ハイスクールD×D 終焉に抗う暁の太陽   作:ドラゴン大好きT

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第21話 クロノショウドウ

 

 

ずっと一誠は悩んでいた。自分よりも強く優秀な弟や仲間たちと肩を並べて戦えるのか。

もし、秀次が『赤龍帝の籠手』を宿していたらどうなっていたのだろう。才能に恵まれている弟のことだ。きっと、それは強い悪魔に──赤龍帝になっていたことだろう。

そんな優秀な弟が信頼してくれている。自分よりも強い仲間たちが信じて背中を押してくれた。

 

「なら、俺はその想いに応えたい!俺を信じてくれる仲間たちのために!部長の勝利のために!俺に力を貸しやがれ!ブーステッド・ギアッ!」

 

『Dragon booster!!』

 

一誠は左腕を天に掲げ、湧き上がる熱い想いを神器に伝える。だが、まだ足りない。こんなものではないはずだ。もっと──。

 

「もっとだ!神器(セイクリッド・ギア)は宿主の想いに応えるんだろう!?だったら俺の想いに応えてみせろ!ブーステッド・ギアァァァァッッ!」

 

『Dragon booster second Liberation!!』

 

解き放たれる赤い閃光と超常の力。一誠の想いに応えるように『赤龍帝の籠手』が変化する。

全体の形状がより鋭角なものとなり、甲の部分にあった宝玉と同じものが腕にも現れた。

 

「ッ──」

 

新たな姿となった『赤龍帝の籠手』。その変化を見ていた秀次は以前、一誠が神器を初めて発現させたときやアーシアが『聖母の微笑』を使った際と同じ疼きを自分の神器から感じ取っていた。

いや、正確には以前よりも強い疼きだ。まるで赤い龍のオーラに反応するように、角の神器は何度も紫色の明滅を繰り返している。

誰もが戸惑いを隠せずにいたそのとき、一誠は秀次と祐斗に駆け寄っていく。

 

「木場ァァァァッ!おまえの神器(セイクリッド・ギア)を解放しろォォォォッ!シュージも受け取れぇぇぇぇっ!」

 

「──え!?は、何を!?」

 

「ッ──魔剣創造(ソードバース)!」

 

秀次は自分の神器の反応に意識を割いていたせいもあって、一誠の行動に理解が及ばない。

祐斗も一誠の真意を察せずにいたが、彼の迷いのない瞳を見て即座に行動した。

爆破によるダメージで痛む体をなんとか動かして剣を地面に突き刺し、いくつもの魔剣を出現させた直後、一誠は二人の背中を押すように触れた。

 

「ブーステッド・ギアの第二の力!『赤龍帝からの贈り物』!」

 

『Transfer!!』

 

一誠の新たな力、『赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』。

その効果は籠手で高めた力を他人、もしくは物に『譲渡』する。

 

「これは──!」

 

「うっ、ぐっ!?」

 

力を譲渡された二人はそれぞれ驚きの反応をするが、秀次は痛みに呻くような声を発する。苦しげな表情で体を震わせていた。

秀次が異様な反応をする一方で祐斗は目の前に広がる光景に目を見開く。

自分の魔剣を創り出す力を一誠に飛躍的に高められたことで、運動場全域が刃の海と化していた。ライザー眷属のうち、美南風とカーラマインはフィールドに生えた魔剣に貫かれ、リタイヤの光に包まれて消えていく。

 

「よっしゃあ!大成功──って、シュージ!大丈夫か!?」

 

「一誠に触れられてから、力がやけに、あふれているみたいなんだ、けど……何した?」

 

「力を譲渡したんだけど……失敗したわけじゃねえよな?」

 

「力の、譲渡……?そんなことができるならあらかじめ伝えておけ──と言いたいところだが、今回はよくやったよ」

 

ある意味、能力を口にしなかったことがライザー眷属への不意打ちになった。

それに、力を譲渡されたからといってこんな状態に追いやられるなんて、譲渡をした一誠もされた側の秀次だって予測できなかった。

だから仕方ない。そう納得していると、秀次たちのはるか頭上から甲高い声が聞こえてくる。

 

「な、なんなんですの、これは!?」

 

「おそらく『赤龍帝の籠手』の力でしょう。聞いたことがあります。──『赤い龍』は自らの力を倍化させ、他者に譲渡することができると」

 

