ハイスクールD×D 終焉に抗う暁の太陽   作:ドラゴン大好きT

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主人公のCV、マジで誰がいいかな。
梶裕貴さんか、小林千晃さんか、内田雄馬さんあたりかなあ。案外、岡本信彦さんも合うか…?


第15話 剣が自ら熱を持つことはない

 

 

俺は燃え滾る火山に立っていた。

周りでは火がゴウコウと巻き起こり、足元ではドロドロとした溶岩がうごめいている。

 

俺がいま立っている場所こそ地獄か。そう思ってしまうほどの光景が目の前に広がっている。

あまりの熱さに体が燃え続けているような、燃え尽きているような気分になる。立っているだけで自然発火を起こしそうだ。

 

暑さで霞む視界が捉えたのは、二つの影だ。

一つは大きさ的に俺と同じくらいの背丈の人影。

もう一つの影は異常なほどに巨大だ。

悪魔でもなければ、堕天使でもない。こんな場所に人間がいるはずもない。

 

なら、あの真っ黒な巨影と人影は何なんだ。

二つの影に俺が気づいたように、あちらも俺の存在に気づいたようだ。

 

瞬間、俺は爆炎に飲み込まれて──焼け死んだ。

 

***

 

目を覚ました俺は汗だくの体を起こしてベットから這い出る。

 

「なんだあの悪夢は……」

 

これまで見たこともない悪夢。恐ろしいだとか、何がどうしてあんな場所にいたのかとか、そんなことを考える暇もなく、俺は炎に包まれていた。

 

炎といえば直近で思い当たる人物がいる。

ゲームの対戦相手、ライザー・フェニックス。

 

炎に包まれて殺される──。

 

「正夢にならなきゃいいけど……いま何時だ?」

 

時計を確認してみると時刻は深夜二時。

今日は修行一日目。現在はその夜。朝昼の特訓を終えて飯を食べ、あとは風呂に入って寝るのかと思っていたらそんなことはなかった。

悪魔は夜の世界の住人。昼よりもむしろ夜のほうが活動的になるし、力も発揮できる。

──というわけで、つい先ほどまでも俺たちは訓練していた。なんなら昼の数倍の量を。

両隣のベットでは一誠と祐斗が泥のように眠っている。さすがの練習量に二人ともぐっすりだ。

 

「……やるなら、いましかないな」

 

寝ている二人を起こさないように、俺はこっそりと部屋から出ていく。さらに別荘の外に出ると、広い空き地で俺は一人立ち尽くす。

 

皆が寝静まるタイミングを俺は待っていた。

朝昼夜と全員で特訓をしているが、俺はさらに個人練習を深夜にすることにしたんだ。

剣術の特訓をするなら祐斗に、魔力の扱い方を学ぶなら副部長に、格闘技の鍛錬をするなら塔城にサポートしてもらったほうが効果的に学べるのだろうが……。

 

これからする特訓は一人でやらなければいけないものなんだ。

 

神器(セイクリッド・ギア)

 

つぶやくような声を合図に神器の角が出現する。

今回の修行中、俺と一誠は神器の使用を禁じられている。俺が深夜に一人で特訓をしようとしている理由はつまりそういうことだ。

 

これからやろうとしているのは神器の特訓。誰にも見られてはいけない秘密の特訓だ。

 

(まずは能力の再確認から……)

 

目を閉じて脱力し、両手をゆっくりと広げる。

すると、広げた両の手のひらに水と炎がそれぞれ発生した。

 

「炎はいたって普通のものだけど、水は可燃性のガソリンみたいなもの。合わせて放つことで火力を一気に上げられる。けどいまのところ、それぐらいしかできないんだよな……」

 

今回の修行中に神器の使用を禁じられた理由は、使用したら修行にならないからだ。

俺のはまだしも、一誠の赤龍帝の籠手なんて使用したら常に自身のステータスにバフがかかっている状態になってしまう。だけど、神器の力を一切訓練しないというのもどうなのだろうか。

正直、俺や一誠は神器がないと戦力に数えられないほどに弱い。

 

「一誠はまだいいさ。問題は俺だ。この炎と水を操る能力でどこまでやれるか──」

 

「何をしているんですか、先輩」

 

