ハイスクールD×D 終焉に抗う暁の太陽   作:ドラゴン大好きT

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大変、お待たせしました…。フェニックス編を書き終えたあとの展開を考えていたら、燃え尽き症候群に陥ってしまって…。


第22話 不死の炎よ、深淵の穴蔵へ

 

秀次がユーベルーナを追い詰める少し前。

リアスたちと合流した一誠。彼は主のため、ここまで送ってくれた仲間のために戦った。

 

『赤龍帝の籠手』の倍化能力は強力だがその分、肉体への負担は並の神器を遥かに上回る。

ライザーとの戦いに至るまで多くの敵と戦闘をしてきた一誠の体力は限界を迎えようとしている。それでも戦い続けられているのは、回復役であるアーシアがまだ残っていること。

 

そして、本来であれば一誠の低い基礎能力を向上させる『プロモーション』を使っていない。

昇格は能力を向上させるが、同時に体力も使う。たとえ使用したとしても、現在の一誠では残り少ない体力をいたずらに消費していたことだろう。

 

だが、プロモーションなしの一誠と魔力を使い果たす寸前のリアスでは、ライザーとの真っ向勝負で勝ち目はない。勝ち目があるとするなら、それは真っ向勝負を捨てた苦肉の策。

 

作戦を実行に移すためにも、残りの眷属たちが駆けつけるまで奮戦するリアスたちのもとに、あのアナウンスが聞こえてきた。

 

『リアス・グレモリーさまの「騎士」一名、ライザー・フェニックスさまの「女王」、リタイヤ』

 

祐斗がリタイヤしたという悪いニュースと、相手の『女王』が撃破されたという最高のニュースが同時に彼らのもとへ送られてきた。

 

だがしかし、喜ぶことはできなかった。

ユーベルーナが陥落した事実を知ったライザーが本気になったからだ。彼の本気の攻撃を食らった一誠は瀕死に追いやられてしまう。

 

まさに崖っぷち──。リアスの敗北は確定したと誰もが思ったそのとき、秀次が旧校舎の屋上に降り立った。

 


 


 

駆けつけた秀次の目の前にはいたく不機嫌そうなライザーが仁王立ちし、背後には瀕死の一誠を抱き寄せて涙を流しているリアスとアーシアが座り込んでいる。

 

どうやら、間一髪の状況に自分は飛び込んでしまったらしいと、秀次は目を細めていた。

 

「おまえも来たか、リアスの『戦車』。ユーベルーナが撃破されたとアナウンスが入ったが、まさかおまえが倒したのか?」

 

ライザーの問いかけに秀次は無言を返す。

わざわざ答えてやる義理はないという判断だ。

秀次はライザーから視線を外さず、ズボンのポケットから小瓶を取り出すと、後方のリアスたちに投げ渡した。

 

「これは……!」

 

「フェニックスの涙です。一誠に使ってあげてください」

 

「あなた、これをどこで……」

 

予想外の品物を出されたことでリアスは驚いていたが、それはライザーも同じだった。

 

「おい、おまえ……それはうちの物だ。ユーベルーナとレイヴェルに持たせていたはずだ。なぜおまえがそれを持っている?まさか──」

 

『ライザー・フェニックスさまの「僧侶」一名、リタイヤ』

 

最悪の想像をするライザーであったが、肯定するようにレイヴェルのリタイヤが告げられた。

ありえない。レイヴェルは確かに戦闘経験は少ないが、自分と同じフェニックス家の悪魔だ。不死身の彼女が倒されるはずがない。

いや、いまのライザーにとってそんなことはどうでもよかった。

 

「貴様……ッ!俺の妹に何をしたっ!」

 

「ゲームに参加した以上、戦闘は避けられない。あんたがあの日、俺と一誠に言ったことだ」

 

