ハイスクールD×D 終焉に抗う暁の太陽   作:ドラゴン大好きT

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本当は年越し前に投稿する予定だったのにー!


第31話 深紅の記憶

 

 

決意を新たに一誠たちはエクスカリバーを破壊することとフリード打倒を掲げる。

しかし、やる気にあふれるグレモリー眷属とは別にまだ状況を飲み込めていない者が一人いた。

その男、匙は手を挙げて弱々しい声を発する。

 

「……あの、俺も?つーか、結構俺って蚊帳の外なんだけどさ……。結局、何がどうなって木場とエクスカリバーが関係あるんだ?」

 

何の事情も知らない匙の問いかけに、祐斗は自分の過去を語り始めた。

カトリック教会が秘密裏に企てた『聖剣計画』。聖剣に対応した者を輩出するための実験で、被験者は剣技の才能と神器を有したまだ幼い少年少女が多く集められた。

日々行われる非人道的な実験の数々。人間としての生活すら許されないなか、子供たちは夢と希望だけで苦しい日々を耐えた。

しかし、聖剣に対応できなかった祐斗を含めた被験者たちは実験の首謀者によって唐突に処分されてしまった。

 

「同志たちの無念を晴らしたい。いや、彼らの死を無駄にしたくない。僕は彼らの分も生きて、エクスカリバーよりも強いと証明しなくてはいけないんだ」

 

祐斗は実験施設からなんとか逃げ出し、その先でリアスに出会った。悪魔に転生することでなんとか命を繋いたのだと語り終える。

静かに祐斗の過去を悼んでいたそのとき。すすり泣く声が辺りに響く。発生元は匙で、彼は顔がめちゃくちゃになるくらい大泣きしていた。

 

「木場!辛かっただろう!キツかっただろう!ちくしょう!この世に神も仏もないもんだぜ!俺はなぁぁぁぁ、いま非常におまえに同情している!ああ、酷い話さ!その施設の指導者やエクスカリバーに恨みを持つ理由もわかる!わかるぞ!」

 

号泣しながら祐斗の手を取って何度もうなづき続ける匙。

あまりの号泣ぶりと熱意に復讐を誓っている祐斗でさえも押されてしまう。秀次に関しては目を瞑って黙って聞き流していた。

すると、直後に匙は自分の話も聞いてくれとその場にいる皆の注目を集めた。気恥ずかしそうながらもどこか決心がついた顔をする匙がどんな話をするのかと全員が耳を傾ける。

 

「俺の目標は──ソーナ会長とデキちゃった結婚することだ!」

 

唐突に語られる匙の目標。それは我欲にまみれたある意味で悪魔らしい内容であった。

その後もデキちゃった結婚について話を続ける匙であったが、彼の肩を一誠が押さえる。

 

「匙!聞け!俺の目標は部長の乳を揉み──そして吸うことだ!」

 

涙目の一誠は匙に感動の眼差しを向けて叫んだ。同類の仲間を見つけたと彼は感動したのだ。

眷属仲間である祐斗は異性にモテモテで、最も身近な同性の秀次はエロに厳しい。隠しているだけのむっつりのくせに。

そんな一誠にとって匙はエロを理解してくれる貴重な仲間にたった数秒でなった。

 

「匙!俺たちは一人ではダメな『兵士』かもしれない。だが、二人なら違う。二人なら飛べる!二人なら戦える!二人ならやれる!二人ならいつかデキちゃった結婚もできるかもしれない!ご主人さまとエッチしようぜ!」

 

「うん。うん!」

 

「……あはは」

 

「……やっぱり最低です」

 

「……クソかよッ!ってか、テメェらは主のことをなんだと思ってんだァッ!?」

 

手を取り合ってうなづき合う一誠と匙。その横で祐斗は苦笑い、小猫は呆れ、秀次は怒る。

その後も苛立ちを表すように鼻息を荒らしていた秀次であったが、何かを思いだしたように途端に冷静な様子になった。

さらにどこか思い詰めるような顔になったかと思えば祐斗にチラチラと視線を送る。

 

「……俺は、祐斗に酷いことを言っちまった」

 

「なんのことだい?」

 

訝しげな顔の祐斗を見た秀次はさらに申し訳なさそうな顔になって首をボリボリと掻く。

 

