2011・04・20・☁・21:30・稲羽市・八十神アパート・2ー1・静江の部屋・リビング。
叔母さんから『今日は後輩と飲んでくる』と連絡を受けていたので、俺は自分の分の晩飯を適当に作って済ませた。
車は駐車場にちゃんと停まっている。行きつけの居酒屋は商店街の方にあると前に聞いたことがあるから、そこだろう。歩いて帰れる距離だと言っていたしな。
「天城が回復して学校に来るまでは、しばらく動きはなさそうだな……」
さっき制理と電話で話した。天城の体調を聞くと、まだ本格復帰には時間がかかりそうだった。あんなわけのわからない世界に1人で閉じ込められていたんだ、無理もない。
ジュネスのバイトのシフトも、俺たち未成年の分はあまり入っていないらしい。小西先輩があんなことになった影響だ。無理もないよな。
「しかし……山野アナ、小西先輩に続いて天城を拉致してテレビに放り込むなんて、犯人は一体どんなヤツだ?」
1人で考えても答えが出るはずもないが、考えずにはいられない。
小西先輩は俺なんかより花村にとって身近な先輩だったはずだ。あいつは相当堪えているだろう。そんなことを考えていたら、表の方で少し騒がしくなった。
階段を上がってくる足音が複数聞こえる。そしてこの部屋のドアノブがガチャガチャと回された。
……まさか、強盗か?俺は警戒しながら、部屋に置いてあった木刀を握り締めた。
鍵が開き、扉が開く。女の人の声が聞こえた。
「先輩、ほら自宅に着きましたよ」
「自宅? もう……ついたの?」
は? この声、叔母さん? じゃあもう一人は後輩か?俺は慌てて木刀を元に戻し、玄関へ向かった。そこで見たのは、完全に酔いつぶれた叔母さんと、それを介抱している茶髪ショートの女性だった。白いブラウスにスカート姿で、叔母さんの後輩だとすぐにわかった。アルコールの匂いがプンプンする。
「叔母さん……まさか飲み過ぎたのかよ」
「は、八幡君、ごめんね。先輩ちょっと飲み過ぎちゃって……」
「あ、はい……叔母が迷惑かけてすみません」
「迷惑だなんて思ってないよ。最近先輩、ずっと張り詰めてたみたいだからね」
「はい、何日も家に帰ってきてなかったですもんね」
「少しぐらいハメを外しても大目に見てあげてね」
「あ、はい……」
俺は酔いつぶれた叔母さんを、後輩の女性から受け取った。
「は、八幡……ただいま……」
「ただいまって……酒くせえよ」
「八幡君、先輩をよろしくね。あ、まだ名乗ってなかったね。私は静江先輩の後輩の鍋島未来です」
「鍋島さんですね……叔母がいつもお世話になってます」
「お世話になってるのは私のほうだよ。それじゃ、タクシー待たせてるから、先輩よろしくね」
「はい、ありがとうございました」
鍋島さんは軽く会釈して外へ出た。タクシーに乗り込むのを確認してから、俺はドアを閉めた。酔った叔母さんを自分の部屋まで運び、ベッドに寝かせる。意外と軽いんだな……って、何を考えてるんだ俺は。
「おい、着替えてから寝ろよ。このままじゃスーツがシワシワになるだろ」
「ふふっ、八幡が脱がせて……」
「は? バカ言ってんじゃねえよ」
酔ってるとはいえ、叔母さんの表情が妙に色っぽくて……って、相手は叔母さんだぞ。何を考えてるんだ。
俺はため息をつきながら、なんとか着替えさせて布団をかけてやった。
それからリビングに戻り、水を一杯飲む。
「ったく……叔母さん、こんなに悪酔いするタイプだったっけ?」
ここに来てから何度か飲みに行ってるけど、こんなに記憶飛ぶほど飲んだのは初めて見た気がする。やっぱり事件のことが、相当ストレスになってるんだろうな。新間記者として真正面から向き合ってるんだから。……それにしても、大人の色気ってやつか。制理とは違う雰囲気だった。って、また余計なこと考えてる。
「いかんいかん、何考えてんだ俺は……」
首を振って、今日はさっさと寝ることにした。
2011・04・21・☁・06:30・稲羽市・八十神アパート・2ー1・静江の部屋・リビング。
いつも通り起きて準備を始めた。朝飯を作っていると、叔母さんが頭を押さえながら起きてきた。
「頭いてぇ……八幡、おはよ」
「おはよ、叔母さん」
「……昨日どうやって帰ってきたか全然覚えてないのよね。未来と飲んでて、途中から記憶がないわ」
「記憶飛ぶまで飲んでたのかよ。鍋島さんがタクシーで連れてきて、部屋まで運んでくれたぞ」
「……そ、そうなの。イテテ……どうやって着替えたかも覚えてない」
「はぁ……俺が着替えさせて寝かせたんだよ」
「八幡……ありがとう」
「別に。礼を言うなら鍋島さんに言えよ」
「うん、そうするわ」
