ガンガディアの弟   作:赤ワイン

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 いつの間に赤評価がついておりました……


 身に余る光栄ですが、ぼちぼち思いつくままに書いていく所存です。


3 死念覚醒

 

 

 魔界暮らしは気ままとは言えない。計画立てて進めなければすぐに食べるものを失うこととなる。

 私達の群れが魔族の集落跡を根城にしていた頃のある日に、私は墓場跡で見たのだ。うっすらと透けた魔族の霊を。しかしここは魔界。幽霊など珍しくもない。魔物のゆうれいや死神だっている。しかしそれらと違うのは、存在が極めて希薄であり、ガンガディアや他の群の仲間には見えていなかったのである。

 

 ……心当たりはある。私は転生者だ。一度死を経験した魂だからこそ、風化して薄くなった魂を認識できるのだろう。

 

 私はその幽霊と対話を試みて、それに成功した。何を未練としているかと聞けば、かつて集落を滅ぼしたドラゴンについてだった。しかし恨みだとかそう言うものではないらしい。まぁ、この魔界で怨みから幽霊となればモンスター化するのが普通なのだから薄々勘付いてはいた。

 

「あの竜は、かつてこの村で生まれ、捨てられた忌子だったのだ……」

「なんと……! 魔族が竜になったのですか……」

「忌子たる所以はまさにそこなのだ……竜の血が混ざった混血児ゆえに恐れられ、排された。」

 

 そしてその忌子は復讐に駆られ竜化の法を身につけ、ドラゴンとなって戻ってきたのだという。

 

「あの子は……私の甥に当たる子だった……私の姉があの子の母だったのだ……」

 

 聞けばかの子供が用いた術は不完全なもので、完全に理性を失い、そして村を滅ぼした後に反動で死んでしまったのだという。しかしその怒りは決して晴れることなく、骸となってなお魂は囚われ、今もまだこの付近を彷徨っているのだと。

 

「私は、あの子の魂が解放された時、彼を姉のところに連れていくために今まで残ってきた。しかし……もう限界が近いのだ……」

 

 それを聞き、私はガンガディアに群を移動させるべきだと告げた。恐ろしい竜の骸がまだ残っているのだ。

 

「バッコス……もう出発しますよ?」

「先に行ってほしい。私はまだすべきことがある。何かあれば合流呪文(リリルーラ)で追いつく。」

 

 ガンガディアは私が何をしようとしているか理解しているらしかった。だが引き止めることなく、一言、無理はするなと言った。

 

 *

 

 私の格好は黒のフード付きマントと魔界樹の棍棒だ。頭を隠す格好なのは、私はガンガディアほども肩幅が広くなく、顎もがっしりしていないのでスキンヘッドがあまり似合わないのだ。ガンガディアはスキンヘッドのアクション俳優じみた格好良さと色気のようなものがあるが、私はそれに恵まれなかった。

 

 しかし魔法力については彼よりやや上回るだろう。幼児期の栄養失調が尾を引いて体力がそこまでつかなかった反動だろうか……

 

 集落から2キロ離れた丘の向こうにソレはいた。大地に霜が降り、溶岩の川が固まっている。夥しい数の魔物が屍山血河を築き、その中央に一際大きな骸が座していた。

 

 私がその窪地に足を踏み入れると、滞留していた暗黒闘気が竜の骸に集まり始め、

そしてその身をゆっくりと起き上がらせた。

 

「スカイドラゴン系の氷龍……」

 

 極低温の魔法力ゆえか腐敗は進んでおらず、肉のほとんどが残っているドラゴンゾンビ。話を聞いて私はてっきり火竜変化呪文(ドラゴラム)を使ったものだと思っていたが、どうやら氷龍変化呪文(ドラゴザム)だったようだ。

 

 氷龍ゾンビが咆哮を上げると、周囲の骸のいくつかが暗黒闘気に操られるようにして身を起こした。

 

「……グルルルル!」

「ふむ。」

 

 腐敗していないために眼球はきちんと残っている。しかしそこに意志は感じられない。ただ近づいてきた命に反応して動き始めただけと言ったところである。

 私は手始めにバギマを唱えた。骸や土系の存在には風がよく効く。風化というやつである。

 

 しかし私のバギマは氷龍の吐き出した輝く息で押し返された。バギ系の危険度を理解しているのか偶然か。

 