「ほぉら、あれだ……ゼノヴィアたちと模擬戦やったあとに祐斗が立ち去ろうとしたときによ。同志のこととか、祐斗が考えなしだって頭ごなしに否定しちまった……あれだよ」

 

そこまで言われて秀次が何を申し訳なく思っているのかを祐斗も理解した。

 

「俺はてっきり、祐斗が何も考えずにヤケになってんだと思い込んでた。……俺の悪い癖だな。人の気持ちをわかったつもりで、実際は何もわかってねえ。だから本当に……悪かった」

 

「……いや。あの日、シュージくんの言葉を聞いて僕も考えたんだ。冷静になれたんだよ。同志たちのことを思いだせたし、エクスカリバーに勝ちたいって気持ちがより強くなった」

 

聖剣が現れてからどこかギクシャクしていた秀次と祐斗の仲が少しずつ改善されていく。

──いや、彼らの仲が深まっていくのはむしろここからなのかもしれない。

 

「じゃあなおのこと、エクスカリバーをぶっ壊さねえとな」

 

「うん。エクスカリバーもだし、聖剣計画の首謀者である男──バルパー・ガリレイ。奴も僕が必ず倒す」

 

「首謀者も今回の件に一枚噛んでるのか。ならエクスカリバーをぶっ壊して、そいつの鼻っ柱もへし折ってやるか」

 

決意の表情となる祐斗と悪人のような笑みを浮かべて両の拳を打ちつける秀次。

彼らの友情が深まった光景を見た小猫は穏やかに笑っていた。

 


 


 

それから数日後。エクスカリバーを破壊することを決めた一誠、秀次、祐斗、匙、小猫は表の部活動を終えると連日、町中の人気のない場所を中心に練り歩いていた。

 

「なあシュージ、ゼノヴィアたちから貰った神父の服は本当に着なくていいのか?」

 

夕刻を過ぎて日が落ち始めた道を歩きながら一誠は目の前を歩く秀次にそう尋ねた。

ゼノヴィアたちから貰った神父服やシスター服は魔の力を抑えて一誠たちが悪魔であることを隠蔽してくれる特殊な衣服だ。

しかし現在、彼らは普段通りの駒王学園の制服を着て外を徘徊し続けている。理由は秀次が制服で行動すると決めたからだ。

 

「もし教会側に今回のことがバレたときに、俺たちが神父の格好やシスターの格好をしていたらどこで入手したんだって話になるだろ。それでゼノヴィアたちと協力関係を結んでいると思われたら意味がない」

 

「でもよ、確かフリードは追っ手の神父を狩っていたんだろ?神父の格好をしていれば、俺たちを神父だと思って襲ってくるんじゃないのか?」

 

「……あのイカれ野郎がエクスカリバーなんておもちゃを持っておきながら神父狩りだけで満足するわけねえよ」

 

確信を持って断言する秀次であったが、その声音には若干の迷いが生じ始めていた。

 

「奴は快楽殺人者でありながら一丁前に神父の真似事をする。悪魔の俺たちが歩き回っていたら見逃すはずがねえ……と思ったんだがな」

 

一人で行動していた祐斗は一度、フリードの襲撃を受けている。ならば悪魔であることをわざわざ隠す必要はないと秀次は考えていた。

しかし、それは数日中にフリードを見つけられると踏んでいたからこその判断。

 

(もう奴を探し始めて数日が経つ。なのに奴の気配すら掴めていない。神父狩りに精を出しているのか?それとも俺たちが群れて動いているのがマズかった?かといって個人で動き回ってあいつの奇襲を受けるのはな……)

 

祐斗の過去を聞いたことで、秀次もかなり前のめりになっていた。聖剣計画やバルパーに対して彼も義憤に駆られているからだ。

──だがしかし、義憤も所詮は怒りという感情。そのうえで現在の秀次は常に多くのことを熟考し続けている。

ゆえに、周囲への警戒が普段より緩くなってしまうのも必然のことだった。

 

「──シュージくん!」

 

「……先輩!」

 

それに真っ先に気づいたのは秀次のすぐ後ろを歩いていた祐斗と、他のメンバーよりも感覚に優れている小猫であった。

祐斗と小猫の叫びに近い呼び声を聞いたとほぼ同時に秀次の第六感も警笛を鳴らす。

だが、考えごとをしながら歩いていた秀次は本人も気づかぬうちに先行しすぎていた。

 

