ハイスクールD×D 終焉に抗う暁の太陽 作:ドラゴン大好きT
前書きのほうでまずは謝罪を。25話で少し出た幼馴染みっぽい人物なんですが…すみません。なかったことにさせてください。感想返信でも登場させるなんて言ってたのに申し訳ない…!
その日、祐斗は珍しく学校を休んでいた。
授業の準備を終えて外を眺めていると、クラスメイトの女子が話しかけてきた。
「兵藤弟、木場くんが今日学校に来ていないみたいだけどなんでか知らない?」
「知らねえ。なんで俺に聞く?」
「だって、仲良いじゃん」
クラスメイトの女子はさらりとそう言ってきた。
──仲が良い、か。確かに俺と祐斗は一年生の頃からクラスが一緒で席も隣だった。
だが、初めから仲良しになれたわけじゃない。
俺は口下手で他生徒とコミュニケーションを図ることも苦手だ。さらに過去のことや一誠と兄弟ということもあってクラスのコミュニティに参加することもできていなかった。
対して祐斗は学業成績優秀、性格良し、美形の学園のプリンスと称される有名人。
周囲にはいつも女子が集まっていて、黄色い歓声がうるさいくらいに響いていた。
暗い雰囲気を纏う俺と、光り輝いている祐斗。
席が隣でも会話なんて起こるはずもなく。むしろ話しかけようものなら、クラスの女子たちに目の敵にされると確信していた。
だから、初めて会話したのは教室じゃなかった。体育の授業を受けていたときだった。教師からペアを作れと指示された。
クラスのコミュニティから外れ、一緒に組もうと話しかけにいく相手もいない俺は余っていた。
そして、女子には人気でも男子からは疎まれていた祐斗も一人余っていた。
女子人気を総取りしていたことによる嫉妬もあったが、スポーツ万能の祐斗と組んで恥をかきたくないと思う者も少なからずいた。
余っていた俺たちが組むのは必然だった。
「よろしく。木場くんでいいか?」
今回だけペアを組めばそれで終わり。一度きりの会話になると思っていた。
「うん。よろしくね、兵藤秀次くん」
名前を呼ばれたことに、当時の俺は心底驚いた。
皆、大抵は「兵藤の弟」と俺のことを呼ぶ。
俺の名前なんてどうでもいいと言わんばかりに。おまえは兵藤一誠の弟で十分だと。
そのことに何かを思うことはない。実際に俺は一誠の弟なのだから。いちいち呼ばれ方を気にするような繊細な性格もしていない。
でも……家族や一部の近しい人を除き、駒王学園で俺は初めて名前を呼ばれた気がした。
実際はそんなことはない。担任は出席確認で名前を呼ぶし、祐斗も隣の席のやつくらいの感覚でたまたま覚えていただけだと思う。
だけど、俺を「兵藤秀次」として見てくれた。
その時点で俺にとって「木場祐斗」は、ただのクラスメイトではなくなっていた。
皆と別れたあと、俺は一人で家に帰っていた。
しばらくして部活を終えた部長、一誠、アーシアも帰ってきたが、祐斗にいきなり殴りかかった俺と皆の空気感はやはり気まずかった。
当然だな。噂通りの無法者。キレたらヤバい奴。それを皆の前で証明してしまったのだから。
今日はこれ以上、顔を合わせることもない。
そう思っていたのだが、部長が祐斗の件について話したいと伝えてきた。
だが、それに対する俺の返答は──。
「すみません。それって祐斗の過去について部長が話すってことですよね。でしたら俺は控えさせていただきます」
それだけ伝えて俺は自室に閉じこもった。主の命令を真っ向から突っぱねるなんて、下僕としてありえない行為だ。
だけど、今回の命令だけは聞けない。
自分の過去を知られたくないと隠している俺が「祐斗の過去」を部長から又聞きするなんて卑怯だと思った。本人の意志がないところで祐斗の過去を俺は聞きたくなかった。
自分勝手な眷属で申し訳ないと思いながらも、俺は一人自室でトレーニングに励んだ。
次の日。教室に祐斗の姿は見当たらなかった。
部活にも顔を出さないつもりらしいし、おおかた学校もサボりだろう。
聖剣エクスカリバーを破壊することが祐斗にとっての生きる意味らしいからな。いまは復讐を果たすことに夢中になっているのだと思う。
(エクスカリバーねえ……)
放課後に立ち寄った古本屋で俺はそれらしい伝記の本を読み漁っていた。
アーサー王が所持したとされる伝説の剣。最近は創作物のなかでしか聞かない名だが、悪魔や天使と同じく実在している剣ということか。
そのエクスカリバーと祐斗の間に何かがあった。復讐に至る致命的な何かが。
(でもエクスカリバーを破壊したいって言ってもこの町にそんなものはねえぞ。まさか世界中を巡るつもりじゃあるまいし……)
そもそも祐斗がエクスカリバーへの恨みを爆発させた原因はおそらくあの写真に写っていた剣だ。あれが聖剣エクスカリバーってことか?
