ハイスクールD×D 終焉に抗う暁の太陽   作:ドラゴン大好きT

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戦闘描写を書くと文字数が多くなる…。できることなら8000文字以下に抑えたいものです。


第34話 欠陥品と欠落者

 

 

兵藤秀次は天才である。

 

中学時代の彼は特にそれが顕著であった。

学校にはまともに来ないくせにテストでは常に上位の成績を収め、スポーツにおいてもなぜ部活動に入っていないのかと不思議がられるほどの好記録を残している。

そんな彼を他の生徒は羨み、嫉妬した。人間とは自分と同じレベルの相手に親近感を抱き、自分と隔絶した差を持つ相手とは距離を置く。

ゆえに彼は孤立した。イジメと呼べるものをはるかに超えた苛烈なものに晒され続け、過剰なまでに迫害された。

 

兵藤秀次は天才である。

 

だがそれは、彼を知る者の多くが勘違いしていることだ。彼とて初めからすべての才を持ち得ていたわけではない。

睡眠時間を削り、食事の時間を削り、遊ぶ時間を消し、友人を作る時間を無くし、それでもわからないときは学校にも顔を出した。

運動も同じだ。泳ぎができないと悟った秀次は民営のプールに通い詰め、六時間ぶっ続けで泳ぎの練習をした。体の動かし方を本から学んだ。他人の動きを観察し続けた。

 

彼がそこまでした理由。それは、彼も周りと同じだったからだ。

周りに舐められたくない。周りよりも劣っていると自覚したくない。その一心で、その一心だけで彼はすべてを得ようと努力した。

だが、そこまでして彼は気づいた。どれだけ努力しようと上には上がいる。見上げる上にはキリがないことを彼は知った。

兵藤秀次は産まれながらの天才ではなく、周りと同じく凡庸な子供だった。彼はすべてを得られる人間ではなかった。

ただし、ある一点だけ。彼は普通ではない才を持たされていた。

 

それは──暴力。

 

誰かに教えられるわけでもなく、誰かの動きを観察していたわけでもない。

それでも、兵藤秀次は暴力の天才であった。

一度も負けたことがないわけではない。武器を持った相手と戦って大怪我をした。奇襲を受けて窮地に立たされたこともあったし、数の暴力に敗走したこともある。

それでも彼は死ななかった。生きた彼はあらゆる暴力を吸収していった。武器を使い、奇襲で相手を倒し、数の暴力に対応する術を身に着けた。

彼は異常なまでに強かった。だがその異常な強さゆえに彼は周りから逸脱した。

 

中学時代。彼は孤立したがそれは周りに問題があったからではない。彼の異常な才能が普通の環境とはあまりにもかけ離れていた。それを自覚していた彼も距離を置かざるを得なかった。

 

兵藤秀次は異常。人間という枠組みで生活することに彼は傑れられなかった。

 


 


 

町の崩壊まであと──5:21秒

 

禁手に至った兵藤秀次。その前に立つのは聖書にも記された堕天使の幹部コカビエル。

睨み合う両者は互いの間合いを測り、呼吸を整えて一気に踏み込む──。

 

「──ッ!」

 

瞬間、秀次の姿がその場から消える。暗闇に複数の炎の軌跡を残しながら。

即座に対応しようとするコカビエルだが、すでに秀次は間合いを詰め終えている。

 

「まずはさっきまでのお返しだ」

 

「ごっ!」

 

初手を取ったのは秀次。彼の拳がコカビエルの腹部に突き刺さる。

苦悶の声と共にコカビエルは腹から息を吐き、その隙を逃さずに秀次は拳の連打を繰り出す。

 

「シィ──ッ!」

 

「隙だらけだぞ、煌黒龍ッ!」

 

コカビエルは両手に光の剣を出現させ、秀次を斬り裂こうとクロスを描くように振るう。

だが秀次の鎧に光の剣が触れた瞬間、ガキィン!という激しい金属音と火花が散った。

その手応えはまさに鋼鉄。いやそれ以上だ。

 

(この小僧め!もとより受けるつもりだったか!俺の光の剣では斬れないと踏んで!)

