ハイスクールD×D 終焉に抗う暁の太陽   作:ドラゴン大好きT

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というわけで1巻の終わりです。


第10話 すべてを終えて

 

 

部長は大丈夫だとおっしゃっていたけれど、それでも俺は一誠たちが心配だった。

一誠も神器を宿しているが、レイナーレを打ち負かすほどの力を発揮できるかはわからない。神器を奪われたアーシアだって心配だ。

 

俺たちが階段を登りきって、聖堂に足を踏み入れた途端、凄まじい破砕音が聞こえてきた。

教会のステンドグラスが粉々に砕け散り、堕天使レイナーレが教会の外にふっ飛んでいった。

 

両足の太ももに大きな穴を空けて、大量に血を流しながらもその男は立っている。

 

とても無事とは言えない状態だし、涙を流し続けているが、一誠もレイナーレに一矢報いていた。

力を使い果たしたのか、一誠はその場で倒れそうになる。

 

駆け寄りたくても重傷の俺の体は動かない。

すると、倒れかける一誠を部長が受け止めた。

 

「お疲れさま、イッセー」

 

「部長!?いつの間に来ていたんですか!?」

 

「用事が済んだからここへジャンプしてきたの。あなたのほうも堕天使レイナーレを無事に倒せたみたいね。さすが私の『兵士(ポーン)』よ」

 

驚く一誠の頭を部長は優しく撫でていた。レイナーレを倒して一件落着だと俺は安堵していた。

 

しかし、一誠は悔しげな表情で泣きだす。

 

「ぶ、部長……お、俺、アーシアを守ってやれませんでした……」

 

一誠の告白に俺はハッとして、辺りを見回した。

 

そして、見つけてしまった。

長椅子に寝かされて目を閉じているアーシアを。

真っ白な顔には涙が伝った跡が残っている。呼吸をしているようには見られなかった。

 

つまり……アーシアはもう……。

 

「ちっくしょう……」

 

また、助けられなかった。守れなかった。そういった感情が頭のなかを満たしていく。

涙を流す一誠を部長が慰めている間も、俺は自分の無力さに後悔していた。俺がもっと強ければ。足を引っぱることがなければ。アーシアが神器を奪われる前に教会に乗り込んでいれば……。

この気持ちが無意味なものだということは俺もわかっている。

 

どれだけ後悔しても、アーシアが死んでしまった事実は変わらないのだから。

 

「あらあら、教会がボロボロですわ。部長、よろしいのですか?」

 

辺りを見渡した副部長が困り顔で部長に訊く。

確かに聖堂内は悲惨な状態だ。フリードとの戦いで俺たちが荒らしたし、レイナーレがふっ飛ばされたことで大きな穴まで空いている。

 

「教会がボロボロになると、マズいんですか?

廃れた教会ですし、人も来ないんじゃ……」

 

「教会は神──もしくはそれに属する宗教のものだし、今回みたいに堕天使が所有している場合があるでしょ?そのケースだと、私たち悪魔が教会をボロボロにすると、あとで他の刺客から付け狙われることがあるの。恨みと報復よ」

 

部長から語られた内容に俺は顔をしかめる。

だけど、今回はその心配もないみたい。この教会は捨てられていて、それを一部の堕天使たちが利用しているだけだった。神側も堕天使側も刺客を差し向けてくることはないだろうと。

 

「普段は気をつけろってことか。でも塔城はそこらへんの長椅子を投げまくってたけど」

 

「小猫ちゃんは……大胆な子なんだよ。普段は落ち着いているんだけどね」

 

全身ズタボロの俺を支えながら祐斗は苦笑する。遠まわしな言い方をしなくてもいいんだぞ。塔城の馬鹿力は俺も知っているんだから。

 

「……何の話をしているんですか?」

 

話しかけてきた声に俺と祐斗はビクッと同時に体を震わせる。振り返ると、ジト目の塔城が何かを引きずって俺たちの背後に立っていた。

塔城が持ってきたのは、一誠がふっ飛ばしたレイナーレだった。

気絶していたので副部長が水をかけ、意識の戻った奴は部長と対面する。

 

「はじめまして、私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主よ。短い間でしょうけど、お見知りおきを」

 

部長の冷たい瞳を受けてなお、レイナーレは余裕の態度を崩さなかった。けれど、それは仲間の堕天使が助けに来ると思っているからだ。

 