俺は聞かなかったが、聖剣について一誠とアーシアは昨日部長から話を受けたらしい。聖なる剣ってことは悪魔にとってはかなりマズい代物なんだろうなと予測はしている。
「あんちゃん、そろそろ店じまいだよ」
おそらく店主であろうおばちゃんが煩わしげな視線と共に俺にそう言ってきた。
店の壁に立てかけられた時計を見てみれば時刻は夜の十八時を示している。読むのに夢中になっていたとはいえもうこんな時間か。
(立ち読みだけってのも申し訳ないし、何冊か買っていくか)
悪魔の業務をこなしているおかげで、俺の財布のなかはそれなりに暖まっている。といっても、アルバイトをしている学生と比べればそこまで差はないだろうが。
アーサー王伝説の本は古いためか値段も安く、もう一冊くらいなら別の本を買っても金の心配をする必要はなさそうだ。
(ついでに、ドラゴンに関する本も買っとくか)
ドラゴンについては一誠の腕のこともあるから知っておいて損はないだろう。
一誠のドラゴンの腕の治療を行えるのは高位の悪魔だけで周囲だと部長と副部長のみ。
さらに一誠の体から直接ドラゴンの力を吸い取るらしいのだが、これがまた刺激的な光景だと本人は鼻の下を伸ばしていた。
(赤龍帝だっけ?神滅具がスゲーってことは知ってても、あの神器に宿っている存在がどういう奴なのかはまだよく知らねえからな。でもそういうことを知るなら人間界の本よりも、異形世界の本を購入したほうがいいのか──っ)
家を目の前にした瞬間、俺は静かに足を止めた。
本来、安心するはずの家から漂う嫌な気配。背中に氷を当てられたような寒気を感じた俺はその正体にすぐ気づいた。
俺は以前、悪魔になってすぐの頃に教会に近づいてしまったことがある。そのときと同じ嫌な気配を自分の家から感じ取った。
我が家に教会関係者はいない。アーシアは元シスターだが現在は悪魔になっている。家から教会にまつわる力を感じるなんてありえないんだ。
可能性としてあるのは──教会関係者が家に入ってきた場合だ。
もしそうなら最悪だ。悪魔祓いの連中に俺たち悪魔が住む家がバレてしまった。なによりもこの家には俺たち悪魔以外にも両親が住んでいる。
「ふっざけんじゃねえぞ……ッ」
軋むほどに歯を噛み締めたと同時、震えるほどの怒りが言葉となって漏れ出る。
部長や一誠は戦えるから大丈夫だ。アーシアも二人がいれば大丈夫なはず。
だが、両親は一般人だ。俺たちが悪魔になっていることも知らない無関係な人間なんだ。
もし両親に手を出していたなら、俺は教会にまつわるすべてをこの世から滅ぼしてやる。
塵芥すら残さず完全に破壊して──!!