 

龍の鎧は圧倒的な質量のオーラが形作ったもの。並大抵の攻撃では傷もつけられない。

コカビエルの反撃に構うことなく秀次は拳のラッシュを打ち続け、対するコカビエルも光の剣を捨てて秀次の右腕を掴んだ。

そのままコカビエルは秀次を投げ飛ばそうと腕に力を入れるが、それ察知した秀次もコカビエルの右腕を掴み返す。

両者はさらにもう片方の腕も掴む。すでに投げ飛ばしの判断はない。互いに踏み込み、全身の力を奮い立たせた。

 

「ァァァァァアッ!」

 

「フゥゥゥゥンッ!」

 

そして、渾身の力を込めて同時に頭突きした。

生身と鋼鉄がぶつかる異様な音が辺りに響き、衝撃が周辺の空気を吹き飛ばす。

 

「ぐうッ!」

 

両者は同時に頭突きをしたが、コカビエルは激しく仰け反って割れた額から鮮血を噴き出した。

さらに距離を詰めようとする秀次の進行方向にコカビエルは光の槍を投げつける。

瞬間、まぶしい閃光と共に地面が吹っ飛ぶ。クレーターが生み出され、吹き荒れる暴風と共に砂埃が広がっていった。

 

「な、なんちゅう戦いだよ……」

 

秀次とコカビエルの戦いを遠巻きに観戦していた一誠は口元を引くつかせて言葉を漏らす。

以前に彼は自分の左腕を犠牲にして、擬似的な禁手状態になったことがある。そのときの自分と秀次の戦いぶりを見て確信したのだ。

擬似的な禁手と正式に至った禁手では明確な差が存在している。強さのレベルが段違いだ。

 

「あいつらどこに行ったんだ?」

 

「……上だよ」

 

一誠の疑問に答えたのは祐斗。彼は空に顔を向けながら指差した。彼らが視線を向けた先では凄まじい戦いが繰り広げられていた。

 

「貴様の鎧ごと貫いてくれるわ!」

 

コカビエルは光の槍を手に持って間合いを取りながら振り回し、秀次は目にも止まらぬ速さで飛び回って間合いを詰めていく。

コカビエルの背後に回り込んだ秀次は右拳を突き出すがコカビエルも反応して身を翻す。反撃に光の槍を突き返したが秀次は右腕で光の槍を弾いてコカビエルを蹴り飛ばした。

 

「は、速いなんてもんじゃねえ……」

 

『神器、「煌黒龍の統天角」の能力は「所有者の力を五つの属性エネルギーに変換し、放出する」というものだ。相棒の弟の動きが速いのは放出能力を推進力に転用しているからだな』

 

ドライグの解説通り、秀次は神器の放出能力を応用して翼もなしに高速で飛行している。

足からの噴出に加えて、背中の噴出器や肘、手のひらからも炎を噴出してバランスを保ちながらの高速移動を可能にしていた。

 

『だが……このままでは勝てない。相棒の弟はコカビエルに負ける』

 

確信しているように断言するドライグに一誠は訝しげな反応を返す。

 

「それはシュージが禁手に至ったばかりだから?それともシュージとコカビエルの間には戦闘経験に差があるから?」

 

『どちらも理由としては正しい。だが相棒の弟が負ける理由はさらに別にある』

 

ドライグの声音に込められたものは──侮蔑、あるいは唾棄といった負の感情。

 

『……あの禁手は言うなれば、欠陥品だ』

 

「欠陥品?」

 

欠陥品という発言に一誠が訝しんだ直後、漆黒の夜空で二色の閃光が輝いた。

 

4:49

 

短い攻防を経てコカビエルは理解した。

 

秀次との近接戦闘は分が悪い。

 

光の槍でも傷つかない堅牢な鎧。それに覆われた肉体から繰り出される打撃は一発一発が凄まじい重さを持つ。さらに炎を噴出しての高速移動が掛け合わさって破壊力が跳ね上がっている。

 

硬く、凄まじい膂力を持った相手が、猛スピードで突撃してくる。

 

それだけの単純明快な理屈が近接戦闘においては大きなアドバンテージになる。

 

(となれば遠距離での撃ち合い……と、普通の相手なら考えたが)

 