「堕天使カラワーナ、堕天使ドーナシーク、堕天使ミッテルト、彼らは私が消し飛ばしたから」

 

「嘘よ!」

 

あのドーナシークという堕天使も今回の件に一枚噛んでいたんだな。

強い否定の言葉を発したレイナーレに、部長は三枚の黒い羽を見せる。いま名前が挙げられた堕天使たちの羽だろう。

ドーナシークが俺たちを襲った日から、部長は堕天使たちの動きを警戒していた。今回の事件が勢力とは無関係の独自によるものだと知り、部長は敵の排除に踏み出したというわけだ。

部長は自らの縄張りで勝手なことをしている堕天使たちを最初から許すつもりなどなかったんだ。

 

「その一撃を食らえばどんなものでも消し飛ばされる。滅亡の力を有した公爵家のご令嬢。部長は若い悪魔のなかでも天才と呼ばれるほどの実力の持ち主ですからね」

 

「別名『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』と呼ばれるほどの方なのですよ?」

 

物騒すぎる……。

祐斗と副部長の言葉に怯えた直後、俺は気づく。部長の魔力に当たったものは、人も物も確かに消滅していたな。

 

「……赤い龍。この間までこんな紋章はなかったはず……。そう、そういうことなのね。イッセーが堕天使に勝てた最大の理由がわかったわ」

 

得心した様子でうなづく部長。

一誠の籠手には以前まではなかった赤い龍のような模様が浮かび上がっている。

部長は目を輝かせ、興奮冷めやらぬ様子で話す。

 

「──『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』、神器(セイクリッド・ギア)のなかでもレア中のレア。籠手に浮かんでいる赤い龍の紋章がその証拠。あなたでも名前ぐらいは知っているでしょう?」

 

「『神滅具(ロンギヌス)』のひとつ……。一時的にとはいえ、魔王や神すらも超える力が得られるという……あの忌まわしき神器(セイクリッド・ギア)がこんな子供の手に宿っていたというの!?」

 

一誠の神器、『赤龍帝の籠手』は十秒ごとに持ち主の力を倍にしていくという。力の倍増に時間を要するが、極めれば魔王や神すらも倒せると。

 

ゆえに『神滅具』。神を滅ぼす神器か。うちの兄貴は厄介なものを宿してしまったらしい。

 

「まあ、どんなに強力でも時間を要する神器はリスクも大きいわね。そうそう増大するのを待ってくれる相手なんていないわ。今回は相手が調子に乗ったのが勝敗を決めたようなものね」

 

単純な一誠に釘を刺してくれる部長。

俺は内心でとても感謝していた。調子に乗って危険な真似をされても俺が困る。

 

「弟のほうも力が爆発的に上昇したと思ったら、上級悪魔級の炎を扱ってくるし、なんなのよ!この兄弟は!?」

 

レイナーレは心底悔しげな顔で、全身ボロボロの俺と一誠に視線を送る。

 

「シュージ!?おまえ、そんなにボロボロにされてたのか!体は大丈夫なのかよ!?」

 

「傷なら一誠もヤバいと思うが……」

 

「それはまあ……って、その額に生やしてる角みたいなのは……」

 

神器(セイクリッド・ギア)らしいよ。俺は火が出せました」

 

額に生えている神器に触れてみるが、あまり大きなものではないようだ。自分の神器がどんな見た目をしているのか気になっていると……。

 

「よかったら、これをどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

副部長が手鏡を差し出してきてくれたので、俺はお礼を言って受け取る。

 

自分を手鏡に映して、神器の全容を見てみると、俺の額の上側に──紫水晶のような輝きを放つ小さな角のようなものが生えている。

 

これが俺の神器ね。見た目は綺麗なものだけど、能力は戦闘に特化した危険なものだ。

 

「魔力の使い方を知らないはずの秀次くんが火をいきなり放ったから驚いたよ」

 

「……小鬼みたいな角」

 

「確かに小鬼のようにも見えますわね。紫色の水晶のようで美しい見た目ですわ」

 

「シュージの神器(セイクリッド・ギア)に関してはこちらも何もわからないのよね。シュージの魔力も増えているみたいだし、火を放ったということだから、こちらも強力な神器(セイクリッド・ギア)だとは思うのだけれど……」

 

俺の神器を見て、意見を口にする仲間たち。

 

