ハイスクールD×D 終焉に抗う暁の太陽   作:ドラゴン大好きT

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ギャスパーの登場回…なんですが、序盤はサーゼクスとリアスの会話から。


第40話 引きこもりの僧侶

 

 

 サーゼクスに連れられてリアスと朱乃は部室へと移動していた。

 しかし、呼び出した相手が魔王ということで慣れ親しんだ部室であってもくつろげるような雰囲気にはとてもなれない。

 

「それで魔王さま、お話というのは?」

 

「話したいことは多くあるが、まずは先日のコカビエルとの戦いでのことを話そう」

 

 リアスの問いに答えるサーゼクスの表情に普段の優しげな微笑はない。真剣そのものといった雰囲気と魔王としての圧が放たれている。

 

「なぜあのときすぐに私、せめてグレイフィアや上役に知らせなかった?あらかじめ連絡してくれていれば、私たちももっと早くに応援を送ることができた」

 

「それは……元々、聖剣を奪ったコカビエルと私たちは関わるつもりはありませんでした。聖剣を取り戻しにきたゼノヴィアたち──教会の戦士からも干渉するなと言われていましたので」

 

 リアスの言い分はこうだ。当初、自分たちはコカビエルと戦うつもりはなかった。

 しかし、コカビエルは悪魔、天使、堕天使による戦争を再び起こすために、リアスが管理している駒王町で暴れようとした。町を守るためにリアスたちは応戦したが、緊急事態だったために情報の通達が遅れてしまった。

 それらを承知しているうえで、サーゼクスは厳しい態度を崩さない。

 

「だが、コカビエルが聖剣を盗んで駒王町に入ったという情報は事前に知っていたんだろう?その時点で私たちに連絡するべきだったんじゃないのかな。それともキミは、自分や自分の下僕たちだけで堕天使の幹部をどうにかできると本気で思っていたのか?」

 

 なら、町が壊されるのを指をくわえて黙って見ていればよかったというのか?

 

 自分たちの安全を優先して、町を見捨てて逃げることが正解だったのか。

 

 ──違う。兄はそんなことは言っていない。

 

 サーゼクスの追求に思わず喉から出かけた反抗的な言葉をリアスは飲み込む。

 これは悪意による挑発ではなく、事実に則った叱責だ。それを受け入れられずに言い返しては駄々をこねる子供と変わらない。

 なら、やるべきことは反抗ではなく。

 

「……申し訳ありません。すべては私の危機意識と連絡意識の低さが招いたことです」

 

頭を下げて自らの失敗を省みるリアスを見て、サーゼクスも胸をなで下ろした。

 

「わかってくれたようでうれしいよ。もう終わったことを掘り返すのはどうかと思うが、今回ばかりは注意しなくちゃいけない」

 

 リアスは自分の周りで起こる問題を自らと眷属たちで解決しようとする。それで無事に解決できるなら別にかまわない。多少の失敗なら後の笑い話にもなるだろう。

 しかし最近、今回のようなリアスたちの手には余るような問題が彼女の周りでは頻発している。それらを解決しようと躍起になりすぎるのも、解決したからといって次もできると傲慢になってしまうのも、サーゼクスとしては心配だった。

 最悪はリアスと眷属たちの死。そうなることだけは避けなければならない。

 

「生き残れたのはひとえに運が良かった──だけで結論づけるのはキミたちの奮闘を無視しすぎているね。改めてよく戦ってくれた。あのコカビエルと戦って、生き抜いたことは称賛したい」

 

「ありがとうございます。魔王さま」

 

 リアスは確実に成長している。心配は杞憂だったと安心するにはまだ早いだろうが、いずれはグレモリー家の娘として、上級悪魔にふさわしい強さと気品を得るだろう。

 

「コカビエルを追い込んだのは兵藤秀次くんだったね。禁手に至った彼が一対一で戦い、弱ったコカビエルを皆で倒したと聞いている」

 

「はい。ですが、シュージの禁手は自分の生命力すら削ってしまいます。今後はできるだけ使用を控えるように伝えますが……」

 