「──っんなこと考えてる場合じゃねえ!」
怒りが爆発する寸前で俺は家に飛び込んだ。家のなかは特に荒らされた形跡もない。
それどころか、聴き馴染みのある男女の声がリビングのほうから聞こえてきた。
荒れる呼吸と跳ねる心臓を落ち着けてリビングの扉を開くと、そこには──。
「……ただいま。父さん、母さん」
「おう、シュージもお帰り。父さんもいま帰ってきたところだけどな。リアスさんたちも帰ってきてるぞ」
「シュージお帰りなさい。あら?何か買ってきたのね」
そこには、いつも通りの光景が広がっていた。
本当によかった……。心の底から安心するってこういうことを言うんだな。
安堵から大きく息を吐き出すと、俺は気持ちを切り替えて問いかける。
「もしかしてこの家に宗教勧誘の人とかきた?」
「宗教勧誘?きてないわよそんな人。きても家にあげたりしないもの」
教会関係者はきてない?となると家から感じる嫌な気配の理由がわからないな。アーシアがまだ聖書とか十字架を持っているけど、家の外にまで聖なる力を漂わせるほどのものじゃない。
「──ああ、でもあの子たちってもしかしたらキリスト教徒だったのかしら?」
「あの子たち?」
「そうそう。一時間くらいまえにね。紫藤イリナちゃんともう一人若い女の子がきたのよ。どっちのお嬢さんも美人さんだったわ」
紫藤イリナ──って誰だよ?母さんが口にした名前に疑問を抱いていたそのとき、二階からバタバタと足音が響いてきた。
その直後、俺の帰りに気づいた一誠、アーシア、部長の三人が慌てて二階から降りてきた。
三人から話を詳しく聞いてみると、教会関係者の二人組がいきなりこの家に来訪したらしい。
そのうちの一人があの写真に写っていた男の子──いまは美少女となった紫藤イリナだったと。
「そうだったのか」
「帰りが遅いからシュージもあの二人と会って襲われたんじゃないかと心配してたんだ」
「とりあえず、皆が無事で俺もホッとしてるよ」
クソが……!昔の知り合いが教会関係者だった。場合によっては即戦闘になっていたぞ。
部長が言うにはすでに教会関係者の二人組は生徒会長とも接触し、駒王町を縄張りにしている我らが王──リアス・グレモリーさまと交渉を求めているらしい。
悪魔と教会は長きにわたって戦い続けたほどにその関係は最悪だ。なのに話をしたいとは目的がさっぱりわからない。
「……どういうつもりかはわからないけれど、明日の放課後に彼女たちは旧校舎の部室に訪問してくる予定よ。こちらに対して一切の攻撃を加えないと神に誓ったらしいわ」
「信じられるんですか?」
「信じるしかないわね。彼女たちの信仰を。信徒にとって邪悪な存在である悪魔に依頼をするぐらいなのだから、相当切羽詰まってて、かなりの厄介事であることは確実かしら。……何か、嫌な予感がするわね。話ではこの町を訪れてきた神父が次々と惨殺されているみたいだわ」
教会の連中との話し合いとか絶対揉めるよな。そう確信していると部長が俺に目を向けた。
「シュージ、先に言っておくけど──今回は絶対に相手に手を出さないでちょうだい。ライザーのときのような先制攻撃はご法度よ。ケンカを売るような真似も許さない。いいわね?」
「わ、わかりました……」
うおっ……部長から指示を受けたことは何度からあるけど、今回はものすごい圧だ。
まあ、俺は前科がありすぎるからなぁ。ライザーのときは問答無用で攻撃を加え、先日も祐斗に手を出した。そんなことを繰り返していたらそりゃ信頼もなくなる。
それに教会の連中に手を出したら、それこそ悪魔と教会の問題になる。終結した戦争の火種を再び焚き付けるのは俺としても避けたい。
(でも、なんか嫌な予感がするな)