っ──!背中越しに突如としてかけられた声に俺は肩を跳ねさせる。

い、いまの声は……。口角を震わせながらブリキ人形のようにゆっくり振り向くと──寝間着姿の塔城が俺の背後に立っていた。

 

「な、なんで塔城が……いつの間に!?」

 

「……一日目の特訓も終わって、明日からの特訓に備えて寝るつもりでしたが、先輩がこそこそと外に出ていこうとしたところを目撃したので」

 

「追っかけてきたと?なんてこった……」

 

「……てっきり修行が嫌になって、逃げだそうとしているのかと思いましたが……そういうわけではなさそうですね」

 

神器の力で発生させた炎と水が揺らぐ俺の手を、無表情の塔城はじーっと見つめている。

慌てて火と水を消したが、塔城は表情を変えずに俺の額に生えた角に視線を移す。

 

「……神器(セイクリッド・ギア)の使用は部長に禁止されていたはずです」

 

「うっ、えーっとぉ……はい。すみません。隠れて練習しようとしてました。つきましては今回のことは部長には内密に……」

 

両手を合わせてお願いする俺を見て、塔城は考え込むように視線を落とした。

でも、たぶんダメだよなぁ。塔城は俺のことを嫌っているだろうし……。

 

「……いいですよ。黙っておいてあげます」

 

「え、マジで?本当に?……ちなみに、黙ってくれる理由とかあるのか?」

 

「……仲間のために強くなろうとしている先輩を邪魔したくないので」

 

それが理由ってことか……。まさか黙ってくれるとは思っていなかった俺は目を丸くしていたが、塔城の言葉にホッと胸を撫で下ろした。

 

「ありがとう。普段はアレだが、やっぱり塔城はいいやつだな」

 

「……先輩って余計な一言を付け足さないと気がすまない病気なんですか?」

 

にんまりと笑う俺に塔城は呆れた視線を返した。

褒め言葉を送ったつもりなのに……。

 


 


 

修行二日目。午前中は勉強会となった。

いまは修行を優先すべきでは?とも思ったが、悪魔になりたての俺と一誠、アーシアに三つの勢力については教えておきたいとのこと。

 

「僕らの仇敵。神が率いる天使。その天使の最高位の名は?さらにそのメンバーは?」

 

「えっと『熾天使(セラフ)』だろ。メンバーは……ミカエル、ラファエル、ガブリエル……うーん、ウリエルか」

 

「正解」

 

悪魔、堕天使、天使の歴史や幹部の名前について教え込まれたあと、祐斗が問題を出し始めた。

 

「次に僕らの王『魔王(サタン)』さま。四大魔王さまを答えてもらおうかな」

 

「おう!任せておけ!いずれ、出世してお会いするんだ!バッチリ覚えてるぜ!ルシファーさま、ベルゼブブさま、アスモデウスさま!憧れの女性魔王さまであらせられるレヴィアタンさま!」

 

「正解」

 

「絶対にレヴィアタンさまに会ってみせるぜ!」

 

「こいつ、下心全開で魔王さまに謁見するつもりなのか……」

 

祐斗の問題にノリノリで答えた一誠に、俺は頭を抱えて悩み込む。

レヴィアタンさまは唯一女性で、魔王の地位についておられる方だ。それも美人なんだとか。

一誠が何か失礼なことをしでかした瞬間、即座に首が飛んでいそうで恐ろしい。

 

「それじゃ、シュージくん。堕天使の幹部を全部言ってもらおうかな。イッセーくんはまだ覚えきれていなさそうだから」

 

「堕天使の組織名は『神の子を見張る者(グリゴリ)』。総督がアザゼル、副総督がシェムハザ、幹部はアルマロス、バラキエル、タミエル、ベネムネ、コカビエル、サハリエル」

 

「正解。さすがだね」

 

「それほどでも」

 

堕天使は組織的に神器を研究しているとの話だ。有益な神器所有者は仲間に引き入れ、有害ならば処刑するか神器を奪っているらしい。

神滅具を所有していた一誠は処刑され、アーシアは堕天使レイナーレの利己的な欲望によって神器を奪われて殺された。

百害あって一利なし。いまのところ、まったくといっていいとこなしの連中だ。

悪魔、天使、堕天使についての話が終わると、次にアーシアが悪魔祓いについて教えてくれる。

 