「そうだね。きっとそれがいい。さて、ちょうど名前も挙がったことだし──次は兵藤秀次くんのことを話そうかな」

 

 この場にいない眷属のことを話すと聞き、リアスは訝しげな表情になる。

 

「リアスの疑問はわかるよ。なぜ本人をここに呼ばなかったのかと思っているね?」

 

「ええ、その通りですが……」

 

「ということは、これから話すことはシュージくんには秘密にしたいことなのでしょうか?」

 

 朱乃の問いかけにサーゼクスは首を横に振って否定する。

 

「そうではないよ。彼はこの話をキミたちに知られたくないと思っているようでね。だからこの場には呼ばなかった」

 

「……シュージが知られたくないと思っていることを、本人がいない場で密談のように私たちに話すのは魔王さまといえど賛同しかねます」

 

 サーゼクスの対応にリアスは苛立ちと不満を感じたようで、いたく不機嫌な様子だ。

 相手は身内といえど魔王だ。リアスを落ち着かせようと朱乃が動く──よりも早くサーゼクスが口を開いた。

 

「それでもリアスは知らなければならない。リアスは彼の主なのだから。これから話すのは兵藤秀次くんの過去についてだ」

 

 感情的な言動を取っていたリアスもサーゼクスの有無を言わさない雰囲気に口を閉じる。

 

 それに、リアスも秀次の過去と聞いて気になってしまった。

 

 秀次は他人との関わり合いを苦手としているのか、普段はあまり社交的ではないが、家族の一誠や両親のことはとても大切にしている。主の自分や眷属たちとも仲良くやっていると思う。

 

 だがそれは、彼が自分の眷属になってから知ったことだ。

 

 思えば、自分の下僕になる以前──人間だった頃の秀次をリアスはまったく知らなかった。

 

「リアスたちは秀次くんの過去について、何か聞き及んでいることはないのかい?」

 

「……確か、シュージが過去に不良だったという話は聞いております。ですが、いまの彼はいたって真面目で──」

 

 普通な高校生。そう言いかけて、リアスはあのときの光景を思い出して言葉を止める。

 思い起こしたのはコカビエルとの戦いで彼が見せた異常な憤怒と殺意。自分の命を一切惜しまずに死線を駆け抜ける狂気。

 普段の冷静さとはかけ離れたあの姿はリアスから見ても異質で恐ろしいものだった。

 それでも、匙が以前に口走ったような蛮行を秀次が取っていたとは考えられない。この場合は考えたくないというほうが正しかったが。

 

「グレイフィアに調べさせたが、秀次くんが不良だったというのは事実らしい。──だが、今日話したいのはそのことじゃない」

 

 そう言ってサーゼクスがリアスたちに差し出したのは古い新聞記事のスクラップ。

 机に置かれた記事を視界に収め、リアスは見出しに書かれた文字をそのまま口に出して読む。

 

「駒王町の猟奇殺人事件……」

 

 新聞に書かれていたのは、とても痛ましい事件だった。

 

 『隣の家から突然、火が噴いた』という通報を受けて警察はすぐさま現場へと駆けつけた。

 しかし、警察官らが家に駆けつけたときにはすでに火は消えており、火が噴き出たという二階は爆発でも起こったのか、壁に穴が空いていた。

 さらに通報者らしき人物は狂乱しきった様子で駆けつけた警察官らに助けを求めてきた。通報者を落ち着かせた警察官らは現場に踏み込もうとするが、その瞬間に彼らの鼻は異常なまでの鉄臭さを嗅ぎ取ってしまう。

 異様な鉄の匂い、狂乱した通報者、二つの情報から現場の被害を想像した警察官らは足取りを重くしながらも現場に踏み込んだ。

 