「ギャハハハ!悪魔一名、地獄にご案内!」

 

「っ──!」

 

笑い声を発して上空から降ってきたのは彼らが探し続けていた人物──フリード・セルゼン。

しかし、目的の人物を見つけた喜びも、悪態をつく余裕も秀次にはない。すでに脅威は目の前まで迫っているのだから。

 

ズバッ

 

強襲を受けたことで思考と体が硬直し、秀次は降ってくる狂人の刃に反応しきれなかった。

 

「……クソがっ」

 

咄嗟に身を引いたが腕を浅く斬られてしまった。ほとばしる鮮血が地面を赤く染め、さらに斬られた箇所からは肉を焼く音と煙が上がる。

 

「シュージぃっ!」

 

「ん?おお、あのときの黒髪坊主ですか。後ろにはこの間も会ったイケメンくんに白髪頭のチビ、それにイッセーくんまで!あのとき斬り損ねた悪魔ちゃんがたくさん!あと一人知らねえのも混じってますけどもう斬っていいよねぇぇ!」

 

長剣を振り上げるフリード。瞬きをする間に凶刃が秀次を真っ二つに斬り裂くだろう。

そうはさせまいと、祐斗は素早く魔剣を創ってフリードと秀次の間に割って入った。

祐斗の魔剣とつばぜり合うフリードの長剣からはイリナやゼノヴィアが持っていたエクスカリバーと同質の聖なるオーラが発されている。

探していた人物と剣を前に、秀次は狂人と斬り合う友を見た。

 

(悪い祐斗……なんて、謝ってる暇はねえッ!)

 

これは明らかに自分のミスだ。だがそれを自責している暇はない。助けてくれた祐斗に感謝を伝える時間もない。目の前に現れた狂人を倒すことのみに思考を回さなければならない。

 

斬られた腕が痛む。聖剣に斬られた。

 

斬られた腕は最悪、消滅するかもしれない。

 

──だが、それすらもいまは後回し。不必要な情報をシャットアウトし、兵藤秀次の思考ルーチンが戦闘に切り替わる。

 

「俺は大丈夫だ!戦えッ!」

 

『──っ!』

 

自分の負傷で動きが止まってしまったメンバーたちへまずは指示を出す。秀次の言葉を受けて一誠と匙は自らの神器を発動した。

一誠はブーステッド・ギアで力を譲渡し、祐斗をサポートする動き。

匙の神器はデフォルメ化された黒いトカゲの顔のようなものが手甲となって出現し、トカゲの口から黒い触手がベロのように飛び出す。

伸びて向かってくる触手をフリードは聖剣で薙ぎ払おうとするが、触手は軌道を変えてフリードの右脚に巻きつく。

 

「そいつはちょっとやそっとじゃ斬れないぜ。

木場!これでそいつは逃げられねぇ!存分にやっちまえ!」

 

動きが制限されたフリードに祐斗は魔剣の二刀流で斬りかかるが、フリードが振るう聖剣によって儚く砕け散る。

魔剣を再び創りだして祐斗は攻め続け、次第に剣戟の速さと勢いが激しくなっていく。

 

「……先輩、その腕は……」

 

「わーってる。どうするか、いま考えてるよ」

 

祐斗とフリードが斬り合う最中、秀次の腕に刻まれた痛ましい傷を見て心配する小猫。

聖なるオーラは悪魔にとって猛毒。聖剣に斬られた傷はすぐにでも治療が必要だが、回復をしてくれるアーシアがここにはいない。

しとどに流れる出血と傷口を灼く聖なるオーラの両方を早急に止めなければいけない。

 

(けど止めるつったって、どうすれば……)

 

激しい痛みで焦り逡巡する秀次に、その声はどこからともなく聞こえてきた。

 

────凍らせろ。

 

「──っ」

 

凍らせろ。すべて凍らせればいい。

 

威圧感のある謎の声に戸惑うよりも先に、秀次は負傷した腕の傷口を片手で押さえた。

神器の能力──『氷結』で傷口部分を凍らせる。流れ出ていた血も傷口を蝕む聖なるオーラもまるごと凍りついて止まった。

 

「ひとまずはこれでいい……!ずっと凍らせてたら今度は壊死しちまうだろうけどな」

 

「……傷口を凍らせて……無茶をしますね」

 

