ハイスクールD×D 終焉に抗う暁の太陽   作:ドラゴン大好きT

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長かったエクスカリバー編もこれを含めて3話で完結させる予定です。あと今話はけっこう文字数が多いので休みながらお読みください。


第33話 禁手と狂乱

 

 

ただ、生きたかった。祐斗の願いはそれだけだ。

研究施設を抜け出して、血反吐を吐きながら森で倒れた祐斗は目の前に迫る死にただ震えた。

瀕死の祐斗をリアスは悪魔に転生させることで終わるはずだった命を助けた。

だが、自分だけが助かったという事実は祐斗の心に重い枷となって残り続けた。

どれだけ楽しいことがあっても、幸せだと感じていても、必ず同志たちのことが頭に過ぎる。

忘れてはならない。彼らを殺された憎しみを。

あの世に逝ってしまった彼らが、安らかに眠れるようにこの復讐だけは果たさなければと。

しかし先ほど、同志たちが教えてくれた。自分たちのことはいいと。キミだけでも生きてくれと。

同志たちは、復讐なんて望んでいなかった。祐斗の幸せをただ願ってくれていた。

 

「でも、すべてが終わったわけじゃない。バルパー・ガリレイ。あなたを裁かない限り、第二、第三の僕たちが生を無視される」

 

「ふん。研究に犠牲はつきものだと昔から言うではないか。ただそれだけのことだぞ?」

 

バルパー・ガリレイは邪悪そのものだ。改めてそう認識せざるをえない。

 

「木場ァァァァァッッ!フリードの野郎とエクスカリバーをぶっ叩けェェェェェェ!お前は、リアス・グレモリー眷属の『騎士』で、俺の仲間だ!俺のダチなんだよ!戦え木場ァァァァッッ!あいつらの想いと魂を無駄にすんなァァァッ!」

 

一誠の熱い心の咆哮が。

 

「祐斗!やりなさい!自分で決着をつけるの!エクスカリバーを超えなさい!貴方はこのリアス・グレモリーの眷属なのだから!私の『騎士』はエクスカリバー如きに負けはしないわ!」

 

主の、リアスの信頼が。

 

「祐斗くん!信じてますわよ!」

 

「……祐斗先輩!ファイトです!」

 

「木場さん、がんばってください!」

 

仲間たちの優しい想いが言葉で伝えられる。

同志の無念を晴らすためにと、一度は裏切ってしまった仲間たち。

──だが、それは間違いだった。過去の清算をするために、現在の仲間を捨てるなど。

間違えたにも関わらず、仲間たちは祐斗のことを見捨てようとはしなかった。

 

「祐斗」

 

最後に自分を呼んだ秀次に祐斗は目を向ける。

秀次は、他の仲間たちとは少し違う関係性だ。

秀次が悪魔になる前から、祐斗はクラスメイトとして関係を持っていた。

なのに、自分は彼のことを何も知らない。秀次は多くを語る性格ではないし、過去を知られることをあまりよく思っていないからだ。

隣の席に座る秀次とよく話すようになったのは他の男子生徒と違って嫉妬心や敵愾心を向けてくることもなかったから。付き合うのが楽だったというのが一番の理由だった。

──だから、秀次が悪魔に転生したと聞いたときは悲しみよりも期待を抱いてしまった。

彼が死んだことを悲しいと思うことよりも、これから少しでも秀次のことを知れればと。

 

「あー、まあ……なんだ。こういうときに何を言ったらいいのか、わかんねえんだけど……」

 

考えるように間を置いた秀次は気まずそうに首を掻きながら言う。

 

「勝てよ。絶対」

 

秀次の声かけに祐斗は静かに頷いた。流れる涙を振り払い、眼前の敵を静かに睨む。

 

敵は聖剣エクスカリバーとフリード・セルゼン。

 

──負ける気はしない。こんな自分を支えてくれる仲間がいるかぎり。

 

自分の魂と融合した同志たちと共になら。

 

エクスカリバーにも、打ち勝てる!