「赤龍帝の倍化能力で高めた力を、『魔剣創造』の『騎士』に譲渡したのね……。でもまさか、ここまでの力を発揮するなんて……」

 

ユーベルーナの短距離転移によって、咲き乱れる魔剣の海から逃れたレイヴェル。

一誠の予想外の進化に狼狽しているようで、これを好機と捉えた秀次が叫ぶ。

 

「いまだ一誠!全力で走れっ!」

 

「応っ!」

 

一誠が向かう先は旧校舎。ライザーと戦うリアスの援護に向かうために彼は走り出す。これまでに負ったダメージや疲労、度重なる倍化能力の使用によって体は悲鳴を上げていた。

それでも、彼は走る。仲間や弟に託されたから。

 

「行かせないわよ」

 

そんな一誠の背中にユーベルーナの魔の手が差し向けられる。

しかし、妨害は秀次も想定内だ。開いた両手を上下に合わせて水と炎を生み出すと、混ざり合った二つの力はこれまでにない強さを発揮する。

一誠から力を譲渡されたことで引き上げられた火力を秀次は一塊にまとめて放った。

 

「血は炎──」

 

周囲を明るく照らす光。秀次の手から撃ち出された炎は真っすぐ空に向かって伸びていき、巨大な火柱を形成する。その威力は朱乃が放つ最大出力の雷にも匹敵していることだろう。

 

「だけど直線的すぎるわね。転移を使うまでもなく避けられるわ」

 

ひらりと攻撃を躱したユーベルーナはレイヴェルを離し、残った三名を見下ろす。レイヴェルも炎の翼を出現させて空中に留まった。

 

「あの『兵士』は取り逃がしてしまったけれど、かといってあなたたち三名を撃破しないわけにもいかないでしょう。そろそろリタイヤの時間よ。グレモリー眷属」

 

瞬間、グラウンド全域で連続した爆発が起こる。

小規模の爆破だが秀次たちを囲むように何度も爆発を繰り返し続け、徐々に包囲を狭めていく。

迫りくる脅威を肌に感じながらも、秀次は努めて冷静にこの状況を切り抜けられるように思考を回し続ける。

一誠に援護に向かうように促したときとは違い、今度はできるだけ声量を落とし、耳につけた通信機器を使って短く指示を出す。

 

『塔城、祐斗を頼む』

 

『……了解』

 

秀次の指示を受けて小猫は悪魔の翼を生やし、祐斗を抱えてその場から飛び立った。

現状、重傷の祐斗は『騎士』のスピードを活かすことはおろかまともに動くこともできない。

今回のゲームにおいて祐斗が活躍する機会はおそらくもうないだろう。

祐斗を『犠牲』にして自分たちだけでも逃げる選択肢もあった。ゲームではそういった非情とも取れる判断が求められる場合も、その判断が最終的な勝利に繋がる場合だってある。

だが、仲間を爆発の渦中に捨て置くなど、このときの秀次と小猫にはできなかった。

 

「若いわね。まあ、初めてのレーティングゲームだもの。犠牲(サクリファイス)を敬遠する気持ちもわからなくはないわ。──けど、その甘さがあなたたち全体の敗因になる」

 

祐斗を抱えて飛ぶ小猫に狙いを定め、杖を向けるユーベルーナ。

今度は一点集中の高火力の爆破で二人まとめて確実に撃破すると、そう冷笑を浮かべる彼女のもとに六つの炎の塊が飛来する。

 

「また邪魔を……!」

 

炎を放った相手は当然秀次だ。咄嗟に防御魔方陣を展開して攻撃を防いだユーベルーナだが、舌打ちをして地上にいる敵を睨めつける。

秀次はまだ悪魔になったばかりで、悪魔の翼で飛ぶことはできない。地上はいまだに爆破の連続が起こり続けている。このままでは彼も巻き込まれて今度こそリタイヤするだろう。

もっとも──そんなことは秀次自身が一番よくわかっていることだが。

 

「血は炎──発破」

 

秀次は足の裏から炎を放出し、小規模の爆発を起こして空に飛び上がった。さらにそのまま炎を噴き出し続け、高度を上昇させていく。

 

(飛び回るのはまだ無理だけど、空中で浮遊し続けることくらいはいけるか)

 

現状、この場に残っているグレモリー眷属でユーベルーナに唯一対抗できる存在は秀次だ。

朱乃のような卓越した魔力の技術はないが、神器を使って魔力を炎として放出することで遠距離での戦闘が可能。空中を飛んで爆撃を続けるユーベルーナと撃ち合いができる。

 

