俺の青春が田舎へ流された。   作:龍造寺

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つかの間の日常編1話です。


つかの間の日常編①
つかの間の日常編ー49ー1話ー静江と八幡。


2011・05・01・☀・10:25・稲羽市・八十神アパート・2ー1・静江の部屋・リビング。

 

もうすぐゴールデンウィークだな。大人にとっては有給を取って長い休みにする奴もいるだろうが、学生の俺たちにはそんな都合のいい話はない。

 

稲羽に来て初めてのゴールデンウィークだけど、特に予定があるわけでもない。制理とはどこか行こうかと思っていたが、吹寄家は家族で旅行に行くらしい。2泊3日の北海道旅行だとか。

 

制理は『お土産買ってくるね』と言っていた。北海道名物といえば白い恋人……だったか?

 

そういえば俺は——

 

「千葉にいた頃……家族旅行なんてほとんど……」

 

行った記憶がほとんどない。どっちかと言えば、家で留守番をしていた。どこかへ出かけるという行為自体が、俺にはあまり好きじゃなかったんだよな。叔母さんはゴールデンウィーク中も休みがないらしい。後から代休を取るそうだが。俺のゴールデンウィークは、結局いつも通りになりそうだな。

 

そこへ、携帯にメールの着信音が鳴った。ジュネスからだ。

 

『ゴールデンウィーク中のセール開催のため、シフトに入ってくれる方を募集します。時給にプラスして支給いたします。出勤可能な方はご連絡ください。』

 

セールか。時給アップなら悪くない。お金も稼げるし、やることもないしな。俺は花村店長に連絡を入れ、ゴールデンウィーク中に何日かシフトを入れることにした。これで予定が決まった。

 

 

2011・05・05・☀・10:25・稲羽市・八十神アパート・2ー1・静江の部屋・リビング。

 

ゴールデンウィークも最終日となった5月5日。今日はバイトが休みだったので、のんびりしようと思っていた。

 

そういや5月3日、昼からバイトだったから朝のうちはゆっくりしようと思ったが、里中から電話で呼び出され、ジュネスに集まることになった。いつものメンバーだが、今日は雪柳先生と制理はいない。その代わり、鳴上の従姉妹である菜々子ちゃんを連れてきていた。

 

菜々子ちゃんは普段、家で一人留守番することが多いらしい。たまには外に連れ出してあげたいということだった。ジュネスが大好きだと言う菜々子ちゃんを見て、花村は目を潤ませていた。いつもの敵意だらけの反応とは違い、好意を向けられて珍しいのだろう。

 

ただ、あいつは地雷を踏んでしまった。『母親』というワードを。

 

菜々子ちゃんの母親は事故で亡くなっているらしい。あんなに小さいのにしっかりしている姿に、俺は少し驚いた。俺が菜々子ちゃんくらいの歳の頃、あんなにしっかりしていただろうか。いや、していなかったな。

 

鳴上が来るまでは、男手一つで刑事の叔父さんに育てられたから、自然としっかりせざるを得なかったのかもしれない。

 

それにしても、鳴上の奴、マリーとかいう女の子とも知り合いだったとは……全く恐れ入るぜ。

 

ただ、あのマリーって子に『腐った目の男』と言われたのは懐かしかった。

 

千葉にいた頃、よくそう呼ばれていたあだ名の一つだ。まさかここで聞くとは思わなかった。『千葉ってどこ? そんなところから来てないから』と返されたが、『どこから来たかわからない』とも言っていた。

 

記憶喪失……なのか? それにしても鳴上がよく知り合いになったものだ。と、昨日までの話はここまでで——

 

今日はゴールデンウィーク最終日、さすがにのんびりゴロゴロしようと思っていた矢先、叔母さんが声をかけてきた。叔母さんは、急遽、今日は休みになったらしい。

 

「八幡、今日一日私に付き合いなさい」

 

「付き合うって、買い物か?」

 

「買い物じゃないわよ。ちょっとドライブよ」

 

「ドライブって、どこに?」

 

「どこだっていいでしょ」

 

まあ、別に予定もないし、ドライブだけなら構わないか。

 

「わかった」

 

俺はすぐに準備をして、叔母さんの車に乗り込んだ。

 

2011・05・05・☀・午後・車内(静岡方面へ)

 