 

「──僕は剣になる」

 

祐斗の神器と同志の魂が混ざり合う。

聖と魔、本来は起こり得ない相反する力の融合。

神々しいオーラと禍々しいオーラの両方を放つ一本の剣が祐斗の手に握られる。

 

「──禁手、『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。聖と魔を有する剣の力、その身で受け止めるといい」

 

祐斗はフリードに向かって駆け出す。フェイントを織り交ぜながら距離を詰め、生じた一瞬の隙を迷わず斬りかかる。

フリードは瀬戸際で祐斗の剣を受け止めるが、エクスカリバーの聖なるオーラが受け止めた聖魔剣の能力によってかき消されていく。

 

「ッ!本家大元の聖剣を凌駕すんのか、その駄剣がっ!?」

 

「それが真のエクスカリバーならば、勝てなかっただろうね。──でも、そのエクスカリバーでは僕と同志たちの想いは絶てない!」

 

「チィ!伸びろぉぉぉぉ!!」

 

聖魔剣の力を嫌ったフリードは距離を取り、エクスカリバーをしなる鞭のように伸ばす。

イリナから奪った『擬態』の能力に加えて、フリードが最初に使っていた『天閃』による超スピードが合わさり、枝分かれした刃が高速で祐斗を刺し貫こうと襲ってくる。

しかし、フリードの殺気を読んだ祐斗には全て防がれる。焦ったフリードは残る『透明』の力を使って刀身を透明化させるが、祐斗は襲い来る見えない刃すら対応してみせた。

 

「そうだ。そのままにしておけよ」

 

さらにエクスカリバーとフリードを打倒したいゼノヴィアが二人の戦いに介入してくる。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」

 

ゼノヴィアが発する言霊を空間に歪みが生じる。

彼女は生じた空間の歪みに手を入れ、聖なるオーラを纏う一本の聖剣を取り出した。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。──聖剣デュランダル!」

 

彼女が取り出したるは聖剣エクスカリバーに並ぶほど有名な伝説の聖剣デュランダル。

斬れ味だけなら聖剣最強とも謳われるほどでゼノヴィアはエクスカリバーとデュランダルの聖剣二刀流の剣士であった。

これには聖剣使いを作ったバルパーはもちろんのことコカビエルすら驚愕していた。

 

「バカな!私の研究ではデュランダルを扱える領域にまで達してはいないぞ!?」

 

「イリナたち現存する人工聖剣使いと違って私は数少ない天然ものだ」

 

ゼノヴィアは産まれながらに聖剣に祝福された非情に稀有な存在。そんな彼女でもデュランダルは扱いきれず、普段は異空間に格納していた。

聖剣デュランダルから発される聖なるオーラは統合されたエクスカリバーや祐斗の聖魔剣を遥かに上回っている。

 

「そんなのアリですかぁぁぁ!?ここにきてのチョー展開!クソッタレのクソビッチが!そんな設定いらねえんだよォォォォ!」

 

激昂したフリードは透明化した刃を放つが、ゼノヴィアはデュランダルを軽く横薙ぎするだけで透明化した刃を木っ端微塵に砕いてしまった。

戦意が弱まったフリードとの距離を一気に詰め、祐斗はトドメの剣撃を食らわせる。

 

「──見ていてくれたかい?僕らの力は、エクスカリバーを超えたよ」

 

祐斗の聖魔剣がエクスカリバーを完全に破壊してフリードを打ち倒した。

 

11:16

 

「せ、聖魔剣だと……?あり得ない……。反発しあうふたつの要素がまじり合うなんてことはあるはずがないのだ……」

 

エクスカリバーを打ち砕かれた瞬間を目撃したバルパーは酷く狼狽していた。自分の憧れがぽっと出の剣に負けたことによるショックというより、聖魔剣の異質さに困惑している様子だ。

 

「バルパー・ガリレイ。覚悟を決めてもらう」

 

祐斗は聖魔剣の切っ先をバルパーに向ける。

これ以上、バルパーを野放しにはできない。新たな被害者を生み出さないために。これ以上の悲劇を起こさせないためにも……。

 

「……そうか!わかったぞ!聖と魔、それらをつかさどる存在のバランスが大きく崩れているとするならば説明はつく!つまり、魔王だけではなく神も──」

 

何かに思い至ったバルパー。すべてを終わらせようと祐斗が踏み込むよりも早く──バルパーの胸を一本の光の槍が貫いた。

バルパーはその一撃で絶命。光の槍を放ったのは──彼の仲間であるはずのコカビエルだ。

 