「あんたの相手は俺だ。ライザーの『女王(クイーン)』」

 

「いいでしょう。遊んであげるわ。坊や」

 

ライザー眷属最強の『女王』ユーベルーナと、

リアス・グレモリー眷属『戦車』兵藤秀次による魔力の撃ち合いが始まった。

 


 


 

始まる空中戦──当然のことながら、優勢なのはユーベルーナだ。

 

「どうしたの坊や。口だけのつまらない男なのかしら?」

 

「クソッ……!」

 

秀次は悪態をつきながらも、足から噴き出す炎を調節してなんとか空中に身を置き続ける。同時にユーベルーナに向かって四つの炎の塊を撃つ。

対するユーベルーナは悪魔の翼を羽ばたかせて、空中を舞うように秀次の攻撃を避ける。反撃に爆発する魔力を前方に撃ち出す。

空中戦でユーベルーナが優勢な理由は単純だ。

秀次はあくまでも足の裏から噴き出す炎で浮き上がっているだけであり、自由自在に飛び回れるわけではない。攻撃を避けることは不可能だ。

 

「オホホ!まともに空を飛ぶこともできないようですわね。それでよくもまあ、私たちを倒すだなんて大口を叩いたものですわ」

 

(本当にオホホって笑うヒトいるんだ……)

 

レイヴェルの笑い方に場違いな感想を抱きつつ、秀次は開いた両手を上下に合わせて、バランスボールくらいの炎の塊を生み出す。

 

「血は炎──拡散」

 

一つにまとめられていた炎が、いくつもの小さな炎の鏃となって射出される。

撃ち出された炎の鏃が爆破の魔力を穿ち、一瞬輝いたかと思えば空中で激しい爆発が起こった。

瞬く間に黒煙が周囲に広がっていき、秀次とユーベルーナの姿を隠していく。

 

(姿は見えない……そう思っているのでしょう)

 

爆破の大きなデメリットとして、相手のダメージや生死の確認が難しいことが挙げられる。

爆発の魔力を扱うユーベルーナがそれを知らないはずもなく──。

彼女はその場から少し離れて黒煙の向こう側を注意深く見つめていた。

足先から炎を噴き出している以上、煙の向こう側で明るく光るものがあればそれが秀次だ。

そして、彼女は見つけた。黒煙のなかで帯状に光る二つの炎を。

 

(残念ね。もう幕引きだなんて)

 

そう思いながらもほくそ笑むユーベルーナ。

これ以上、戦いを長引かせるつもりはない。一撃で終わらせてやると、杖を構えた瞬間。

 

「──やらせません」

 

「なに!?」

 

ユーベルーナの背後に悪魔の翼を生やした小猫が現れた。

爆発から逃れた小猫は祐斗を安全圏に置き、すぐに戦場へ戻ってきていた。

何度も繰り返し聞こえる爆発音。空中を飛び交う二つの魔力を地上から見つめていた彼女は、黒煙を抜けて何かに狙いを定めているユーベルーナの姿を誰よりも早く発見していた。

 

「えい、えい、とりゃ」

 

「かわいい顔と声だけど、ちゃんと急所を狙ってくるじゃない……!」

 

顎を狙った小猫の左フックを避け、鳩尾を突き上げるように繰り出される右拳を杖で受け止める。

──が、続く三撃目の飛び膝蹴りがユーベルーナの腹部に突き刺さった。

空気を吐き出して痛みに顔を歪めながら、ユーベルーナは小猫から一度距離を置く。

 

「やるじゃないの……。あなた、うちの雪蘭やイザベラよりも強いんじゃないかしら。小柄な体のくせにずいぶんと鍛えているのね」

 

「……小柄は余計です」

 

「でも、距離を離せばこちらのものよ」

 

小猫に杖を向けて爆破しようとしたそのとき。

背後の黒煙から秀次が飛び出した。

足裏から炎を噴出させた彼は悪魔の翼を広げ、真っすぐユーベルーナへと向かってくる。突き出された右拳は炎を纏って赤熱化していた。

 

「くっ、めんどうな!」

 

真っすぐ突っ込んだ秀次は避けられたが、回避の隙を逃さず小猫がユーベルーナの頭上を取った。

両手を組み合わせた小猫はユーベルーナの脳天めがけて力任せに振り下ろす。

咄嗟の判断でユーベルーナは杖を盾にしたが、小猫のパワーに押し負けて高度を下げる。

 