漠然とした不安感が段々と強くなる。その理由に気づくことはなく、俺は次の日の朝を迎えた。
次の日の放課後。部室に集められた俺たちグレモリー眷属は二人の訪問者を相手にしていた。
紫藤イリナともう一人の女だ。栗毛の髪をツインテールにしたほうがイリナらしいが、写真の頃の姿と変わりすぎて同一人物だとは思えない。
もう一人は青色の髪に緑色のメッシュを入れた女で、活発な印象が表に出ているイリナとは対照的に冷たく鋭利な印象を抱く。
青髪の女は傍らに布に巻かれた巨大な得物を置いており、それからものすごく嫌な気配を漂わせている。
ライザーとのゲームの際に俺たちは聖水を作ったことがあるんだが、聖水とは比較にならないほどの聖なる力を感じる。町の教会に入ったときでもこんな嫌な気配は感じなかったぞ。
それに結局、謎の不安感の理由を掴めずにこの交渉が始まってしまった。
教会の二人組を祐斗は怨敵を見つけたように睨みつけている。というよりも青髪の女が持っている得物を睨んでいるのか?
話し合いをするとはとても思えない空気のなか、まず初めにイリナが話し始めた。
「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」
エクスカリバーだって……!?よりにもよって聖剣が関係してくる事案なのか。
それに、カトリック、プロテスタント、正教会の三箇所からエクスカリバーが盗まれたって……エクスカリバーって一本の剣じゃないのか?
疑問を持つ俺や一誠に事情を知る部長たちが説明してくれた。
大元のエクスカリバーは昔の戦争で破損してしまったらしく、いま現在は七本の聖剣エクスカリバーに作り直されていると。
その直後、青髪の女が傍らに置いていた得物に巻かれた布のようなものを取り外した。
同時に放たれたのは戦慄してしまうほどの寒気。部屋の温度が一気に下がったんじゃないかと錯覚するほど嫌な気配だ。
「私が持っているのは『
自分の聖剣を紹介すると、青髪の女は手早くエクスカリバーを布で覆い直す。あまり見せたくないとでも言いたげの様子だ。
よく見れば、布に呪術的な文字が記されている。普段は力を抑えているということか……。
続いてイリナも自分の聖剣を見せてきた。腕についた紐のようなものを取り外した直後、紐が独りでに動き出して日本刀へと変化する。
「私のほうは『
七つに分かれたエクスカリバーはそれぞれ別の能力を持っているのか。じゃあ大元の聖剣エクスカリバーは七つ全ての能力を使えたのか?だとしたら扱いも相当に難しそうだが……。
「イリナ……悪魔にわざわざエクスカリバーの能力をしゃべる必要もないだろう?」
「あら、ゼノヴィア。いくら悪魔だからといっても信頼関係を築かなければ、この場ではしょうがないでしょう?それに私の剣は能力を知られたからといって、この悪魔の皆さんに後れを取るなんてことないわ」
青髪の女はゼノヴィアというのか。あとイリナは無自覚に煽ってきやがる。エクスカリバーを持っているがゆえの自信か。
エクスカリバーとイリナたちを祐斗は殺気全開で睨んでいる。いまにも二人に斬りかかりそうで俺たちは内心ヒヤヒヤさせられっぱなしだ。
「……それで、奪われたエクスカリバーがどうしてこんな極東の国にある地方都市に関係あるのかしら?」
部長は祐斗の様子に注意しつつ話を進めた。
いわく、三つの支部でエクスカリバーをそれぞれ二本ずつ管理していたらしいのだが、そのうちの一本ずつを奪われてしまったらしい。残る一本は戦争終了から現在に至るまで未発見だと。
そして、奪った人物はどういうわけかこの駒王町に逃げ込んだらしい。
「奪ったのは『
はぁ?グリゴリって、堕天使の組織じゃねえか。
これには話を聞いていた俺たちも目を見開いて驚いたが、ゼノヴィアはさらに続けて首謀者の名前を明かす。