「バルパー。おまえは優秀だったよ。そこに思考が至ったのも優れているがゆえだろうな。だが、俺はおまえがいなくても別にいいんだ。最初から一人でやれる」

 

理解不能の言動にその場の全員が困惑している最中にもコカビエルは哄笑と共に地に降りる。

──皆、これだけは理解していた。コカビエルという存在の強大さを。

統合されたエクスカリバー、暴君と謳われるデュランダル──悪魔にとって凶悪な武器である聖剣が比較にもならないプレッシャー。

自分の勝利に絶対の自信があるのだろう。不敵な笑みを浮かべながらコカビエルは告げる。

 

「──限界まで赤龍帝の力を上げて、誰かに譲渡しろ」

 

「私たちにチャンスでも与えるというの!?ふざけないで!」

 

「ふざけないで?ふざけているのはおまえたちのほうだ。俺を倒せると思っているのか?」

 

たとえ、この場の全員で一斉にコカビエルに襲いかかったとしても必ず負けるだろう。それだけの力の差がコカビエルとリアスたちにはある。

それでも──目の前のバケモノを倒さない限り、今回の戦いは終わらない。

激昂してしまったリアスもすぐに落ち着きを取り戻して一誠に倍化の準備を始めさせる。

その間もコカビエルは立っているだけであったが誰も彼を攻撃しない。攻撃を加える隙すら見つけられなかったからだ。

まもなく一誠の準備が整うと、コカビエルは興味津々な様子で訊いてくる。

 

「で、誰に譲渡する?」

 

コカビエルの問いに答えず、リアスは一誠と手を握り合う。一誠から倍化で引き上げられた力がリアスへと譲渡された瞬間、大気が震えるほどの紅い魔力が彼女の全身から立ち上った。

 

「フハハハハハハ!いいぞ!その魔力の波!俺に伝わる力の波動は最上級悪魔の魔力だ!もう少しで魔王クラスの魔力だぞ、リアス・グレモリー!おまえも兄に負けず劣らずの才に恵まれているようだな!」

 

リアスの魔力の高まりを感じたコカビエルは心底うれしそうに笑い続ける。まさに戦闘狂、戦争狂と呼ぶにふさわしい男だ。

直後、リアスの手から現時点での最高火力の滅びの魔力が撃ち出された。滅びの力の塊をコカビエルは両手を突きだして迎え撃つ。

コカビエルの両手には堕天使の力、光力が集中していることで眩く光り輝いている。ジリジリとその場から後退していた。

 

「ぬぅぅぅううううううううんッッ!」

 

しかし──リアスの魔力をコカビエルは徐々に押さえつけ始めた。このままではリアスの魔力を消してしまうのも時間の問題だと祐斗は悟る。

 

「血は──」

 

そんなコカビエルの後方──秀次は両手を突きだして炎を撃ち出す構えを取っていた。

コカビエルがリアスの魔力の対処に集中していたことで生まれた一瞬の隙。秀次はすでに追撃の準備を整えていた。

 

「炎っ!」

 

放たれた炎球はコカビエルの背に直撃し、広がる煙の向こう側に全員が警戒の視線を注ぐ。

──次の瞬間、バッ!という風を殴る音ともに十枚にも及ぶ黒い翼を広げるコカビエルの姿が全員の視界に映される。

 

「赤龍帝とリアス・グレモリーの力はなかなかのものだが……貴様は期待外れだな!」

 

リアスの魔力を押さえる手は傷つき、血を流しているがダメージはほとんどない。着ているローブも多少端のほうがボロくなっただけ。秀次の攻撃は翼で完全に防がれたようだ。

 

「なら何度でも!」

 

「雷よ!」

 

さらに秀次は追加で炎球を放ち、朱乃も得意の雷をコカビエルに向けて撃ち出す。

しかし、その両方をコカビエルは翼を羽ばたかせるだけで防いでしまう。眷属内でリアスに次いで強力な魔力の攻撃をいとも容易くだ。

 

「俺の邪魔をするのか、バラキエルの力を宿す者よ!」

 

「……私をあの者と一緒にするな!」

 

