほら、約束したんだよね。あの子と一緒に、ここに入学するって」
あの子……リーリヤさんのことだろう。
「だから、ちょっとだけ頑張ったの。てゆーかまぁ、マグレ的な?」
「……そうでしたか」
「てか、随分あたしに構ってるけどさ、目当ての子いるんでしょ?いいの〜?あたしなんかに構ってて」
「ええ。それは問題ありませんよ」
まだ少し躊躇いがあったが、彼女の"本心"が別のところにあり、それが前を向くことができないのなら。
私がやるべきことは、いつまでも探り合いをすることではない。
「なぜなら目当てはあなたですからね、紫雲清夏さん」
「………………へ?」
「清夏さん。あなたをプロデュースさせてください」
難しく考えることはやめ、私は勢いで本題をそのまま言葉にした。
「あ、あたしを!?なんで!?」
「昨日初めて会った時から、どうもあなたのことが頭から離れないからです」
「えー……それはちょっとキ……いや、でもそれだけでそんなことにはならないでしょ。だってこんなおちゃらけててやる気もないのに」
「いいえ。私には、あなたの心の火は消えていないように見えています。その火を絶やしたくない──いや、より強く燃え上がらせてみませんか」
「……別にいーけど。すぐに失望すると思うよ」
「まさか。じゃなければプロデュースなんて言い出しません」
「めっちゃ情熱的じゃん……わかったわかった。とりあえず、お試しってことならいいよ」
「受けていただけるんですね」
「そこまで言われたら断れないって!まー、やめたくなったらいつでもいいからね〜♪ 」
こうして、私はアイドルのプロデュースを始めることとなった。
……長い調査生活になりそうだ。
このストーリーを考えるにあたって清夏さんのコミュを読み漁っているのですが、初期の清夏さんがかなり壁を作っていて微笑ましくなっています。