君を守るために   作:もぐたろ

3 / 7
03話

「……まるで、わたしが死んだみたいな顔」

 

彼女の言葉が耳にこびりついて離れない。

 

 僕は確かに彼女が死んだのを見た。傷つき、血に塗れ、苦しみながら息絶えた彼女をこの目で

 

なのに、目の前の彼女は、何も知らない顔で笑っている。

 

鼓動が早鐘のように鳴る。何か言わなければ。何か確かめなければ。

 

「……君は、本当に……」

 

次の瞬間、まるで何もなかったかのように、僕は目を覚ました。

 

天井が見える。

 

静かな朝。鳥の鳴き声。遠くで響く村の鐘の音。肌寒い空気。

 

 ――いや、おかしい。

 

 さっきまで、僕は彼女の前にいた。確かに話していた。なのに今は、朝の最初に戻っている。

 

冷たい汗が背を伝う。喉が渇く。

 

 ゆっくりと身を起こし、部屋を見回す。昨日と同じ、いや、「今日のはじまり」の部屋。雑然とした机。半開きの窓。

 

 そして、いつものように時間が過ぎていく――いや、違う。「いつも」のはずなのに、「いつもじゃない」と知っているこの違和感。

 

僕は確かに死んだはずだ。

 

なのに、彼女は生きていた。

 

 そのことを伝えようとした瞬間、ペナルティのように時間が巻き戻された。

 

 ここは、また朝だ。

 

 そして――

 

 コン、コン、コン。

 

 扉が、三回だけ、小さく叩かれた。

 

 心臓が跳ねる。息が詰まる。

 

 彼女だ。

 

 ここから、また同じ一日が始まる。

 

 

扉が叩かれる音が、頭の奥まで響く。

 

 ――また、始まる。

 

 僕は目を閉じて、一度深く息を吸った。焦るな。混乱するな。何かが間違っていることは確かだ。でも、それを言葉にしようとしたら、また時間が巻き戻される。

 

 慎重に、慎重に。

 

 「……入っていいよ」

 

言葉を絞り出すように答える。

 

扉がゆっくりと開く。

 

そこにいたのは、何も知らない彼女 だった。

 

「おはよう!」

 

昨日と同じ、いや、「今日」最初の笑顔。

 

 ――いや、違う。これは「昨日」じゃない。今日という名の、繰り返される時間。

 

 「……おはよう」

 

 声が少し震えたかもしれない。でも彼女は気づかない。ただいつもの調子で、軽やかに部屋へ入ってくる。

 

「珍しいね、まだ寝てるなんて」

 

「……まあ、ちょっと疲れてて」

 

 適当な返事をする。本当は疲れなんかじゃない。僕だけが、何度もこの日を繰り返している。

 

彼女はまだ、何も知らない。

 

ならば――

 

どうすれば、このループを終わらせられる?

 

彼女を救うために。

 

繰り返す運命を、断ち切るために。

 

彼女は何も知らない。何も気づいていない。

 

 だからこそ、僕は慎重に言葉を選ばなければならなかった。さっきのように「ループしている」と口にした瞬間、すべてが巻き戻されてしまう。

 

それならば、どうすればいい?

 

「……どうしたの?」

 

彼女が不思議そうに僕を覗き込む。

 

「え?」

 

「なんか変だよ。まだ寝ぼけてる?」

 

 いつも通りの彼女の仕草。いつも通りの笑顔。だけど、それが僕にはひどく異質なものに感じられた。

 

 だって、僕は知っている。このまま進めば、彼女は死ぬ。

 

ならば、方法はひとつ。彼女が殺される前に、その運命を変えるしかない。

 

「……なあ、今日、一緒に村の外に行かないか?」

 

何でもない風を装って、僕は言った。

 

彼女は目を瞬かせ、少し驚いたように笑った。

 

「どうしたの? 突然」

 

「ちょっと、気分転換したくてさ」

 

彼女はしばらく僕の顔を見ていたが、やがて小さく頷いた。

 

「……うん、いいよ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。