「奪った主な連中は把握している。グリゴリの幹部、コカビエルだ」
「コカビエル……。古の戦いから生き残る堕天使の幹部……。聖書にも記された者の名前が出されるとはね」
堕天使の幹部だと?なんだってそんなヤバい奴が聖剣エクスカリバーを盗むんだ?挙げ句の果てには駒王町に持ち込んだと……。
首謀者の名前を明かしたところで、ゼノヴィアたちは本題の依頼について話し始めた。
「私たちの依頼──いや、注文とは私たちと堕天使のエクスカリバー争奪の戦いにこの町に巣食う悪魔が一切介入してこないこと。──つまり、そちらに今回の事件に関わるなと言いにきた」
ゼノヴィアの物言いに部長の顔色が変わった。
教会は俺たち悪魔と堕天使の幹部が手を組む可能性を考えているらしい。
だが、プライド高い部長からすれば堕天使と組むと思われていること自体不快なのだろう。自分の支配領域で勝手をされているともなれば尚更だ。
すでに教会が送り込んだ神父たちも惨殺されたらしいが、あくまで今回の一件は彼女たち二人だけで解決するとのこと。
相手は聖書に記された堕天使の幹部。聖剣使い二人でも無謀だと部長は言うが、ゼノヴィアとイリナは死ぬ覚悟を決めてこの場に来たらしい。
(命懸けね……死んだこともねえだろうに)
こいつらは自分の意思で命を懸けているのか。
それとも教会にそうあれと教え込まれたから命を懸けているのか。
前者ならイリナたちの勝手だが、後者なら教会の教えというものに嫌悪感が湧いてくる。
信徒の異常なまでの信仰心に俺も皆も心の底から呆れるばかりだ。
(聖剣使いは教会にとって貴重な戦力なんじゃないのか?むしろ使い捨て感が否めねえな)
教会の判断にもどうにも疑問が残る。イリナたちがやけに自信満々なのもな。
エクスカリバーを堕天使に利用されるくらいなら消滅させるというのが教会の最終判断であり、俺たち悪魔が介入することは良しとしない。
それだけ伝えるとイリナたちはその場をあとにしようと席を立った。
(俺たち悪魔としては、聖剣同士で勝手に潰しあってくれてむしろありがたいか?相手が相手だ。下手に挑んでも犬死にしかねないし、藪蛇をわざわざつつく必要はないはずだ)
聖剣強奪の首謀者、堕天使幹部コカビエル。
いまの俺たちが挑んでいい相手ではないだろう。
それに戦えば悪魔と堕天使、天使の三すくみの関係にも確実に波紋を呼ぶ。互いに余計な干渉は避けたいというのが本音のはずだ。
彼女たちには死んでほしくないと思っている。
イリナは昔の知り合いだし、そうでなくとも人死にはないほうが良いに決まっている。
──だが、協力するほどの義理もない。二人も何かの策を用意してきたのか自信満々だしな。
あとは見送るだけだと、そう思ったときだった。
「───兵藤一誠の家で出会ったとき、もしやと思ったが、『魔女』アーシア・アルジェントか?まさか、この地で会おうとは」
……いきなり何言ってやがんだ、コイツ。
アーシアのことを「魔女」と呼ぶゼノヴィア。
イリナも何かに気づいたのか、アーシアのことを興味深そうに見つめる。
「あなたが一時期内部で噂になっていた『魔女』になった元『聖女』さん?悪魔や堕天使をも癒す能力を持っていたらしいわね?追放され、どこかに流れたとは聞いていたけれど、悪魔になっているとは思わなかったわ」
「……あ、あの……私は……」
「大丈夫よ。ここで見たことは上には伝えないから安心して。『聖女』アーシアの周囲にいた方々にいまのあなたの状況を話したら、ショックを受けるでしょうからね」
こいつらは、アーシアのことを知っていたんだ。
──そうか、教会の連中が来ると話されたときに感じた妙な不安はこれが理由か!