強引な処置に顔を引きつらせる小猫だが、傷口の処理を終えた秀次はすでに祐斗とフリードの戦闘に視線と意識を向けている。

祐斗は魔剣を何度も創り直して戦っているがエクスカリバーが相手では分が悪く、一撃でいとも容易く粉砕されてしまう。

祐斗のサポートに入りたいのは山々だが、どちらの動きも速いので下手に戦闘に介入すると祐斗に攻撃が当たってしまいそうだ。

 

「フリードの野郎が一瞬でも止まってくれれば援護もできそうだが……」

 

「……動きを止めればいいんですね?」

 

秀次のつぶやきに反応した小猫は棒立ちしている一誠のもとへ足早に向かう。

──そして、一誠のことを軽々と持ち上げて祐斗へ向かってぶん投げた。

 

「うおおおおおっ!小猫ちゃぁぁぁぁん!木場ぁぁぁぁ!譲渡すっからなぁぁぁ!」

 

「……塔城ってよくヒトのことを投げるよな」

 

「……見ているだけじゃ暇なので」

 

投げ飛ばされた一誠を秀次と小猫が遠い目で見送った直後、力を譲渡された祐斗が周囲一帯に魔剣を出現させた。

舌打ちをしながらフリードは突き出てくる魔剣を斬り砕く。さらに祐斗は魔剣を投げつけて立て続けに攻撃を加えていくが、フリードは飛んでくる魔剣を難なく打ち落としていく。

 

「俺さまの『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』は超速い剣!悪魔を早く殺したい俺さまとは相性バッチリなのさ!というわけで死ね!」

 

フリードの動きはさらに加速し、祐斗が創り出した魔剣もすべて破壊される。

間合いを潰された祐斗に危機が差し迫った瞬間、フリードの足に巻き付いた触手を匙が引っ張って動きを止めた。

 

「これが俺の神器!『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』だ!こいつに繋がれた以上、おまえさんの力は俺の神器に吸収され続ける!そう、ぶっ倒れるまでな!」

 

匙の神器も一誠と同じくドラゴンが封じられたものらしい。

足に巻き付いた舌のような触手をフリードがエクスカリバーで斬り払おうとしてもすり抜けてしまって、とても斬ることができない。

さらに匙の神器に捕らわれた者は力を吸収されてしまうようだ。

 

「動きが止まったんなら、もう祐斗に当てる心配もねえ。思う存分……ぶちかませるぜ」

 

ニヤリと口角を上げた秀次は右足を踏み出す。

その直後、秀次の足元の地面が凍りついた。さらに氷の範囲は凄まじい勢いで広がり、フリードに向かって伸びていく。

 

「いぃ!?冷たぁぁぁぁぁ!」

 

フリードの下半身が氷に包まれ、さらに氷は少しずつ彼の上半身まで凍りつかせていく。体を凍らされたフリードは身動きできず、冷たさに震えたくとも震えることすら許されない。

 

「借りは返させてもらったぞ。クソヤロー」

 

動きを完全に封じられたフリードの目の前に魔剣を手にした祐斗が立つ。

本来は自分の力だけで目の前の男に、エクスカリバーに勝利したかった。だが現実は仲間たちの助力があってもかなり危なかったし、悔しいが一人なら確実に負けていた。

フリードをここで始末するべきだという冷静な思考と、エクスカリバーへの復讐心で、祐斗にわずかな迷いが生じていた──そのとき。

 

「ほう、『魔剣創造』か?使い手の技量次第で無類の力を発揮する神器だ」

 

現れたのは神父の格好をした初老の男。

切羽詰まったこの状況で現れた謎の人物に一誠たちは困惑と警戒心を強める。

 

「……バルパーのじいさんか」

 

フリードの口から出た名を聞いた瞬間、一誠たちは驚きの表情となって初老の男を凝視した。

 

バルパー・ガリレイは聖剣計画の首謀者であり、祐斗や彼の同志たちを処分した男──つまり今回の一件の諸悪の根源だ。

 

仇の登場に祐斗が殺気を放つなか、フリードは慌てた様子でバルパーに助けを求める。

 

「じいさん!見ての通り全身氷漬けだ!それにわけのわからねぇトカゲくんのベロが邪魔で逃げられねぇんスよ!」

 