 周囲の骸を数発のイオで吹き飛ばしつつ、氷龍に接近を試みる。途端にふわりと体を浮かせ、上空十数メートルで旋回を始める氷龍。制空権を取られてしまったが、ドラゴンが相手である以上織り込み済みだ。

 

「メラ!」

 

 私のメラは火炎放射ではなく火球の呪文だ。当てるのは難しいが、射程と威力はこの形状の方が高いと気が付いてからはずっとこうである。

 それも吐息で迎撃されるが、問題なし。

 

 吐息や空気に含まれる水分が私のメラで一気に水蒸気へと変貌し、それは煙幕のように私と氷龍とを遮る。

 周囲の骸をメラミで焼き尽くしつつ、思案する。

 

 この手の相手は隙を見ての一撃必殺に限る。雑魚を召喚するのだから長期戦は不利であろう。

 だが私には必殺に相応しい呪文、極大呪文の類がない。

 

「ないなら作ればいいのです。」

 

 メドローアのように。

 

 そうとわかったならば、とっとと退散だ。今の私では厳しい相手であろうからには、リリルーラでガンガディアの元へと戻ろう。

 

 しかし、私の唱えたリリルーラは不発した。ルーラも、リレミトもダメだった。

 

 ──忘れていたのか……ボスモンスターからは逃げられない。

 

「っ!」

 

 ボス戦のエリアたるこの窪地から出る方法は二つ。殺すか、死ぬかだった。

 

「やるしか……ないか……」

 

 引き攣った笑いを浮かべ、強がりを口にする。なんたるウカツ! これは後でガンガディアにどやされて然るべき失策であった。

 

「……補助も使えば、できるか……?」

 

 今の私のレベルでは、左右の手で別々の呪文は使えないが、同じ呪文であればなんとかなる。ならばそれを合成することで擬似的にワンランク上の呪文をでっち上げるのだ。

 最も、そのような行いをみすみす見逃してくれる龍ではない。これが生きた龍であればバギ系の破壊力の低さも相待って慢心の一つもしてくれようが、骸であることにより、純粋な反応で以って危険なエネルギーを感知してくるのだ。

 

 打ち出される氷結呪文のミサイルを、時に躱し、時に足場にしつつ、上の龍だけでなく、周囲のゾンビにも気を配らねばならない。その上でさらにこちらの仕込みもしなければならないのだ。

 

 ……体が重い。大気すら凍りつくほどの魔法力は、私の体力を奪いつつある。

 

「しまった……!」

 

 悴んだ身体が反応速度に追いつけず、ヒャダインの氷柱が私の腹に突き刺さる…ガンガディアほどにバキバキの腹筋があったならばこうは行かなかったろうが、悔やんでも仕方がない。

 

 腹に突き刺さった氷柱の持つ魔法力が、私の全てを凍つかそうと広がりゆく。アルコールの血を持ち、体温が高い私といえど、このままでは死は免れない。

 

 ふと、周囲を見やれば、鋭い鎌を構えた死神が数匹、私たちを遠巻きに見つめている。

 

「……まずい……!」

 

 私にしろ、かの龍にしろ、実に無礼な死神どもである。私は殺し屋風情が神を名乗るのは地雷だ。死に善悪はなく、そこに貴賎はない。無差別かつ、無意識なものこそ、純然たる死であるべきだからだ。

 ならばこそ、私はキルバーンとは相いれなかろう。なんなら、あの一つ目ピエロには、霊感があるかも疑わしい。死者を悼む殊勝さがあるとは思えない。

 

 と、そう考えて思いつく。

 

「霊感……そうだ……私は死者だ。しかし生者でもある。」

 

 その悟りに至った瞬間、私の知覚が広がる。

 青黒く光る、筋のようなエネルギーを私の眼は確かに捉えた。あるいは、それは魂で感じ取るものであり、視覚的には単なる幻視に過ぎないのやもしれないが、これでいい。エネルギーの流れは掌握できた。

 

「人を呪わば穴二つ!」

 

 青黒い奔流……デスパワーを束ね、私と竜との間に繋がるラインを用いて逆流させる。純粋な敵意と殺意。呪詛は龍の動きを僅かに止める。龍の魔力で動いている骸たちもまた止まる。

 

 私は腹の氷柱をメラミで溶かし、そして傷をホイミで塞ぐ。しかしこれだけする間に、龍たちの呪いは解除され、自由を取り戻す。

 

 もはや呪詛をまともには喰らってくれぬだろう。

 

 だが、仕込みは既に完了している。

 

「ギラ……」

 

