村の外に行こうと言ったのは、確かに理由があった。彼女を守るため、そして運命を変えるためだ。前回は、あの瞬間に村に居たことがよくなかったんだきっと
村の中――あの場所では、彼女は常に避けられ、憎まれている。村人たちは彼女を「呪われた者」として見ている。無慈悲に石を投げ、陰口を叩き、彼女が歩く度にその視線が刺さる。
それを知っていたけど、今だけは我慢してもらうしかない
「……行こう、こっち」
僕は彼女の手を取って、早足で村の外れへと向かう。誰もいない道を選んで、少しでもこの場所から遠ざけるために。
だけど、僕たちが歩いていると、少しずつ聞こえてきた。足音、ひそひそ声、そして――
石が飛んでくる音。
「おい、そいつをどこに連れていくんだ!」
無視できるほど軽い声ではなかった。僕の足が自然と止まる。
振り向くと、数人の村人が立っていた。顔には嫌悪と怒りの表情が浮かび、彼女に向けられた視線には憎しみしかなかった。
「そいつをまた連れ回してるのか! お前も呪われてんじゃねえか!」
その声に続いて、石が飛んできた。
僕は反射的に彼女を庇うようにして、その石を受け止める。痛みが手に走る。
「やめろ!」
僕は叫んだ。
だが、村人たちは一切耳を貸さない。むしろ、僕を見て嗤いながら更に言葉を投げてくる。
「どうせお前も、やってることは同じだろ! お前も呪われてんだ、気づけよ!」
「ここに住んでるなら、あんな女と関わるな!」
彼女は震えていた。恐怖に顔を歪め、僕を見つめる。だが、僕は彼女を守るために立ち続けた。
守るって約束を一度破ってしまったんだ、もう2度と破るわけにはいかない
「……行こう、早く」
「ごめんなさい私のせいで」
「大丈夫だよ」
彼女の手をしっかりと握りしめ、僕は再び歩き出す。
村を離れ、二人だけの場所へ向かって。
いつもの湖で2人で時間を過ごす。
そんななか、突然彼女が、村の方向に指をさした
「ねぇ、あれって」
きた、野盗が村を襲っているんだ
野盗がいなくなった後で更に時間をおいてから村へ戻ろう
これで未来が変わればいいんだけど…
「もしかしたら、最近噂になっていた野盗が村を襲っているのかも」
「今戻ると危険かもしれないから今はここにいよう」
「うん」
その後、そろそろ大丈夫じゃない?と聞かれたけど何とか説得して夜をここで明かした。一日経ったんだから村の奴ら少しは落ち着いていてくれよ
彼女が、村人たちに決して許されない存在だと決めつけられることは、前回の記憶の中で鮮明に残っている。あのとき、彼女が苦しんだ姿を思い出すと、僕は胸が痛む。
村に着くと早々に、村人たちの怒声が響く。
「あの女のせいだ!」
「呪われた女が、村を滅ぼした!」
その声が、まるで嘘のように聞こえる。前回と同じように、村の人々は彼女が招いた災厄だと決めつけ、怒りと恐怖の目で彼女を見つめている。
くそ、変わらないのかよ
「そんなことはない!」
僕は叫ぶ。
けれど、村人たちの反応は冷徹だった。僕の言葉は、すぐにかき消される。
そして、彼女は再びその罪を背負わされてしまった。
その日の夕方、村の広場には、冷たい空気とともに不穏な雰囲気が漂っていた。野盗の襲撃は一通り終わり、村人たちは怯えながらも、目に見える被害の復旧を始めていた。しかし、その時、彼女は捕らえられていた。
村人たちの怒りと恐怖を一身に受けて、彼女は拘束され、広場の中央に引きずり出された。その顔は、涙で濡れ、震えながらも、言葉を発することなく、ただ自分がここに立っている現実を受け入れているようだった。
彼女の目を見たとき、僕の心は引き裂かれる思いだった。前回もこの瞬間を見たが、今回はもっと深い痛みを感じる。**
「あの女が村を滅ぼしたんだ!」
「処刑しろ!」
村人たちの叫びが、僕の耳を突き刺す。彼女が犯した罪は、この村の滅びを招いたということだ。彼女は呪われた者だと、村のすべてが信じて疑わない。