「ふん。聖剣の使い方がまだ十分ではないか。おまえに渡した『因子』をもっと有効活用してくれたまえ。そのために私は研究していたのだから。体に流れる聖なる因子をできるだけ聖剣の刀身に込めろ。氷は私がなんとかしてやる」

 

そう告げたバルパーはフリードに手を向ける。

バルパーの手のひらに浮かび上がる魔方陣が橙色に輝きだし、温かな熱となってフリードの全身を包み込んでいく。

 

「こんなときのために魔法を少しばかりかじっておいてよかったぞ」

 

「こんなときのためって、どんなときの想定をしてやがるんだか……ってか魔法だと?」

 

バルパーの魔法という発言に興味を持つ秀次だったが、フリードを凍りつかせていた氷が溶け始めたことで彼の視線がもとに戻る。

 

「こうか!そらよ!」

 

氷が溶けたフリードは聖剣の刀身に聖なるオーラを集め、匙の神器を難なく切断した。

自由の身となったフリードはバルパーと共にその場から逃げようとする。

──それとほぼ同時のタイミングで一誠の横を凄まじい速さで駆け抜ける者たちがいた。

 

「逃がさん!」

 

「やっほ。イッセーくん」

 

「イリナ!」

 

応援に駆けつけたのはゼノヴィアとイリナの教会所属の聖剣使いたちで、ゼノヴィアは真っ先にフリードに斬りかかる。

しかし、フリードはゼノヴィアと数回剣戟を交わすと懐から目眩ましの閃光弾を取り出して地面に叩きつけた。

光に潰された視力が戻った頃には、フリードとバルパーの姿は消えてしまっていた。

 

「追うぞ、イリナ!」

 

「うん!」

 

「僕も追わせてもらおう!逃がすか、バルパー・ガリレイ!」

 

ゼノヴィアとイリナは即座にフリードとバルパーを追いかけ、祐斗も迷いなく走り出す。

取り残された一誠、秀次、小猫、匙は戦闘態勢を解いて少しばかりの休息を取る。

 

「チッ、ヘマしちまった……。目眩ましは前にも使ってきたってのに。祐斗のやつも深追いしすぎないといいんだが……」

 

祐斗が走り去った方向を秀次が心配そうに見つめていた──そのときだ。

 

「どうにも力の流れが不規則になっていると思ったら……」

 

「これは、困ったものね」

 

聞き覚えのある声に一誠たちが振り向くと、険しい顔つきのリアスとソーナが現れていた。

主たちに今回の勝手な行動の全てがバレたことを悟った秀次は半ば諦めの感情を抱きながら深く息を吐き出していた。

 


 


 

近くの公園へと移動した一誠たちはいたく不機嫌そうな主たちの前で正座していた。

 

「……エクスカリバー破壊ってあなたたちね」

 

「サジ。あなたはこんなにも勝手なことをしていたのですね?本当に困った子です」

 

額に手を当てて自分の一誠たちを見下ろすリアスと冷たい顔で匙に詰め寄るソーナ。

 

ことのあらましを一誠と小猫から聞いたリアスは額に手を当てて困り果てた。今回の行動はあまりにも度が過ぎている。

最悪の場合、悪魔の世界や三勢力の関係に歪みが生じていたかもしれない。

下僕たちの勝手な行動に怒りながらもリアスの視線は氷に包まれた秀次の腕に注がれる。

 

「シュージ、その腕、ケガしているようね」

 

「……エクスカリバーに斬られました。とりあえず応急処置は済ませてあります」

 

「それのどこが応急処置なの……。それに賢いあなたなら今回の一件に関わることがどれだけ危険なことかわかっていたはずよね。祐斗を止めないつもりなのは知っていたけれど、一誠や小猫のことまで止めてくれなかったなんて……」

 

主に知らせずに独断で行動した彼らの罪は重い。それは秀次も重々承知している。

 

「部長──勝手な真似をして申し訳ありませんでした。今回の件はすべて俺の責任です。策を考えたのは俺で、皆は巻き込まれただけです」

 

頭を地面につける勢いで秀次は深く謝罪する。

──すべては自分の責任だと念押しして。

暗い表情で頭を下げる秀次に一誠と小猫は驚愕の視線を向ける。

 

「な、何言ってんだよ!?部長、むしろ逆なんです!俺がシュージを巻き込んで──」

 

