秋風が冷たく吹き抜ける中、ボサボサの髪と腐った目をした俺、比企谷八幡は、JR千葉駅から田舎の稲羽市へ向かう列車に乗り込んだ。東京駅で乗り換えて、2両編成のローカル線に揺られながら、窓の外をぼんやり眺める。気温は一段と下がり、俺の気分もそれに比例して沈んでいく。
荷物を荷台に放り投げ、窓側の席に腰を下ろす。外の景色は単調で、俺の頭の中では母親の言葉がリフレインしていた。
『あんたのこと、末妹の静江に頼んだわ』
静江ってのは、母さんの末っ子の妹。つまり俺の叔母だ。
『は? 何だよ、それ。余計なことすんなよ』
俺の不満をよそに、母さんは続けた。
『私は見捨てない。あんたはお父さんや小町が何と言おうと、私がお腹を痛めて産んだ息子だから』
だったら、なんで俺を叔母のところに預けるんだ? その矛盾が、俺にはさっぱりわからなかった。母さんはそんな俺の表情を読み取ったのか、急にギュッと抱きしめてきた。そして、優しく、だけどどこか重い口調で言った。
『八幡、一度静江の住む稲羽で、人間関係をリセットしてやり直しなさい。嫌なこと、全部忘れて』
その言葉を思い出しながら、俺はため息をつく。電車のアナウンスが現実に戻す。もうすぐ東京駅だ。
【東京の人混み、うぜぇな…】
荷物をつかみながら呟く。今日は休日だから、いつも以上に人が多い。東京駅に着いた俺は、人混みを避けるように改札を抜け、母さんから渡されたメモを取り出す。稲羽市への路線が書かれている。
【はぁ…叔母さんの家か。行くのだりぃな…】
稲羽市に着く頃には夕方だろう。今日は移動だけで終わりそうだ。荷物を肩にかけ、メモに書かれた路線に向かって歩き出す。
列車を乗り継ぎ、2両編成のローカル線に揺られながら、俺は目を閉じていた。いつの間にか眠りに落ち、昔のトラウマが夢となって蘇ってくる。
なんでこうなっちまったんだ?
どこで俺は間違えた?
今となっては何もかもどうでもいい気がする。なんで俺がこんな苦労してまで、誰かの依頼を達成しなきゃいけなかったんだ? ため息しか出ねぇ。
思えば、あの修学旅行の時…
葉山が去った後も、雪ノ下と由比ヶ浜はそこにいた。雪ノ下の視線は冷たく、まるで俺を糾弾するようだった。鋭い眼光に、俺の足はすくんだ。内心、ビビっちまった。葉山に言われた言葉が頭をよぎる。
『君はそういうやり方しか知らないんだとわかってたのに。……すまない』
その表情は、俺を嘲笑うでも見下すでもなく、ただただ哀れむようだった。同情だ。可哀想な奴だと、そう思われたんだ。羞恥と怒りで頭が沸騰しそうだった。
そんな中、雪ノ下にこう言われた。鋭い視線を緩めず、俺をまっすぐ見据えて。
『あなたのやり方、嫌いだわ』
雪ノ下は胸元をぎゅっと押さえ、俺を睨みつける。その言葉に畳みかけるように、こう続けた。
『うまく説明できないけど…あなたのそのやり方、とても嫌い』
その姿を、誰よりも痛ましそうに見つめていたのは由比ヶ浜だった。彼女は喉をコクリと鳴らし、何かを飲み込むように視線を下げた。俺が何も答えられないでいると、雪ノ下は唇を噛み締め、言葉を探すように口を開くが、何も出てこない。
『……先に戻るわ』
冷たくそう言い放つと、雪ノ下は背を向けて歩き出した。いつもより足早に、まるでこの場から一刻も早く逃げ出したかったかのように。俺が歩き出しても、追い付くことはできなかった。
追い打ちをかけるように、由比ヶ浜からも言葉が飛んできた。背後からパンチを受けたような一撃。
『人の気持ち、もっと考えてよ…なんでいろんなことが分かるのに、それがわかんないの?』
俺だって、わかってる。変わっちまったら、もう後には戻れない。中国のことわざにもある。
覆水盆に返らず。
一度離婚した夫婦は元に戻れない。それと同じで、一度壊れたものは二度と元には戻らない。葉山グループが壊れるなんて、アイツらが一番望まないことだ。だから、俺が悪役を引き受けるしかなかった。戸部や海老名さんがギクシャクしないよう、俺は嘘の告白をした。たとえそれが自己犠牲でも。
後で海老名さんには感謝されたけど、なんかモヤモヤしたものが胸に残った。修学旅行が終わり、日常が戻るかと思った矢先、クラスの視線が妙に刺々しいことに気づいた。いつもなら俺なんぞ空気なのに、この日に限って敵意がむき出しだ。