コカビエルは無数の光の玉を出現させた。大きさはそれほどでもないが、夜空を覆い尽くすほどの数量と込められた光力は尋常ではない。並の堕天使ではとても真似できない所業だ。

 

「さあ、これに貴様はどう対処する?」

 

コカビエルの指先が秀次に突きつけられた瞬間。

空に浮かぶ無数の光の玉が動き出し、秀次へと襲いかかっていった。

秀次は全身の噴出器から炎を噴き、ジグザクに飛び回って無数の光の雨あられを掻い潜る。

光の玉が一発当たったところで鎧を身に纏う秀次のダメージにはならない。

だがそれが何十発、何百発と命中してしまったら話は変わってくる。それに攻撃を食らえば一瞬でも身動きが止まってしまう。

 

「この短時間で禁手状態の速さにもう慣れているとは恐れ入る。だが、回避だけで俺の攻撃を掻い潜れると思うなよ」

 

コカビエルの手に集められた光力が槍の形を形成していく。

まもなく創り出されたのは巨大な光の柱。おそらく体育館を消し飛ばした代物よりもさらに強力なそれは、地上に落ちれば駒王学園が影も形もなくなるであろう必殺の一撃。

そんな代物を、コカビエルは迷いなく自分に向かってくる秀次に投げつける。

 

「これも避けるか?それとも受けるか?」

 

さしもの龍の鎧でも、今度の一撃はまともに食らえばダメージを負う。どころか鎧の下にある体ごと消滅しかねない。

かといって回避もダメだ。地上にはリアスたちがいる。もし避けてしまえば光の柱は地上ごとリアスたちを消し去ってしまう。

 

となれば──やるしかない。秀次は迫りくる光の柱に両の手のひらを向ける。

 

『DisasterDisasterDisasterDisasterDisasterDisasterDisasterDisasterDisasterDisasterDisaster!!』

 

神器から発される音声と共に鎧の隙間から橙色の炎の輝きが漏れ出す。鎧に包まれた腕が莫大な熱量を帯びた頃。彼の両手は赤熱化していた。

 

「──炎熱砲」

 

撃ち出されたのは極太の炎柱。コカビエルが投げた光の柱を迎え撃つように伸びていく。

そして──炎と光の柱は衝突した。深夜の駒王町が一瞬、真昼間になったかと思えるほどの閃光が駒王学園の上空で弾ける。

地上からその光景を目の当たりにした一誠は唖然としていた。

 

「いくらなんでもパワーアップしすぎだろ……」

 

コカビエルの光の柱を相殺、焼き尽くした結果、凄まじい熱気が地上にいる一誠やリアスたちのもとにも届いていた。

 

『あの禁手は制限が解除されることで出力が大幅に上昇する。それに伴ってエネルギーの消費も莫大になる。そして、あの禁手に制御という概念はない。所有者の意志とは関係なく、常に力を変換して全身からエネルギーを放出し続ける』

 

「それってめちゃくちゃ疲れないか?」

 

『疲れるなんてものじゃない。体力はあっという間になくなる。だが消費する力が体力だけでないのなら話は変わる。あの禁手は所有者の生命力もエネルギーに変えられるんだ。相棒にもわかるように言い換えるなら──寿命だな』

 

寿命。その単語を聞いた瞬間、一誠の胸中に強い不安感が湧いた。

 

俗に言う嫌な予感というものだ。

 

「寿命って……まさか、それは……」

 

『あの禁手を使用している間は常に生命力を消費する。つまり寿命を削り続ける。もちろん戦闘をすればさらにエネルギーを放出するわけだからその分も命を削ることになる。──相棒、あのまま戦っていたらおまえの弟はじきに死ぬぞ』

 

ドライグから伝えられた衝撃的な内容に一誠は激しく動揺していた。

弟が死ぬ。それも、コカビエルに殺されるわけではなく自分の神器の能力によって死ぬ。

そんなことを言われて一誠は動揺せずにはいられなかった。

 

「ドライグ、どうしたらいい!どうすればシュージを死なせずにすむ!?」

 

『……どうしようもない。あれはそういう神器だからな。でなければ神の失敗作なんて蔑称はつけられない』

 