叔母さんは少し照れくさそうに新聞社へ行く準備を始めた。いつも通りの叔母さんに戻っていた。正直、あんな色気のある叔母さんを見たらどうしようかと思ったけど……まあ、アルコールの力だな。忘れよう。俺たちは一緒に朝飯を食べて、それぞれ学校と仕事へ出かけた。
2011・04・29・☂️・21:45・稲羽市・八十神アパート・2ー1・静江の部屋・リビング。数日前から雨が続いている。明日は朝方に霧が出る可能性が高いな。でも天城はもう助け出してあるから、大丈夫だろう。制理から電話で、天城が明日から学校に来られそうだと聞いた。放課後には天城から話を聞くことになりそうだ。
「何か覚えてるといいんだが……」
それだけ考えて、俺は早めに布団に入った。
2011・04・30・☀・12:45・稲羽市・八十神高校・空き教室。
雪柳先生から『空き教室で話そう』とメールをもらい、俺たちは指定された教室へ向かった。
中に入ると、すでに雪柳先生がいて、教室内が綺麗に整理されていた。キャスター付きのホワイトボード、ポット、コップまで用意されている。
「みんな、いらっしゃい。入り口に立ってないで、こっちに来て座って」
雪柳先生はいつもの穏やかな笑顔で迎えてくれた。里中が代表して聞いた。
「雪柳先生、これってどうしたんですか?」
「ああ、これね。あなたたちが前に言ってた『ジュネスのフードコートが特別捜査隊の本部』って話、覚えてる? 毎回ジュネスに行くわけにもいかないでしょ。私も教師として勤務時間があるし……だからここを支部みたいに使おうと思って」
花村が苦笑いした。「準備早いっすね。ジュネスが本部で学校が支部って感じですか」
「そういうことになるわね」
制理が心配そうに言った。
「空き教室を使うのって、生徒会や学校に報告必要じゃないですか?」
「大丈夫。生徒会と校長先生の許可は取ってあるわ」
雪柳先生はそう言って、一枚の紙を俺たちに見せた。そこには『ミステリー研究会』と書かれていた。
「ミステリー研究会……?」
「バカ正直に『事件を解決するための部活です』なんて言えないでしょ。だからカモフラージュよ」
なるほど、確かにそれなら不自然じゃない。先生なりの気遣いだ。
その後、里中たちが購買部でカップラーメンを買ってきて、俺たちは本題に入った。天城の記憶、犯人の手口、動機……。
天城は下を向いて小さく言った。
「玄関のチャイムが鳴って……誰かに呼ばれたような気がする……それ以降は、あのお城の中で……ごめんね」
「無理に思い出さなくていいよ」
「そうだよ、雪子」
話が進むにつれ、犯人はかなり大胆で土地勘がある市内の人間である可能性が高いという結論になった。そして俺たちは、天城に正式に協力をお願いした。
天城も『なぜ自分が狙われたのか知りたい』と、快く了承してくれた。
一通り説明が終わった後、制理たちは自分たちが買ってきたカップラーメンを食べ始めていた。俺はコーヒーを飲みながら外を眺めていたが、鳴上と花村が腹が減ったとかなんとかで、制理たちのカップラーメンを欲しそうに頼み込んで、少し分けてもらうようだな。まあ俺はコーヒーでいいからなと思っていたら、制理が俺のとこにやってきて、少し分けてあげると言われたから、言葉に甘えて少し食べた。
普通のシーフードだけど、こういうとこで食べるのはなぜか美味いな。祭りとかで食べる、油まみれの焼きそばみたいなものなのだろうな。こういうのはみんなで食べるから美味しいのだろう。昔の俺ならそんなこと言わなかっただろうがな。俺は少し食べて制理にシーフードを渡した。
というかあいつら里中の分と天城の分を全部食べたのか……どんだけがっついてるんだよ。
それでフィレ肉を奢るはめになったみたいだけど、なんでか俺まで巻き込まれてんだけど。俺は全部食ってねえぞ。
「ちょっと待てよ、鳴上、花村。俺は全部食べてねえし」
「こういうのは連帯責任なんだよ」
「ちょっ…連帯責任とか何言っちゃってんの?この人」
「男子はニ言はなしだ」
「鳴上、なんかかっこいいこと言ってるようにしてるけど、全然かっこよくないからというか責任を押し付けてるだけだから」
雪柳先生、何とかしてくださいよって…なんでそっちの味方になってるんですか。制理まで…里中たちの仲間に…こういう時の女子の結束力は絶大だぜ。
「……わかったよ…鳴上、花村、俺もおごればいいんだろ?」
こうして俺たちはなぜだかとばっちり受けて、里中たちに奢るはめになってしまった。
雪柳先生は、学校の仕事を終わらせてからこっちに合流するみたいだな。
もう一度、アンケートを取ります。鳴上悠のヒロインは誰がよろしいですか?
-
1ー里中千枝
-
2ー天城雪子
-
3ー久慈川りせ
-
4ー白鐘直斗
-
5ー小沢結実
-
6ー松永綾音
-
7ー海老原あい
-
8ー雪柳綾奈
-
9ー麦野静江