ハイスクールD×D 終焉に抗う暁の太陽 作:ドラゴン大好きT
前回、色々と酷かったですね。誤字修整も多かったけどサブタイトルの話数が一話分飛んでたことに投稿してから三時間くらい経ってようやく気づいた…。
俺に殴られたコカビエルは宙をふっ飛び、蒼い雷に体を痺れさせながら地に落ちた。大の字になって倒れ込んだ奴の目は焦点が合っていない。
間違いなくコカビエルは戦闘不能だ。
つまり──勝ったんだ。俺たちがコカビエルに。
「ふはぁ……」
それを理解した瞬間、体から一気に力が抜けた。気力でなんとか持ちこたえていたが、体はとっくに限界を超えていたらしい。
「シュージくん!」
膝から地面に向かって崩れ落ちる俺の体をまたもこの男が受け止めてくれる。
「っあ……はぁ、祐斗……」
「まったく、またこんな無茶をして。体中傷だらけじゃないか」
「…………そう、だな……」
「……シュージくん?」
……。意識が朦朧とする。視界がおぼつかない。
そしてなによりも……体が寒い。血潮が冷え込んでいくような感覚。心臓は耳障りなくらい騒がしく動き続けているのに……。
これが、寿命を削った代償。命を力へと変換した反動というわけか。
「っ……!シュージくん!しっかりするんだ!意識を保って!」
祐斗が焦った表情で俺に声をかけてくれる。他の皆も慌てて駆け寄ってきたみたいだ。
「っ……だい、丈夫だ。死にはしないって」
命を削ったといってもどうやらいますぐに死ぬわけじゃないらしい。体中ボロボロで痛みも凄まじいけどちゃんと生きているよ。
口元を緩ませる俺を見て、皆も安心したように胸を撫で下ろしていた。
──そのときだ。校庭の地面が突然の発光を始めたのは。
「……あ?」
地面に描かれた魔方陣が激しく発光し、その輝きはどんどん強さを増している。
この光は……まさか!
「崩壊の術式が起動したというの!?」
俺が思い浮かべた最悪の想像を、焦った様子の部長が口にした。
でも……ありえない。コカビエルは倒した。確実に戦闘不能にしてやった。
「ふは、ふはははは……!」
聞こえてきたのは少しかすれた嗤い声。発生元は地面に倒れ伏しているコカビエルだ。
「俺を倒した、それは認めよう。だが時間をかけすぎたな。おまえたちは間に合わなかった」
間に合わなかっただと……?それを聞いた瞬間、落ち着いていた俺の頭が一気に沸騰する。
「ふざけるなよっ!おまえが、言ったんじゃないか……!おまえを倒せば町の崩壊は阻止できるって……!」
「時間内に倒せれば、な。俺の意識を時間内に絶っていれば術式は起動しなかったはずだ。それができなかったのは……煌黒龍、貴様が殺意を失ってしまったからだ」
ふざけるな!そんなの、認められるか……っ!