ライザーの問いに後ろめたい気持ちを飲み込み、表情のない顔で淡々と告げる秀次。

戦いをするのだから、相手を叩き潰す覚悟はしていたつもりだった。

だが、あのような惨状は望んでいなかった。

暴走した際の記憶は色あせることなく、秀次に刻み込まれている。自己嫌悪から思わず震えるほどに拳を握り締めていたそのとき。

 

「ユーベルーナに続き、レイヴェルまで……。俺の妹を傷つけた罪は万死であっても贖えんぞ!灰すら残さず消し飛べクソガキぃっ!」

 

妹を傷つけられたことで激怒したライザーは、秀次に向かって全力の火球を撃ち出す。

向かってくる巨大な炎の塊。秀次は迎え撃とうと右腕を前に構えて神器に意識を傾ける。

瞬間、角から発される光と属性が変化し、青い輝きと共に辺りに冷気を放ち始めた。

ユーベルーナの爆発の魔力を凍らせたように、今度はライザーの炎を凍らせようと、秀次は火球が衝突する寸前で右腕を薙いだ。

 

しかし──。

 

「っ──!」

 

ライザーの炎と秀次の冷気が衝突した瞬間、彼らの間で目が眩むような光熱が爆発する。

火球に触れた冷気が一気に膨張して爆発した。

冷気を吹き飛ばし、なおも勢いを欠片も損なっていない炎は秀次の体を激しく吹き飛ばす。

 

「がっ……は……!」

 

ごろごろと後方に転がっていく秀次。一撃で体に深刻なダメージを負わされた。なんとか致命傷は免れたが、火球に触れた右腕は見ることもためらうほどに無惨な状態になってしまう。

 

(力が……入らねえ……)

 

尋常ではない痛みに思考を塗り潰されながらも、秀次は妙な違和感を覚える。

体中から溢れていた魔力が一気に失われた。力が不自然なほどに入らない。これまでのダメージの蓄積や、戦闘による疲労とはまた違う気がした。

まるで熱によって溶かされた氷が、水のように流れていくような──。

 

(まさかこの神器(セイクリッド・ギア)……氷を扱うときは火に弱くなるのか……?弱点を突かれると所有者も弱体化する、とか……?)

 

考えてみれば当然のことなのかもしれない。

氷は熱によって溶ける。火に温められた冷気は本来の冷たさを失ってしまう。

致命的な判断のミス。自分の神器の弱点を知った秀次は驚きよりもまず後悔していた。

あのとき、氷での凍結ではなく炎での相殺を狙っていたのならまだ戦えたはずだ。

目の前で無様に倒れている敵を、さしものライザーも見逃しはしないだろう。

 

「クソっ……たれぇ……」

 

「終わりだ。貴様は燃えて死ね」

 

悪態をつく秀次に向けてトドメの一撃をくれてやろうと、掲げた手に炎を出現させるライザー。

だが次の瞬間、ライザーの頭が背後から蹴り砕かれ、飛び蹴りした小猫が追撃に出る。

 

「まだです。私もいます」

 

「チッ!リアスのもう一人の『戦車』か!」

 

瞬時に頭を再生させたライザーは炎をまとった拳打で小猫と応戦する。

 

「シュージさん!いま回復しますから!」

 

「たす、かる……」

 

トドメを免れた秀次にアーシアは急いで近づき、怪我が特に酷い右腕から回復を始めた。朦朧とする意識がゆっくりと正常になっていき、あれほど感じていた痛みがすぐに和らいでいった。

だが疲労は消えず、失った魔力も戻りはしない。依然として苦しい状況に変わりはなかった。

 

「アーシア、回復ありがとう」

 

「いえ、私にはこれくらいしかできることがなくって……。イッセーさんもシュージさんも必死に戦って、こんなにも傷ついているのに、私は守られてばっかりで……」

 

「……そんなに気に病まなくてもいい。一誠は大丈夫か?」

 