制御ができないではなく、制御という概念が存在していない。ゆえに所有者がどれだけ神器の扱い方を覚えようと強くなろうと関係ない。常に命を失い続けるリスクを伴う。

ドライグの返答を聞いてますます焦りを募らせる一誠であったがその肩をリアスが掴んだ。

 

「イッセー、いまの話はどういうこと?」

 

「ぶ、部長……それが」

 

ドライグから聞いた話を伝えると、リアスは衝撃を受けつつもどこか納得した表情となる。

 

「……あれだけのオーラを放出していたらすぐに魔力が尽き果てると思ったの。でもシュージのオーラはむしろ強さを増している。魔力だけでなく生命力まで消費していたのね……」

 

「部長。俺たちはどうしたら……シュージが死ぬだなんて……!」

 

耐えられないと拳を握り締める一誠。もちろんリアスや他の仲間たちも同じ気持ちだ。仲間である秀次が死ぬだなんて耐えられない。

だが、それを理解してもなお。リアスは上空で繰り広げられる戦いに目を向ける。

 

「ハハハ!いいぞ煌黒龍!俺もここまで本気で戦っているのは実に数十年ぶりだ!」

 

先ほど互いに全力の一撃を放ってから、コカビエルと秀次の戦いはさらに激しさを増していた。

夜空を極光の雨あられと焦熱の炎弾が交差する。コカビエルと秀次が纏うオーラも最高潮に達した状態でまさに輝く星のようだ。

彼らの光と熱の余波は地上にいるリアスたちにとっても害。

肌が焼けるように痛み、火事場に立たされているような暑さを全員が感じている。

 

「話の通りなら長期戦はシュージくんにとって命取りになりますわ。それにあの二人の戦いをこれ以上続けさせたら私たちも危ない」

 

「わかってるわ。でもいまの私たちじゃあの二人に近づくこともできない……!」

 

朱乃に話しかけられたリアスはなんとも忸怩たる思いであった。眷属が命を削りながら戦っているというのに、主である自分は何もできずにそれをただ眺めさせられているのだから。

 

3:16

 

そのとき、秀次が勝負を仕掛けた。

光球の雨を掻い潜ってコカビエルに到達しようとすると時間がかかるうえにどう向かってくるかある程度読まれてしまう。

もはや回避は考えない。ダメージを覚悟して真っ向から突き進むことを決めた。

全身の噴出器から炎を噴き、一気にトップスピードまで加速すると向かってくる光球を吹き飛ばしながらコカビエルの間合いを侵略する。

 

「避けたか!」

 

間合いに入った瞬間、カウンターを合わせたコカビエルは光の槍を振ったが手応えはなく。反撃を読んでいた秀次は即座に飛行軌道を変更し、旋回してコカビエルの背後に回り込んだ。

 

「堕ちた天使に翼なんていらないだろ。もいでやるよ」

 

「やれるものなら、やってみろッ!」

 

背後から聞こえてきた秀次の声に反応して、コカビエルは十枚の翼刃で彼を斬り刻もうとする。

しかし、彼が斬ったのは虚空。秀次は旋回して再びコカビエルの真正面に戻っていた。

 

「その防御法に頼りすぎなんだよ」

 

「きさっ──」

 

目を剥いて声を上げようとするコカビエルの顔を秀次は掴んだ。

次の瞬間、コカビエルの頭部を爆炎が包み込む。

泣く子も黙る強面は黒く焼け焦げ、長い黒髪は一瞬にして燃やされてしまった。

大火傷のコカビエルを宙に投げ、秀次は手のひらを向ける。橙色の炎の塊を作り出し、さらに額に生えた大角から蒼い稲妻が瞬く。

 

「終わりだ」

 

炎とここまで隠してきた雷の同時攻撃。空から落ちる蒼い雷と秀次から放たれる炎球による挟み撃ちをコカビエルは避けられなかった。

黒煙を眺めながら秀次は一息ついていた。寿命を縮める禁手の代償。それを彼は禁手に至った時点で理解している。理解したうえでコカビエルを叩き潰すために命懸けで戦った。

それもこれもすべて、自分の荒んだ心を落ち着けるため。憂さ晴らしのためだけに秀次は命を懸けてコカビエルを殺した。

 

