石堂シュウ「私が…初星学園のプロデューサー…?」   作:のーば

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第3話「私はコーヒー派です」

──初星学園 シュウのプロデューサー室

 

 清夏さんのプロデュースが決まってから、既に数日。これまで多数の多忙案件を抱えてきた自負のある私・石堂シュウにとっても、恐ろしく激動の数日間だった。

 アイドル科の生徒は、プロデューサー科の生徒と『プロデュース契約』を行うことができる。契約が成立すると、専用教室の付与、一部授業の免除、レッスン室の貸与優遇、奨学金制度の支給条件緩和等々……多くのアイドル科生徒が羨望するであろう破格の特典がつく特別な制度なのだ。現に私が今座っているデスクも、その特典として与えられている専用教室のデスクである。

 だがこの制度は、適用のために必要な申請および手続きが非常に多い。

「まさか所見レポートの提出まで求められるとは……」

 特に苦戦したのが、担当予定アイドルへの所感をレポート用紙にまとめる、というものだ。亜紗里先生に相談したところ、多くのプロデューサーは事前調査資料をベースにするそうだが……私の場合は昨日の今日でスカウトに至ったため、頭を抱えた。結果、過去のプロデューサー科の生徒の者を参考に書き上げ提出した。

 今は諸々の手続きが終わり、次回からは手続きに関わる事前の用意は余念なくすべき、という当然の反省をしているところだ。

 本来の職務である天川市の調査も並行する上、その件は関係者以外に漏らせない(特に、清夏さんには)ため、二足の草鞋の弊害が早速出てきている。

 しかし、ここ数日、手続きのために初星学園を彼方此方駆け回ったが、この学園の生徒はとにかく様々な個性を持っているようだ。

 どう考えても授業中の時間にベンチで居眠りをしていたり、調理室で何やら健康ドリンクを作っていると思ったらドリンクが発光し始めたり、ランニングを始めたと思ったら3歩で倒れて保健室に運ばれたり……もしかすると私は、とんでもない場所で活動をしているのかもしれない。

「おーい、Pっち?」

 考え事をしていると、背後から清夏さんが声をかけてくる。元々清夏さんを待っていたのだ。

「……ああ、清夏さん。すみません、考え事を」

「ここ数日忙しそうだったもんね〜。ほら、コーヒー買ってきたよ」

 清夏さんにも気を遣われてしまうとは……いや、清夏さんの立場からすれば、自分のためにあれこれと忙しそうにしているのだ。気を遣うのも仕方ないかもしれない。

「すみません、ありがとうございます……そういえば、清夏さんはコーヒー派ですか?」

 私はコーヒーが好きだ。仕事のスイッチにも、リフレッシュにもコーヒーが欠かせない。この教室にも、星元市の時のようにコーヒーマシンの導入を検討中だ。

「あれ、もしかしてPっちってコーヒー派じゃない?」

「いえ、私は断ッ然コーヒー派です」

「あはは、実はあたしもー!」

「本当ですか!」

「意外と気が合うじゃ〜ん、Pっち〜」

 清夏さんもコーヒーが好き!これは嬉しい話だ!ここにコーヒーマシンを導入するのはほぼ決まった。

 ……まずい。コーヒーのこととなるとつい我を忘れてしまう。清夏さんを担当する上で大切なことをしなければいけないのだった。

「……いけない、本題を忘れるところでした。清夏さん、早速ですが、まずはあなたの実力を見せてもらえませんか」

「へ?」

「担当する上で、あなたの今のアイドルとしての実力を知っておきたいんです。レッスン室は押さえていますし、早速行きましょう」

「えっ、ちょ……Pっち、強引だってば〜!」

 

──初星学園 レッスン室

 

「音源については、定期試験の課題曲でもある「初」を選びましたが……まずは歌を見たいです。歌えますか?」

「いやいや、だからちょっと待ってって!」

 レッスン室にやってきた直後、実力チェックに必要な音源の確認を取ろうとしただけなのだが……なにかいけなかっただろうか。

「あたしまだ何も言ってないんだけど!?」

「ええ、なので直接音楽で語っていただこうかと」

「……Pっちってもしかして結構分からず屋?」

「そうでしょうか……もしかして、嫌でしたか?」

「嫌じゃ、ないけどさ……ま〜しょうがないか、Pっちには特別ね?」

 何かを諦めたような表情の清夏さんは、レッスン着へと着替えてくる。そういえば、レッスンもよくサボタージュをしていたと聞いている。それにしては、レッスン着が真新しくないような……

「何ぼーっとしてんのPっち、ほら、見てて」

 深呼吸と同時に、清夏さんが歌い始める。

 

♪一つの夢 叶うまで負けない 行くよ

 

 清夏さんは歌い終えると、少し呼吸を整える。

「……ど?」

 素人目なので滅多なことは言えたものではないが、下手ではない。寧ろ、歌い慣れているような気もするが、プロデュースにあたり参考にした資料等を確認する限りでは、大舞台で活躍するアイドルと比較したらまだまだ、といったところか。

「やっぱあたしなんて、アイドルに向いてないっしょ?だから、いつでもやめて」

「いえ、ありがとうございます。早速、プランを組み立てましょう」

「……ちょっとー、まだ喋ってる途中なんだけどー?」

「歌については慣れていますね。少し不安定な部分もありますが、これは日々のレッスン以外にも何か?」

「んー……友達とかとよくカラオケは行くけど。それくらい?」

 なるほど、カラオケ。私はあまり利用しないが、声出しや歌の練習にはもってこいだ。

「では、ボーカルレッスンは少なめでも問題ないかもしれませんね。それに……」

 メモ帳に今の歌を聞いた所感をまとめていく。やはり、やる気はないと言いつつも基礎はしっかりとしている。高いモチベーションを持って入学したはず、だ……

「こんなところでしょうか」

「……あのさPっち」

「はい?」

「……ううん、なんでもない。ごめん、今日はここまででいい?」

「はい、明日から他の部分も含めて本格的に始めましょう。もちろん、無理に来いとは言いません」

 すぐにサボタージュを辞めるとは思えない。そこについては気長に、じっくり進めていく予定だ。

「はいはい。それじゃねー♪」

 清夏さんは手早くレッスン室を後にしてしまった。本当なら、ダンスパフォーマンスなどを確認したかったのだが……本人があの調子では仕方がない。無理にさせても効果がないと判断した。

 それにしても、清夏さんのあの「やる気のなさそうな態度」は深刻だ。なにせ、どう見てもやる気がないようには見えない。彼女の心と歌は、間違いなくアイドルを志すに相応しいオーラを纏っていた……と、思う。

 問題があるのは心の面か……?なんにせよ、あまり時間はかけられない。少しでも何か、彼女の力になれればいいのだが……

 おっと、いけない。せっかく自由な時間ができたのだから、調査に出向かなければ。

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