「血は炎ッ!」

 

ダメ押しと言わんばかりに秀次も炎を放つ。

彼は先ほどの打撃を避けられてバランスを失い、頭から地面に向かって落下していたが、それでも攻撃の手を緩めることはなかった。

燃える水と合わせた大火力をユーベルーナは防御魔方陣を展開して防ぐ。だが勢いを殺すことができず、彼女も地上に落とされてしまった。

 

「まったく、いいコンビネーションだわ」

 

忌々しげに褒め言葉を送るユーベルーナ。

無事に着地した彼女の視線の先には、悪魔の翼を広げて徐々に降下してくる小猫。

そして、小猫に右足首を掴まれた状態で宙吊りになっている秀次がいた。

 

「助けてくれてどうもありがとう。だけど他に持ち方なかったかな!?」

 

「……我慢してください。私が拾わなかったら先輩はいまごろミンチになってましたよ」

 

「それは確かにイヤだけども……」

 

地面に降り立つ寸前、小猫が足首を掴んでいた手を離すと、秀次は宙返りをして着地する。

降り立った二人と真正面から視線を交わすユーベルーナであったが、不敵な笑みを浮かべる。

 

「知ってる?チェスの駒にはひとつひとつ価値が設定されているの。『女王』には『兵士』の駒、九つ分の価値があると言われているわ。それに比べて『戦車』は五つ分とされている。この意味がわかるかしら?」

 

「つまり、俺と塔城がうまく連携すれば『兵士』の駒十個分の活躍ができるってわけだ。あんたを倒す可能性も十分にある」

 

「ありえない。とも言いきれない恐ろしさをあなたたちから感じたわ。だから──そんな可能性は早々に潰しておきましょう」

 

ユーベルーナが指を鳴らした瞬間、秀次の足元に見知らぬ魔方陣が展開される。

魔方陣から発される輝きが彼の周囲を覆い、隠すように黒く染め上がっていく。

 

「これは……結界ですか」

 

「その通りよ、お嬢さん。あなたたちのコンビネーションは見事だった。だから分断することにしたの。二人がかりなら厄介でも、一人ずつなら問題なく倒せるもの」

 

得意げに笑いかけるユーベルーナに対して、小猫の表情は険しいものになっていく。

そして、結界に閉じ込められた秀次は自分の置かれた状況が全くとして理解できていない。周囲は暗く閉ざされ、真っ黒な壁によって外界と完全にシャットアウトされている。

何かに閉じ込められてしまったこと以外、何もわからないまま、時間が過ぎていく。

 

「くそっ!クソォォォォォッ!ここから出せ!」

 

両の拳を握り締め、何度も黒の壁を叩くが、ユーベルーナが張った障壁はびくともしない。

結界内で秀次の無念の叫びが響き渡る。

それからしばらくして、彼の叫びが獣じみた絶叫に変わったことなど──誰も知らなかった。

 


 


 

「っ……」

 

「そろそろ負けを認めたらどうかしら」

 

「相方がいなくなって、あなたにまだ勝ち目があるとお思いですの?」

 

ユーベルーナの爆撃から走って逃れる小猫。

負けたくない。自分を助けてくれた主のためにもまだ倒れるわけにはいかない。

そう歯を食いしばって攻撃を避け続けていたが、小猫とて体力の限界がある。それにユーベルーナの爆撃を完全に避けることはできなかった。

制服の所々が破け、白い肌が焼け焦げている。流れ出る血と脂汗をぬぐう余裕もない。

 

「でも、まだ倒れるわけには、いかない……!」

 

「あなたがそこまで意地を張る理由は何かしら?主であるリアス・グレモリーへ恩義があるから?それとも──」

 

途中で言葉を切り、ユーベルーナは冷笑を浮かべて小猫にその言葉を突きつける。

 

主を殺した姉(・・・・・・)(あなた)には、いまの居場所以外に身を寄せる場所がないから?」

 

「っ!?」

 

ユーベルーナの口から姉という単語が出た瞬間、小猫は驚愕に顔を歪ませた。

なぜ、それを知っている……?自分の過去を知っている者が現れたことで激しく動揺し、立ち止まる小猫の足元で魔力の輝きが起こる。

ユーベルーナはすでに爆発の準備を整えている。予想よりも奮戦されたが、今度こそ終わりだと魔力を起爆させようとした──そのときだ。

 