負けたくせに勝ち誇ったように嗤うコカビエルに消えたはずの殺意が蘇ってくる。でもいまさらコカビエルを殺したところで意味はない。
もう、術式は発動してしまった。ここにいる皆、死んでしまう。何も知らない一般人も死ぬ。家で俺たちの帰りを待っている両親も死ぬ。駒王町も跡形もなく消し飛んでしまう。
俺が命を懸けた意味も、皆が戦った意味も、すべてが無意味にされた。
「ちくしょう……っ!」
悔しさから思わず涙が出そうになる。なんで皆が死ななくちゃいけない。皆はがんばったのに。なんでおまえなんかに嗤われなくちゃいけない。
どうしてこうなる。何がいけなかった。俺も皆も全力を尽くしたはずだ。この町を守りたいと思って戦いに挑んで──。
「…………俺の、せいか」
この戦いが始まる以前、聖剣を破壊するためにゼノヴィアたちと話し合ったとき、俺はこの町を守りたいと思っていた。コカビエルが町を壊そうとしていると知り、それを防ぐために俺たちは戦いに臨んだ。
──だけど、コカビエルの目的を知った俺は、町を守ろうとする意識よりも自分の胸のうちに溜まっていた不快感の解消のためだけに戦った。
自分よりも格上の存在を否定するために。
自分を肯定するために。いつもの自分を曲げた。俺の身勝手な怒りがこの結果を招いた。
俺のせいで、皆が死ぬ。
「そんなの……嫌だっ」
大切なヒトには生きていてほしい。幸せであってほしい。その想いで戦っていればこんなことにはならずに済んだんじゃないのか。
「──遊びが過ぎたな、コカビエル」
俺が後悔を募らせていると、聞いたことのない声がどこからかコカビエルを呼ぶ。
直後に俺は気づいた。自分たちのはるか上空にとんでもない気配を持った者がいることを。
瞬間、白い閃光が闇夜を斬り裂いて俺たちの目の前に降ってきた。
凄まじい速さ。禁手化した俺以上の速さで落ちるそいつは地面に衝突するかと思いきや、地面に触れる寸前で止まり、空中に浮いていた。
神々しい輝きを放つ八枚の光の翼。一切の曇りのない白い全身鎧。一目見てわかった。こいつは俺や一誠と同類だ。同類だけど、いまの俺たちでは到底届かない高みにいる強者。
「……赤に惹かれたか。『白い龍』よ。いまさら何をしに──」
「話はあとだ。コカビエル、あんたの処分もな」
やっぱり、か……。顔も鎧に包まれているから表情は読めないが、白い龍と呼ばれたそいつは若い男の声でコカビエルに答えていた。
直後、白い龍は校庭に描かれた魔方陣の中心を殴りつける。相当の力が込められていたのだろう。その一発で地面が陥没した。
『Divide!』
鎧に埋め込まれた宝玉から発される音声。同時に校庭を包む光が弱くなった。
「四本のエクスカリバーを統合させるだけでもこれだけの力が生まれるか。七本すべてを合わせていたら、もう少しおもしろい結果になっていたかもしれない。だが──」
『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!』
鳴り響く音声と共に魔方陣の光が一気に弱まり、白い龍の鎧の輝きがよりいっそう強くなった。
光翼もさらに輝きを増している。よく見れば翼の先から粒子状の光がものすごい勢いで排出されているような……。
まもなく魔方陣の光は完全に消えた。白い龍が何かをしたのは間違いない。
「白龍皇!キサマ、何をした!?」
動揺を隠しきれていないコカビエルに白龍皇は淡々とした声で答える。
「見ての通りだ。魔方陣を動かしていた力を半減させ、俺の糧とした。それだけの話だ」
「……『
触れた者の力を十秒ごとに半分にさせ、奪い取って自分の力にするか。『赤龍帝の籠手』の能力とは真逆の能力を持つ神器。いや、ただの神器ではなくあの翼も神滅具なんだろうな。
唖然とした様子のコカビエルであったが、倒れている奴のすぐ横に白龍皇は歩いていく。そして、突如としてコカビエルの腹部を踏み抜いた。