 閃熱とならない程度のギラを持って私は円弧を描き、そのうちに二重の四角形を形作る。そして円の縁と四角形の角には、私が攻撃を躱しながら配置した魔法石が存在する。

 

 『やまびこの陣』と『早詠みの陣』が重なったそれが姿を表すと同時に、唱えたギラ以上の魔法力が体外へと吸い出されていく。一度作ればそれでいいというわけでなく、維持し続けるためにもかなりの魔法力と意識をさかねばならないようだった。

 

「バギクロス!」

 

 この世界において、バギ系最上位と()()()()()呪文を私は唱えた。早詠みの効果により、エネルギーの溜めがいつもの半分で済む。

 そして私の唱えた呪文はやまびことなってこだまし、もう一つのバギクロスを生み出す。

 

 バギクロスは極大呪文に非ず。それゆえ、片手で一つずつの維持が可能だ。

 

「さぁご覧うじろ! このトロルバッコス一世一代の大博打です!」

 

 成功したならばおそらく、史上初、バギ系の極大呪文がこの世に現れることだろう。

 

 荒れ狂う風の奔流を無理やり押さえつけ、胸の前へと持ってくる。そうして合成を試みれば、私は自然と両腕を交差させるような姿勢をとっていた。

 

 もはや、龍の吐息は私から溢れる魔力の風圧だけで跳ね除けられていた。それは、周囲の骸を問答無用で風化させ、塵に還していた。

 

 だが、私は未だこの呪文を解き放ってはいない。

 

「ぐ、おおお! これほどまでとは!」

 

 知恵熱で脳が弾け飛びそうである。制御するだけでやっとで、解き放てばあるいは私も無事ではいられないかもしれないが、

 

「上等! 魔法はロマンあってなんボォ!」

 

 あぁ、私はどうしようもなくハイだった。

 

「いくぞ! 極 大 真 空 呪 文(バギムーチョ)!」

 

 ダサい名前と侮るなかれ! ムーチョはたくさんを意味する言葉である通りに、解き放たれた極大の奔流は、幾千幾万ものバギを束ねたに等しい破壊力を持って、それでいて一本の三日月型の刃のようにしなって、氷龍へと向かってゆく。

 

「壮観かな……」

 

 荒れ狂うエネルギーの奔流が、周囲の骸や大地をも風化させていく。硬い土だった足の感触が、いつの間にか砂に埋もれている。

 おそらく呪文暴走によるブーストがかかっているのだろう。私は暴走魔法陣の呪法を見つけることは叶わなかったので、これは本当に偶然の産物であろう。

 

 そして死神どもよ、慌てふためいてももう遅い。魂を掠め取る穢れた盗人よ、哀れな龍諸共、塵と化すが良い。

 

 風が止んだ時、私はただ1人、立ち尽くしていた。バギムーチョを放った時の姿勢のまま。すなわち、右腕を斜め上、左腕を斜め下にまっすぐ伸ばした姿勢だ。無我夢中で繰り出したぶっつけ本番ながら、しかし、この詠唱モーションこそ、この世界におけるバギムーチョの型なのだろう。

 

「次は……あれでも試しますか……」

 

 そう考えて、私は意識を失った。

 

 *

 

 後日、ガンガディアに説教されたのはいうまでもないだろう。ろくな情報収集もなくドラゴンに挑むとは馬鹿なことをするものだと思うが、返す言葉もない……

 しばらく単独行動は戒められてしまったが、しかし私自身のデスパワーへの覚醒から、新たにスピリットという名を彼は考えてくれたのだった。

 




・極大真空呪文
 読みはバギムーチョ。極大呪文の中でもださ目な響きだが、筆者としては嫌いではない。
 なお拙作における詠唱モーションはウルトラマンAの「バーチカルギロチン」のそれである。風化と斬撃に重きを置いた呪文で、ゾンビやゴーレムに強い。漢字表記自体は一応ドラクエ公式で出てきているはず……
 なお仕込みなしで放つには現状レベル不足。

・氷龍変化呪文
 読みはドラゴザム。星のドラゴンクエストがおそらくは初出典。氷の吐息を放つスカイドラゴン系列に変化する呪文。漢字表記は公式ではないので悪しからず。


 さて、極大呪文を出してしまいましたが、これ魔王軍に合流するとやばいなぁ。とはいえ本人の魂が人間なので合流したとしてもストレスで禿げてしまうでしょう。

 しばらくは魔界での旅と開拓が続くので原作キャラはあまり出ないでしょう。……多分……
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