自分の無力を嘆くアーシアに言葉をかけたのち、秀次は大怪我を負った一誠に目を向ける。

大火傷に出血。何度も殴られたことで腫れ上がっていた顔も綺麗に回復していた。

気絶している一誠を膝に寝かせているリアスの手には中身のないフェニックスの涙の小瓶が握られていて、言った通り回復してくれたようだ。

そんなことをしている場合ではないと理解はしているが、回復を終えた秀次は立ち上がって一誠とリアスに歩み寄る。

 

「ったく……無茶しすぎだろうが。俺たちが来るまで耐えきってくれたのはうれしいけどよ」

 

一誠の籠手が装着された左腕を取って、秀次は自分の額に軽く触れさせる。

 

(我ながら気持ちの悪いことをする)

 

呆れた笑いを浮かべながら秀次は一誠の左腕を離すと、続いてリアスの目を真っ直ぐ見た。

 

「まだ諦めてないですよね、部長。俺も塔城もアーシアも一誠も残ってます。俺たちが勝つ可能性はまだありますよ」

 

「でも、あなたも限界でしょう!傷も酷いし、体力や魔力だってもう底をついてるでしょ!?そんな状態でライザーと渡り合えるわけがない!」

 

「ッ──!限界だあっ!?んなもん知ったことじゃねえ!アンタが諦めちまったら、ここまで頑張ってきた全員の努力を無駄にしちまうんだぞっ!甘えてんじゃねえよ、王さまがよぉ!!」

 

弱音を吐くリアスの胸ぐらをつかみ上げ、牙を剥いて秀次は叱咤する。

直前の暴走で自己嫌悪に苛まれ、全てを投げ出そうとした自分とリアスを重ねてしまったのだ。

だが、それはいけない。彼女の勝利のために努力してきた自分たちを。彼女の想いのために戦い、散っていった仲間たちを踏みにじるような行為は許されない。

 

「戦ってください、一緒に。抗ってください、最後まで。俺たちはまだ負けていない」

 

唖然とするリアスの目を真っ直ぐ見つめて最後にそう言うと、秀次はライザーのほうへ向き直り、駆け出していった。

 


 


 

「待たせたな!」

 

「……遅いです」

 

疲労で重い足で戦地に踏み込む秀次。返事をする小猫の顔には殴られた痣と火傷の痕がある。

秀次は右足裏から炎を噴出させ、勢いを乗せた回し蹴りでライザーの側頭部を蹴り抜き、小猫はライザーの胸部を右ストレートで突いた。

頭と心臓の急所を同時に叩く容赦のない攻撃。

並の相手なら死んでもおかしくない。

 

「ふん……効かんわ!」

 

しかし、相手は不死身の存在。ダメージは一瞬で回復され、反撃は鋭く重い。

接近戦では眷属内最強の小猫と、並外れた身体能力を持つ秀次だが、対するライザーも二人を相手に負けない戦闘技術を持っていた。

そして、彼の強さは不死性と拳だけではない。

 

「燃え尽きろ!」

 

ライザーは自慢の炎を足元に放ち、間合いを詰める二人を屋上の屋根ごと吹き飛ばす。

炎熱から身を守るように両腕を構え、二人は爆風に煽られながらも距離を取った。

だがしかし、後退した二人はほぼ同時のタイミングでその場で膝をつく。顔から流れ出る異常な汗の量が彼らの限界を物語っていた。

 

「やべえ……わかっちゃいたが強え。炎の扱い。火力の強さ。格闘技術の高さ。ぶっちゃけ、現時点での俺の上位互換じゃねえか……」

 

「はぁ……はぁ、息苦しい……」

 

秀次は炎使いとして炎熱への耐性を持つが、小猫は『戦車』としての防御力しかない。体の外側は攻撃に強くとも、内側を焼いてくる熱気に対しては防御する力がなかった。

 

「苦しいか!?俺が恐ろしいか!そうだ、それでいい!おまえたち下級悪魔が俺に勝てるわけがないのだからな!」

 