「ゴハッ!き、きさま……何を……」
「あんたを無理やりにでも連れて帰るようアザゼルに言われているんだ。これ以上暴れられても面倒だからな。しばらく眠っていろ」
面倒くさそうに答える白龍皇。コカビエルは怒りに震えていたがすぐに意識を失った。
気絶したコカビエルを肩に担いでさらに遠くの方で倒れていたフリードも回収すると、白龍皇は光の翼を展開して空に飛び立とうとする。
『無視か、白いの』
これまた初めて聞く声。声の発生元は一誠が左腕に身に着けている籠手だ。
籠手に埋め込まれた宝玉が輝いており、さらに白龍皇の鎧に埋め込まれた宝玉も輝き出す。
『起きていたか、赤いの。てっきり目覚めていないのかと思っていたが』
『今回はあまり出番がなくてな。だがいずれは戦う運命だろう。あいさつくらいはするさ』
『だがドライグ、以前のような敵意が感じられないようだが?』
『この状況ではな。それにそれはおまえも同じだろう、アルビオン』
『いまは互いに、戦いとは別の興味があるというわけだな』
籠手に封じられたドラゴン、赤龍帝ドライグ。
光翼に封じられたドラゴン、白龍皇アルビオン。
二匹のドラゴンの会話にその場の全員が耳を傾けていたときだった。
『戯れもそこまでにしておけ、赤い龍に白い龍。聞くに堪えん』
この声は……聞いたことがあるぞ。夢のなかで話しかけてきたあの声、怒りに身を任せてコカビエルを殺そうとした俺を蔑んでいたあの声。
声の発生元は俺の額に生えた角。神器の角が紫色の光を放っていた。
『相方に出会えたことがそんなにも喜ばしいか、ブリテンの龍ども。だがな、まずはこの俺へのあいさつが先だろう。無礼であろうが』
『……相変わらずの尊大さだな、煌めきの黒』
『私たちに礼儀を語る存在など、おまえ以外にはいないだろうよ』
『必要なことだ。二天龍、おまえたちと俺とでは格が違う。白き龍の皇帝だの、赤い龍の帝王だのとおまえたちは持て囃されているが、俺はその上を往くのだから』
『驕り高ぶるのもそこまでにしておけよ、アルバトリオン!』
赤龍帝の怒りに満ちた声が籠手から発される。
アルバトリオン。そう呼ばれたドラゴンこそが、俺の神器に封じられた存在……。
『フハハハハ!事実を突きつけられて激昂するとは程度が知れるぞ、赤い龍』
『……まあいい。アルバトリオン、俺とアルビオンとの戦いを邪魔することは許さんぞ』
『ドライグの言う通りだ……と言いたいところだったが、私の宿主はドライグの宿主よりもアルバトリオンの宿主に興味があるようでな』
『なにぃ!?』
赤龍帝ドライグの驚いた声が辺りに響く。アルバトリオンの宿主ってことは……俺か?
「あの土壇場で禁手に至ったポテンシャル、コカビエル相手にも一歩も引かないその姿勢、冷酷無比な殺意のオーラ。成長すればキミはなかなかなものになると俺は思っているよ」
「は、はぁ……どうも」
白い龍の宿主は期待しているような声で俺に話しかけてきた。本当に興味を持たれているようだが俺としては何がなにやらって感じだよ。
「だがコカビエル程度であのザマでは、俺には一生届くことはないだろうね」
「……いきなり現れておいて、ずいぶんな言いようだな。でもアンタには命も町も助けられたようなものだから今日は噛みつかないでおく。町の崩壊を止めてくれてありがとうございました」
「感謝はいらない。俺も命令されてやっただけだからね。それよりもキミが強くなったとき、俺と戦ってくれることに期待しているよ」
白龍皇は戦闘好きなのか?俺も勝負は好きだけど殺し合いは勘弁だぞ。命がいくつあっても足らない体なもんでね。
「おい!どういうことだ!?おまえは何者で、何をやってんだよ!?」
俺が白龍皇に感謝を伝えていると、動揺した様子の一誠が話し合いに混ざってきた。白龍皇を宿してて戦闘好きなことくらいしかわかってないから名前くらいは俺も知りたいな。