──パキッ、パキッと、ガラスにヒビが入るような音が聞こえてきたのは。

 

「この音……まさか!?」

 

音の発生源に目を向けるユーベルーナ。

驚きに満ちた彼女の視線の先にあるのは、先ほど彼女自身が創り出した黒い結界。

結界内から外の状況を確認することはできず、簡単には破壊されないよう、強度も十全なものとして創った結界が──ヒビ割れている。

まもなく全体にヒビが入り、結界は砕け散った。

儚く砕け散った結界の中心部には、閉じ込められていた少年──兵藤秀次が立っていた。

 

「まさか……自力で私の結界を?」

 

「シュージ先輩──っ」

 

結界から出てきた男の名前を呼んだ瞬間、小猫は肌を刺すような寒気を感じ取る。

突然の寒さを訝しげに思ったそのとき、彼女は自分の体が小刻みに震えているのに気づく。吐き出した息も白く染まっている。

小猫だけではない。ユーベルーナも、レイヴェルでさえも同じように白い息を吐き、寒さに体を震わせている。どうやら周囲の気温そのものがどんどん下がっているようだ。

そして、気温を下げている原因──冷気の発生元が秀次であることも彼女たちは気づいていた。

 

『Dragon disaster burst Element!!』

 

『Ice activation!!』

 

コブくらいのサイズだった角がより鋭く大きくなって額から突き出している。

まるで天に逆らうように、天を突き刺すように。

さらにこれまでは灼熱の炎の如き橙色の光と熱量を放っていたのに、現在は凍てつくような青色の光と冷気を放っていた。

そして、秀次自身の様子も変わっている。虚ろな表情にだらりと下ろした腕。彼の深海のような瞳がユーベルーナを捉えた瞬間──。

 

「ッッ──ガァァァァァアアアアッッ!!」

 

飢えた獣のように大きく口を開け、聞いた者の体を芯から震わせる咆哮を合図に、理性を完全に消失させた秀次がその場から飛び出す。

 

「明らかに普通じゃないわね。暴走かしら?でも理性のない獣に負けるほど、私は弱くないわよ」

 

彼の豹変ぶりに驚愕していたユーベルーナ。

だが真っすぐ走って向かってくる相手を見ると、余裕の表情となって杖を向けた。

先ほどまでの炎を使った移動のほうが速かった。真正面からただ走って向かってくる相手に攻撃を外すことのほうが難しいだろう。

 

「これで終わりよ!グレモリーの『戦車(ルーク)』!」

 

「先輩っ!避けてください!」

 

小猫の叫びも虚しく、秀次はユーベルーナが起こした大爆発によって吹き飛ぶ────

 

「ガァァァァッ!」

 

──ことはなかった。魔力が起爆する瞬間、秀次は腕を振るって前方を薙ぎ払った。

たったそれだけ。それだけで、ユーベルーナが撃ち放った爆破の魔力が凍った。

 

「なっ!?私の魔力を凍らせたというの!?」

 

「ガアアアアアアァァッッ!!」

 

「くっ……来るなぁ!」

 

余裕が一瞬で消え失せたユーベルーナは爆破の魔力を乱射する。自身が爆破の範囲に巻き込まれないギリギリの距離で即座に起爆させた。これなら爆発する前に凍らせることは不可能──。

だがしかし、秀次は躊躇なくユーベルーナに向かって進み続けた。

爆風が彼の体に触れる寸前、爆熱が彼の体を焼く直前、爆炎が花弁となって咲くよりも速く、秀次から発される冷気がすべてを凍らせる。

 

(このガキっ、止まらない!?)

 

秀次の冷気はユーベルーナの魔力に勝っている。

まだ悪魔に転生してすぐの、元は普通の人間だったはずの、ただの小僧っ子に自分が負けている。

 

単純な出力(パワー)で自分が押し負けている。

 

(ありえない!)