余裕のない二人に対してまだ余力があるように見えるライザー。

二人も負けじと反撃に出る。秀次の炎をまとわせた拳の連打をライザーはあえて受け、カウンターの一発を腹を抉るように打ち返す。

息と血の塊を吐く秀次の頭をつかみ上げ、その顔に膝蹴りを叩き込もうとした瞬間、ライザーの頭上に跳び上がった小猫が踵を落とす。

しかし、追撃を見越していたのか、ライザーは踵落としを上段受けで防いだ。

 

「頑丈さが取り柄の『戦車』とはいえ、そろそろ限界だろう。技のキレも力も落ちている。どちらも諦めて沈め!」

 

足を掴んでライザーは小猫の体を振り回して秀次を殴りつけた。

小猫を受け止めるように防御する秀次だが、衝突した勢いで二人は地面を転がって吹き飛ぶ。

痛みを堪えて立ち上がる二人。小猫は額が割れたのか頭から血を流し、秀次も産まれたての子鹿のように足をぶるぶると震わせている。

 

「塔城、おまえ……よく立ってられるな。さっきのはさすがに効いたろ」

 

「……ええ。けど、私は悪魔としてはシュージ先輩よりも先輩なんです。先に倒れるのは先輩として恥ずかしいじゃないですか」

 

「ハッ、おまえも大概負けず嫌いだな。けどな、俺は塔城よりも一個年上の男子だ。先に倒れちまったら一生もんの恥になるだろうが」

 

──互いに限界なんてとっくに超えている。

それでも隣に立っている仲間が倒れるよりも先に自分が倒れることなど我慢ならなかった。

とはいえ、このまま連携して攻めたところでライザーは倒せない。二人もそれは理解している。

自分たちの体力の限界から鑑みても次の攻防が最後になるだろう。

 

「──先に倒れたほうはあとで駅前のスイーツを相手に奢る。勝ったあとの褒美にしては悪くねえと思わねえか?」

 

「──いいですね。その勝負、乗ります」

 

にやりと笑う秀次と小猫は横目で見合い、同時にその場から飛び出す。

体は重く、魔力の大半も失い、体力も残り僅か。それでも走って向かってくる二人にライザーは複数の火球で迎え撃つ。火球が旧校舎の屋上を吹き飛ばすなか、二人は掻い潜るように走った。

しかし、一発の火球が秀次の背後に着弾すると、彼は爆風に煽られて体勢を崩してしまう。

もとより震える足で走っていたのだ。一度よろけてしまえばそのまま地面に倒れる──。

 

「っ──!?」

 

そのとき、秀次は言葉にならない声を発した。

小猫が秀次の手首を掴んで走っていたのだ。こちらに顔を向けて穏やかに笑う少女を見て、秀次はただ愕然としていた。

小猫は力を振り絞って秀次を前に引っ張り出す。秀次は空中で膝を屈めている体勢になり、その足を小猫は万力の力を込めて蹴り出した。

瞬間──中空をふっ飛ぶ秀次の真下を特大の火球が通り過ぎる。当たっていれば確実にリタイヤしていたであろうと一目で理解した。

そんな凶悪な代物が、秀次を蹴り出したことで動きを止めた小猫に向かっていく。

 

そして──空気を震わす爆発音が鳴り響いた。

 

『リアス・グレモリーさまの「戦車」一名、リタイヤ』

 

「ッ──アアアアアアアアァァッッ!!」

 

小猫のリタイヤを知らせるアナウンスを掻き消すように、秀次は砲声を響かせながらライザーに向かって突き進む。対するライザーも炎を両手にまとわせ、迎え撃つ体勢を取った。

 

「これで終わりだ!仲間と共に消えろ!」

 

相手はすでにリタイヤ寸前の状態。カウンター気味に攻撃を食らわせればそれだけで落ちる。

そう確信して右拳を引いた瞬間だった。

 

「爆塊ッッ!!」

 

「なにぃ!?」

 

秀次は上半身から炎を噴き出させ、ライザーに真正面から飛びついた。

小猫に蹴り出されたことで加速し、背中から噴き出す炎によってさらに勢いが増したタックルはライザーの体を激しく後退させる。

 