コカビエルの発言に朱乃は目を見開いて激昂し、雷を連発するが全て防がれてしまう。

 

コカビエルが口にしたバラキエルという名前。

 

『雷光』の二つ名を持つ堕天使の幹部で、単純な戦闘力は堕天使の総督であるアザゼルにも匹敵するとされている。

 

同時に、バラキエルは朱乃にとって──。

 

「悪魔に墜ちるとはな!ハハハ!まったく、愉快な眷属を持っているな、リアス・グレモリーよ!赤龍帝、禁手に至った聖剣計画の成れの果て、そしてバラキエルの娘!おまえも兄に負けず劣らずのゲテモノ好きのようだ!」

 

リアスの魔力を完全に消し去ったコカビエルは朱乃がひた隠しにしていたことを暴露し、愉快そうに哄笑し続けた。

 

「兄の──我らが魔王への暴言は許さないっ!何よりも私の下僕への侮辱は万死に値するわっ!」

 

友達を、愛する下僕を、兄を、魔王を侮辱したコカビエルに対して怒りの咆哮をあげるリアス。

──だがすでに、コカビエルの興味は彼女たちではなくとある男に注がれていた。

 

「だがおまえが一番のゲテモノだぞ。俺は神器などに興味はないが、ソレを宿す者が悪魔に転生しているとはな」

 

コカビエルの視線が向けられたのは──秀次だ。いきなり話しかけられた秀次は内心で困惑するも警戒を緩めずに構えを取る。

 

「おまえさえいれば、もはやエクスカリバーすらも不要だな」

 

だが、秀次の警戒心などコカビエルは微塵も気にせずに一瞬で間合いを潰す。秀次は咄嗟に拳を打ち出すも空を切り、隙を晒した彼の首をコカビエルは握り潰すように掴み上げる。

 

「がっ!?」

 

「さあ『紫水晶の双角』よ、貴様の本性を見せてみろ!それともこう呼ぶべきか!?──神の失敗作、ディザスター・クラウンッ!」

 

──ディザスター・クラウン。それが秀次が宿す神器の名前らしいが、友達の危機に神器の名前なんてどうでもいいと祐斗が駆け出す。

さらに祐斗の後方からゼノヴィアも駆けつけ、同時のタイミングでコカビエルに斬りかかる。

しかし、コカビエルは空いたもう片方の手で光力の波動を放ってゼノヴィアを吹き飛ばし、さらに彼女の腹部を激しく蹴り飛ばした。

 

「所詮は使い手しだい。おまえではまだまだデュランダルは使いこなせんよ!先代の使い手はそれはそれは常軌を逸するほどの強さだったぞ!」

 

「コカビエル、僕の聖魔剣であなたを滅ぼす!僕の友人から手を離してもらおう!」

 

吹き飛ばされたゼノヴィアも体勢を立て直し、再び連携して斬りかかろうとした──そのとき。

 

「いつ、までも、つかんでんじゃあねぇッ!」

 

息も絶え絶えの様子だが、秀次はコカビエルの腹に手を当てて零距離で炎を爆発させる。

爆炎が両者の間で炸裂し、爆風によって秀次の体は吹き飛んで仲間たちのもとまで戻ってきた。

 

「がはっ、ごほっごほっ……なんだってんだいったい……!」

 

「チッ、まあいい。こいつらを全員片付けて、再び手に入れればいいだけのこと」

 

地面を転がった秀次はようやく息が吸えたことで何度も咳き込み、獲物を取り逃がしたコカビエルは舌打ちをしながらも愉快そうな表情。

自分に対して敵意を剥き出しにしている秀次に期待しているような眼差しを送っていた。

 

「そこ!」

 

「甘いわ!」

 

背中を取った小猫が拳を打ち込もうとするが、コカビエルの黒翼が鋭い刃になって彼女の体を斬り刻んだ。すぐに一誠とアーシアが駆け寄り、小猫の傷を癒し始める。

 

「テメェ……っ!」

 

「ダメよシュージ!コカビエルは明らかにあなたを狙っているわ!下がっていなさい!」

 

