静江Side
2011・04・20・☁・19:30・稲羽市・稲羽商店街・居酒屋・アモーネ。
薄暗い暖簾をくぐると、いつもの焼き鳥の香ばしい匂いがふわりと鼻をくすぐった。ここ、アモーネは私が長年通っている行きつけの居酒屋だ。
カウンター席と小さな座敷が五つほどあるこぢんまりした店だが、味は確かで、店主の気さくな人柄も好きだった。今日は後輩の鍋島未来を連れてきている。八幡には『食事して帰るから気にしないで』と連絡を入れてある。
心配性なあの子は、きっと何か適当に作って1人で食べているだろう。
「先輩、今日は奢ってもらってありがとうございます~!」
明るい声でそう言ってきたのは、茶色いショートヘアが可愛らしい未来だった。白いブラウスに膝丈のスカートという、きちんとしていながらも親しみやすい服装。彼女は私の初めての後輩で、今では相棒のような存在だ。人懐っこくて裏表がなく、話しているだけでこちらまで元気になれる子だった。
「気にしないで。たまには後輩にご馳走するのも先輩の仕事よ。今日はゆっくり飲もう」
私たちはカウンター席に並んで座った。店主にビールと枝豆、お通しのたこわさを頼んで、まずは喉を潤す。グラスを軽く合わせた後、未来が少し声を落として言った。
「それで……先輩。今日、話したいことってやっぱりあの事件のこと?」
「……ええ。山野アナの件から始まって、小西早紀さん、そして天城雪子さんの失踪と発見。一から整理しておきたいの」
私は周囲に聞こえないよう注意しながら、ゆっくりと話し始めた。未来はメモを取るでもなく、真剣な目で頷いている。口が堅い子なのは知っているからこそ、こうして話せるのだ。
まず、山野真由美アナウンサーの事件。彼女は事件の少し前に、天城屋旅館に宿泊していた。理由は、稲羽市議会議員の秘書・生田目太郎との不倫疑惑が週刊誌にスクープされ、それが原因で所属テレビ局から担当番組を降板させられ、無期限謹慎を言い渡されていた。自宅にも多くのマスコミが押しかけ、天城旅館に雲隠れすることでマスコミの追及から逃れるためだったという。
地元では美人な容姿と歯に衣着せぬ物言いが人気だった彼女だが、プライベートでは相当危うい橋を渡っていたらしい。
「山野アナが天城屋に泊まってたなんて、意外ですよね。先輩」
「ええ。田舎の老舗旅館に隠れるなんて、ちょっとしたセレブの逃避行みたいだったんでしょう。でも、それが仇になったのかもしれないわ」
次に、小西早紀さんの件。彼女は山野アナの遺体を発見した第一発見者だった。警察署で事情聴取を受けた後、署を出た直後から行方がわからなくなった。結局、彼女も住宅街の電柱に吊るされ、命を落とした。
そして3番目が、天城雪子さんの失踪。こちらはまだマスコミには伏せられている。堂島刑事から『口外厳禁』という条件で聞いた話だ。天城雪子さんは無事に発見され、現在は自宅で静養中だと聞いている。
もちろん、未来にも『絶対に他言無用』と念を押してある。彼女は真面目で分別のある子だから、大丈夫だと信じている。
「天城さん……無事で本当に良かったですよね。でも、稲羽署の一部では彼女を疑ってるって本当ですか?」
「ええ。山野アナが天城さんの母親である女将をいびっていたという話から、動機があるんじゃないかと」
私は小さくため息をついた。
「でも、安直すぎるわ。母親をいびられたからって、人を殺して住宅街の電柱に吊るす? そんな短絡的な動機で動くような子には見えないもの。……少なくとも、私の知っている天城雪子さんは違うわ」
未来が枝豆を摘まみながら、考え込むような顔をした。
「先輩は、犯人は市内の人間だと思ってるんですよね?」
「そうよ。市外の人間が、あの住宅街で遺体をアンテナや電柱に吊るすような真似をするとは思えない。土地勘がなければ不可能な犯行よ。夜中に人目につかず運ぶルートを知っている、稲羽の地理に詳しい人間……それが犯人だと思う」
「確かに、リスクが高すぎますよね。知らない土地でそんな大胆なこと、普通はしないはず……」
グラスに注がれたビールを一口飲むと、苦味と共に重い現実が喉を通り過ぎた。謎は深まるばかりで、解決の糸口は一向に見えない。この事件の闇は、思った以上に深いのかもしれない。そんな重苦しい沈黙を、未来が明るい声で破った。
「でも先輩、ちょっと話題変えていいですか? なんか暗くなりすぎちゃったので……」
「ええ、いいわよ。何?」
未来は目を輝かせて身を乗り出した。人懐っこい笑顔が、場を明るくしてくれる。