「落ちろ火の鳥野郎ォォォォォッ!」

 

ある程度後退したところで秀次はライザーを押し倒し、旧校舎の屋上を破壊して落下する。

決して離さないよう必死の思いでライザーの体を抱きしめながら、勢いが乗った秀次は二階の教室すら破壊し、一階の玄関ホールまで落ちた。

 

「すぅ……ぐはっ!がはっ!」

 

落下の衝撃であばら骨が数本折れ、内臓にも少なくないダメージを負った秀次。息を吸おうとしているのに吐いてしまう始末だ。

地面にうずくまる秀次とは対照的に、ライザーはすでに傷を回復させて立ち上がっていた。

 

「最後は自爆覚悟の突貫か。赤龍帝の『兵士』もだが、たったの十日間でよくここまで成長してきたものだ。リアスの手腕もあるのだろうが、おまえたちの努力は敵である俺にも伝わった」

 

一歩ずつ確かな足取りで秀次に近づくライザー。その右手には紅蓮の炎が宿っている。

 

「さあ、今度こそ幕引きだ。我がフェニックスの炎で散るが──い?」

 

散るがいい。そう告げようとしたライザーは足場の妙な不安定さに気づいて言葉を切る。

次の瞬間、バキッという音と共に足場が崩れる。──否、足元にぽっかりと穴が空いた。

 

「なっ──!これは落とし罠か!?」

 

その正体に気づいたときにはもう遅い。ライザーは両手を挙げた体勢で穴を滑り落ちていく。

 

(やけにトラップが多いと思ったが、まさか校舎内にも仕掛けていたとは……!)

 

新校舎に踏み入るよりも前、ライザーは幾つものトラップを確認していた。

強烈な電撃が流れる物も、一度嵌まれば簡単には脱出できない物まで、簡単には見つからないよう巧妙に隠されたトラップの数々。

だが、設置者はゲーム初心者のリアスたち。定石通りに仕掛けられた罠をゲーム熟練者のライザーが見つけられないはずもなく。新校舎に入るまでに発見した罠はすべて回避していた。

 

(今回はたまたま落下地点に罠があっただけだ。それに、こいつはただの落とし罠のようだ。脱出は難しくない)

 

穴の直径は約一メートルほど。相当深く掘られているようだが、飛ぶことができるライザーにとってはほとんど意味をなしていない。罠と呼ぶこともおこがましいただの穴だった。

 

「っ──ぶ、ちょおぉぉぉぉぉっ!」

 

秀次の叫ぶような呼びかけが発されるまでは。

炎の翼を広げて地上に戻ろうとしていたライザーは空中に浮かぶ人影を見た。

制服はボロボロで美しかった紅髪は乱れている。にも関わらず、むしろいまの彼女は威風堂々とした美しさを際立たせていた。

 

「シュージ、よくやったわ。あとは任せなさい」

 

リアスは必死に戦った下僕に称賛の言葉を送りながら手を空に掲げ、異空間から出現させたある物を穴に向かって流し込む。

 

「──あ?」

 

流し込まれたものは──水だ。

バケツをひっくり返したような大量の水が降り注ぎ、ライザーは驚きに目を見開く。

 

瞬間、跳ねた水滴が彼の目に落ちる──。

 

「うっ!?こ、これは──!」

 

水滴を瞳に受けたライザーは焼けるような痛みに驚いてしまい、そのまま濁流に飲み込まれる。

リアスが異空間から取り出した水。それはただの水ではなかった。

 

悪魔対策の武器──聖水。

 

──この状況こそが、グレモリー側が用意した不死鳥殺しの策。

 

『レーティングゲームって、アイテムの持ち込みも可能なんですね』

 

『武器や罠の持ち込みは可能よ。あとは数に制限はあるけれど回復用のアイテムもね。それがどうかしたの?』

 

八日目の作戦会議中、秀次はレーティングゲームのルールを確認しながらある策を思いついた。

 