「全てを理解するには力が必要だ。強くなれよ、いずれ戦う俺の宿敵くん」
白龍皇はそう言い残すと、白き閃光となって夜空へと帰っていった。先ほどまで輝いていた町を崩壊させる魔方陣も消えている。
どうやら、一件落着ということらしい。
そのときであった。バシッという軽く叩くような音が聞こえ、そちらに目を向けてみれば一誠が笑顔で祐斗に話しかけていた。
「やったじゃねえか、色男!へー、それが聖魔剣か。白いのと黒いのが入り混じっててキレイなもんだな」
「イッセーくん、僕は──」
「ま、いまは細かいの言いっこなしだ。とりあえず、いったん終了ってことでいいだろう?聖剣もさ、おまえの仲間のこともさ」
一誠の声かけにどこか暗い表情となっていた祐斗も柔らかい笑みを浮かべる。皆も祐斗のもとに集まってそれぞれの気持ちを口にしていた。
「部長……。僕はここに改めて誓います。僕、木場祐斗はリアス・グレモリーの眷属──『騎士』として、あなたと仲間たちを終生お守りします」
「うふふ。ありがとう。でも、それをイッセーの前で言ってはダメよ?」
「俺だって、『騎士』になって部長を守りたかったんだぞ!でも、おまえ以外に部長の『騎士』を務まる奴がいないんだよ!責任持って、任務を完遂しろ!」
祐斗の帰還に皆が喜んでいる。笑顔の皆を見て、俺も安堵から静かに微笑んでいた。
──それと同時に、少しばかりの寂しさを俺は感じていた。疎外感とでも言うのだろうか。
だけど、仕方ない。俺は守らなければならない大切なヒトたちのことを苦しませた。守るべき対象のことを忘れてコカビエルを殺そうとした。
どこまでも身勝手。怒り狂ってしまえば周りのことすら考えずに人を殺そうとする怪物。
それが俺なんだと、改めてよくわかったよ。
「──シュージくん」
……。ひとり、思いふける俺に祐斗は声をかけてきた。周りの皆も俺に視線を向けている。
その目に不快だとか、恐怖だとか、そういった感情は一切感じられない。
「キミにも、改めて感謝を。ありがとう」
「ありがとう……?なんで?」
「なんでって……キミがいなかったら、僕たちはコカビエルに殺されていただろう。そうなれば町も崩壊していた。キミが戦ってくれたから、僕たちはいまこうして笑えている」
そんなことは……。俺がいなくたって、白龍皇がコカビエルを止めていたはずだ。あいつはそのためにこの町にやってきたようだからな。
だから俺は、感謝されるようなことは何もしていない。むしろ皆を危険に晒して……。
「……俺は」
「シュージ。私からもありがとう。また、あなたに助けられたわ。でもあまり無茶はしないで。命を削るような力の使い方は正しいものではないと私は思うもの」
祐斗に続いて部長まで俺に感謝を伝えてくる。
そのうえ俺を心配までしてくれている。
違うんです、部長。俺はあなたが思うような優しい奴じゃない。命を削ったのだって、あなたたちを守ろうとしたからじゃない。コカビエルの奴が憎くて、耐えられなくて、それで……。
「でも禁手に至ったことはめでたいわ。一段落もしたことだし、何かお祝いを──シュージ?」
あ、あれ……?おかしいな……。目の前で話していた部長の姿がぐにゃりと崩れる。視界の隅からどんどん黒いものが広がっていって……。
次の瞬間、俺の体は横になっていた。周りで皆が大声で叫んでいるような気がするが、何を言っているのかよくわからなかった……。
コカビエル襲撃事件から数日後。放課後の部室に俺たちオカルト研究部の面々は集まっていた。
一件落着した直後に俺に何が起こったのか。結論から言うと──ダメージによる気絶だった。
コカビエルの攻撃は俺の体を深く傷つけていた。具体的に言うと、足がちぎれかけていたほどの深い傷を。その傷から大量に血を流した俺は蓄積したダメージも相まって倒れたようだ。