エクスカリバーが出たときは祐斗のことかと思ったが、まさかアーシアのほうだったとは。
しかし、これは考えてみれば当然のことだった。
アーシアは教会で過ごしていた頃、聖女として崇め奉られていた。
だが、その後に傷ついた悪魔を癒しの力で助けてしまったことで魔女と扱われるようになり、最終的には教会を追放されるまでに至った。
教会の人間からすれば、アーシアは良い意味でも悪い意味でも有名人だ。
そんなアーシアが悪魔となって生きている。教会からすればいまのアーシアは裏切り者──いや、それ以上の厄介者になっているのかもしれない。
「しかし、悪魔か。『聖女』と呼ばれていた者。墜ちるところまで墜ちるものだな。まだ我らの神を信じているか?」
「ゼノヴィア。悪魔になった彼女が主を信仰しているはずないでしょう?」
「いや、その子から信仰の匂い──香りがする。抽象的な言い方かもしれないが、私はそういうのに敏感でね。背信行為をする輩でも罪の意識を感じながら、信仰心を忘れない者がいる。それと同じものがその子から伝わってくるんだよ」
ゼノヴィアはアーシアが隠していることをとっくに見抜いていた。
普通ならありえないことなのだろうが、アーシアは悪魔になった現在も信仰を捨てていない。それは仲間の俺たちから見ても一目瞭然だ。
アーシアがそうしたいならそうすればいいと、俺たちは納得しているが……教会の信徒たちはそうもいかないだろうな。
「そうなの?アーシアさんは悪魔になったその身でも主を信じているのかしら?」
「……捨てきれないだけです。ずっと、信じてきたのですから……」
「そうか。それならば、いますぐ私たちに斬られるといい。いまなら神の名の下に断罪しよう。罪深くとも、我らの神ならば救いの手を差し伸べてくださるはずだ」
──ゼノヴィアは布に巻かれた聖剣を怯えるアーシアに向けやがった。
部長に手を出すなって言われてなきゃ、いまので火の玉をぶつけてたところだ。
だが、警告しようと俺が動くよりも早く、一誠がアーシアとゼノヴィアの間に立った。
「アーシアに近づいたら俺が許さない。あんた、アーシアを『魔女』だと言ったな?」
「そうだよ。少なくともいまの彼女は『魔女』と呼ばれるだけの存在ではあると思うが?」
それを皮切りに一誠とゼノヴィアの言い合いはどんどんヒートアップしていく。
このままだとマズいな。アーシアに手を出されかけている現状に一誠は怒り心頭だ。致命的な一言を口にしかねないほどに。
「キミはアーシアの何だ?」
「家族だ。友達だ。仲間だ。だから、アーシアを助ける。アーシアを守る!おまえたちがアーシアに手を出すなら、俺はおまえら全員敵に回してでも戦うぜ」
昨日、俺が部長に注意されたのに一誠が喧嘩を売ってどうするんだよ。ったく──仕方ねえなぁ。
一誠の挑戦的な物言いを聞き、ゼノヴィアの目が敵意に染まったことを確認すると、俺は大きく息を吐き出した。
直後に慌てふためくアーシアに目を向ける。
「なあアーシア、一つ聞くんだが──アーシアはこいつに斬られたいか?」
「っ──」
「シュージ!何言ってんだよ!?」
俺の問いかけにアーシアは絶句し、一誠は理解不能とばかりに大声を発する。
それでも俺はアーシアの目を真っ直ぐ見て、もう一度問いかけた。
「アーシアの信仰心はアーシアなりに本物なんだろうぜ。だけど世間一般的にはそれは認められないのが事実だ。だから答えてくれ。アーシアは、こいつに斬られたいか?」
「私は……」
俺の問いにアーシアの視線が迷うように泳ぐ。