殺気立ってコカビエルに向かっていこうとする秀次の肩を掴んで制止するリアス。

理由は不明だがコカビエルは秀次を狙っている。再び捕まれば救助も難しい。

リアスの制止を聞いて立ち止まったが秀次はいつ飛び出してもおかしくない様子であり、殺気を向けられるコカビエルは狂喜に笑う。

 

「ハハハ!リアス・グレモリー、おまえはその者を庇うのか。どうやらおまえの兄はその神器のことも、神器に封じられた『存在』のこともおまえには知らせていないようだな」

 

「……自分は知っているとでも言いたげね。『神の子を見張る者』は神器を研究しているという話だし、知識だけはあるということかしら?」

 

「ああ、神器に興味がない俺でもその神器のことは覚えている。なにせ、その神器に封じられた奴もまた──ドラゴンなのだからな」

 

ドラゴンが封じられた神器。つまり一誠が宿すブーステッド・ギアや匙の神器と秀次が宿している神器は同類ということらしい。

 

「煌めく黒龍──『煌黒龍(エスカトン・ドラゴン)』。聖書に記されることもなく、他の神話体系においてもまともな記録は残されていない」

 

「煌めく黒龍……?それに聖書にも他の神話体系においても記録がないだなんて……ありえないわ、そんなこと」

 

「天界の連中は煌黒龍のことを特に毛嫌いしていてな。煌黒龍のことを書き記した書物はすべて焚書している。知っているのは当時の煌黒龍の力を目にした者たち、大戦初期から生き残っている俺のような強者だけだ」

 

情報を徹底的に消し去られたドラゴン。大戦の最中に戦場を荒らした二天龍でさえ、そこまでの処置はされていない。

 

──何をすればそこまで忌み嫌われるようになったというのか。

 

「大戦の最中に争い始めた二天龍を悪魔、天使、堕天使が協力して倒したことはおまえたちも知っているだろう。煌黒龍も同じようなものだ。その強さから脅威と判断された奴を倒すため、俺たちは協力して戦いに挑んだ。三大勢力が初めて手を取り合ったのは二天龍を倒したときだとされているが……それは事実じゃない。二度目だ」

 

コカビエルから語られた驚きの歴史。

二天龍より以前にも三勢力が協力して戦いに挑んだ相手がいたとはつゆ知らず、リアスはコカビエルが敵であると理解しながらも目を輝かせて聞いていた──その直後のこと。

過去を思い出すようにしみじみと語っていたコカビエルの顔にわずかな影が差した。

 

「だがそれでも俺たちは──煌黒龍たちに勝てなかった。あの神でさえ勝てないと判断し、最終的には神器に封じることでやむなく戦いを収めた。それからだ。煌黒龍が『神をも恐れさせた最強の古龍』などと呼ばれるようになったのは」

 

それを聞いた秀次の脳裏に過ったものは、この戦いが始まる前に夢で見た黒いドラゴンの姿。

 

「神をも恐れさせた最強、なんて触れ込みが広まれば神の沽券に関わる。信徒たちからの信仰心に影響が出ることを恐れた奴らは煌黒龍を歴史から揉み消したのさ」

 

コカビエルが語ったことが真実なら、確かに煌黒龍についての情報が消去されたのも納得だとリアスはこのとき思った。

──同時に、彼女は自分が眷属に選んだ男が背負う悲しい運命を悟る。

 

「でも……それが、なんだって言うんだ」

 

「なに?」

 

秀次のつぶやきを聞いたコカビエルは訝しげな表情となって彼に視線を注ぐ。

秀次は自分の神器を指差しながら、さも当然のことのように告げる。

 

「こんなもの、所詮は火や水や氷を操れるだけの道具に過ぎない。そんなことは魔力を扱う悪魔にだってできる。なのになぜ俺を狙う?」

 

「──ぷっ、アハハハハハハハハ!それは本気で言っているのか!?さっきの話を聞いただろう!おまえの神器に封じられたドラゴンは神をも恐れさせた存在なんだよ。そんなバケモノを宿したおまえを餌にすれば三つどもえの戦争なぞ容易に復活させられる!」

 

コカビエルは堪えきれないと笑っているが、秀次はわりと真面目に自分の神器にそれだけの価値しか見出せていない。というより、自分自身にそこまでの価値を持っていなかった。

 

だが、それは間違いだと目の前の堕天使は教えてくれる。

 