傷はその場でアーシアが治療してくれ、またも冥界の医療施設にお世話になった。
コカビエルに破壊された体育館や校庭、俺が壊した校舎も魔王さまの関係者が一晩で直してくれたという。ご迷惑をおかけしてます……。
そして、今日は衝撃的なニュースが俺たちを出迎えてくれた。なんと聖剣使いのゼノヴィアがグレモリー眷属の『騎士』になったという。生き当たりばったりなところもあったらしく、自分の決断の正否にまだ迷いがあるようだが。
「ところでイリナは?」
「イリナなら、私のエクスカリバーを合わせた五本とバルパーの遺体を持って本部に帰った。統合したエクスカリバーを破壊してしまったせいか、芯となっている『かけら』の状態で回収した。
まあ、奪還の任務には成功したわけだよ。芯だけあれば錬金術で鍛えて再び聖剣にできる」
頭を抱えていたゼノヴィアだが、一誠の問いかけを聞くと途端に真面目な表情となって答えた。
ゼノヴィアが扱うデュランダルと違って、エクスカリバーは新しい使い手を見繕える。
それもあってか、神の不在を知ったことをゼノヴィアが上に伝えると、教会の上層部は彼女を異端者として見捨てたそうだ。
聖剣使いを使い捨てるような扱い方は、最初に話を聞いたときからなんとなく察していた。それでもあまりいい気分はしないが。
「イリナは運がいい。ケガをしたため、戦線離脱をしていたとはいえ、あの場で、あの真実を知らずに済んだのだからね。私以上に信仰の深かった彼女だ。神がいないことを知れば、心の均衡はどうなっていたかわからない」
紫藤イリナはそこまで信心深いやつだったのか。
俺は神さまを崇拝していないからそこまでショックは受けなかった。
──でも神さまの存在自体は信じてる。悪魔になる前も、神さまが死んだと知ったいまも。
教会は今回のことで悪魔側とコンタクトを取ってきたらしい。さらに堕天使総督のアザゼルからも連絡が入ってきている。
エクスカリバーの強奪はコカビエルの独断行動であり、堕天使の組織に所属する白龍皇が介入する形で収束させた。部下が起こした問題の尻ぬぐいをしたというわけだ。
近いうちに天使側の代表、悪魔側の代表、堕天使総督による会談も開かれるらしい。その場には当事者の俺たちも招待されているとのことで。
「シュージ、あなたの神器についても会談の議題になるそうよ」
部長はどこか憂いのある表情で俺に告げる。コカビエルの言っていたことが本当なら、まあそうなるよな。三勢力のトップが集まるんだし。
「何を話すかは私にもわからないけど、魔王ルシファーさまはあなたのことをいますぐにどうこうするつもりはないみたい。けど、会談が開くまでは目立つ行動は控えてほしいそうよ」
「……わかりました」
おそらく今回の会談では俺の今後が決められる。
殺されるか、はたまたそれ以外の処分か。そうなる前に俺は……。
どうすべきか、理解している。それでも一度得てしまった居場所を失う辛さに俺は迷っている。
俺が頭を悩ませていたそのとき。思いついたようにゼノヴィアがアーシアに顔を向ける。
「アーシア・アルジェントに謝ろう。主がいないのならば、救いも愛もなかったわけだからね。すまなかった、アーシア・アルジェント。キミの気が済むのなら、殴ってくれてもかまわない」
「……そんな、私はそのようなことをするつもりはありません。ゼノヴィアさん。私はいまの生活に満足しています。悪魔ですけど、大切なヒトに──大切な方々に出会えたのですから。私はこの出会いと、いまの環境だけで幸せなんです」
ゼノヴィアの謝罪をアーシアは聖母のような微笑で受け入れる。彼女も神の不在を知ってしばらくは精神的ショックを受けていたんだが、一誠と部長のフォローでなんとか持ち直した。
「……クリスチャンで神の不在を知ったのは私とキミだけか。もうキミを断罪するなんてことは言えやしないな。異端視か。尊敬されるべき聖剣使いから、異端の徒。私を見る目の変わった彼らの態度を忘れられないよ」