だが、その目がゼノヴィアの前に立ち塞がる一誠を捉えると、決心がついたように言う。
「信仰を捨てきれないのは本当です。でも、私はいまの居場所も大事にしたい。もうひとりぼっちは嫌です。私はイッセーさんや皆さんと一緒に、生きたいです……!」
「そうか。それが聞けて安心した」
なら一誠や俺が抱いている怒りは無駄じゃない。俺は目を細めてゼノヴィアを睨めつける。
「テメェらは俺たちに手を出さないとテメェが信じる神に誓ってここに来たんだよなぁ?しかもさっき、今回の件で俺たちに手を出すなとまで言ってきた。なのになんの真似なんだこれは?」
「キミこそいきなりなんだ?アーシア・アルジェントは主の教えに背き、追放されたあげくに悪魔に身を堕とした。背信者を断つのも信徒の役目なのでね」
「自らの汚点は自分たちで拭うってか。でもそれを世間はなんて言うか教えてやるよ。余計なお世話っていうんだ。消し炭にされたくなきゃとっとと消えろ、アホ女」
喧嘩腰の俺の発言に場の空気が凍りついた。部長には喧嘩を売るなって事前に言われたが……。
でも、先に喧嘩をふっかけてきたのはあっちなので俺は悪くない。
「……貴様、私をバカにしているのか?」
「それ以外の何の言葉に聞こえたんだ?なによりてめえを見てると虫唾が走んだよ」
俺も基本的には社会の規則に則して生きている。
それでも、ここまで自分の意思を感じられねえ人間は初めて見た。
「神さまを信じてる。それは結構なことだ。てめえの好きにしたらいい。だがな、信じるって感情にも色々な形ってもんがあんだろうが。てめえの信仰とやらにはそれがねえ。てめえの意思が欠片もねえんだ」
「信仰、主の教えとはそういうものだ。私たちの意思は必要ない。……悪魔が私たちの信仰に口出しするな。いますぐに斬り捨てるぞ」
やっぱりか。教会の信徒はみんなそうなのかよ。
こいつらはみんな同じで自分がない。自分の意思なんて必要ないって教え込まれたんだろう。
皆が皆、同じ神を見て、同じ神を思い、同じように神を信じていると思っていやがる。
神に違いなんてないんだと信じきっている。
「それが間違いだって言ってんだよボケ。信じるってのは自分の心で、意志で信じたいものを選ぶことだ。テメェらの信じるは誰かに『教え』られたもんだろうが。だから全部薄っぺらいんだよ。テメェが言う信仰とやらは」
自分の意思もねえくせに、テメェらは神さまの何を信じられるってんだ?
「悪魔、貴様のいまの発言は私の信仰心を、教会の信徒たち全員の信仰心を侮辱した!それを理解しての発言か!?」
「真っ先にテメェの都合を押しつけたのはそっちだろ。こっちの都合を押しつけられた瞬間にキレてんじゃねえよ」
俺の発言にブチギレたゼノヴィアは殺気立って聖剣を突きつけてくる。
あーあ。結局こうなるのかよ。適当にお帰り願いたいところだったんだけどな。最悪、部室ごと吹き飛ばして全部なかったことにするか?
「イッセー、シュージ、お止め──」
「ちょうどいい。僕が相手になろう」
興奮冷めやらぬ状況下で部長が俺たちを落ち着かせようとしたそのときだった。祐斗が部長の言葉を遮って俺たちの前に歩み出た。
「誰だ、キミは?」
「キミたちの先輩だよ。──失敗だったそうだけどね」
ゼノヴィアの問いに祐斗は不敵に笑った。
その直後、部室内に無数の魔剣が狂い咲いた。
結局自分を抑えられないオリ主。さて、次回は教会の戦士との模擬戦ですが…どうすっかな?オリ主も混ぜるか、観戦させるか…。