静かな森の中に、彼女はいた。小さな村の外れ、滝のそばの岩に腰掛けて、風に揺れる髪を指で梳いていた。
「ねえ、今度こそ、遠くへ行こうよ」
彼女は笑った。その声が、悲しいほどに澄んでいた。
「この村にいたら、いつか君は――」
言葉を遮るように、彼女は僕の手を握った。
「大丈夫。私は大丈夫だから」
嘘だ。君は優しすぎる。誰よりも傷ついているのに、誰にもそれを見せないだけだ。
この村では、彼女は異端だった。生まれつき不思議な力を持ち、それが「災厄を呼ぶ」と言われていた。彼女のせいで干ばつが起こった、彼女のせいで疫病が流行った――そんな根も葉もない噂が、村中に広がっていた。いや、噂で済んでいたらこんなことになっていないか
彼女は何もしていない。ただ静かに、誰よりも優しく、誰よりも強くあろうとしただけなのに。
「君が傷つくのを、もう見たくないんだ」
僕が強く手を握り返すと、彼女はほんの少し、寂しそうに目を伏せた。
そんな時だった。
森の奥から、松明の灯りが見えた。
「――いたぞ!」
怒声が響き、村の男たちがこちらに駆け寄ってくる。手には鎌や鍬。明らかに、彼女を追ってきたのだと分かった。
「……逃げよう」
僕が手を引こうとすると、彼女は首を振った。
「……もう、いいの」
「何言って――」
「ずっと、こうなることは分かってた。でも、君は巻き込みたくないの」
優しい声だった。悲しくなるほど、優しい声だった。
彼女は、僕をそっと突き飛ばした。
「君だけでも、生きて」
それが、最後の言葉だった。
村人たちが彼女を取り囲む。彼女は抵抗しなかった。ただ、静かに目を閉じていた。
僕は何もできなかった。
彼女を守るために、強くなりたかった。彼女を救うために、遠くへ行きたかった。でも、彼女はそれを望まなかった。
だから僕は、何もできなかった。
ただ、目の前で、大切な人が消えていくのを見ていることしかできなかった。
その夜、村には祝宴の鐘が鳴った。
僕はただ、森の中で震えていた。
――君を守るために、何ができたんだろう。
あの夜、僕はただ一人、震える森の中に取り残されたと思っていた。けれど、目を開けて最初に見えたのは、見慣れたいつもの天井だった。
ベッドから起き上がると、僕は胸騒ぎに襲われた。昨日の惨劇、彼女の優しくも悲しい笑顔、そして、僕の無力さ。すべての記憶が、鮮明に蘇るのだ。
目の前にいたのに何もしなかった口先だけのノミ以下のこんな僕が生きていていいのか?
そう思って、死のうとしたけど、直前で怖くなってしまった。
ナイフを胸に当て、覚悟を決めようとするけど、無理だ
すぐに死ねない言い訳を考えていると、ふと思った
きっと死体はそのまま放置されている、と
せめて、彼女の為になにかしてから死のう、こう思うことで自分をどうにか誤魔化す
色々考えている間に少し気持ちが落ち着いてきた。落ち着いたことで疑問がでてきた
あれ?昨日ってたしか…
誰かが運んでくれたのか?
いや、でもおかしい僕は昨日捕まっていた
悩んでも仕方がない、とりあえずエリシア(したい)に会いに行こう