瞳に悲しみを落とすゼノヴィア。見捨てられた悲しさに苦しむ彼女を見て俺も目を伏せた。
失う辛さは、完全には消えてくれない。もうそこにはないと理解していても……。
「では、私は失礼する。この学校に転校するにいたって、まだまだ知らなければならないことが多すぎるからね」
「あの!今度の休日、皆で遊びにいくんです。ゼノヴィアさんもご一緒にいかがですか?」
部室から一人去ろうとするゼノヴィアをアーシアは引き止める。屈託のないアーシアの笑みにゼノヴィアは驚いた表情となっていたが、今回は遠慮させてもらうと苦笑と共に返事した。
だが、その直後にゼノヴィアはどこか救われたような笑みを浮かべて告げる
「今度、私に学校を案内してくれるかい?」
「はい!」
「我が聖剣デュランダルの名にかけて──そちらの聖魔剣使いとも再び手合わせしたいものだね」
「いいよ。今度は負けない」
出会いこそ最悪であったが、ゼノヴィアはきっとグレモリー眷属の良き仲間になるのだろう。アーシアと祐斗と笑い合うその光景に、以前のような殺伐とした空気は感じられない。
「……キミにもまた手合わせを願いたい。色々とあったがこれからは同じ主を担ぐ眷属としてよろしく頼む」
ゼノヴィアの言葉に俺は無言で視線をそらした。俺の様子に皆もゼノヴィアも訝しげな表情となっていたが彼女はそのまま部室を出ていった。
エクスカリバーを巡る戦いとコカビエルとの決戦を終えた俺たち。
祐斗の一件が片付いたら遊びに行こうと誘われていた俺は皆と一緒に遊んでいた。メンバーは松田と元浜、一誠のクラスメイトの桐生さん、塔城と祐斗にアーシアと一誠の大所帯だ。
……まあ、本当は。今日の参加は見送ろうかなとも思っていたんだが。
個人的な感情で事前にしていた約束を反故にするのはさすがに申し訳なかった。それに行かない理由を考えるのも正直面倒だった。
だが、そんな気持ちで遊びに行って心の底から楽しめるわけもなく。
いまはカラオケの一室で皆で歌っていたんだが、適当な理由を作って部屋から出ていた。
「はぁ……」
今日の遊びの最中も皆には怪しまれないように気を張っていたけれど、状況に合わせて表情を作り続けるのはさすがに疲れが……。
皆にバレてはいないと思う。これでも表情を作るのは得意だし。作らないと常に目つきの悪い仏頂面が出来上がってしまう。
でも少し休息をと、ぼーっと付近にあった椅子に座っていた──そのときである。
「シュージくん、こんなところにいたんだね」
「ああ、少し喉を休めたくてさ」
祐斗がひょっこりと姿を現した。俺は慌てずに口角を少し上げた微笑で迎える。
──だが、俺の返事を聞いた祐斗は両目を閉じて首をすくめた。
「キミらしくもない嘘だね。今日、シュージくんは一曲も歌ってないでしょ」
「……あちゃあー、そうだっけ?」
ミスったと、素直にそう思った。それを顔には出さなかったが反応で祐斗には気づかれただろう。祐斗は俺の隣に座ってきた。
「それで、どうしたんだよ?何か用があって来たんだろ」
「エクスカリバーの件のことでお礼を伝えたいって思っていたんだけど。でもそれ以上に、シュージくんの様子が気がかりでね」
「……バレバレってわけか。これでも俺は器用なほうだと思ってたんだけどな」
「皆は気づいてないんじゃないかな。小猫ちゃんはなんとなく気づいているだろうけど、あまり話すほうじゃないし」
それじゃダメなんだけど。特に祐斗と塔城、アーシアには気づかれたくないんだ。
「……聞いていいかい?ここ最近、シュージくんの様子がおかしい理由を」
「…………祐斗にも皆にも、あれだけ周りのことを見てくれって俺は言ってたのにな。結局自分が一番周りを見れてない」
でもそれも、もう限界ってわけか。諦めた俺は表情を無にして祐斗のほうに顔を向ける。
「少し、昔話をしてもいいか」