 

突きつけられた敗北感を否定しながらも、ユーベルーナはその場から飛んで離れようとする。相手は悪魔の翼で飛ぶことができないのだから、空中戦ではまだ自分が勝っているはずだ。

 

「──え?」

 

自分にとって有利な空へと、飛び出そうとしたユーベルーナ。

だが、足が動かない。爆発を前にしても怯まずに突っ込んでくる秀次への恐怖心──ではない。

いくら翼を羽ばたかせようと、足に力を込めようとも、彼女の体はちっとも浮かなかった。

なぜなら、彼女の足はすでに氷に包まれ、地面に貼り付けられていたから。

 

「そんなっ!?炎と水、それに氷まで!三つの属性を操れるなんて、そんなの属性系神器(セイクリッド・ギア)の範疇を超えて──」

 

ユーベルーナの驚愕の声が途切れる。眼前まで迫った秀次の目を彼女は見てしまった。

闇だった。一切の光が届かない、深海の如き瞳。

それに真正面から睨まれながらも、彼女は全身全霊で爆破の魔力を撃ち放つ。

そうしなければ、殺されると確信したから。

 

「ああああああ──っ!」

 

「ラアアアアアアッッ!!」

 

魔力が爆発する。凍る。爆発する。凍る。凍る。

 

凍る──。

爆発するよりも速く凍る──。

 

凍って、氷って、冰りついた。

 

魔力が起爆するよりも速く、秀次の冷気をまとった拳が打ち出され、ユーベルーナの魔力を真正面から打ち砕く。

そして、とうとう彼女の体に秀次の拳が届いた。続く拳打がユーベルーナの顔を打ち抜く。

殴られる。凍る。殴られる。凍って、殴られた。

その拳は彼女がリタイヤするまで、フィールドから消えてなくなるまで止まらない。

 

「オォォォォオオッ!」

 

最後の一発(ラストアタック)。大きく振りかぶった秀次の右拳がユーベルーナを吹き飛ばした。

彼女の体は建物の壁にぶつかると、殴られた勢いのまま壁を突き抜けていった。

敵を倒し、一息つくこともない秀次。正気を完全に失っている彼が次に目を向けたのは──。

 

「ひうっ!」

 

空中に浮かぶ火の鳥に『怪物』は狙いをつける。

秀次の一睨みを受けただけで、レイヴェルの恐怖心は最大になった。

同時に警鐘が頭のなかで鳴り響く。逃げなければ殺される。死ぬまで、殺され続けると──。

 

「わ、わたし、逃げ、にげなきゃ──」

 

炎の翼を羽ばたかせるレイヴェルに合計三本の氷柱が突き刺さった。

左足に一本。胴体に一本。残りの一本が彼女の美しい顔を吹き飛ばす。

不死身のため死ぬことはないが、容赦のない攻撃を受けたレイヴェルは地に落ちた。

 

「うっ──っあ」

 

フェニックスの不死性で回復したレイヴェル。

尻もちをついた彼女が顔を上げれば、自分を見下ろすように秀次が目の前に立っていた。

 

「フゥゥルルルッ」

 

牙を剥き、息を噴く『怪物』の、真っ暗な双眸が自分を見抜いている。

自分まで正気を失いそうになる狂気の瞳。蛇に睨まれた蛙のように、レイヴェルは逃げるという本能すらも失ってしまった。

震える少女を前にして、理性のない『怪物』は握り締めた拳を振り上げる──。

 

「そこまで、だよ……!」

 

「……止まってください、先輩」

 

『怪物』の暴虐を止めたのは、仲間たちの手。

秀次が振り上げた腕を祐斗が抑え、小猫が彼の体を後ろから抱き留める。

しかし、それでも秀次は唸り声をあげながら内に秘める暴力性を膨らませ続けた。隆起する筋肉と狂気を孕んだ瞳で眼前の敵を睨む。

 

「っあ──」

 

睨んで──レイヴェルの顔を見た。絶望に染まった表情でへたり込み、恐怖の涙を流し、失禁するほどに怯えてしまった少女の姿を見て。

 

「あ、ぁぁ……っ」

 

秀次の体から力が抜け落ちた。暴力性を失った彼に訪れたものは、途方もない虚無感だ。

 

『なんで……なんで、こんなにひどいことが出来るの?』

 

地面に座り込む彼の頭のなかで、糾弾の声と共にいつかの記憶が蘇る。

 

『助けたかった?こんなにひどいことをするのが何の助けになるのよ!』

 

ごめん、ごめんなさいと、何度も謝った。けれども目の前の少女は許してくれなかった。

 

『謝っても、もう遅いのよ……』

 

そう、遅すぎた。やり方を間違えた。どうしていつもこうなるのか。

 

「何を、やってんだ俺は……っ」

 

