ー綾奈Side
2011・04・20・☁・15:45・稲羽市・八十神高校・職員室前。
柏木先生から頼まれていた現国用のプリントをようやく完成させて渡してきたところです。昼休みも返上して作り上げたので、お腹が減って仕方がありません。学食で何か軽いものでも食べられればいいのだけど……。
「時間的に、まだ間に合うかしら?」
ダメで元々。とにかく行ってみましょう。私は鞄を軽く持ち直して、学生食堂へと向かいました。
2011・04・20・・15:55・稲羽市・八十神高校・学生食堂。
学生食堂に着いたものの、すでに閉まっていました。購買部だけが細々と開いている状態です。覗いてみると、パン類は昼休みですべて売り切れ。残っているのはカップ麺と飲み物くらいでした。
「……残念ね」
今日はもう早めに仕事を切り上げて帰宅しようかしら。
学校側も犯人がまだ捕まっていないことを重く見て、教職員に対しては『可能な限り早く帰宅する』よう推奨しています。生徒会にも『部活動は短時間で切り上げ、なるべく早く帰るように』と通達を出してあります。
鳴上君たちや比企谷君たちも、天城さんを無事に助け出したばかりですし、彼女が回復するまでは少し自由にさせてもいい時期でしょう。そう思いながら職員室へ戻ろうとした時、廊下の角で おなじみなシルエットとぶつかりそうになりました。
「あ……雪柳先生」
「鳴上君」
彼は少し驚いた顔をした後、すぐにいつもの落ち着いた表情に戻りました。制服のまま、手にはまだ少し湿ったタオルを持っています。部活帰りか、それとも自主練でもしていたのかしら。
「先生も今帰るところですか?」
「ええ。今日はもう早めに切り上げようと思って。……あなたも、今日はもう帰るの?」
少し間を置いて、私は提案してみました。
「もしよかったら、少しだけ時間ある? 屋上で話さない?」
鳴上君は一瞬目を丸くしましたが、すぐに小さく頷きました。
「はい、わかりました」
2011・04・20・・16:00・稲羽市・八十神高校・屋上。
屋上へ向かう階段を二人で上がる間、私たちはほとんど言葉を交わしませんでした。風が少し強くなっていて、扉を開けると湿った空気が頰を撫でました。空は灰色の雲に覆われていますが、雨はまだ降り出していません。屋上のフェンス際に並んで立って、私はまず穏やかな話題から切り出しました。
「八十神高校には、もう慣れた? 鳴上君」
「そうですね……だいぶ慣れてきました。最初は田舎ののんびりしたペースに戸惑いましたけど、今はそれなりに楽しめています」
「ふふ、それは良かったわ。転校生って、最初はどうしても浮いてしまうものだから。クラスメイトのみんなとは上手くやれている?」
「はい。花村は……まあ、賑やかですけど良いやつです。里中も天城も、明るくて面倒見がいい。比企谷はちょっと変わってますけど、根は真面目だと思います」
「比企谷君ね……」
私は小さく微笑みました。
「彼は毒舌だけど、芯が強い子よ。あなたたちと一緒にいて、少しずつ変わってきている気がするわ」
鳴上君は壁側に軽く寄りかかり、遠くの山並みを見つめながら言いました。
「先生は……どうですか? 俺たちと一緒に、あの世界に行ってしまったこと、後悔してませんか?」
その質問は予想以上にストレートでした。私は少し息を吐いてから、静かに答えました。
「正直に言うと、怖かったわ。教師である私が、生徒たちを危険な場所へ連れていくなんて、本来なら絶対に許されないこと。でも……結果として、天城さんはあなたたちに助けられた」
私は自分の胸に手を当てました。
「ペルソナに目覚めたのも、きっと意味があったのだと思う。あの世界で人々を救うために、私にも力が必要だったんじゃないかって……そう考えるようにしているの」
鳴上君は黙って聞いていました。穏やかな目が、私の言葉をしっかり受け止めてくれているのがわかります。
「マヨナカテレビのことは……もうみんな、かなり深刻に捉えているわよね」
「はい。雨の日にテレビがノイズを出す。画面の向こうに誰かの姿が見える。そして……実際にその人が失踪する」
「小西さん、山野アナ、そして天城さん……。天城さんは助けられたけど、他の二人は戻ってこなかった。警察はまだ『事故』や『自殺』の線で調べているみたいだけど、私たちは知っているわ。あれは明らかに他殺よ。誰かが意図的に、人をテレビの中に放り込んでいる」
風が少し強くなり、私の髪を乱しました。私は前髪を耳にかけて、続きを話します。
「犯人の目的はまだわからない。恨み? 快楽? それとももっと大きな何か……? ただ、確かなのは、稲羽に住む人々が次々と狙われているということ。特に、テレビに出ていた人や、町で目立つ人が狙われやすい傾向があるみたいね」
鳴上君が静かに言いました。
「先生も、気をつけてください。雪柳先生はテレビに出ていたわけじゃないけど、教師として目立つ存在です」
「ええ、わかっているわ。だからこそ、みんなにも無理はしないでって言いたい。でも……あなたたちはもう止まらないのでしょう?」
彼は小さく、けれどはっきり頷きました。
「天城を助けられた。次も、きっと助けられる。犯人を止めるまで……俺たちもは戦います」
その言葉に、頼もしさと危うさの両方を感じて、私は胸が締め付けられました。
「あなたは本当に、不思議な子ね。転校してきたばかりなのに、こんな事件の中心に立って……まるで運命に導かれるみたいに」
「運命、ですか」
「そう。クマくんが言っていた『運命の力』ってやつかしら。私も、あの世界に行ってから……自分の人生を少し俯瞰で見られるようになった気がするの。教師として、生徒を守らなければならないのに、逆に守られてしまって……その矛盾に、毎日葛藤しているわ」
私は上着の裾を軽く握りしめ、空を見上げました。
「でもね、鳴上君。私、決めたの。この力がある限り、あなたたちと一緒に戦うわ。教師として、できる限りのサポートをする。情報収集も、相談相手にもなる。……ただ、一つだけ約束してほしい」
「何ですか?」
「絶対に、無理はしないで。死んではダメ。みんなで生きて、この事件を乗り越えるのよ。それが、私があなたたちにできる最大の願い」
鳴上君はまっすぐに私の目を見て、静かに微笑みました。
「わかりました。約束します」
その笑顔は、年相応の少年のものではなく、どこか大人びていて、芯の強さを感じさせるものでした。しばらくの間、私たちは無言で屋上の景色を眺めていました。雲の隙間から、わずかに夕陽が差し始めています。
「……そろそろ、帰りましょうか。雨が降りそうよ」
「はい」
階段を下りる途中、私はもう一つだけ、彼に伝えました。
「天城さんが回復したら、みんなでちゃんと話をしましょうね。彼女から何か聞ければいいのだけど……。思い出したくないものまで聞くことになるかも」
「そうですね」
屋上の扉を閉めるとき、私は心の中でそっと呟きました。
(この子たちを、絶対に失くさないように……私にできることを、全部やろう)
もう一度、アンケートを取ります。鳴上悠のヒロインは誰がよろしいですか?
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1ー里中千枝
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2ー天城雪子
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3ー久慈川りせ
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4ー白鐘直斗
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5ー小沢結実
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6ー松永綾音
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7ー海老原あい
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8ー雪柳綾奈
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9ー麦野静江