葉山や戸部、三浦たちは朝練で遅れたのか、いなかった。まぁ、どうでもいい。俺はいつも通り、机に突っ伏して寝たふりをする。すると、ヒソヒソ声が耳に届く。
『比企谷が戸部の告白を邪魔した」「海老名に身の程知らずな告白をした』
それだけじゃない。文化祭の話まで持ち出してきた。
『比企谷が実行委員長の相模にふざけたこと言ってた』
『相模の邪魔をした』
尾ひれがつき、俺はまるで悪党みたいに噂されてた。軽いイジメの始まりだった。
それでも、俺はアイツらを信じようとした。一度は雪ノ下や由比ヶ浜との関係を修復しようと、奉仕部の教室に向かった。…だが、扉が少し開いていて、そこから聞こえてきたのは、拒絶とも取れる言葉だった。
俺の中で、何かが崩れる音がした。
結局、奉仕部には行かなかった。イジメはエスカレートし、学校に行くのが辛くなり、サボる日が増えた。戸塚や川崎、材木座はそんな俺を心配してくれたが、アイツらに迷惑をかけるわけにはいかない。だから、距離を取った。
そんな生活が長く続くはずもなく、家族にバレた。親父には激怒され、小町には罵倒された。親父はともかく、小町は雪ノ下や由比ヶ浜に何か吹き込まれたんだろうな。そんな中、母親だけは俺の味方でいてくれた。
そして、母親から告げられたのは転校だった。総武高校から、八十神高校へ。
目を開けると、列車の窓の外にはのどかな田園風景が広がっていた。千葉よりよっぽど田舎だ。田んぼと山、鉄塔が点々と見えるだけ。静かに暮らすには悪くないかもしれない。
【俺の青春、田舎に流されただけか】
青春を謳歌した記憶なんて、ほとんどねぇけどな。
携帯を手に取り、時間を見ようとすると、メールの着信音が鳴った。迷惑メールなら即削除だ。そう思って画面を見ると、
【八幡、16:30に八十稲羽駅の駐車場で待ってる。心配しないで、すぐ分かるから】
叔母さんからのメールだ。なんで叔母さんが俺のアドレスを知ってんだ? …ああ、母親が教えたんだな。
時計を見ると、16:15。あと15分で終点の八十稲羽駅だ。今日はマジで移動だけで終わりそう。座りっぱなしで尻も痛ぇ。荷物を足元に引き寄せ、乗り換えの時に買ったお菓子の袋を座席の横に置く。あとは駅に着くまで、のんびりするか。
2010・10・11・☀・16:35・八十稲羽駅・ホーム。
列車は定刻通り、八十稲羽駅に到着した。ホームに降り立つと、誰もいない。無人駅か? 改札にも駅員の姿は見えない。
【想像以上に田舎じゃねぇか、これ…】
呟きながら改札を抜け、駅の外に出る。目の前には、田舎特有の寂れた駅前商店街。開いてる店もあるが、シャッターが下りた店の方が目立つ。やっぱり田舎ってこんなもんか。
周りをキョロキョロ見回していると、どこからか女の声が聞こえてきた。
比企谷雪穂→八幡の母親の名前。
もう一度、アンケートを取ります。鳴上悠のヒロインは誰がよろしいですか?
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1ー里中千枝
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2ー天城雪子
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3ー久慈川りせ
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4ー白鐘直斗
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5ー小沢結実
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6ー松永綾音
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7ー海老原あい
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8ー雪柳綾奈
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9ー麦野静江