──ライザーを落とし罠か何かに嵌めて、身動きが取れない内に攻撃してみてはと。

 

『だけど、ライザー氏もトラップが大量に用意されていたら警戒するんじゃないかな?』

 

『本命の罠は旧校舎のなかに仕掛けて、外の罠は見つかることを前提に──あえて強力なものを設置してみたらどうだろう』

 

『「木を隠すなら森の中」ということね。なら本命のトラップはどのようなものにしましょうか?ライザー氏が相手となると、動きを止めるにも相当に強力なトラップが必要になりますし』

 

『そこはほら……「火を消すなら水」でしょ』

 

秀次の提案は悪魔が聞けば誰もが顔を青ざめさせるものであった。

 

──落とし罠に嵌めて、聖水で溺れさせる。

 

『いや、溺れさせるって言ったって、そんな大量の聖水をどうやって用意すんだよ?』

 

『うちには元シスターかつ、聖水の作成方法を知っているアーシアがいる。俺たち全員で寝ずに頑張れば、大量の聖水くらい用意できるって』

 

そこからのグレモリー眷属は地獄を見た。

彼らにとって劇物に等しい聖水を、寝る間もなく作らされ続けたのだから。

 

「がっ!?かぼっ、かぼぼ!?」

 

小瓶に収まる量の聖水だったなら、ライザーにダメージを与えることは叶わなかっただろう。

だが、今回用意された聖水の量はかなりのもの。飛び上がろうとしていたライザーを穴の底まで叩き落とし、水没させるほどの物量であった。

そして、流れ込む。逃げ場のない穴蔵に。ライザーの全身の穴という穴に。悪魔にとって猛毒の武器と成り得る聖水が濁流のように流れ込み、体の内も外も焼いていく。

光を映す瞳も、息を吸い込む肺も、取り込んだ食べ物を消化する胃も、すべてが苦痛のアラートを鳴らしている。

 

「ぐぁあばばぼっ」

 

痛みと苦しみに思考をかき乱されながら、ライザーは炎の魔力を極限にまで高めていく。

辺り一帯を聖水ごと爆炎で吹き飛ばす──。

最悪の水責めを受けながらもライザーは最適解を導き出していた。

 

──が、彼が行動を移すよりも早く。

 

「……美味しいとこ、貰っちゃうぜ」

 

穴の縁に少年は立つ。

本来なら、ここに立っていたのは自分ではない。

それでも、もう皆戦えないから。皆に助けられ、皆でここまで戦ってきて──。

 

最後に立っていたのが、自分だったから──。

 

「俺が、トドメを刺す!」

 

残りの全魔力で一本の氷柱を形成。作り出した氷の槍を秀次は穴蔵に撃ち放つ。

ガラスが割れるような音が遠い穴の底から聞こえた直後のこと──。

 

刹那、氷の墓標が打ち立てられた。

 

「はぁっ、はぁ──」

 

氷の十字架を前に秀次は仰向けになって倒れる。着ていた服は自身の炎で燃え、上裸になっているせいで地面の冷たさが体に染みた。

まもなくリアスが彼のすぐそばに降り立ち、秀次の頭を膝に乗せた。

 

「シュージ……本当に、よくがんばったわね。本当に、お疲れさま」

 

「その労いの言葉は……ここにはいない皆にも、言ってあげてくださいね。これは……俺だけの勝利じゃありませんから……」

 

「ええ、そうね。──皆の勝利よ」

 

涙を伝わせながら微笑むリアス。彼女の笑顔を見た秀次も安堵と喜びから顔を綻ばせていた。

柄にもなく、心から嬉しさが込み上げていた。

久しぶりに声を上げて笑いたくなる──

 

ドォォォォォン!