しかし、僕は知っている。彼女が引き起こしたわけではない。彼女がすべての原因ではない。だが、誰も信じてはくれない。どんなに僕が彼女をかばっても、彼女を守ろうとしても、それは無駄だと知っている。
だが、僕は諦めるわけにはいかない。
彼女は今、処刑される運命にある。それを阻止するために、僕は、今すぐに行動しなければならない。
彼女の姿が見える場所に足を運び、僕は周囲に気を配りながら、静かに近づいた。もう時間がない。明日には彼女の命が奪われる。それまでにどうにかして逃がさなければ、すべてが終わる。
村の守衛がこちらを見ていない。周囲にも気づかれないように、少しずつ、静かに歩みを進める。彼女がまだ処刑される前に――
「こっち」
小声で彼女に声をかけると、彼女の目がすっと僕に向けられた。驚きと戸惑いが混じった表情。その目には、まだ完全に信じられないという思いが浮かんでいた。
「逃げよう。今、すぐに。」
彼女は一瞬だけ目を見開くが、すぐに震えた手を伸ばして僕の手を握った。その瞬間、僕は彼女を引き寄せ、走り出した。
足音が背後で響く。すぐに守衛たちが追いかけてくるだろう。だが、今は振り返っている暇はない。僕たちはただ走るしかなかった。暗い夜の中、村の外へと向かう道を。
再び、何もかもが終わる瞬間が近づいてきている。
でも、彼女を助けるために――今度こそ、逃げる。
夜の静けさの中、僕たちは走り続けた。村を離れるために、何度も来た道を辿り、見覚えのある木々を抜けていった。彼女の手を握りしめ、振り返らずにただ前に進む。後ろからは追手の足音が近づいてくる。それが近くなるたび、心臓の鼓動は速くなり、手に握った彼女の手の温もりが一層強く感じられる。
けど、
どこに逃げるのかなんて決めていなかった
前回と同じだ。いつもそうだ。肝心なことを後回しにして意味のない事をしてしまう。
どこに行くのか、どうやって生き延びるのかを必死に考える。
そのことに気づいた瞬間、僕の胸に冷や汗が流れた。逃げる場所がない、出口も見当たらない。村を離れるために選んだ道も、すぐに行き止まりになっていた。
背後から声が聞こえた。その声には冷徹な決意が込められていた。
「捕まえろ!」
「そいつを殺せ!」
どこからともなく現れた守衛たちが、次々と僕たちを取り囲む。逃げ場がない。無理だ。こんな状態でどうやって逃げるというのだ。
彼女が震えながら僕の手を握りしめ、目を見開く。彼女の顔には恐怖が色濃く浮かんでいる。その目が、僕を必死に求めるように見つめていた。
「お願い、助けて……」
助けたい、守りたい。けれど、僕にできることはない。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
あぁ、まただ、また守れない
守衛たちの一人が、僕達に近づいてきた。冷たくて無情な眼差し。短い一瞬の後、彼女を貫こうした。咄嗟に体が動く
「ぐっ……」
痛みが胸を突き刺し、体が一瞬で重くなる。血が溢れ、足元がふらつく。目の前が暗くなり、息が苦しくなった。
その瞬間、彼女の叫び声が耳をつんざいた。
「やめて!」
彼女の声が、すべてを引き裂いていった。その目には涙が溢れ、手が僕に伸ばされる。
「お願い……お願い、お願い!」
彼女の声は、もう僕の耳には届いていないかのように感じた。体が崩れ落ちる感覚がした。
最後に見た彼女の顔が、僕の心に深く刻まれた。
その目は、僕を必死に守ろうとする反応を見せていた。けれど、その無力さに彼女がどれほど苦しんでいたのか、今はわかる。
僕の命が奪われ、彼女はその目の前で無力に立ち尽くす。
彼女の手が空を掴むように震え、そして僕が倒れるその瞬間、彼女の声が止まった。
すべては無駄だった。
そして、僕が最後に見たのは、彼女の顔が崩れ落ちるように見えた瞬間だった。