「天界は神の敵であるおまえを殺そうとし、堕天使はおまえを危険だと判断して処分する。悪魔だって似たようなものだろう。どこにも、おまえの居場所なんてない」

 

「っ──」

 

三勢力にとって煌黒龍が封じられた神器を宿してしまった秀次はまさに忌み者。この世にいてはならない最低最悪の存在。

だが、戦争の復活を望むコカビエルにとって秀次に宿る神器は利用価値がある。

 

「自分でも理解しているようだがいまのおまえはそこらの悪魔に毛が生えた程度だ。だから俺が鍛えてやろう。俺が利用してやろう。おまえは戦争の火種となるんだ。俺の手によってな!」

 

「ふざけんな!テメェなんかに利用されてたまるかっ!」

 

表面上はコカビエルに対して激昂する秀次だが、その内心では仄暗い感情が芽生えていた。

 

コカビエルに利用されるくらいなら──この場で自分は死を選ぶ。

 

どこまでも陰気だが、最も合理的な結論を秀次はすでに導き出している。もちろん自死はあくまで最終手段として取っておくつもりだが。

 

「まあ、そんな神もすでにこの世にはいないんだがな」

 

──突然、コカビエルは口を滑らせた。それを聞いた全員が言葉の意味が理解できず、戦いの最中にも関わらず呆けた顔で動きを止めた。

 

「神が……この世にはいない?」

 

「そうだ。先の三つどもえの戦争で死んだのは四大魔王だけじゃなく神もだ」

 

無知な子供らに真実を突きつける大人。衝撃を受けたリアスたちの表情をつまみに、コカビエルの笑みはさらに深くなっていく。

神の死亡。その一大事を知っているのは三勢力のなかでもトップと一部の者たちだけ。

聖魔剣が誕生した理由もまさにそれが理由だ。聖と魔の象徴である神と魔王が死んでいるためにバランスが崩れた現世では様々な特異な現象が起こっている。先ほどバルパーも気づいた様子だったが、コカビエルはそれを自分の口から明かしてリアスたちの反応を楽しむつもりだったために始末したのだ。

 

「神がいないなら、なおのこと俺を戦争に利用する意味が理解できないんだが?」

 

「神がいなくとも、神が残した『システム』というものがある。それさえ機能していれば、神への祈りも祝福も悪魔祓いもある程度は動作するわけだが、現在システムを動かしているのはミカエルだ。本来の力を発揮できる神亡きいま、人間たちにはシステムによる恩恵が十分にいき渡らず、足切られる信徒も数多くなっている。そんな状況で神を脅かす存在が知れれば信仰心はさらに減る。そして、システムの動力は信徒の信仰心だ。ここまで言えば理解できるだろう?」

 

「……ただでさえ、神の死亡で満足に動かせないのにそこから信仰心が減ったら、システムはさらにパワーダウンするってわけか」

 

神の死亡という真実を知ったゼノヴィアは力なくうなだれ、過去には神を信奉して生を繋いでいた祐斗もショックを隠せず、アーシアはその場で膝から崩れ落ちてしまった。

先の戦争で死んだ四大魔王と神、それに連なる強者たちの損失は大きかった。どこの勢力も人間に頼らねば種の存続すら危ぶまれるほどに。戦争も中断せざるを得ない状況に追いやられた。

堕天使の勢力もそれは同じであり、総督のアザゼルも二度目の戦争は望まないスタンスらしい。

だが、コカビエルにはそれが許せなかった。

 

「俺は戦争を始める!これを機に!おまえたちの首を土産に!俺だけでもあのときの続きをしてやる!我ら堕天使こそが最強だとサーゼクスにも、ミカエルにも見せ付けてやる!」

 

吼え猛る堕天使の目に恐ろしい光が宿っていた。それにリアスたちも気づいていた。それは一誠と秀次も例外ではない。

──例外ではないのだが、彼らは恐怖とは別の感情に突き動かされていた。

 

「ふざけんな!お前の勝手な言い分で俺の町を、仲間を、部長を、アーシアを消されてたまるかッ!それに俺はハーレム王になるんだぜ、てめえに俺の計画を邪魔されちゃ困るんだよ!」

 

