ガンガディアの弟 作:赤ワイン
ダイ大世界の魔界がどんなんかは知らんのでドラクエ10を参考に。
悪臭が鼻をつく。仄暗い荒野がどこまでも広がる。太陽はなく、月明かりよりは強いであろう光を放つ球体が、遠くの山頂に輝いている。その光の強弱が、ここ魔界の昼夜を司っているらしかった。
何をしていて死んだかは定かでないが、私は転生したらしい。それも人間ではない。私を囲む同胞はどれもこれも樽のようなでっぷりとした体型と知性を感じさせない顔付き。濃い緑の体色からして恐らくはダークトロルだろう。
しかし、私の肌は緑ではない。鮮やかなワインレッド。また自分の臭いを嗅いでみれば強いアルコールのよう。
突然変異、恐らくはトロルバッコス。ドラクエ10にて初登場したトロルで高い知性を持つ。酒の神の名を持つ通り、赤ワインの血が流れている特殊なトロルだ。
それがためか分からないが、私は両親から育児放棄を受けた。
魔物ゆえ生まれてすぐでも自立できたのが功を奏して、他の同胞の食べ零しを失敬して数ヶ月生き延びてきた。人間(もう人間ではないが)慣れれば慣れるもので、得体のしれない生肉や果実でも、食べれないことは無かった。
それでも明らかに人の形をしているものに手は出さなかったが。肌の色からして人間ではないだろうが、恐らく知恵ある魔族。どうしてもカニバリズム感が拭えないのだ。
しかし、この世界はドラクエのどの作品の魔界だろうか。一度魔族の頭を見かけたが、角を持つかどうかはマチマチだった。とするとアストルティアの魔界である可能性は低いかもしれない。
周りのトロル達がダークトロルであるからして、ここはデスディオ暗黒荒野かと考えたが、大魔王城がない。単に建造前かもしれないが。
手頃な毛皮を纏い、適当な木を削って棍棒を手に入れる。随分トロルらしい装いにはなったが、私の腹は出ていない。トロルにとって十分な栄養を得られていないのだろう。同胞たちに分け合うだとか助け合いだとかの概念は期待できないらしかった。
時折群れで移動し、その先に魔族の集落があれば壊滅させて獲物にする。そういう暮らしだ。ダークトロル族はここらにおける食物連鎖の頂点捕食者だった。
トロルの知能は低い。それ故自ら酒を造ることはない。ないが、酒好きは居る。襲った集落の備蓄であるわずかなそれをあっという間に飲み干す。それは恐らく群の長の特権だろう。
そしてとても運の悪いことに、私はその長に目を付けられた。酒の匂いをさせていたばっかりに。
思い切り岩盤に叩きつけられ、全身から血が噴き出した。
その返り血を浴びて、奴は目の色を変えた。ペロリ、と舐めて、瞬間、涎をダラダラさせる。私の血が赤ワインと同じ成分であることに気が付いたようだった。
奴は私の足首を掴んで持ち上げ、石のナイフを振り上げた。生かし続ければ酒を長く楽しめるという考えに至る能は無いらしかった。
2度目の生は僅か数ヶ月か。
私は観念して目を閉じた。
だが痛みは来なかった。うっすら目を開けると、青い肌のトロルがナイフを持った手を止めていた。
「子どもに手を上げるとは……群れの長と言えど、所詮はトロルか。」
確かな知性を感じさせる瞳と、明確に紡がれる人の言葉。彼は私より一回り大きく、それでいて周りの大人トロルよりはよっぽど小さい。まだ子どもと言えるトロルのようだ。
肉付きは私よりよっぽど良く、しかし脂肪ばかりでなくその下に確かな筋肉の分厚さを感じさせる。周りのトロルのようにだらしない肥満というより、力士のような力のある太さに見えた。
私は彼をこの群で見たことがない。他所から来たのだろう。しかしトロル種に青肌のものがあったかろうか? あるいはトロルっぽい体型の魔族か。
だが、彼は確かに私を助けた。長は腕を捻られて痛みのあまり私とナイフを手放した。青肌の彼が私を丁寧に受け止めてくれたために、私は地面に激突することはなかった。
長は何やら喚き散らし、周囲のダークトロルたちにも命じて青肌の彼に向かってきた。
彼はやれやれと呆れたようにため息を付き、次の瞬間には長の目の前に立って、その顔面に掌を向けていた。
「イオ……!」
放たれた爆裂呪文は長の脳味噌をシェイクし、一撃で絶命させた。周りのダークトロル達は唖然とした後、私達から距離を取る。
「行きましょう。君はここに居るべきではない。」
確かな知性、青い肌、呪文を使う。
ようやく分かった。彼はデストロールだ。高い知性を持つ突然変異種。非常に希少な幻のトロル。
彼の名はガンガディア。将来魔王ハドラーの右腕になる魔法使いにして、そして、私の恩人。
トロル族に子供時代があるかは知らない。