ガンガディアの弟   作:赤ワイン

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酒臭巨人はどう生きるか

 

 私はガンガディアに連れられて彼の群に加えられた。彼の群は殆どが最下位のトロルでありそこにところどころにボストロール、トロルキングやトロルボンバーやダークトロルといった上位種が存在するようだった。

 

 そしてガンガディアはこの群れの長であった。最も賢いからではない。トロルは普通知恵を尊ばない。ガンガディアはその知恵もさることながら、武闘派でもある。彼はこの群れで最も強いのだった。

 

 呪文と体術を使いこなすスキンヘッドのマッチョマン。言わせてもらいたいが、格好いいがすぎるだろう。

 

 私も彼に倣い、身体を絞りたかったのだが、否と言われてしまった。絞るにしてもまず標準体型まで肉をつけてからだ、と。どうも今はガンガディアもダイエットを始めて直ぐの頃である。最初私は彼を子供トロルと勘違いしていたが、それは違って系統最上位種であるダークトロルが特別大きいだけのようだった。

 

 とにかく、太っているのが普通のトロル族が痩せることでどのような悪影響があるかわからない以上、子供であり、尚且つ栄養失調気味の私がダイエットをすることはまだ良くない、と言い含められ私は従うしかなかった。

 

 代わりに彼は私にも知性があると知り、魔法を教えてくれることを約束してくれた。私は両親がダークトロルゆえに生まれつき倍力呪文(バイキルト)は契約されている状態のようだ。ただ、レベル不足で唱えても何も起こらないが。

 ドラクエ10のトロルバッコスが呪文を使わないことを考えると、それは嬉しいことだ。下位の強化呪文(バイシオン)もどこかに残されているのなら契約しておきたいが。

 

 しかし魔界というのは本当に酷いところだ。水の小川より溶岩の河のほうが多く存在し、固く、それでいて痩せ衰えた土地ばかりがどこまでも広がる。おそらく大気中の魔法力は地上より濃いのだろうが、MPだけで生きていけるわけではない以上、争いを助長させる要素にしかならない。わずかに富んだ土地を巡って豊富な魔力で殺し合うのだ。

 

 ガンガディアの群も、時折襲われた。トロルは基本悪臭しかしないが、でっぷりと太っていて食い出があるのだろう。地獄の殺し屋(キラーパンサー)や、銃を持った魔族の狩人が現れては、逆に叩きのめされて喰われる。

 

 しかし銃とは……ダイの大冒険本編でも名前は知られていたが、現物はアバン先生の作った魔弾銃(まだんガン)しか出てこなかった。兵器面で最も進んでいるベンガーナでも大砲戦車はあったが、歩兵用の銃は持っていなかったので、どこにあるのかと思えば、やはり魔界だったのか。もとよりキラーマシンや審判(ジャッジ)のようなロボットや機械兵器を作れる技術があるのだから、当然銃くらい作れるだろう。

 ……役に立つかは別として。優れた闘気や魔法力を持ってすれば鉛玉など豆粒ほどしか効かない。無論闘気や魔法を込めた銃弾も存在するだろうが、それにしても費用対効果がよろしいとはいえず、扱いやすさは弓矢に軍配が上がる。キラーマシンの左腕が銃ではなくボウガンなのが良い証拠だ。そしてそれ以上になると実弾兵器ではなく魔術や呪法によるエネルギー兵器になるのだろう。おそらくはスーパーキラーマシンの頭部のような。

 

 *

 

 おそらく数年が経過した頃である。私もそれなりに成長し、ガンガディアの肩あたりに頭頂高がくる程度になった。呪文もそれなりに契約し、初級呪文ではイオやメラ、ヒャドを契約することができた。勇者の呪文であるデイン系は契約魔法陣こそあるようだったが、契約はできなかった。やはり勇者やドラゴンに雷雲の魔物くらいしか契約できないのだろう。私は人間ではないし、最下級のデインくらいは、と思ったが甘かったか……

 

 しかし魔界の魔物はとても強い。わかりきっていたことだが、改めて言いたいのだ。何せほぼ全ての魔物が闘気の扱いを身につけ、ある程度の中距離戦闘も可能なのだ。距離を取ったからといって安心はできない。スライムですら強い。

 そのスライムというのが、暗黒闘気で体表面を覆い、目が赤く光っている。そう、スライム・強なのだ。そして実はスライム系は光属性に耐性があり、イオ系の通りが悪い。爆風で吹き飛ばすことはできてもダメージそのものは大したことがないようだ。しかも粘度の高い体を流動させて衝撃吸収をやってのけるような戦闘技法を身につけている。

 ただのスライムの強モンスターでさえこれなのだ。スライムナイトなどに出会したら、こちらとしては逃げるしかない。しかもこのスライムナイト、イオの光を剣に纏わせてギガスラッシュのような技も使ってくる。まさか魔法剣⁉︎ と戦慄したが、竜の騎士のそれとは違うものだろう。

 

 原作でヒュンケルの言った「魔法と剣を同時に使うことはできない」というセリフの剣とはおそらく剣技を指す言葉で、剣という武器そのものではないのだろう。剣技、すなわち闘気技であり、魔法力と闘気を同時に使えないという意味ではなかろうか。