「堕天使こそが最強の種族だと証明するために戦争を起こす……だったか?」

 

勝利を確信した秀次の気分は晴れやか──とはかけ離れたもの。

 

「惨めだな。格下の俺に負けて死んだおまえはこの上なく惨めだ。俺のことなんてほおっておけばよかったんだ」

 

そう言いつつ、秀次は自分こそが最も惨めだと強く感じている。

勝ったのに何も感じない。憎い相手をぶっ飛ばしたというのにうれしくない。直前まで抱いていた怒りは綺麗さっぱり消えてしまったが、それ以上の感慨深さは湧いてこない。

 

「……人に迷惑をかけてまで叶えたい夢なんて、俺にはちっとも理解できない」

 

自分には大切な何かが欠けてしまっている。

満ち足りないのではなく、欠けている。

そして、その欠けたものすら彼にはわからない。だから何をしていても、何を感じていても、どこか冷めた自分が存在してしまう。

喜怒哀楽の感情とは別で渦巻く虚無感を秀次は永遠と抱え続けている。

そうしていつしか、秀次は自分がいま何を思っているのかも定かではなくなってしまった。

 

──2:30

 

それは、秀次にとっても予想外であった。

確実に仕留めたと確信していた。黒煙の向こうでまばゆい光が現れるまでは。

 

「油断したなぁ!煌黒龍ぅぅぅぅう!」

 

コカビエルの体が光の鎧で覆われている。

否、光を纏っているのは翼だ。光を纏った黒翼で身を包んで秀次の攻撃を直前で防いでいた。

秀次が防御の体勢を取るよりも速く。コカビエルの体を包んでいた光翼が解かれて十本の光の槍へと変化する。

 

「お返しだ」

 

刹那、音速を超えた十の衝撃が秀次の体を襲う。

コカビエルの翼槍による突きは堅牢な龍の鎧に守られた秀次の体にも傷をつけた。鎧が破損した部分からは赤い血が流れる。

負傷によって体勢を崩した秀次。彼にコカビエルは容赦なく極大な光の槍を投げつけ、激しい閃光に飲み込まれて秀次の姿は掻き消えた。

その光景を地上で目の当たりしていた一誠たちは声にならない悲鳴を漏らす。

 

「俺との力の差を見誤ったな。惜しい奴だったが仕方あるまい」

 

「シュージぃぃぃぃっ!てめえよくも──」

 

激昂した一誠が目を剥いて怒鳴った瞬間だった。

彼の背後から激しい爆発音が響き、炎で直接炙られるような痛みが背中に走る。

思わず顔をしかめて振り向いてみれば、新校舎から極大の火柱が立ち上がっていた。

 

「ククク、そうか。おまえが真に命を燃やすのはここからというわけか」

 

愉快そうに笑うコカビエルの視線の先。揺らぐ業火の炎柱のなかで人影が立ち上がる。

黒い龍の鎧は先の攻撃で破壊され、その体は余すことなく傷ついている。だが傷口からあふれているのは鮮血ではなく万象を焼き尽くす炎。

新校舎の半分を吹き飛ばし、悍ましいほどの殺気を放つ秀次がコカビエルを睨めつける。

 

「ま、待て!シュージ!それ以上はマジでおまえの体が──うっ!」

 

コカビエルに向かっていく秀次を止めようと近づこうとする一誠であったが、秀次から発される熱気によってその足を止めた。

いまの秀次に近づけば火傷では済まない。焼き尽くされると確信して。

 

「シュージ!止まりなさいっ!」

 

「シュージくん!」

 

リアスと朱乃の制止の声にも反応しない。

彼が歩んだ道に残されるのは、燃え盛る炎と焼けた大地。

黒く焼け焦げた足跡を残しながら、秀次はただひたすらにコカビエルに向かって歩む。

 

「……先輩はあのときと同じような状態に……」

 

「暴走、してしまったのか……」

 

正気とは思えない秀次の姿に小猫はレーティングゲームのことを思い出し、祐斗も同様のことを頭に思い浮かべていた。

彼らの頭に浮かぶ「暴走」の二文字。あのときの秀次は禁手に至っておらず、それでも格上の相手の『女王』を圧倒していた。

禁手に至ったいま、あのときと同じような状態になっていたら──今度こそ止められない。

 