にしても、部長も知らない神器か。

 

神滅具ではないことは確かなようだが、俺の神器の詳細もいつか判明するのだろうか……。

 

「でもおもしろいわ。さすがは私の下僕くん。イッセーもシュージも今後が楽しみだわ。これからもっとかわいがってあげるから」

 

フフフと微笑む部長に俺は身震いする。その美しい笑顔がある意味恐ろしいです。

 

「ぶ、部長」

 

「何かしら?」

 

一誠からの呼びかけに部長は笑顔で反応する。

声をかけた一誠は申し訳なさそうな表情で、部長に向かって頭を下げた。

 

「すみません。あのとき、俺がアーシアを助けに行くって言ったときに部長が手を貸してくれないからって、すごく失礼なことばかり言って……。

でも、部長は裏で動いてくれていて……」

 

「いいのよ。あなたが悪魔としての勉強が足りなかっただけ。ただそれだけよ。強くなりなさい。私の兵士(ポーン)、イッセー」

 

「はい」

 

部長の言葉に一誠は決意の込められた声を返す。

一誠なりに覚悟を決めたのだろう。俺としてはあまり無理をしてほしくはないが……。

 

悪魔になったからには、今後もこういった戦いは避けられないのだろう。

 

なら、俺も強くなる。一誠を死なせないために。

──もう誰も失わないために。

 

「じゃあ、最後のお勤めをしようかしらね。消えてもらうわ、堕天使さん」

 

部長の鋭く細められた目を向けられ、レイナーレは怯えた様子で後ずさる。

 

「待ってください、部長」

 

手に魔力を出現させて奴に歩み寄る部長。主の彼女に俺は制止の言葉をかけていた。

止められるとは思っていなかったのだろう。

他の部員も驚いているなか、振り返った部長は冷たい視線を俺に向けてくる。

 

「なぜ止めるのかしら?彼女に情けをかけるつもりならそれは間違いよ」

 

「そんなつもりはありません。俺は悪魔になったときにひとつの目標を定めました。──そいつに復讐してやると」

 

俺がじろりと睨めつけると、レイナーレは怒りの感情をあらわにして睨み返してきた。

 

「俺に……始末をつけさせてください」

 

「……あなたは命を奪う行為に抵抗感を抱いていると思っていたのだけれど。それにこれ以上の無理は体に毒よ?」

 

「それでも、やらせてください。こいつに情なんてありません。許すこともできない」

 

「……わかったわ」

 

部長は一瞬、何かを考えるように間を置いた。

しかし、最終的に部長はレイナーレの始末を俺に譲ってくれた。

 

「秀次くん、大丈夫かい?」

 

「ああ、問題ない」

 

体を支えてくれていた祐斗から離れ、俺は一人でレイナーレまで近づいていく。

目標を達成する機会がこんなに早く訪れるとは思いもしなかった。

……犠牲も出てしまった。何の罪もない優しい子が殺されてしまった。アーシアはこんなところで死ぬべきじゃなかった。

兄貴と恩人を殺したこいつを、俺は許さない。

尻もちをついているレイナーレの眼前に立ち、憎悪のこもった目で俺は見下ろす。

 

「殺す前に聞いてやる。なんで兄貴を襲った?」

 

「っ……神器(セイクリッド・ギア)所有者の管理をするのが堕天使の役目。神滅具(ロンギヌス)なんて強力なものを宿した人間は暴走する危険だってある。世界の安寧を守るために、私はあの男を始末しただけよ!」

 

「世界の安寧を守るためねえ。なら、なんで一誠の彼女になったんだ?堕天使の力があれば、無力な人間をこっそり始末することくらい簡単だろ。一誠を騙す必要は……なかったはずだ」

 

「そ、それは……!」

 

そこで言いよどむ時点で、こいつがどんな性格をしているかは明白だ。

 

「俺は……おまえが心底憎いっ!」

 

儀式場で一誠を嘲笑ったこいつを、殴り殺してやろうと何度も思った。

 

一誠とアーシアを殺すと言って逃げたこいつを、焼き殺してやりたいと本心から思っていた。

 

……でも、俺が家族を奪われて悲しいと、辛いと思うように……レイナーレを殺したら、悲しむ誰かがいるんじゃないだろうか。

 

例えば家族。仲間。友人が。こいつにもいるんだとしたら……。

 

俺はこいつを殺せるのか?