 

──そんな秀次の気分も、周囲の地形ごとぶち壊す爆発によってかき消された。

 

「な、なにが起こって……」

 

爆発に吹き飛ばされたリアスは困惑する頭を押さえながら上体を起こし、霞む視界を開く。

 

「あ──」

 

目の前に広がった光景はまさに業火の地獄。

燃え盛る瓦礫を背にし、立ち上がった火の鳥が自分の下僕の首を絞め上げていた。

 

──復活したライザーを前にして、リアスは再び絶望の淵に追い詰められる。

 

「自陣に引きこもり、罠を仕掛け、悪魔が聖水を利用する。おかしいと思っていた。リアスがこんな策を思いつくわけがないと。こんな、誇り高き上級悪魔が決してやらないような行いを!」

 

「あ、あがっ……」

 

「俺に恥をかかせたのも!こんなくだらない、卑怯極まりない策を企てたのも全部!貴様だったんだなこのクソガキぃぃぃぃっ!」

 

怒りで完全に我を忘れ、殺意に塗れた瞳で秀次の首を絞め続けるライザー。

レーティングゲーム中の死亡は事故として処理されるとはいえ、相応の罰は食らうことになる。

 

それを差し置いてでも、目の前の敵は殺す。

 

「やめてライザー!それ以上はシュージが本当に死んでしまうわ!」

 

「ああ、そのつもりだ!このガキはここで殺す!リアス!キミを娶ったあと、キミの眷属たちのことは俺が鍛えてやるつもりだったが……このガキだけは別だ!いま殺す!」

 

秀次の首を絞め上げる手にますます力を込め、ライザーはさらに炎を巻き怒らせる。首を焼き切って確実に殺すつもりであった。

直前で秀次は氷を扱う状態に変化していたため、現在は炎に対して弱くなっている。全力を出し切った直後のうえ、弱点を突かれている秀次に抵抗する力は残っていなかった。

リアスも止めたい気持ちは山々だが、どうしても体が動かない。

リタイヤすれば死だけは免れるが、ライザーはそうなる前に秀次を殺してしまいそうな勢いだ。

 

「が、ぁぁ」

 

秀次の瞳から生気が徐々に消えていき、震えていた体から力が抜け落ちる。

下僕が目の前で殺される。その事実にリアスは涙ながらに絶叫するしかなかった──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、この焼き鳥野郎」

 

絶対的な窮地。そこに現れたのは──、

 

「俺の弟から手を離せ」

 

赤い龍の鎧を身にまとった一誠だった。

 

***

 

赤い。真っ赤な夢を一誠は見ていた。

灼熱の炎を背景に、一誠のなかに宿るその存在は確かに目覚めていた。

 

『まさか、こんな形で意識が覚醒するとはな』

 

その声は低く、迫力のあるもの。

いつかの夢で語りかけてきたものと同じ。

 

『こうして話しかけるのはあの夢以来か。俺は赤い龍の帝王、ドライグ。兵藤一誠、おまえの左腕にいるものだ』

 

ドライグと名乗った赤い巨大なドラゴン。

それは恐ろしくも気高いウェールズの赤い龍。

対となる存在と合わせて「二天龍」と呼ばれるようになった伝説のドラゴンだ。

そんな存在がいきなり目の前に現れ、自己紹介を始めたものだから一誠は酷く困惑していた。

だが、次にドライグが話し始めた内容に一誠は背筋が凍るような想いを抱く。

 

『このまま負けていいのか?おまえが敗北してしまえば、おまえの主をいけ好かない男に奪われるわけだが』

 

嫌だと、一誠は答えた。リアスをライザーに奪われるなんて死んでも嫌だと。

 

『そうか。つまり勝ちたいんだな』

 

一誠の答えにドライグの瞳が輝いた。

 

『なら、俺はおまえに力を分け与えよう。代償はいるがな。──禁手(バランス・ブレイカー)、「禁じられた忌々しい外法」にして、神器が至る極致だ。あれならば弱ったフェニックスくらい倒せる。なにせ、こちらは「ドラゴンの帝王」なのだからな』

 

ドライグの話を聞いた瞬間、一誠の左腕に赤い輝くようなオーラが集まっていった。

さらにそのオーラは全身を包んでいき、一誠の体に尋常ではないパワーを与えていく。

 