「え、えっとですね。以前、私が属していたところでは、二種類の悪魔祓いがありました」

 

「二種類?」

 

「ひとつはテレビや映画でも出ている悪魔祓いです。神父さまが聖書の一節を読み、聖水を使い、人々の体に入り込んだ悪魔を追い払う『表』のエクソシストです。そして、『裏』が悪魔の皆さんにとって脅威となっています」

 

ギラギラとした殺意に塗れた目をする白髪のエクソシストが俺の脳裏に思い出される。

俺たちもすでに出会っているが、神もしくは堕天使に祝福された悪魔祓いは光の力を使う。常人離れした身体能力を駆使して、さらには神器を所有している者もいるとのこと。

次に始まったのは、聖書や聖水の特徴について。実物まで用意して説明してくれる。

 

「まずは聖水。悪魔が触れると大変なことになります」

 

「具体的にはどんなことになるんですか?」

 

「肌が焼けるわ。清められた聖水に触れたら悪魔は消滅することもある。──といっても、ライザーが相手なら聖水も効果が薄いでしょうけど」

 

水の入った小瓶を摘み上げながら、部長は俺の質問に答えてくれる。

 

聖水は効果が薄いか。肌が焼ける程度のダメージじゃ不死の相手は殺せないだろうな。

 

今回のゲームに備えて俺たちが強くなるのはもちろんとして、ライザーの不死身を突破する方法も考えておかないと。

 

「次は聖書です。小さな頃から毎日読んでいました。いまは一節でも読むと頭痛が凄まじいので困っています」

 

「悪魔だもの」

 

「悪魔ですもんね」

 

「……悪魔」

 

「うふふ、悪魔は大ダメージ」

 

「アンチキリスト集団だぞ、俺たち悪魔は」

 

「うぅぅ、私、もう聖書も読めません!」

 

聖書の読み聞かせも、悪魔にはダメージを与えられるらしいが……俺たち、みんな悪魔だからな。読んだらライザーやその眷属だけじゃなく、俺たちにまでダメージが及んでしまう。

 

「でもでも、この一節は私の好きな部分なんですよ……。ああ、主よ。聖書を読めなくなった罪深き私をお許し──あう!」

 

「あんまり読むようなら没収するぞ」

 

祈りを捧げてダメージを受けるアーシアを見て、心配と呆れの混じった苦笑いを俺たちは浮かべていた。

 


 


 

昼食をとって午後になると訓練が始まった。

今回は俺と一誠が模擬戦を行う。

 

「いくぜ、シュージ!」

 

「先手は譲ってやる。こい」

 

命令口調の俺に苛立ったのか、一誠は気合いの入った左拳を振り上げて突撃してくる。対する俺は特に構えも取らずに待ち構えていた。

一誠の初撃は大振りの左ストレート。俺はそれをバックステップで回避し、さらに続く右拳の突きも左手で払い除けた。

 

「くそ!当たらねえ!」

 

拳が当たらない一誠は焦り、攻撃もさらに単調なものになっていく。

『戦車』は屈強な防御力を持っているため、神器を使っておらず、プロモーションもしていない一誠の拳が当たったところで痛くはない。

けど、防御以外にも回避や受け流し、その他の技術を含めての徒手空拳だ。

防御力があるからと油断して、致命傷になるような攻撃を食らったら笑い話にもならない。

 

「っと──」

 

「もらった!」

 

回避に専念していた俺は後退しすぎて、背後に生えていた木に背中を預けてしまう。

これを好機だと捉えた一誠は左拳を真っ直ぐ俺の顔面に突き出してくる。

決まったと不敵な笑みを浮かべる一誠を至近距離で見つめて、俺は小さく息を吐いていた。

 

「そんな簡単に決めさせるか」

 

「うそ!?」

 

一誠が突き出した拳を俺は左手で掴み、勢いを完全に殺していた。決まったと思い込んでいた一誠は顔いっぱいに驚きを表している。

 

「後ろの木には俺も気づいていたって。あえて気づかないフリをして、一誠の動きを誘わせてもらった」

 

動きが止まったなら、あとはトドメだ。

掴んだ左拳ごと一誠の体を引き寄せ、構えていた右拳をカウンター気味に打ち込む。

『戦車』のパワーを鑑みてある程度は加減しているが、腹部にねじ込まれた拳は内部にまで衝撃を響かせただろう。

まともに食らった一誠は苦しそうに息を吐き、よろよろと引き下がって膝をついた。

 