後悔のにじむ声を発して、秀次は歪みきった自分の顔を両手で覆い隠す。

普段の彼からは想像できない弱りきった姿。縮こまる彼の背中を仲間たちは黙って見ていた。

そのときだ。

 

「レイヴェルさまに、触れるなぁぁぁぁっ!」

 

激しく痛めつけられ、全身に痛ましい傷と凍傷を受けたユーベルーナが最後の力を振り絞った。

放たれた爆炎が秀次に向かってくる。さすがに秀次も攻撃に気づきはしたが、防御も回避もできる状況ではなかった。

──いや、いっそのこと、この攻撃を受けて自分は消えよう。消えてしまいたいとさえ思い、その場で秀次は黙って目を閉じた。

 

「……?」

 

おかしい。爆発音はした。爆風も体を叩いた。

だが、ダメージがない。妙だと思った秀次が目を開けてみれば、自分と小猫を庇うように、祐斗が両腕を広げて眼前に立っているではないか。

唖然とする小猫と秀次。祐斗は彼らを最後に守ったことを誇りに思いながら爽やかに笑ってフィールドから消えていった。

同時にユーベルーナも瓦礫の上で仰向けになり、その体が光に包まれていく。

 

『リアス・グレモリーさまの「騎士(ナイト)」一名、ライザー・フェニックスさまの「女王(クイーン)」、リタイヤ』

 

グレイフィアの声が響き渡り、秀次は苦しげな表情で地面を叩いた。

 

「何がっ、グレモリー眷属の『盾』だ……ッ!『盾』が仲間に守られてどうすんだよっ……!」

 

「……シュージ先輩」

 

奥歯を嚙み締める秀次を見て、同じく祐斗に守られた小猫は心配げな視線を送る。

彼女の顔を見た瞬間、先ほどまでの醜態を思い出してしまい、秀次はより情けなさを感じた。

だが、後悔に膝を屈している暇はないらしい。

新校舎の屋上のほうから爆発音が聞こえ、秀次たちは慌てて顔を向ける。

ボロボロになった一誠が仰向けになって倒れ、彼をリアスが受け止める瞬間を二人は見た。

 

「先輩、立ってください。祐斗先輩は身を挺して私たちを守ってくれました。だったら、残された私たちにはやるべきことがあると思います」

 

小猫の力強い言葉を聞いたその瞬間、秀次の曇っていた瞳にわずかな光が宿る。

 

『ゴメンね。部長を頼むよ』

 

フィールドから消え去る瞬間、声を出すことはなかったが祐斗は確かにそう言った。そのことに気づいた秀次は歯を食いしばって立ち上がる。

立ち上がった彼はまずレイヴェルに近づいた。

いまだ恐怖に縛り付けられている様子の彼女に手を伸ばし、その懐を弄った。

 

「んっ……!」

 

艶のある声を漏らす彼女の懐から、秀次はとある物を奪い取っていた。

フェニックスの涙。その小瓶を手にした彼はレイヴェルの目を真っ直ぐ見て言い放つ。

 

「レイヴェル・フェニックスだったか。戦う気がないならいますぐリタイヤしろ。やる気なら、容赦なくぶっ潰してやる。──わかったな!?」

 

鬼の形相でそう言われ、レイヴェルは涙ながらに何度もその場で頷いた。

秀次が奪い取ったフェニックスの涙をズボンのポケットにしまっていると、小猫が隣に立つ。

 

「いきなり何をしてるのかと思ったら……この変態窃盗犯」

 

「言うな!死にたくなる!」

 

「じゃあその前に仕事をしてきてください」

 

小猫はそう言うと、秀次を持ち上げた。

一切の躊躇もなく持ち上げ、新校舎に向かって秀次をぶん投げた。

 

「なぁぁぁぁっ!?あとで覚えてろよっ、豆粒ドチビがぁぁぁぁぁっ!」

 

ぶん投げられた勢いのまま、秀次は足の裏から炎を噴き出し、新校舎の真上に飛び上がる。

火の勢いを弱め、彼は屋上に降り立った。背後にはボロボロの一誠と涙を流すリアスとアーシア。

正面には苛立った様子のライザー。

仲間と兄を背に、敵と真っ向から相打つ。




本作で一番文字数が多くなった今話。前作でも設定はあったけど、結局暴走することはなかったなと思って書きました。

ユーベルーナ、おまえは間違いなく今回のゲームのMVPだったぞ。
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