『ただ今回は代償付きの擬似的な禁手だからな。丸三日は神器が使えなくなるだろう。しかもおまえの体力はもうほとんどない。戦えても二発が限界だろう。それでもやるか?』

 

一誠の答えは当然──やる、だった。

 

『ハハハ、そうか。だが、こういう力の使い方は今回限りにしてくれ。「白い奴」も目覚めているようだし、すでにおまえの近くには強大な力が集まりつつある。俺の意識が目覚めたのもそれが理由だろう。──まさか「アレ」まで近くにいたとは思いもしなかったが……』

 

「白い奴」と「アレ」という単語に疑問を覚える一誠だったが、ドライグは多くを語るつもりはないらしく、最後に挨拶をして締めくくった。

 

『負けるなよ、相棒。「惚れた女を護る戦い」は必ず勝たねばならないと、何代か前の宿主はそう言って戦いに挑んでいったぞ』

 

ドライグの言葉に一誠は耳を赤くした直後、彼の意識は戦場に復帰していった──。

 


 


 

赤い龍帝の力を身に纏った一誠はゆっくりとした足取りでライザーに歩み寄る。

 

「なっ!鎧だと!?き、貴様!赤龍帝の力を鎧に具現化させたのか!?そんなバカな!おまえ程度のガキにそんな力があるわけが──」

 

瞬間、ライザーの言葉が途切れる。禁手の鎧の背部にある推進器から火を噴き、高速移動した一誠がライザーの顔を殴りつけた。

 

「ごちゃごちゃうるせえよ。言っただろうが。俺の弟から手を離せって」

 

ふっ飛んだライザーは校舎の壁に激突し、彼の手に掴まれていた秀次も解放される。

 

「シュージ!」

 

秀次を抱き寄せる一誠。だがしかし、彼もとっくに限界だったのだろう。

 

──譲ってやる。その一言を残してフィールドから弟の姿は消えていった。

 

「──っ」

 

腕から消えた秀次の重さ、最後に残していった言葉を胸に、一誠は歯を噛み締めて立ち上がる。

 

向かう先は当然、ライザーのみ。

 

狙いを定められたライザーは慌てふためく。

直前の聖水による水責めで相当に体力を消費していた彼は立ち上がりこそしたが、それで精一杯らしく構えることもできていなかった。

 

「ま、待て!わかっているのか!この婚約は悪魔の未来のために必要で大事なものなんだぞ!?おまえのような何も知らない小僧悪魔がどうこうするようなことじゃないんだ!」

 

「難しいことはわからねぇよ。でもな、おまえに負けて気絶したとき、俺が負けて倒れちまったせいで──」

 

そのとき、一誠の脳裏に過ったものは。

惚れた女性の泣き顔ともう一つ。ボロボロにされた弟が消えていく光景──。

 

「部長が泣いてた。部長が泣いてたんだよっ!

そして、さっきも泣いていた!あげくに俺の弟を殺そうとしやがってっ!俺がてめぇを殴る理由はそれだけで十分だァァァァァアアアアッ!」

 

一誠はライザーを確実に倒すために、アーシアから受け取った聖水入りの小瓶をドラゴンと化した左手で握り潰していた。

──聖水付きの拳に赤龍帝の力を乗せ、一誠は正確にライザーの土手っ腹を打ち抜く。

 

「勝ったよ……皆」

 

前のめりに倒れたライザーの前で涙ながらに勝利の宣言をする一誠。

彼の言う通りライザーが立ち上がることはなく、その体は光に包まれて消えていった。

 

『ライザー・フェニックス様、リタイア。よってこのゲーム、リアス・グレモリー様の勝利です』




というわけでリアスたちの勝利!かなりご都合的展開になってしまったような気もしますが…。罠を仕掛けられたり、聖水を作る方法を知っているなら、こういう戦い方もありかなって。

次回はエピローグを書いてフェニックス編を終わらせる予定です。エクスカリバー編は未だ未定!
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