叔母さんがハンドルを握りながら、静かに話し始めた。

 

「新学期早々に山野アナの事件が起きて……それからすぐ、山野アナの遺体を第一発見者だった小西さんが殺されて……その次に天城さんが失踪して、無事に発見されたわ。本当に、稲羽市全体が暗い影に包まれてる」

 

俺は助手席でシートベルトを指でいじりながら、ただ頷いた。

 

「天城屋旅館も、他の商業施設も、前年比で売上がかなり落ちてるみたい。新間社にもその話は入ってきてるわ。観光客も減ってるし、地元の人たちも夜は早く家に帰るようになったって」

 

「まあ、仕方ないだろ。単発の事件ならまだ『不幸な事故』で済むけど、連続殺人となれば客足が遠のくのは当然だ。テレビのアンテナや電柱に吊るされるような……あんな以上な光景、誰だって怖がる」

 

叔母さんはアクセルを少し強めて、高速道路を静岡方面へ走らせた。窓の外の景色が、徐々に田舎から湖の近くへと変わっていく。数時間後、俺たちは浜名湖に着いた。

 

2011・05・05・☀・13:55・静岡県・浜名市・浜名湖。

 

浜名湖は思ったより広くて、穏やかな水面が陽光を反射していた。俺たちは湖畔を少し歩き、適当なベンチに腰を下ろした。叔母さんは持参したお茶を俺に渡しながら、ふと遠い目をした。

 

「八幡……少し、昔の話をして良い?」

 

「別に構わないけど……急にどうしたんだ?」

 

叔母さんは湖の向こうを眺めながら、ゆっくりと語り始めた。

 

「私、幼少期から中学2年くらいまでは、本当に普通の女の子だったの。優等生でも不良でもなく、ただの平凡な子。母さん——あなたの母さんとは、一番仲が良かったわ。母さんは大学まで地元にいたけど、卒業と同時に都会へ就職したの。私が中3の時だった」

 

叔母さんの声が、少しだけ柔らかくなった。

 

「雪穂姉さんさんが稲羽を出て行った後、家は歯車が狂ったみたいにおかしくなった。雪穂姉さんはすぐ下の妹である2女の淡雪姉さんに、私のことを頼んで出て行ったんだけど……淡雪姉さんは大学受験で勉強ばかりで。末の3女の雪絵姉さんは正反対で、雪穂姉さんがいなくなった途端に遊びまくり始めた。だから、一番下の私に父親の当たりが強くなったの」

 

叔母さんは苦笑した。

 

「最初は父親の言う通りにしていたわ。でも、自分を抑えつけて生きるのが、突然馬鹿馬鹿しくなって……高校時代、私は不良になったの。いつも周りに迷惑をかけて、警察に厄介になるたびに雪穂姉さんに身元引き受けを頼んでいたわ」

 

俺は黙って聞いていた。叔母さんがそんな過去を、こんなに詳しく話すなんて初めてだった。

 

「高校三年の夏、父親を事故で亡くしたの。いつもガミガミうるさくて嫌いだったのに、いなくなってみると、その偉大さがわかった。父親が生前に残していたメモ帳があったの。そこで初めて知ったんだけど……私にきつく当たりすぎたことを、すごく反省してたみたい」

 

叔母さんは目を細めて、静かに続けた。

 

「そのメモ帳に、こう書いてあったの。『静江、お前はお前の生きたいように生きなさい』って……それだけ」

 

俺は胸の奥が少しざわついた。叔母さんの父親——つまり俺の祖父は、麦野ホールディングスの社長だったらしい。家政婦もいて、裕福な家庭だったと聞かされた。

 

「母親は私が小さい頃に病死して、父親が男手一つで四人の娘を育てたの。私の問題行動で色々言われたみたいだけど、父親はグッと我慢して、私をかばってくれていた。それを、亡くなってから知ったわ」

 

その後、社長の座は父親の弟である麦野正隆が継ぎ、今は3女の雪絵が社長になっているという。母さんと2女の淡雪さんは、社長になることの放棄と麦野ホールディングスに関わらないことを誓約書に書いたらしい。だから母さんが実家の話を一切しなかったのも納得がいった。

 

「母さんから、そんな話一度も聞いたことなかったぞ」叔母さんは小さく笑った。

 