「……策を考えたのは俺だ。俺と祐斗だけじゃ厳しいと思って、危ないのもわかっていたのに俺は皆を巻き込んだ。そして、それは間違いだった。だから策を考案した俺が責任を取る」

 

「……シュージ先輩の策に私たちは納得して行動を起こしたんですよ。それで責任は全部自分だけって……それはおかしいです」

 

「おかしくなんかねえよ。策は失敗した。そもそも最初からやるべきじゃなかった。一誠、塔城、おまえらは少し黙って──」

 

「もういいわ」

 

顔を険しくさせる秀次と小猫を見て、これ以上は意味のない言い合いに発展すると考えたリアスは硬い声音で制止した。

 

「あなたたちにはあとで必ず罰を与える。誰か一人だけじゃなく、全員よ」

 

リアスからの通告を聞いた秀次がますます顔を暗くさせたその直後。

──リアスは一誠と小猫と秀次を抱き寄せ、優しく抱きしめた。

 

「……バカな子たちね。本当に、心配ばかりかけて……」

 

「うわぁぁあん!会長ぉぉぉ!あっちはいい感じで終わってますけどぉぉぉ!」

 

「よそはよそ。うちはうちです」

 

リアスの優しさに一誠たちが申し訳なさと温かみでいっぱいになる横で、匙は自分の主であるソーナから苛烈な尻叩きを食らっている。魔力が込められて強化された手での平手打ちだ。

物理的に痛いうえ、高校生にもなって尻を叩かれる仕置きはとても恥ずかしい。

 

「シュージ、あなたはすぐに家に帰ってアーシアの治療を受けなさい。それと、イッセーはお尻を出して」

 

「……へ?」

 

あとで罰を与えると言われたことで、いますぐどうこうなるとは思っていなかった一誠。

だが、一誠が高を括っていたことを知ってか知らずかリアスは容赦なく尻叩きを敢行した。

 

(……これあとで俺も尻を叩かれるのか)

 

千回にも及ぶ尻叩きを食らった一誠を見て、自分の尻の末路を察した秀次は相当に気分を落ち込ませながら一誠とリアスと共に帰路につく。

彼らが家に帰ると、なぜか裸エプロン姿になっているアーシアといやらしい顔つきの母親のお出迎えをされてしまう。

鼻血を出して喜ぶ一誠、アーシアの行動を止めるどころか推奨する母親、さらにアーシアに感化されて自分まで裸エプロンになるリアス、家が色欲一色に染まっていく状況に秀次は腕のケガを忘れてしまうくらい混迷していた。

 

「はぁ……本当に疲れた……」

 

治療をしてもらった秀次は自室に戻ると、特大のため息を吐いてベットに飛び込んでいた。

ちょっと硬いくらいのベッドに寝転んだ瞬間、秀次は強い疲労感に襲われる。

聖剣に斬られたせいか、戦闘疲れによるものか、直前の刺激的な光景によるものか、あるいはすべての要因が組み合わさっているのか、頭も体も疲労を訴えかけてくる。

 

(思ったよりもずっと疲れていたらしい。風呂にも入ってないが……少し、眠るか……)

 

瞼を閉じて一分も経たないうちに、秀次の意識はまどろみに落ちていった。

 


 


 

少年の意識は暗い海のなかに沈んでいく。

 

水底に背中がついた感触を合図に、少年は目をゆっくりと開ける。

 

瞳に映る光景は何度も見たことがあった。

 

大きな黒が仰向けに倒れ、赤が広がっていく。

 

その光景を自分は震えながら見ている。耳を塞ぎたくなるくらい大きな悲鳴を聞きながら。

 

悲鳴を上げているのは白。大事な白。守りたかった白色に自分は手を伸ばす。

 

──赤い。真っ赤だ。手が真っ赤っ赤。大きな黒が倒れた地面に広がる赤と一緒。

 

どうして色しか把握できない。なぜ色にばかり目がいってしまうのか。

 

おぼろげだ。すべてが霧がかったように、少年はその記憶を認識できないでいる。泣き叫ぶ白の名前すら呼んであげられない。

 

お腹が痛い。じんじんと痛む。

 

地面に倒れ伏した大きな黒の濁ったガラス玉が自分を映している。

 

鬼のような角を生やした小さな黒。ドス黒い赤に染め上げられた自分。

 

腹からこぼれる赤を手で押さえながら、小さな黒は絶叫する。

 