まさに性欲の権化らしい発言だが、コカビエルという強大な敵を前にしても臆することなく言う一誠の度胸は賞賛されるべきだろう。

 

「……」

 

一方で秀次は静かにコカビエルと一誠を見る。

 

秀次もコカビエルに恐怖を感じていた。だがそれは彼の心を怯ませるには至らない。

 

命がけの戦闘ならば恐怖はあって当たり前。それを理解して命がけの戦闘に挑んでいる秀次は恐怖を当然のものとして受け入れている。

 

だが、今回の戦闘は普段とは違った。恐怖とは別の感情を秀次は抱いていた。

 

それは──嫉妬。

 

コカビエルと戦い始めてから──いや、戦いが始まる前から嫉妬感があった。

なぜこんな感情が湧き出てきたのか最初はよくわからなかったが、エクスカリバーを初めとしたこの戦いを経て秀次はこの嫉妬心の原因をなんとなく理解した。

 

コカビエルは戦争狂だ。だけど戦争狂なりに戦争を起こそうとする理屈がある。彼には堕天使としての信念がある。堕天使こそが最強の種族だというプライドを持っている。

 

一誠は変態だ。だが変態だからこそ目標がある。ハーレムを築くことこそ彼が生きるうえでの指針になっているのだろう。

 

リアスも。朱乃も。小猫も。アーシアも。生きるうえでの目的がある。目標を持って生きている。生きる意味を持っている。

 

誰もが何かしらの信念を持っている。だからこそ恐怖を抱きながらも、生きようと足掻き、命がけの戦闘に挑んでいる。

 

皆、並の精神力ではない。それにコカビエルはいまでこそ孤独だが、彼の意思を引き継ごうとする者は今後も現れるだろう。

 

リアスたちもそうだ。志を共にする仲間がいる。皆が注目するような凄い能力を持っている。皆が憧れるような美しい理想を持っている。

 

この世には、そんな奴らであふれている。

 

だからこそ、羨ましい。自分にはないものを持っているこいつらが妬ましい。

 

だって──秀次には何もない。目標もない。生きる目的もない。生きる意味なんてない。未来も夢も希望もない。

 

仲間も……いない。唯一、自分と同類だと思った祐斗にも仲間がいた。過去に失ったはずの同志たちがいまの祐斗にはついている。

 

リアスたちは最もソレに近い存在だと思えた。

だけれどやっぱり違うのだろう。彼女たちには自分が抱えているこの虚無など伝わらない。わかり合えると思えない。

 

だって、秀次がリアスたちを信頼できないから。彼女たちのことを助けようとは思えるが、彼女たちが自分を助けられるとはとても思えない。きっといつか、リアスたちとも訣別するのだろう。

 

家族のことくらいは守ってやりたいが、心から家族のことを守りたいと思うのなら、自分はやっぱり離れるべきなのだろう。

 

また独りだ。いつも孤独に戦ってきた。ようやく手に入れたと思った居場所すらじきに失ってしまうらしい。

 

能力だって破壊に特化したものばかり。封じられた存在は全勢力から嫌われた孤独なドラゴン。

そりゃ誰からも好かれるわけがない。求められるわけがない。距離を置かれて当然だ。憎まれて当然なのだ。孤独になって当たり前だ。

 

秀次にとって生きるとは意味のない作業。死ぬまでずっとこうなのだろう。いや、死んでもそれは変わらなかった。

 

悪魔に転生してもなおこの虚無感は消えてくれないのだから。

 

きっと自分は永久に独りきりなんだ。

 

「──おい、シュージ?」

 

リアスからこの戦いを生き残れたのなら、あとで自分の胸を好きにしていいと言われた一誠はやる気を出してさあ戦おうとしていた。

だが、そんな一誠を押しのけて秀次が進み出る。無言のまま、無表情で、彼はおぼつかない足取りでコカビエルに向かっていった。

 

どうして自分ばかりがこんな目にあわなきゃならない?

 

どうして自分だけがこんな苦しい思いで生きなくちゃいけない?

 

この途方もない虚無を、どうして自分だけが抱かなくちゃいけない?

 

どうして?なぜ?なんで自分ばっかり!おまえたちは何も知らない!この苦しみも虚無感も全部!おまえたちは何もかも知らないくせに!