 家中は彼らの想像を遥かに超えて最悪だった。その場の全員が経験したことも、見たこともないほどに、凄惨な現場だった。

 赤いペンキでもぶちまけたように、一階のリビングは大量の血液で真っ赤に染まっている。人体であったのだろうモノが、破壊された人形のパーツのように散乱していた。

 殺されていたのはその家の主人と妻。二人は何らかの刃物で全身をバラバラに切り刻まれて惨殺されていた。

 切り刻まれた人体が血のプールに浮かぶ光景はあまりにも現実離れしすぎていたが、血の匂いによって込み上げる吐き気が警察官らに目の前の状況を現実だと知らしめる。

 明らかな殺人事件。それも異常者の手によって行われた猟奇殺人だった。

 

 まだ犯人が付近に潜んでいるかもしれないと考えた警察官らは応援を呼び、通報にあった火が噴き出たという二階に踏み込んだ。

 二階には子供部屋があり、室内には二人の子供が倒れていた。一人は腹部を鈍器のようなもので叩き潰された瀕死の状態で発見される。

 もう一つの遺体には頭部がなく、さらに全身の血液が完全に失われていた。

 にも関わらず、子供部屋はリビングとは対照的に目立つ血の汚れは一切なかった。頭部のない遺体は後にその家の娘と断定される。

 

 計三人の死者を出した凄惨な事件。いまだに犯人は見つかっておらず、駒王町はおろか国内でも有名な猟奇殺人事件として記録されている。

 

「……酷い、事件ですわね」

 

 読み終えた朱乃はそう結論づけた。リアスも彼女とほぼ同意見だが、なぜ秀次の過去を話そうとしていたサーゼクスがこんな事件の話をしてきたのか理解できずにいた。

 

 それぞれの反応を見届けたサーゼクスは硬い表情で口を開く。

 

「子供部屋から発見されたもう一人は、当時七歳の秀次くんだと調べてわかったんだ」

 

「なっ!?」

 

 サーゼクスから告げられた内容に驚き、リアスは信じられないといった声を上げる。朱乃も声を出せないほどに驚いていた。

 

「新聞には実名は伏せられているけどね。その頃から秀次くんはちょうど小学校に通わなくなっている。彼も発見された当時は生きているのが不思議なくらいの重傷で、大がかりな手術をして奇跡的に助かったとだけ記事にされている」

 

「そう、なのですね……。シュージ本人や兄のイッセーからはそんな話、まったく聞いたこともありませんでした……」

 

「そのあたりのことも含めて、リアスはちゃんと彼ら兄弟に話を聞いてみてくれ」

 

 サーゼクスはそう言って、秀次に関する話を締めくくった。

 

 主の悪魔は自分の下僕のことを、過去も含めて知っておく必要がある。悪魔に転生する前、下僕になる前の過去から、現代に不都合が生じることがまれにあるからだ。

 

(でも……きっと難しいことよね)

 

 リアスは無言で思案する。これまで一緒に行動していた際もそんな辛い出来事があった面影などおくびにも出さず、さらに当人はそのことを自分たちに知られたくないと考えている。

 いや、過去の辛さを鑑みると、当人も思い出したくないと思っているのかもしれない。そうなっていてもおかしくない辛さだ。

 そんな相手から話を聞き出す。それは過去のトラウマをえぐり、ほじくり、蹂躙するような行いであり、これまで築いてきた信頼関係を著しく崩す可能性が十分にあった。

 

「兵藤秀次くんにまつわる話は以上だ。最後にもう一つ重要な話をしよう。──リアス、キミのもうひとりの『僧侶』についてだ」

 

 もうひとりの『僧侶』について。その言葉がリアスと朱乃にもたらした衝撃は大きかった。

 


 


 

 次の日の放課後。リアスは自らの眷属を旧校舎一階の「開かずの教室」の前に呼び集めていた。

この部屋は室内にいるもうひとりの『僧侶』と外界との直接的な接触を一切断ち切るために、幾重にも結界を張って厳重に閉じ込めていた。見た目からもわかるように「KEEPOUT!!」と立ち入り禁止のテープも貼ってある。

 

 そこまでした理由──それは中にいる『僧侶』がリアスの手には余るとこれまで判断されていたからだ。

 

 ライザー・フェニックスとのゲームとコカビエルとの戦いを経て、現在のリアスなら扱いきれると四大魔王、大王バアル家、大公アガレス家が封印状態だった『僧侶』の解放を許可した。