「ハーッ!ハッハッハ!そう、それだ!それこそが全勢力が貴様を殺したがる理由だ!森羅万象を破壊する力を持った者が理性を失い、暴走してしまうなど危険極まりないからなあ!」

 

煌黒龍の鎧を普通の人間が発動すると、数分で死に至ってしまう。内包する生命力が一瞬で底をついてしまうからだ。

しかし、悪魔は人間とは比較にもならない年月を生きるため生命力も格段に多い。

その膨大な生命力をすべて属性エネルギーに変換して一度に放出すれば……。

 

1:20

 

秀次は腰を低くして拳を引き、有り余る熱エネルギーのすべてを拳に込める。今度こそコカビエルの息の根を完全に止めるために。

 

『敵を討つためならば、もはや味方のことすらどうでもいいか。すべてを自らの手で壊し、終わってから自分の行いに後悔を募らせる。人間とはかくも愚かな生き物だが貴様はそのなかでも類を見ないほどの愚物だな』

 

頭のなかに響く低い声。だがそれすらもいまの秀次の耳には聞こえない。

コカビエルを殺す。殺して否定してやる。そうでもしなきゃこの怒りは消えてくれない。

後先のことなんて、いまは気にせずに。この不快感の解消を優先しなくては──。

 

────ダメだよ。

 

唐突に、その声は秀次の耳に入ってきた。同時に自分の拳を抑えるように何者かが触れてきた。

発される熱エネルギーによって、いまの自分に生身で触れられる者などこの場には存在しない。

そのはずなのに、拳に触れているこの温かな感触はどう鑑みても人の手だ。

 

──まだ、間に合うよ。

 

いったい誰が、と秀次は思わず振り向いた。

だがそこには誰もいない。青白い粒子状の光が形も無く漂っているだけだ。

そして、彼が振り向いた視線の先には。苦しげな顔をしている大切なヒトたちが。

 

──あのヒトたちを、守るんでしょ。

 

鈴の音のように、その声は秀次の心に響く。実際に音として聞こえているわけではない。だがその声は確かに彼の心に届いていた。

 

「どうした?殺意が消えたな。いまさら怖気づいてしまったのか?」

 

「……殺すのは……やめだ」

 

「なんだと?」

 

訝しげな表情のコカビエルは疑念以上に目の前の男への怒りを感じていた。いまさら殺意を無くして逃げ腰になるかと。

その直後、乾いた音が辺りに響いた。秀次が自らの手で両頬を叩いた音だ。

目を閉じて深く息を吐き、再び開いたその目に映る感情はドス黒い殺意ではなく純粋な闘志。

 

「アンタを倒す。この場で俺がすべきことはそれだけだ」

 

拳を前に構えた秀次。橙色の光と熱気を放っていた神器も彼の意思に呼応して変化する。

青い光と極低温の冷気が放出されたことで気体は液体へ、液体から固体へ、直前まで熱されていた空気が異様な音と共に凍っていく。

それを目の当たりにしたコカビエルも理解する。彼が本気だということを。

 

次の攻防が、この戦いに決着をつけることを。

 

残り──20秒

 

コカビエルが光の翼を広げたと同時、秀次は眼前の地面を拳で叩く。

冷気が周囲の空気を凍らせて巨大な氷の壁を創り出し、コカビエルの視界から秀次の姿を隠す。

 

(こいつは徹底的に背後から強襲してきた。おそらく今回も……)

 

秀次の戦闘のクセを読んでいたコカビエルは光の翼を槍の形に変形させ、そのときを待つ。

氷の壁を回り込んで姿を現した瞬間に貫く。手足の一本や二本くらいは失わせる。戦争の火種として使うなら生きていれば構わない。

 

「オラァッ!」

 

──だが、コカビエルの読みは目の間に広がっていた氷の壁と共に打ち砕かれる。

 

「なんだと!?」

 

予想外の一手にコカビエルは驚きを隠せない。

秀次は氷の壁を砕き割り、前方に飛び散らせた。

飛来してくる氷の破片からコカビエルは顔の前で腕を交差させて防ぐ。

 