涙を流して叫んだ瞬間──ごぼっと口から紅がこぼれた。

 

痛い、苦しい、辛い、紅い──。

 

まもなく大きな黒と同じように地面に転がった。縮こまって童のようにガタガタと震えている。

 

暗い小部屋のなかで、子供のように顔中を涙に濡らしながら

 

(誰かっ……)

 

幼い手を伸ばしたその瞬間──

 

凄まじい爆発音が鳴り響き、紅蓮の閃光と地獄の業火が少年を包み込んだ。

 

腹の痛みなんか忘れてしまうほどの熱痛。少年のすべてを焼き尽くし、灰燼に帰し、消し炭すら残さず燃やし尽くしていく。

 

──鮮血の夢から、少年を守るように。

 

再び暗い海に放り出された少年は海中を漂いながらうっすらと目を開ける。

 

深海と同じ色の瞳を持つ少年。彼が目に映したものは漆黒の巨影だった。

 

(……誰?)

 

少年の問いに答えず、巨影は悠然と翼を広げる。

禍々しい漆黒の翼はなんでも斬り裂いてしまいそうな鋭利さを思わせる。

 

静かに揺らぐ漆黒の尾は巨木よりも太く、否が応でも目が引きつけられる魅力を放つ。

 

全身を覆う漆黒の鱗は研ぎ澄まされている。

──否、全て逆向きに生えている。全身を覆う鱗全てが逆鱗だった。

 

そして、頭頂部に生えた二つの巨大な角。最も目立つその角は天をつらぬくように生えていた。

 

シルエットが鮮明になったことで少年もその存在のことを理解する。

 

(ドラ、ゴン……?)

 

赤く染まった目にうっすら虹がかった黄色の瞳。恐ろしさと美しさを兼ね備えたドラゴンの目に見下ろされて少年はたじろいだ。

 

『──フン。貴様が今代の宿主か。自らの記憶に苛まれるほどの童とは』

 

ドラゴンは翼を広げてその場から飛び立つ。正確には海中なので泳いでいるといったほうが正しいのだろうが確かに飛び立った。

 

『──この俺につまらんものを見せたな。背負いきれん業を自ら背負い、その代償に自らを失うとは。なんとも愚かで度し難い』

 

苛立ちながらも威厳を感じさせる声と共に漆黒のドラゴンは体からエネルギーを発し始める。

しかし、そのエネルギーの出力が異常だった。

 

──海が、震えている。

 

『悪しき夢もつまらぬ記憶も俺からすれば些事に過ぎん。いまはひとまずこの俺の輝きに見惚れていればいい』

 

灼熱の輝きを放ち、漆黒のドラゴンは周囲の海を自らの超越したエネルギーによって吹き飛ばす。

 

黒い太陽。その輝きに触れた少年は今度こそ意識も含めてすべてを消し飛ばされた。

 

***

 

目を覚ましたとき、秀次はここ最近の目覚めにはなかった開放感を得ていた。

ぐっすり八時間は寝たような心地よさ。すっきりとした目覚めに時間を確認すると、驚くことにフリードと交戦して家に帰ってきてからそれほど時間は経過していなかった。

 

「夢……見てたんだよな」

 

海冥と黎明の夢のなかで会った漆黒のドラゴン。恐ろしさと神々しさの両方を感じさせるドラゴンだったが、所詮は夢の産物だったのだろうとこのときの秀次は思うことにした。

その直後のこと、ドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえてきた。

こんな夜更けに走り回るなんてと秀次が訝しげに思った瞬間、彼の部屋の扉が開かれる。扉を開けた先に立っていたのは一誠だった。

だが、どうにも様子がおかしい。焦った表情の一誠を一目見て緊急事態を秀次は悟る。

 

「どうした?なにかあったのか?」

 

「いや何かあったも何も……って、まさかシュージ、いまのいままで寝てたのか!?」

 

「え?ああ、そうだけど……悪いな。だいぶ疲れてたみたいで」

 

「寝てる場合じゃねえよ!ついさっきフリードの野郎と堕天使の幹部が家の前に来やがったんだ!駒王学園で暴れるって、宣戦布告をしにな!」

 

一誠の口から告げられた驚愕の知らせに秀次の寝ぼけた頭も一瞬のうちに覚醒した。




ようやく佳境に入るエクスカリバー編。オリ主にもついに相棒が現れるか?
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