「……まるで、わたしが死んだみたいな顔」
彼女の言葉が耳にこびりついて離れない。
僕は確かに彼女が死んだのを見た。傷つき、血に塗れ、苦しみながら息絶えた彼女をこの目で
なのに、目の前の彼女は、何も知らない顔で笑っている。
鼓動が早鐘のように鳴る。何か言わなければ。何か確かめなければ。
「……君は、本当に……」
次の瞬間、まるで何もなかったかのように、僕は目を覚ました。
天井が見える。
静かな朝。鳥の鳴き声。遠くで響く村の鐘の音。肌寒い空気。
――いや、おかしい。
さっきまで、僕は彼女の前にいた。確かに話していた。なのに今は、朝の最初に戻っている。
冷たい汗が背を伝う。喉が渇く。
ゆっくりと身を起こし、部屋を見回す。昨日と同じ、いや、「今日のはじまり」の部屋。雑然とした机。半開きの窓。
そして、いつものように時間が過ぎていく――いや、違う。「いつも」のはずなのに、「いつもじゃない」と知っているこの違和感。
僕は確かに死んだはずだ。
なのに、彼女は生きていた。
そのことを伝えようとした瞬間、ペナルティのように時間が巻き戻された。
ここは、また朝だ。
そして――
コン、コン、コン。
扉が、三回だけ、小さく叩かれた。
心臓が跳ねる。息が詰まる。
彼女だ。
ここから、また同じ一日が始まる。
扉が叩かれる音が、頭の奥まで響く。
――また、始まる。
僕は目を閉じて、一度深く息を吸った。焦るな。混乱するな。何かが間違っていることは確かだ。でも、それを言葉にしようとしたら、また時間が巻き戻される。
慎重に、慎重に。
「……入っていいよ」
言葉を絞り出すように答える。
扉がゆっくりと開く。
そこにいたのは、何も知らない彼女 だった。
「おはよう!」
昨日と同じ、いや、「今日」最初の笑顔。
――いや、違う。これは「昨日」じゃない。今日という名の、繰り返される時間。
「……おはよう」
声が少し震えたかもしれない。でも彼女は気づかない。ただいつもの調子で、軽やかに部屋へ入ってくる。
「珍しいね、まだ寝てるなんて」
「……まあ、ちょっと疲れてて」
適当な返事をする。本当は疲れなんかじゃない。僕だけが、何度もこの日を繰り返している。
彼女はまだ、何も知らない。
ならば――
どうすれば、このループを終わらせられる?
彼女を救うために。
繰り返す運命を、断ち切るために。
彼女は何も知らない。何も気づいていない。
だからこそ、僕は慎重に言葉を選ばなければならなかった。さっきのように「ループしている」と口にした瞬間、すべてが巻き戻されてしまう。
それならば、どうすればいい?
「……どうしたの?」
彼女が不思議そうに僕を覗き込む。
「え?」
「なんか変だよ。まだ寝ぼけてる?」
いつも通りの彼女の仕草。いつも通りの笑顔。だけど、それが僕にはひどく異質なものに感じられた。
だって、僕は知っている。このまま進めば、彼女は死ぬ。
ならば、方法はひとつ。彼女が殺される前に、その運命を変えるしかない。
「……なあ、今日、一緒に村の外に行かないか?」
何でもない風を装って、僕は言った。
彼女は目を瞬かせ、少し驚いたように笑った。
「どうしたの? 突然」
「ちょっと、気分転換したくてさ」
彼女はしばらく僕の顔を見ていたが、やがて小さく頷いた。
「……うん、いいよ」