「痛ってぇー!」

 

「焦りすぎたな。真っ直ぐ突っ込んでくるなら反撃も警戒しておかないと。一誠や俺は塔城みたいに小回りが利くわけじゃないんだから」

 

「……やっぱり、シュージも強いよな。この間はレイナーレが相手でボロボロにされてたけど」

 

「……人間と人外じゃ、強さも動きも全然違う。あのときは久しぶりだったのもあるし」

 

レイナーレとの戦いはかなり酷かった。冷静さを失っていたというのもあるが、以前よりも体が鈍っているんだろうな。

一誠が殴られた腹をさすっていると、治療をするためにアーシアが近づいてきた。

 

「一誠の治療が終わったら、三人で走り込みに行くか」

 

一誠が治療を受けている間に、俺はふと思いついたことを言ってみる。

二人にとっては思いも寄らない発言だったのか、一誠もアーシアも俺のほうに顔を向ける。

 

「アーシアにも走らせんのか?体力的にキツいものがあるんじゃ……」

 

「だからこそだろ。ゲーム中に敵から逃げるために体力は少しでもあったほうがいい。昨夜、部長だってそう言ってたじゃないか」

 

「イッセーさん。シュージさん。私、足を引っ張らないようにがんぼります!」

 

思いつきの発言ではあったが、アーシアはやる気のある声で返事してくれる。

アーシアの回復能力はゲームでも有用だ。俺たちがダメージを負ったとしても、アーシアさえ倒されなければ、気力と体力がある限りは戦い続けることができる。

現状、この場にいる三人のなかで、最後までゲームに残ってほしい存在は彼女だろう。

 


 


 

修行五日目。俺と一誠と祐斗と塔城の四人は外に出て、それぞれの特訓に励むことになった。

一誠は塔城と組手だ。今頃、あの馬鹿力によって大木に叩きつけられているのだろう。

そして、俺は祐斗との剣術訓練をこなしている。

 

「はぁ!」

 

「ふっ!はっ!」

 

互いの木刀が何度もぶつかり合い、木特有の甲高い音が周囲に響き渡る。

今日はこれで十五回目の掛かり稽古。俺はいまだに祐斗から一本も取れていない。

当たり前だ。相手は俺よりも早く剣を握り、実戦も経験している真の剣士なのだから。

対する俺は剣を握ってから数日の素人。勝てるはずもない。負けて当然なんだ。

 

「負けて当然──だけど!負けっぱなしは性に合わん!」

 

「いい気合いだよ。剣は決して自ら熱を持つことはない。剣に熱が乗るとしたら、それは振るう者の熱い心に他ならない」

 

何を格好いいこと言ってやがる!涼しい顔で俺の攻撃を全部受け流しているくせに!

祐斗も体を動かしているからさすがに汗を流してはいるが、俺は体中から汗が噴き出ている。息だってとっくにきらしている。

集中力も尽き果てる寸前、そのときだった。

祐斗が突き出そうとしていた木刀を急に止め、横に薙ぎ払った。

狙うは木刀を持つ俺の右手。フェイントに引っかかった俺は一瞬動きを止めてしまう。

どうすればいいのかわからない。受け止めようにもいまから木刀を振っても間に合わない。

 

「うぅぅっ!」

 

「っ──!」

 

噛みしめた口から雄叫びをあげ、俺は左腕を盾のようにして祐斗の剣撃を防いでいた。

攻撃を防がれた祐斗も、防いだ俺も驚いていた。ほとんど反射で防御したから。

だけど、これでようやく隙が生まれたぞ!

