僕たちは村を出た。
これまでも、何度か試みたことはあった。だけど、いつもどこかで失敗し、僕は殺され、また朝に戻ってしまう。
でも今回は違う。
彼女と逃げるだけじゃない。
このループを終わらせるために、僕は“鍵”を探すつもりだった。
それが何なのかは分からない。
でも、どこかに必ずある。
この運命を断ち切るための“何か”が。
僕たちは歩き続けた。
朝焼けに染まる森を抜け、昨日聞いた街への道を進む。
彼女は僕の隣を歩きながら、時折、こちらを見上げた。
「……なんだ?」
そう聞くと、彼女は少し困ったように微笑んだ。
「ううん。ただ、こうしてあなたと一緒に歩くのが……なんだか、不思議で。」
「不思議?」
「いつも、あなたは私を守ろうとしていたでしょう? でも今は、一緒にいる感じがする。」
僕は何も言えなかった。
彼女は知らない。
これまで僕が何度も死んできたことを。
何度も彼女を守ろうとして、そのたびにすべてを失ってきたことを。
でも――
それでも今、彼女は僕の隣にいる。
それだけで、少しだけ救われる気がした。
これが、最後のループになる。
僕が、最後にする。
そう決めていた。
街が見えてきたころ、僕たちはふと足を止めた。
「……ねぇ。」
彼女が、ぽつりとつぶやく。
「もし、また何かが起きたら……今度は、私も戦うよ。」
驚いて、彼女を見た。
彼女は、まっすぐな目で僕を見ていた。
「あなたが全部を背負わなくていい。私も、一緒にいるから。」
胸の奥が、じんと熱くなる。
ああ、そうだ。
僕は、ずっと間違えていたのかもしれない。
彼女を守ることばかり考えていた。
でも、本当に大事なのは――
彼女と、生きること。
「……ありがとう。」
小さくそう言うと、彼女はふっと微笑んだ。
そして、僕たちは街へと歩き出した。
運命を終わらせるために。
生きる未来を掴むために。
――僕たちの、最後の旅が始まる。
僕たちは街へたどり着いた。
初めて見る光景のはずなのに、どこか懐かしさを感じる。
それもそのはずだ。
僕は何度もこの場所に来ようとし、そして失敗してきたのだから。
でも今回は違う。
彼女は隣にいる。
そして僕は、このループを終わらせる方法を知っている。
――“鍵”は、僕たち自身だった。
ループの原因は、何かの呪いでも神の気まぐれでもなかった。
それは、僕が「彼女を救うこと」たげを思い続けたこと。
僕が過去に囚われ、未来を選ぼうとしなかったこと。
その執着こそが、ループを繰り返させていたのだ。
「……これで、もう終わる。」
彼女が僕を見上げる。
「終わる、って?」
僕は静かに息を吐いた。
「もう、繰り返さない。俺は、過去じゃなく未来を選ぶ。」
「……それって。」
彼女の手が、そっと僕の袖を掴む。
「私は……またあなたがいなくなってしまうんじゃないかって、それが……」
「大丈夫。」
今まで、彼女に嘘をついたことはあったかもしれない。
でも、この言葉だけは絶対に嘘にしない。
僕は彼女の手を取り、しっかりと握りしめた。
「一緒に行こう。」
「……うん。」
彼女は少しだけ泣きそうな顔をしたあと、ふっと微笑んだ。
その瞬間――
世界が、動き出した。
これまで、何度も見たはずの街の風景が、まるで初めて訪れた場所のように鮮やかに映る。
朝が、確かに続いていく。
未来が、今ここから始まる。
もう、繰り返すことはない。
僕たちは、この先の時間を生きていく。
どんな困難があろうと、もう振り返らない。
もう、彼女を守るために戦うだけの人生ではない。
彼女とともに、未来を生きる人生が、今ここから始まるのだから。
僕は彼女の手を強く握りしめ、一歩を踏み出した。
それが、僕たちの本当の旅の始まりだった。
――終わり。そして、始まり。