 

 高評価を得たことは素直に喜ばしかった。

 なにより、自分の力不足で閉じ込め続けることになってしまっていた大切な眷属を外に出してあげられることが一番うれしい。

 

 ──だが、なかにいる眷属の様子を考えると、うれしさと同時に不安も感じてしまう。

 

「ここに一日中、住んでいるのよ。いちおう深夜には術が解けて旧校舎内だけなら部屋から出てもいいのだけれど、なかにいる子自身がそれを拒否しているの」

 

「ひ、引きこもりなんですか?」

 

 一誠の想像通りで、なかにいる『僧侶』は極度の引きこもりであった。主のリアスもその引きこもりぶりには頭を悩ませている。

 同時になかにいる『僧侶』は引きこもりでありながら、眷属一の稼ぎ頭だったりもする。悪魔と直接会いたがらない人間たちとパソコンを介して交渉し、大量に契約を結んでいるのだ。

 部屋に仕掛けていた封印術式を解除し、リアスが扉を開くと──。

 

「イヤァァァァァァァアアアアアアアッッ!」

 

 耳をつんざくような叫び声が辺りに響く。最近になって眷属入りしたメンバーが両耳を押さえて驚くなか、リアスはため息を吐いて朱乃と共に室内に入っていった。

 

『ごきげんよう。元気そうで良かったわ』

 

『な、な、何事なんですかぁぁぁぁ?』

 

『封印が解けたのです。もう外に出られますよ。さあ、私たちと一緒に出ましょう?』

 

 まだ声変わりもしていなさそうな中性的な甲高い声が室内から聞こえてくる。リアスと朱乃は優しさと親しみのある声で接しているようだが。

 

『やですぅぅぅ!ここがいいですぅぅぅ!外に行きたくない!人に会いたくないぃぃぃぃっ!』

 

「……典型的な引きこもりか。こりゃまた癖のつよい先輩がいたもんだ」

 

 室内から聞こえてくる叫び混じりの声を聞き、秀次はぼそりとつぶやいた。一誠やアーシアやゼノヴィアは困惑した様子で、事情を知っている祐斗と小猫は仕方なさそうに肩をすくめる。

 なかにいる『僧侶』を一目見ようと、一誠たちは部屋に足を踏み入れる。室内はカーテンが閉め切られているせいで薄暗いが、女の子が好むような装飾やぬいぐるみが飾られていた。薄暗い部屋には少々似合わない品々だ。

 部屋の一角にはなぜか棺桶があるのだが、その前で金髪で赤い双眸をした人形のような美貌の少女が床に力なく座り込んでいた。

 

「おおっ!女の子!しかも外国の!」

 

「見た目、女の子だけれど、この子は紛れもない男の子よ」

 

 アーシアと同じく金髪美少女の『僧侶』だと一誠は大喜びするが、直後にリアスが首を横に振って否定した。

 告げられた内容に直前まで歓喜していた一誠は動きを止める。アーシアやゼノヴィア、秀次でさえも自分の耳を疑った。

 

「いやいや、どう見ても女の子ですよ!……え?マジで?」

 

「女装趣味があるのですよ」

 

 引きこもりのうえ、どう見ても少女にしか見えない美貌と姿。加えて女装趣味。

 朱乃から告げられた衝撃の事実に一誠は頭を抱えながら叫び散らかし、秀次も視覚から入ってくる情報と伝え聞いた情報の乖離から脳の処理が追いつかず黙って立ち止まっていた。

 

「と、ところで、この方々は誰ですかぁ?」

 

 金髪美少女──ではなく、女装癖持ち金髪美少年はぷるぷる震えながら一誠たちを指さす。彼の質問にリアスは一誠たちを紹介した。

 一誠たちもあいさつをするが金髪美少年は怯え続けている。

 

「お願いだから、外に出ましょう?ね?もうあなたは封印されなくてもいいのよ?」

 

「嫌ですぅぅぅぅ!僕に外の世界なんて無理なんだぁぁぁぁぁっ!怖い!お外怖い!どうせ、僕が出てっても迷惑をかけるだけだよぉぉぉぉっ!」

 