 

「そもそも復讐って……なんだ?憎んだ相手を殺したら、それが復讐になるのかな……。じゃあ復讐って、いつ終わるんだ……?」

 

俺のつぶやきに背後で皆が浮足立った気がする。

レイナーレを憎んでいるのは本当だ。

だけど、殺せるのか。殺していいものか。そんな不安と疑念が俺の頭のなかで渦巻いている。

こいつを逃すわけにはいかない。生かしちゃおけない理由も理屈もある。

でも、俺には人殺しをする権利も勇気もない。

 

要するにヘタレだった。

 

そんな俺の迷いを見抜いたのだろう。レイナーレは醜く笑って、俺から一誠へと視線を移した。

 

「イッセーくん!私を助けて!あなたの弟が私を殺そうとしているのよ!?」

 

媚びるような目で兄に話しかける奴を見て、俺は自分の甘さと弱さに呆れてしまった。

 

「私、あなたのことが大好きよ!愛している!だから、あなたの弟を止めてちょうだい!」

 

はは、あははと、乾いた嗤いが俺の顔に浮かぶ。

こいつは一誠に謝ろうともしない。アーシアからすべてを奪っておいて謝りもしなかった。

 

「一誠、もういいよな」

 

「ああ……頼むよ」

 

天野夕麻を演じてまで生き延びようとする奴に、一誠も愛想を尽かしたようだ。

 

迷いのなくなった俺はレイナーレに近づく。

レイナーレは「ヒィィッッ!!」と、悲鳴をあげながら俺から逃げようとする。黒い翼を必死に羽ばたかせてその場から逃げ去ろうとした。

 

皆が動くよりも早く、俺はレイナーレに手を向けて神器を発動させる。

 

角から灼熱の炎の如き橙色の光と熱が放たれる。右手に水が出現し、左手に炎が発生する。

炎と水。相反するものと思いきや違うのだ。神器の能力で出した水は、ただの水ではない。

──可燃性の不凍液。オイルのようなものだ。

 

球状になった水と炎を、俺はレイナーレに向けてぶっ放した。

 

「……俺はがんばるしかねえ。こんな甘ったれた感情が消えてなくなるくらい、強くなるよ」

 

そう言って俺はレイナーレを完全に焼き殺した。灰すらも残さず、焼き消した。

 

「グッバイ。俺の恋……」

 

一誠は何とも言えない顔で空を見上げていた。

 


 


 

「ごべん……皆……うぇっ!」

 

謝罪の言葉を発してすぐに、俺は嘔吐した。

重体で神器を使った反動か。初めての殺人に耐えきれなかったのか。理由はわからない。

だが、肉体的にも精神的にも疲弊したのだろう。俺は何度も吐いてしまった。胃の中身が空っぽになって、胃液を吐いてしまうくらいに。

 

それでも気持ち悪さは落ち着かない。

祐斗が優しく背中をさすってくれた。あの塔城でさえも何も言わずに目を背けてくれた。

 

それからしばらくして、ようやく何も吐くものがなったのか、俺の嘔吐は止まった。

 

「シュージ……だ、大丈夫か……?」

 

「……ああ。それよりも……」

 

心配そうな一誠に返事しつつ、俺は寝かされたアーシアに近づく部長に視線を向けていた。

 

レイナーレを倒した直後、アーシアの神器は無事に解放された。だが、持ち主の彼女が死んでしまったのでは意味がないと俺と一誠は思っていた。

 

だが、あったのだ。彼女を生き返らせる方法が。

 

部長は悪魔の駒の『僧侶』を使って、アーシアを下僕悪魔として転生させることを決めた。

ちなみに、部長の『僧侶』はすでに一人存在していると聞いている。

 

つまりこれで『僧侶』が二人になるわけだ。俺たちはその現場に立ち会っている。

 

「我、リアス・グレモリーの名において命ず。

──汝、アーシア・アルジェントよ。いま再び我の下僕となるため、この地へ魂を帰還させ、悪魔と成れ。汝、我が『僧侶』として、新たな生に歓喜せよ!」

 

部長の言葉を合図に、駒が紅い光を放ちながらアーシアの胸に沈んでいく。

同時に彼女の神器も淡い緑色の光を発しながら体へ入り込んでいった。

 