「最近、グラビアアイドルのMISAKIが女優業に進出するみたいなんですよ~! もう、すっごく綺麗でスタイル良くて、ドラマのオファーが来てるって噂です。しかも結構大役らしいんですよね」
「へえ、MISAKIね。確かに最近テレビで見かける機会が増えたわ」
「でしょでしょ! で、ライバルになりそうなのが久慈川りせ……通称りせちー! あの子も可愛いし、歌も上手いし、芸能界で注目されてるんですよ。MISAKIとりせちーが共演したら、絶対話題になりますよね~」
私は思わず笑ってしまった。未来のこういう無邪気な芸能トークは、事件の重さで凝り固まった頭をほぐしてくれる。
「それから、風祭聖奈さん! あのグラビア出身の人が、朝ドラのヒロインに抜擢されたって話、知ってます?」
「風祭聖奈? ああ、スタイルのいい……ちょっと露出度の高いグラビアが話題になってた子ね」
「そうですそうです! でも演技も頑張ってるみたいで、朝ドラのオーディションに受かったって結構ビッグニュースなんですよ。稲羽の近くの出身って噂もあるんですけど、本当かな~?」
そう言えば、風祭聖奈って、制理ちゃんにところなく似ている気もするけど、この世の中にそっくりな人間って何人かいるって話だしそういうことなんでしょ。
未来はビールを少し飲んで、頰を赤らめながら続ける。
「先輩はどう思います? グラビアから女優に転向する人って、成功すると思います?」
「難しいわね。でも、MISAKIや久慈川りせさんみたいに、ビジュアルが強みで、なおかつ努力家なら道は開けるんじゃないかしら。風祭聖奈さんも、歌やダンスができるなら、アイドル路線だけじゃなく幅を広げていけるでしょう」
「やっぱり先輩は冷静ですよね~。私はもう、MISAKI推しなんですけど、りせちーも可愛くて困っちゃうんですよ。聖奈さんも綺麗だし……最近、芸能界が熱いんですよね!」
そんな他愛もない話で盛り上がりながら、私たちは次々と料理を注文した。焼き鳥盛り合わせ、冷や奴、唐揚げ、ポテトサラダ……。ビールも進み、未来の笑い声が店内に響く。事件の話に戻ると、未来が少し真剣な顔で言った。
「でも先輩、本当に犯人は市内の人だと思いますか? もしそうなら……私たちの知ってる人かもしれないってことですよね」
「……可能性は否定できないわ。だからこそ、慎重に動かないと」
私はグラスを静かに置いた。
「八幡も、あの事件に巻き込まれている気がしてならないの。あの子は口数が少ないけど、妙に勘が鋭いから……。私が守ってあげないと、と思うんだけど、最近は逆に守られているような気もするわ」
「八幡君……先輩の甥っ子ですよね。なんか、頼もしい感じがします」
「ええ。ここに来た頃はもっと捻くれた子だったんだけど……制理ちゃんという彼女ができて、少し変わってきたみたい」
未来が優しく微笑んだ。
「そうなんですね。先輩が心配してるのもわかります。でも、八幡君も先輩のことが大好きですよ。きっと、2人で支え合ってるんですよね」
「……ありがとう、未来」
居酒屋アモーネの柔らかい照明の下で、私たちは事件の闇と、日常の小さな光を交互に味わっていた。犯人が捕まるまで、まだ長い道のりになりそうだけれど——今夜は、こうして後輩と語らえる時間を、大切にしようと思った。
もう一度、アンケートを取ります。鳴上悠のヒロインは誰がよろしいですか?
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1ー里中千枝
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2ー天城雪子
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3ー久慈川りせ
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4ー白鐘直斗
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5ー小沢結実
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6ー松永綾音
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7ー海老原あい
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8ー雪柳綾奈
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9ー麦野静江