 男のくせに怯え続ける『僧侶』に一誠がしびれを切らした。美少女にしか見えない顔立ちと女装で一度騙された怒りもあり、一誠は『僧侶』に近づいて腕を掴み上げる。

 

「ほら、部長が外に出ろって──」

 

「ヒィィィィ!」

 

 女装『僧侶』の甲高い叫びと共にその場にいる全員の視界が白く染まり上がる──。

 

「……ん?」

 

 秀次は奇妙な感覚に声を漏らす。

 意識が一瞬、切り離されたような気がした。

 かと思えば、一誠に腕を掴まれていたはずの女装『僧侶』が一瞬で部屋の隅に移動している。

 

「おかしいです。何かいま一瞬……」

 

「……何かされたのは確かだね」

 

「傷は……ないな。もしかして、短時間だけ意識を失わせるみたいな能力?……いや、そういうのではないか」

 

 謎の現象に秀次だけでなく、一誠、アーシア、ゼノヴィアも困惑する。古くから彼を知るリアスや部員たちはため息をつくばかりだ。

 

「怒らないで!怒らないで!ぶたないでくださぁぁぁぁいッ!」

 

「にしても、ビビリだなー。まあ一誠もいきなり腕を掴んだのは悪かったから、その点では謝るべきかもな。でもそろそろ黙ってくれると助かる。物理的に耳が痛くなってきた」

 

「ヒィッ!」

 

 客観的な秀次の言葉を聞いて、動揺していた女装『僧侶』は両手で口を押さえる。静かになったタイミングで朱乃が説明する。

 

「その子は興奮すると、視界に映したすべての物体の時間を一定の間停止することができる神器を持っているのです」

 

 時間停止。にわかには信じがたいが、確かにそれならば先ほどの謎の現象にも納得がいく。

女装『僧侶』はそれほどの強力な神器をまるで制御できずにいたため、これまで「開かずの教室」に封印されていた。

 

「この子はギャスパー・ウラディ──私の眷属『僧侶』。いちおう、駒王学園の一年生なの。そして、転生前は人間と吸血鬼のハーフだったわ」

 

 リアスは女装『僧侶』──もとい、ギャスパーを後ろから優しく抱きしめて、彼のことを知らない一誠たちに説明を始めていった。

 


 


 

 駒王学園一年生、ギャスパー・ウラディ。

リアス・グレモリー眷属の『僧侶』で、悪魔に転生する前は吸血鬼と人間のハーフであった。

 由緒正しい吸血鬼の家柄出身で、潜在能力も非常に高く、人間の魔法使いが使う魔法も扱える。これだけでも相当の才能だが、ギャスパーの最も特異な能力は人間の血が混じったことで偶然にも宿った神器。

 

 名前を『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』。

 能力も名前の通りで視界に映した存在の時間を停止させるという反則に近い能力となっている。

 問題はそんな強力な神器を全くと言っていいほどに扱えないこと。制御もできないせいで敵味方関係なく、ところ構わず時間を停めてしまう。

 才能ゆえに日に日に力も増しており、将来的には禁手に至る可能性もあるという。

 尋常ではない才を持つギャスパー。とてもじゃないが『僧侶』の駒一つでは転生させられない。──普通の駒を使ったのならの話だが。

 

 変異の駒(ミューテーション・ピース)──通常の悪魔な駒とは別で、明らかに駒を複数使うような転生体が一つで済んでしまうような特異な現象を起こす駒。ギャスパーは変異の駒で転生した悪魔であった。

 

「……うぅ、ぼ、ぼ、僕の話なんてして欲しくないのに……」

 

 部室へと移動したグレモリー眷属。部室の端っこのほうには大きな段ボール箱が置かれ、そのなかからギャスパーの声が聞こえてくる。外の世界を怖がっているギャスパーは「開かずの教室」から出ても変わらず閉じこもっていた。

 そんなギャスパーにいたずら心が湧いているのか一誠は段ボール箱を軽く蹴り、驚いたギャスパーは悲鳴を上げる。

 