そして、アーシアは目を覚ました。部長は優しい笑みを浮かべて一誠に告げる。

 

「悪魔をも回復させるその子の力が欲しかったからこそ、私は転生させたわ。ふふふ、イッセー、あとはあなたが守っておあげなさい。先輩悪魔なのだから」

 

一誠は耐えきれずに涙を流し、目を覚ましたばかりで戸惑っているアーシアを愛おしそうに抱きしめていた。

 


 


 

「……はい?」

 

早朝。ベットで目を覚ました俺の目に映ったものは──裸の部長だった。

 

「ぎにゃぁぁぁぁあああああっっ!?」

 

「うぅん……うるさいわぁ」

 

あまりに刺激的すぎる光景に俺は叫び散らかし、部長は寝惚けまなこをさすって起きた。

ベットから急いで飛びだした俺は土下座の姿勢となって頭を床につける。

 

「ゴメンなさい!ほんと、なんでこんな状況になったのかさっぱりなんですけど!本当に申し訳ありませんでした!どうかお許しを!」

 

「こら、シュージ。私の下僕がそんな簡単に土下座なんてしないでちょうだい。主である私の品格まで疑われることになるわ。でも、よかった。その様子ならもう傷のほうは平気みたいね」

 

傷?ベットで座って微笑む部長の言葉を聞いて、俺は自分の体を見る。俺も全裸になっていて、体に傷らしいものは見られなかった。

 

昨夜の記憶が飛んでいるので話を聞いてみると、アーシアを悪魔に転生させてすぐに俺は意識を失ってしまったようだ。

 

体の傷も酷く、精神的にもだいぶ疲労が溜まっていたようなので、部長の治療を受けたと。

 

裸で抱き合って魔力を分け与えるアレか。俺も受けることになるなんて……。

俺が顔を真っ赤にして頭を抱えている間に、部長は手早く着替えを済ましてくれた。

 

「イッセーとは違って、チラリとも見ようとしないのね」

 

「当たり前じゃないですか!?俺は一誠みたいに見境なく発情したりしませんから!」

 

まあ、あなたに好意がないのかと問われたら、俺もよくわかってないんですけどね……。

早鐘を打つ心臓に熱を持った頬。これが恋愛感情によるものなのか、羞恥心によるものなのか。

それすらも経験不足の俺にはわからない。

 

「シュージ、あなたは堕天使レイナーレに復讐することを目標としていたと言ったわ。復讐を遂げたあなたにいま、何が残っているのかしら?」

 

先ほどまでの微笑みとは一変して、真面目な表情となって訊いてくる部長に俺は黙り込む。

 

昨夜、俺は復讐を遂げた。そんな俺にいま、何が残っているのか。

 

達成感か。後悔か。まったく違う別の感情か。

 

「……わかりません。何もない。そんな気がしてしまいます」

 

「そう……。悪魔は長い年月を生きる。さらに欲を持ち、欲を与え、欲を望む者。第一の目標を叶えてしまったあなたは、次の目標を見つけなくてはいけないわ」

 

いいわね?と念押しすると、部長は魔法陣を展開して俺の部屋からジャンプしようとする。

しかし、魔法陣の光が彼女の体を包む前に、部長は何かを思いだしたように俺に顔を向けた。

 

「今日は朝から集まりがあるの。皆も来るから、あなたもちゃんと部室に来ること」

 

そう言い残して、部長は俺の部屋からどこかに転移していった。

まるで嵐のような主様だと、俺は苦笑を浮かべながら登校の準備を始めていた。

 

 

 

 

朝早くから部室に集められた理由は、新しく眷属入りしたアーシア、一誠、俺の三人を歓迎するためのパーティーを開催するためだった。

アーシアは駒王学園に入学することになり、一誠と同じクラスに編入するとのこと。

さらに皆が一誠のことは「イッセー」と、俺のことは「シュージ」と呼ぶようになっていた。

 

うれしいことばかりではない。それでも、今日だけは素直に喜びたいと思ってしまう。

 

悪魔になったことを素直に喜んでいる一誠。

友達ができたことを喜んでいるアーシア。

二人の真っ直ぐな笑顔を見て、自分が抱いている不安感が少し晴れたような気がした。




主人公が抱いている不安感は「自分は悪魔になって本当によかったのか?」というものです。
最後に駆け足になっちゃってすみません。
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