 そもそも武器に魔法を纏わせて放つというのは単純に呪文の形状変化の一種に過ぎないように思える。いわば魔法の杖や想像力の延長のようなもの。竜の騎士の魔法剣が恐ろしいのは上級呪文ギガデインの威力と竜闘気がオリハルコンの硬度で叩きつけられることによるものだろう。

 

 まぁ、長々と言ったが、イオ属性の飛ぶ斬撃が恐ろしくないわけではない。一度右腕を切り落とされかかったのはトラウマである。流石は魔界。本来おとなしいスライム族であっても戦闘狂に変えてしまうとは。スライムナイトは慈愛の騎士のはずなのに……いや、積極的に急所を狙ってくることを考えれば魔界流の慈愛で持って苦しみなく息の根を止めにかかってくるのかもしれないが……

 

「大丈夫かバッコス?」

「大丈ばないです、ガンガディア……」

 

 今日もまたスライムナイトに襲われた。恐ろしいのはこのスライムナイト、基本3匹程度の群をなしているのだ。しかも剣の切れ味がまた恐ろしい。一度鉄製の大鎌(農業用)を持って戦ったことがあるが、あっさり真っ二つにされてビビった。これほどの切れ味ならばかのクロコダインの鋼の身体に傷くらいは負わせられよう。倒せるとは到底思えないが……

 

「……ホイミを習得できたのは僥倖だった……」

 

 私は全身の切り傷を摩るようにホイミをかけ、染み込ませていく。そこまで暗黒闘気の強いわけではないので再生阻害はないが、しかし最下級回復呪文ではトロルの巨体には少々物足りない。せめてベホイミか、贅沢を言うならベホマが欲しいところだ。

 

「……ガンガディア、世界のどこかにはスライムの楽園があり、そこには慈愛の化身たる癒し手が住んでいるそうだ……スライムベホマズンと言うらしい……叶うならお近づきになりたい……」

「ベホマ……は聞いたことがありますが……ベホマズン?」

「極大回復呪文……なのだろうな。ベホマ以上の治療効果を複数人に同時にかけられるという……」

「どこでそれを知ったのです?」

「さぁ……生まれた時から……かな……」

 

 ぶっちゃけこの世界にベホマズンがあるかは知らないが、あったとしても大魔王クラスしか使えない代物だろう。ただ、やろうと思えば極大消滅呪文(メドローア)重圧呪文(べタン)のように呪文の自作もできる世界だ。ないなら作ればいいだろう。作り方は知らないが。おそらく精霊に関する呪法を身につけなければならないのだろうな。

 

「せめてベホイムかな……」

「また知らない呪文ですね。ベホイミの言い間違いですか?」

「ベホイミの上で、ベホマの下の呪文だよ……」

 

 回復呪文使いの大抵がベホイミ止まりで、ベホマ使いは希少。これは人間界の話ではあるが、しかしおそらく並の人間はベホイミまでで事足りるのだろう。ベホマでないと全回復できないのは竜の騎士や一部の天才くらいのもの。そしてそういう存在は大抵勇者パーティとして魔王と戦うのだから、ベホマ使いは1人いれば十分とかそう言う話だろう。

 逆に魔族にベホイムでは回復量が足りないのではなかろうか……

 

 しかし上位の呪文ほど適性を持って契約できる人物が少ない世界観だ。ベホイムを発見できれば回復術の底上げができるだろう。ベホイミより使い手は少ないが、ベホマよりよっぽど多くなると思われるのだから。

 

 そう言うわけで私の将来の展望としてはとにかくたくさんの呪文を身につけたインテリトロールになってやろうと言うものである。叶うならばガンガディアの魔王軍入りを阻止したいが……

 

 しかし獄炎の魔王でのアバン先生の経験値があったからこそバーン軍と戦えたわけで……またハドラーからの勧誘になびかずとも、魔界で名を挙げれば大魔王から勧誘される可能性もある……

 

 だが、これらは所詮取らぬ狸の皮算用だ。そもそも明日まで生きられるか怪しい暮らしぶり。呪文探しの旅に出るにはもっとレベルアップしなければ。

 今のようにガンガディアにおんぶに抱っこではいけないだろう。彼はもうほとんど原作のような姿だ。うかうかしているといつハドラーが勧誘に来るかわからない。

 

 ……下手をすれば私も誘われかねないぞ……

 

 どうしたものかと考えようといい考えは浮かばないので、私はまた趣味と訓練を兼ねた瞑想に入るのだった。

 





 やたらと魔物にねらわれるのは体臭が酒の匂いだからです。なお主人公にはまだ名前がありません。

習得呪文
 イオ、メラ、ヒャド、ホイミ

契約呪文(レベル不足でまだ使えない)
 メラミ、メラゾーマ、ヒャド、ヒャダルコ、ヒャダイン、マヒャド、イオラ、ギラ、ベギラマ、バギ、バギマ、バギクロス、ベホイミ、バイキルト

 極大呪文は契約できなかったのではなく、契約魔法陣が貴重で手に入りませんでした。
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