「ひぃぃぃぃぃっ!」

 

「おい一誠、やめろよ。余計にビビらせたって意味ないだろうが」

 

「そりゃそうなんだけどさ。シュージ、なんかこいつに若干甘くない?」

 

 一誠の問いかけに両腕を組んで突っ立っている秀次は瞑目する。

 

「……そんなことない。わざわざ騒がしくさせんなって言ってんだよ」

 

 甘やかしているつもりはない。単にギャスパーの悲鳴が常に寝不足気味な頭に響くので、静かにして欲しいだけである。

 ギャスパーは「デイウォーカー」と呼ばれる特殊な吸血鬼の血筋のため、日中でも活動できる。さらに人間とのハーフだから十日に一度、輸血用の血を補給すれば問題なし。どちらも本人からすると苦手ではあるとのことだが。

 問題はやはり制御できない能力と、当人の精神面の軟弱っぷりだろう。

 

「とりあえず、私が戻ってくる間だけでも、イッセー、シュージ、アーシア、小猫、ゼノヴィア、あなたたちにはギャスパーの教育を頼むわ。私と朱乃は三すくみトップ会談の会場打ち合わせをしてくるから。それと祐斗、お兄さまがあなたの禁手について詳しく知りたいらしいから、ついてきてちょうだい」

 

 リアスの命令に従って、眷属たちはそれぞれ行動を起こし始める。

 

 ──のだが、ただ一人、秀次だけは彼女の命令とは違う動きを見せる。

 

「すみません、部長。俺はそろそろ時間なので。終わりしだい、一誠たちに合流します」

 

「えっ?──ああ!そうだったわね。あちらを待たせるわけにはいかないし、行ってきなさい」

 

 断りを入れた秀次は「失礼します」と、一礼をして静かに部室から立ち去っていく。そんな彼に事情を知らない仲間たちは首を傾げていた。

 

「シュージのやつ、何かあったんですか?」

 

「……ほら、コカビエルと戦ったときにシュージは校舎を吹き飛ばしてしまったでしょう?そのお詫びに生徒会の仕事を少し手伝うそうよ」

 

 そう言いながら、リアスは去っていった秀次のことを考え続けていた。理由はもちろんサーゼクスから聞いた秀次の過去のことだ。一時期、彼が不良だったことについてもこの際に聞いておきたいと思っていたのだが。

 

(にしても、引きこもりか……)

 

 ひとり、秀次はギャスパーのことを思い浮かべながら生徒会室に向かう。

 彼も数年、家に引きこもっていたことがある。といっても、ギャスパーほどの人見知りではなく家から出ることもあった。それでも他人との関わり合いを避けていたところは共通している。

 ギャスパーは外の世界を怖がっている。理由は不明だが、そんな相手を引きこもりから克服させることは難しいと秀次は踏んでいた。

 

(吸血鬼……血……)

 

 人間と吸血鬼のハーフ。人間の血を喰らう鬼。そんな存在もこの世界にはいた。現実に目の前に現れてしまった。

 

(頭が痛い……)

 

 ギャスパーが吸血鬼だと紹介されてからだ。

 謎の頭痛に秀次は襲われている。

 空白化した記憶の彼方。残された欠片が散りばめられている現状で自分は何もしていない。

 

(彼女を、取り戻さないと。思い出さないと)

 

 そうやって何年も生きてきた。けれども自分は本当に彼女を取り戻そうとしているか?そのための努力を怠ったことはないと言い切れるか?

 

(俺は、何をやっている……)

 

 何度も思い出そうとする。それでも脳は何の記憶も思い出そうとしてくれない。まるで脳そのものに問題を抱えているように。

 

 兵藤秀次は今日もまた独り。姿すら見えぬ少女の影を追い続ける。

 

 何年も何年も。何十年だって。

 

 彼女を思い出すことで、彼の壊れた人生は、

 

 真の静寂(おわり)に行き着くのだから。




もうそろそろ会談襲撃に入れそう。そうなったらオリキャラたちもたくさん出せるぞー!
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