「雪穂姉さんは、社長令嬢とか言われるのが嫌いだったの。コツコツ勉強して、自分の力で都会の会社に就職したわ。そこで営業先で出会ったのが、あなたのお父さん。数年交際して結婚して、二年後にあなたを妊娠して寿退社したの。今は専業主婦よね」

 

そこから、叔母さんは自分の話に移った。大学に進学して、母さんとは逆に都会へ出た。大学2年生の頃、付き合っていた男がいた。でも、数ヶ月後にその男の親友に襲われそうになった。彼氏であるその男は、助けようともせず、むしろ楽しんでいるように見えたという。

 

「その時、私の中で何かが壊れたの。都会に合わせようと抑えていた仮面が、粉々に砕けたわ。その男と親友をボコボコにしたの。警察沙汰にはならなかったけど、二度と近づかなくなったわ」

 

叔母さんは自嘲するように笑った。

 

「大学では新聞部に入って、新聞社見学で出会った先輩——柳田勝則さんと付き合うようになったの。本気で将来を考えていたわ。入社三年目にプロポーズされて、私も承諾した。雪穂姉さんさんにも紹介して、柳田さんの両親にも挨拶に行ったのよ」

 

しかし、その幸せは長く続かなかった。柳田さんは取材で東京へ向かう途中、交通事故に巻き込まれて亡くなった。叔母さんが駆けつけた時には、すでに亡骸だったという。

 

「しばらく仕事も休んで、何も手につかなかったわ。柳田さんのご両親から『息子のことは忘れて、新しい出会いを』と背中を押されたけど、踏ん切りがつかなくて……結局、東京の新聞社を辞めて、稲羽に戻ってきたの」

 

叔母さんは、戻ってきても何もする気にならず、コンビニのバイトで食いつなぐ日々が続いていたようだ。そんな時、一通の手紙が届いた。差出人は、亡くなったはずの柳田勝則。日付は亡くなる前日だった。手紙は様々なところを経由して、ようやく叔母さんの元へ届いたらしい。麦野正隆と雪絵が、麦野ホールディングスの力を使って叔母さんの居場所を突き止めたのだという。

 

その手紙にはこう書かれていたと。

 

『静江、君は君の生きたいように生きなさい。たとえ何があっても、君が君らしく生きていることが、俺の幸せでもある』

 

俺は湖の水面を見つめながら、胸の奥が熱くなるのを感じた。叔母さんはずぼらで一見強そうに見える。でも、意外と脆いところがある。それを、半年近く一緒に暮らしてなんとなくわかっていた。

 

父親の言葉と、婚約者だった柳田さんの言葉——二人の男に『自分のまま生きろ』と言われたことで、叔母さんは自分を取り戻した。

 

そして、柳田さんが目指していたジャーナリズムを継ぐ道を選び、稲羽で新聞記者として新たな一歩を踏み出した。今に至るまで、婚約者を失ってからは誰とも付き合っていないらしい。

 

叔母さんは全てを話し終えると、大きく息を吐いた。

 

「洗いざらい話してしまったわね……八幡、嫌じゃなかった?」

 

俺は少し間を置いて、静かに答えた。

 

「……嫌じゃねえよ。むしろ、叔母さんのこと、もっと知れた気がする。今まで以上に、親しみを感じた」

 

叔母さんは驚いたように俺を見て、それから柔らかく微笑んだ。

 

「ありがとう」

 

その後、俺たちは浜名湖をもう少し散策してから、稲羽へ向けて車を走らせた。帰り道、叔母さんは少し疲れた顔をしていたが、どこか晴れ晴れとした表情にも見えた。

 

俺は窓の外を流れていく景色を眺めながら、思った。叔母さんも、色んなものを背負って生きてきたんだな……。

 

そして、俺は今、この人のそばで暮らしている。それが、なんだか少し、悪くないと思った。

 

こんな感じで、俺のゴールデンウィークは過ぎ去ったのであった。

 

もう一度、アンケートを取ります。鳴上悠のヒロインは誰がよろしいですか?

  • 1ー里中千枝
  • 2ー天城雪子
  • 3ー久慈川りせ
  • 4ー白鐘直斗
  • 5ー小沢結実
  • 6ー松永綾音
  • 7ー海老原あい
  • 8ー雪柳綾奈
  • 9ー麦野静江
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