 

……知らないくせに、なんで満ち足りないみたいな顔をするんだ?

 

「……ろす」

 

俺だって、アンタたちみたいになりたいさ。

 

でもその満ち足りないという感情すら俺にはわからない。

 

もう耐えられない……耐えたくない。

 

だから……

 

 

 

 

 

「だから、おまえは俺が殺す」

 

その一声を聞いた瞬間、コカビエルとリアスたちは自分の体が大きく震えたのを実感した。

これまで秀次が見せてきた感情がすべて嘘だったんじゃないかと思えるほど濃密な殺気。心身が底冷えするほど嫌な気配。

 

桁違いの殺意が秀次から解き放たれている。

 

5:59

 

駒王学園を覆う結界のさらに上空。白き全身鎧を身に纏ったその存在はただ傍観していた。

元々はあまりに退屈すぎる任務だと思っていた。子供のおつかいの如く扱われていることに嫌気すら感じていたほどだ。

 

だが、ソレを目の当たりにした瞬間、男の退屈は消し飛んでいた。

 

「ハハハ!アルビオン、感じているか?コカビエルの目の前に立ったあの男!あの男から解き放たれているこのオーラの昂りを!」

 

『ああ、感じているとも。間違いないさ』

 

白き鎧に嵌め込まれた宝玉から聞こえてくる音声は楽しげな男に対して静かに答えていた。

 

『バカな!?ありえん!』

 

地上。駒王学園の校庭に立つ兵藤一誠。彼に宿る神器に封じられたドラゴン──赤龍帝ドライグはあまりの驚きに素っ頓狂な声を発した。

 

「どうしたんだよ、ドライグ!」

 

『これは、このオーラは……ッ!』

 

「だからどうしたって……」

 

相棒の激しい動揺を感じながらも一誠の視線はコカビエルの正面に立つ秀次に注がれる。

相手は堕天使の幹部。自分たちとは比べ物にもならないほどの実力者。そんな危険な存在が秀次の身柄と神器を狙っている。なのに秀次はこちらの制止も一切聞かずに前に出た。

だがなによりも恐ろしいのは、兄である自分でさえも見たことがない弟の異様な姿だった。

 

禁手化(バランス・ブレイク)……ッ!」

 

地の底に響くようなドスの効いた声を秀次が発した瞬間、神器の角が紫の閃光を解き放った。

さらに紫光の奥から黒い光まであふれ出し、二色が混ざり合って黒紫色の閃光が校庭全体にまで広がっていく。

 

『Eskaton Dragon Balance Breaker!!!!!!!!』

 

紫水晶の角からも音声が発され、秀次の全身を異常な質量の黒紫色のオーラが包み込む。

まもなく、その場に黒い鎧を身に纏った秀次が姿を現した。ドラゴンを象った全身鎧は刺々しく、禍々しい印象を抱かせる。あふれるオーラで秀次が立つ地面は凹まされていた。

鎧を身に纏った秀次を見て、さしものコカビエルも驚愕に震える声を漏らす。

 

「ありえん!まさか、至ったというのかッ!?『煌黒龍の統天角(ディザスター・クラウン)』、その禁じ手にッッ!!」

 

溢れ出る殺意を隠さずに、禁手に至った秀次はコカビエルに死を告げる。

 

「禁手、『煌黒(ディザスター・クラ)龍の鎧(ウン・リバース・スケイルメイル)』──これを解禁した以上……おまえ、もう死んだよ」

 

闇夜よりも暗く黒い衝動が『怪物』兵藤秀次を突き動かしてしまった。




はい、というわけでオリ主禁手獲得おめでとう!

まあ、かわりに面倒な状態に入りましたけどね。カーラマインのときに見せた暴走状態とはまた話が違います。あれは暴走。こっちは殺意全開のキリングマシーン化みたいなものです。

オリ主の嫉妬心の解放は東方の二次作品、ジャガー戦士氏の東方適当録を参考…というより、ほぼ引用してしまったんですが。大丈夫かな?やっぱり怒られるかな…。

オリ主の神器の名前を考えてくださった方には改めて感謝をお伝えします。前作から引き続き今作もありがたく使わせていただきます。
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