「こんなもので……隙を作ったつもりか!」

 

氷の破片に紛れて動く秀次をコカビエルの目は見逃さない。

右側面に回り込む秀次に向けて、光り輝く翼槍を射出しようとした瞬間。

 

「やらせないわよ、コカビエルッ!」

 

リアスの手から滅びの魔力が撃ち出される。コカビエルはただでさえ恐ろしい顔を憤怒に染めて滅びの魔力を片手で受け止めた。

 

「これは俺と煌黒龍の決闘だぞ!リアス・グレモリー、邪魔をするなら貴様から──」

 

「黙りなさいッ!眷属が命懸けで戦っているというのに主である私がこれ以上黙って見ているわけにはいかないわ!」

 

コカビエルに凛々しく言い返すリアスの姿を見て秀次は思わず立ち止まってしまう。

 

自分は彼女の眷属なのに、自分自身の感情を優先して戦ったせいで彼女を苦しませた。彼女の大切な眷属を苦しませたのに。

 

全部、俺のせいなのに。俺は眷属失格なのに。

 

「シュージ!ボサッとしない!いまがコカビエルを倒すチャンスでしょう!」

 

「ッ──」

 

なんで?どうして?疑念は絶えない。

それでも、リアスの檄を聞いたことで秀次は再びコカビエルに向かって走り出す。

 

「皆も!コカビエルを倒すわよ!朱乃!」

 

「天雷よ!」

 

リアスは残り僅かな魔力を撃ち出し、指示を受けた朱乃は夜空に人差し指を向ける。

 

「小娘どもがぁ!」

 

撃ち出されたリアスの魔力を翼槍の突きで潰し、雷を落とそうとする朱乃にも翼槍が飛ぶ。

だが、光の翼槍が朱乃に届くよりも速く赤い魔力がコカビエルの体を包んだ。

 

「朱乃さんをやらせるかよ!」

 

「赤、龍帝ぇぇぇぇっ!」

 

激昂するコカビエル。その頭上でうごめく暗雲から閃雷が振り注ぐ。

 

「ガハッ……!」

 

朱乃の雷撃はコカビエルに直撃し、彼の全身を痺れさせた。目元を引くつかせて煙を上げている姿はまさに倒れる寸前といったところ。

 

5秒

 

それを確認してもなお、秀次は足を止めない。

もう油断はしない。躊躇もない。戦闘不能をこの目で確かめるまでは絶対に引かない。

 

結論から言えば、秀次の判断は正しかった。

天を仰いで倒れようとするコカビエルと、とどめを刺しに向かった秀次。

 

──両者の目が合った。

 

「こう、こくりゅぅぅぅぅぅうううう!!」

 

叫ぶコカビエルの目の前で静かに拳を引く秀次。

蒼の雷が走る拳を突き出し、確実にコカビエルの意識を叩き伏せる。

 

「貴様らなんぞに敗れるものかァ!」

 

秀次の拳が打ち出される前に仕留めようと、コカビエルは両手に光の剣を握って振るう。

 

──3秒

 

「させないよッ!」

 

秀次に向かって走る閃光を祐斗が光を喰らう魔剣を使って受け止めた。

 

「小僧ォッ!どけぇ──ごっ!?」

 

「……いい加減に倒れて」

 

さらに動きが止まったコカビエルの後頭部を背後に回り込んでいた小猫が蹴り飛ばす。

 

──2秒

 

蹴られた勢いで下を向いたコカビエル。その目に映るのはまばゆい蒼光を纏う拳。

 

「ごっ!」

 

秀次の拳はコカビエルの鼻先に直撃し、解放の瞬間を待ちわびていた雷が一気に炸裂する。

 

「ッ──ァァァアアアアアアアアアァッッ!!」

 

「がああああああああああああっ!?」

 

町の崩壊まで1秒

 

空気を斬り裂く雷鳴と骨を打ち砕く破砕音が辺りに響き渡り、コカビエルは全身を蒼い雷に包まれながら宙を舞った。




コカビエルをザコキャラにしたくないという気持ちと、オリ主をどこまで活躍させたもんかなって考えた結果、コカビエルがやけにタフになるっていうね。
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