祐斗の剣を俺は弾き飛ばそうと、木刀を握った右腕を斜めに振り上げた──のだが、

 

「ふっ」

 

「はぁ!?」

 

俺が振り上げた木刀に祐斗は自分の木刀を被せ、攻撃をいなした。

体勢を崩した俺は地面に手をつき、手放してしまった木刀を拾い上げるよりも早く祐斗の木刀が首にあてがわれる。

敗北を噛みしめながら俺は息を吐いて言う。

 

「降参。俺の負けだ」

 

「でも、初日よりもよくなってるよ。剣筋もだけど動きそのものがね」

 

「お世辞でもうれしい言葉だな」

 

「──成長したというより、鈍っていた勘を少しずつ取り戻している。さっきの瞬時の動きから僕が感じたものは、そういうヒトのものだった」

 

祐斗の評論に褒められたうれしさから一転して、感傷から俺は顔を微妙にさせた。

まもなくして、塔城が何かを背負いながら俺たちのもとまで歩いてくる。

 

背負っていたのは──頭に大きなコブを作った一誠だった。

 

「い、一誠……だいじょうぶ、なのか……?」

 

「……手加減を間違えました。ぶん投げたら頭から木に当たってしまって……」

 

完全にダウンしてしまったらしい一誠に、珍しく心配そうな視線を送っている塔城。

やりすぎてしまったことに多少は罪悪感を覚えているようだった。

 

「ま、まあ、一誠は頑丈だし、多少の怪我ならアーシアが治してくれるから……。一誠のことは俺がしばらく見ておくから、二人は特訓に集中してくれよ」

 

「シュージくんもだいぶお疲れみたいだからね。小猫ちゃんが代わりに、僕の相手をしてくれないかな?」

 

「……わかりました」

 

若干顔を沈ませていた塔城だが、俺と祐斗の申し出には素直に応じてくれる。

修行が始まってからもう折り返しだ。祐斗と塔城もメキメキ強くなっている気がする。

事実、二人の模擬戦は俺や一誠を相手にしているときよりも激しい。祐斗の素早い動きから繰り出される剣技の数々を、塔城は受けと回避を織り交ぜながら捌いている。

 

(二人の戦いを見ていると、自分がまだまだだってことがよくわかる。──残り五日。この短い期間で俺はどれだけ強くなれる……?)

 

「う、うぅん……あれ?俺……」

 

「起きたか、一誠」

 

二人の模擬戦が終わりに差し掛かった頃、寝かされていた一誠が意識を取り戻した。

模擬戦の結果は塔城の勝ち。祐斗の剣撃の間を縫って間合いを詰めていき、防御のために振るわれた木刀を拳で弾き飛ばしていた。

頭にできたコブを痛そうにさすっている一誠の目を覗きながら俺は訊く。

 

「塔城にふっ飛ばされて頭から木にぶつかったんだって。覚えてるか?」

 

「ああ……。俺、毎日、皆にふっ飛ばされてる。本当に強くなってんのかな……」

 

不安そうな声で言う一誠に、塔城と祐斗と俺の無言の視線が注がれる。

一誠はここ数日でちゃんと強くなっている。

祐斗の剣撃を受けても怯まなくなったし、俺や塔城のパンチを防げるくらいには。

ただ、自信がないのだろう。自分はゲームで活躍できるのか。祐斗や塔城と並んで戦えるのか。

足を引っ張るんじゃないのか。そういった不安が頭に浮かんでしまうんだと思う。

俺も同じ悩みを持っているから理解できる。

 

だが、何と言って励ましてやればいいのか。

中途半端な励ましは無意味だろうし、むしろ逆効果になってしまうかもしれない。

 

(一誠と同じ『兵士(ポーン)』ならまだしも、『戦車(ルーク)』の俺が寄り添ってもな)

 

駒の特性上、普段の戦闘で俺は一誠よりも強い。

プロモーションが使えれば話も変わってくるが、現状ではやはり俺が力で勝っている。

同時期に眷属入りした弟からの励ましなんて、現状の一誠にとって毒になることはあれど、薬になることはまずない。

だから、俺から言えることは何もない。

しかし、何もせず黙っているのも気まずいため、俺は一誠の肩を軽く叩いて立ち上がった。

 

「強くなっているか確かめたいなら、俺と模擬戦しようぜ。祐斗と塔城には俺たちの戦いぶりを見てもらって、あとで良いところとダメなところを教えてもらう感じで」

 

「……いつも通りにってことか。よし!今度こそシュージに勝ってやる!」

 

「言っとくけど、手加減なんてしないからな」

 

頬を両手で何度も叩き、気合いを入れ直した一誠はやる気に満ちた顔で立ち上がった。

募る焦燥感から目を背けるように、俺と一誠は模擬戦に集中していった。




あんまり話が進んでない気がする…。けど、次話で修行編は終わらせる予定です。あくまで予定だけども。
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