そこからは、せきを切ったように話したと思う。
俺が中学の頃、相当に荒れていたことを。気に入らない奴は誰であろうと叩き潰したことを。その対象は老若男女問わなかったことを。理由は苛ついていたから。自分の苛立ちを発散するために、俺はあらゆる人に暴力を振るい続けた。
不良とは一線を画す極悪人だということを。
「……前にシトリー眷属の匙くんと俺たちが顔合わせをする機会があったが、あのとき彼が話したことはすべて事実だ」
俺の話を聞いた祐斗は息すら止まってしまったんじゃないかと思うくらい静かだった。
でも、まだ話は終わってない。ここからが祐斗に俺の過去を打ち明けた理由なんだから。
「コカビエルと相対したあのとき、俺は暴走してたわけじゃない。『昔の俺』に戻ってしまった。怒りに身を任せて、ただあいつを……殺すことしか考えていなかった」
「それは……」
何かを言おうとしている祐斗を手で制し、俺は本題となる話をする。
「俺が懸念しているところはそこだ。いつか、この怒りが敵だけじゃなく、味方や大切なヒトにも向くかもしれない。グレモリー眷属の皆を傷つけるかもしれない。それは絶対に避けなくちゃいけないのはわかるだろ。だから──」
もちろん、そうならないように気をつけている。でもその可能性が万が一にもあるのなら。
「俺がもし、あのヒトたちに牙を剥いたなら、祐斗が俺を止めてくれ。必要なら、俺を殺してくれてもかまわない。それが俺がいま、祐斗だけに俺の過去を打ち明けた理由だ」
ずっと隠していた過去を。頭を悩ませていた不安を俺は打ち明けた。
そして、俺の話を聞いた祐斗はショックを受けたように顔を強張らせている。
「本当は、そんなことになる前にグレモリー眷属を辞めるべきなんだろうけど……部長はきっとそれを許してくれないだろ?だから頼むよ。祐斗はグレモリー眷属の『騎士』なんだから」
酷いことを言っているのはわかる。友達だと思っている男にこんな話。
「でも、いまの俺には祐斗くらいしか頼れるやつがいないんだよ」
ポンポンと祐斗の肩を叩き、俺は席を立つ。仮面を被り直して皆のいる場所に戻ろうとした。
「待ってくれっ!」
ガシッ!と、祐斗は俺の手を掴む。
「さっきの話が本当なら……!ならなんで、なんでキミは僕の復讐を手伝おうとしたんだ。誰よりも率先して手伝った!?」
そりゃあんな話聞かされたら疑いたくもなるか。自分の復讐を鬱憤晴らしに使われたとしたら、いくら祐斗でもブチ切れるだろう。
でも、あのときは……そういう邪な気持ちはなかったよ。
「──友達を、独りにしたくなかった。復讐しようとしていた祐斗が独りになろうとした理由はなんとなくわかっていたから」
公園で同じことを聞かれたときは、なんとか自分の気持ちをごまかせてたんだけどな。嘘をつき続けるってのも俺には難しいみたいだ。
「誰も巻き込みたくなかったんだろ?復讐なんて危なっかしいものに。俺も自分の復讐に本当は誰も巻き込みたくなかったし」
同じ復讐者として。復讐してしまった者として。俺なら手伝ってやれるって気持ちがあった。
「嘘や隠しごとの多い俺だけど、これは本当だ。信じて欲しい……なんて言っても、さっきの話があったら信じられねえよな」
「……いや、信じるよ。僕が知っているキミはそういうヒトだから」
……。祐斗の目をまっすぐ見て俺は申し訳なさでいっぱいになった。ここまで信じてくれる友達に俺は酷いことを頼んでしまったと。
でもそれでも、俺はあのヒトたちを守る。俺にとっての恩人を守る。恩人が大事にしたいヒトたちのことを守るんだ。
もう、間違いは犯さない。絶対に。
祐斗くんとの仲が危うく決裂しかけてましたがなんとか綱渡りを成功させたオリ主。
──ですが、いよいよ四巻の内容です。ここから物語はさらに加速します。展開的に原作とは大きく異なる点も出ますので、ご期待ください。