2011・05・16・☁・16:20・稲羽市・稲羽商店街・巽染物屋。
戻ってきた俺に、鳴上たちは外で話していた内容を聞いてこなかった。こいつら、❝千葉❞という単語で❝聞いてはいけないもの❞と判断したんだろうな。今までならそっとしといてくれと思っていたが、今の俺には別に聞かれたとしても何も感じなくなっている。それだけ成長したってことなのか。
鳴上たちが染物屋でわかったことは、生前の山野アナがスカーフをオーダーメイドしたことだった。
男物と女物の二つ。ただ後から『片方しかいらない』と言われて、もう片方を売りに出していると、巽完二の母親から聞いたらしい。スカーフのことで、巽染物屋と山野アナの繋がりがわかった。
だが、スカーフで人を狙ったりするものなのか?
わからん。
そんな話をしていると宅配便が届いたようで、巽完二の母親はそちらへ行ってしまった。俺たちも話は終わったということで、外に出ることにした。
2011・05・16・☁・16:30・稲羽市・稲羽商店街・巽染物屋前。
俺たちが染物屋を出てくると、白鐘が巽完二と話していた。次に会う人物って、巽完二だったのか。
「ちょ、お前ら、隠れろ!」
「花村、隠れてどこに?」
鳴上がそう言ったが、俺もそう思う。この辺に隠れる場所なんてねえだろ。花村が誘導して郵便ポストの後ろに隠れたのだが、どっからどう見ても隠れていねえ。
俺たちは、巽完二と白鐘の会話に耳を澄ませた。
「あ、明日なら別にいいけどよ……あ、学校? も、もちろん行ってっけど……」
「じゃあ、明日の放課後、校門まで迎えに行くよ」
それだけを白鐘は言うと、商店街の外の方へ歩いていった。
「きょ、興味って言ったか、アイツ……? 男のあいつと男のオレ? オレに興味? あん? 何見てんだぁゴラァァ!!」
巽完二が俺たちの方に迫ってきたので、そのまま逃げることにした。テレビ以上に迫力があったぞ、あいつ。
しばらく走ったところで俺たちは立ち止まった。どうやら追ってくる気配はなかった。里中が息を切らしながら言った。
「ビビった〜……テレビで見るより迫力あんねー……」
「昨日の映像って、やっぱり完二君だ……」
確かに昨日の映像は、巽完二で間違いない。確証を持てる。
「ああ、それに思ったんだけどさ。例の❝共通点❝、母親の方なら該当してるんだよ。1件目の山野アナの関係者で、女性だ。でもテレビに映っていたのは、息子の完二の方……どういうことだ?」
「花村、その共通点はそうだが、テレビに映った完二がさらわれる可能性は高い」
「そうだな、鳴上。天城の時も、関係があった母親じゃなく、天城自身がテレビに映ってさらわれたわけだからな」
「比企谷君、そうだね」
「ああ、八幡の言う通りだな。条件は二つとも母親の方が合ってるけど……」
これってどういうことだ? 山野アナの関係者と、テレビに映る人物は違うということか?しかし全く動機が見えてこない。一体どういうことだ?
「口封じにも、恨みを晴らすことにもなんないし」
「読み違えてんのか? 実は最初の事件から、恨みでも復讐でもなかったとか? あるいは、あの染物屋自体に何か秘密が?」
全くわからない。何が何だか分からなくなってきたぜ。
「でも、このまま放っておけない」
「そうね、放っておけないよね……」
「うーん、こりゃもう、巽完二に直接聞いてみた方が良くない? 何か気になることないか、とか……怖いけどさ」
「確かにそれしかないだろうな」
「八幡、さっきのちびっこ、完二のやつと明日会うとか約束していたよな?」
「確かにそう聞こえたぜ、花村」
「さっきのちびっこは、『学校に迎えに行く』と言っていたな」
鳴上も聞いていたか。
「完二って、入学早々、学校サボりまくりって聞いたけど、なんか怪しくねえ?」
「確かに、雰囲気は妙だったね。んー言われてみると怪しい。臭う、なんか臭う気がする」
「臭うって千枝……クマ君の台詞じゃない……」
「けど、実際何か掴めるかもよ。よし、『張り込み』してみようぜ。完二と染物屋の両方。絶対に犯人に先越されたくないしな。というわけなんで、天城、携帯番号教えてくれない?」
「ちょっと、あんたまさかそれが狙い?」
「それって引くよ、花村君」
「や、違うって。俺、この中で天城だけ知らないからさ。それに『あ行』の知り合い、少ないし」
「はぁ……アンタそう言えば、夜中にかけてきて下ネタとかやめてくれる?」
「……そう言えば、以前かけてきた時下ネタ言ったよね……」
花村、里中や制理に下ネタの電話なんかしてたのかよ……。
「花村、それはお前が悪い。同じ男からしてもひくわ」
「俺もそう思うぞ、花村」
「お、俺は天城と話してんの!」
天城は下を向いて、とても嫌そうな顔をしている。絶対に教えたくない表情だな……昔の俺が大体の女子からされたような拒絶の顔だ。
「……あ、思い出した。今日、お豆腐買って帰るんだった」
あ〜完全に拒否されたな。天城も全然聞いていないし。
「はいはい、明日ね。でもそっか、張り込み、尾行? やば、地味にワクワクしてきた!」
「雪柳先生には、俺から連絡しとくよ」
鳴上が雪柳先生に報告することになった。
明日の放課後、俺たちは巽完二と染物屋を張り込んでみることになったわけだ。
うまくどっちかに犯人が引っかかってくれればいいんだがな。
2011・05・16・☁・22:30・稲羽市・八十神アパート・2ー1・静江の部屋・リビング。
巽完二のことも気になるが、それ以上に頭から離れないのが、白鐘が持ってきた千葉からの手紙だ。一体誰が俺に手紙をよこしたのかと思いながら、封を開けて読んだ。差出人は材木座義輝。そして戸塚と川崎の連名による手紙でもあった。
出だしにはこう書かれていた。『我も大分落ち着きを取り戻し、八幡に手紙を書きたくなりペンを取った。平塚先生や平塚先生の知り合いの白鐘探偵の力を借り、八幡に手紙を書く所存。戸塚氏や川崎嬢もお前のことをずっと心配していた……』
最初はこのような書き出しで、次に本題に入る。
『八幡、お主が突然いなくなって、早半年以上が過ぎてしまったな。文化祭以降、八幡の評価は悪評が立ち、いろんなことが起こってしまった。我はお主を助けることができなかった。我にお主を守るための力がなかった。どうすることもできなかった。そんなことばかりを考えて、しばらくは生活していた。我と戸塚氏、川崎嬢は、お主を救えなかったとずっと自分を責めていた時もあった。お主がどうなったことさえわからなかったのだから。我はあんな仕打ちをした雪ノ下、由比ヶ浜嬢に対して、憎しみがふつふつと湧いてきていた。それは戸塚氏、川崎嬢も同じ気持ちであった……』
こんな感じで、あいつらの気持ちが丁寧に綴られていた。俺のせいであいつらを随分と悩ませてしまったんだな……と思ってしまい、少し後悔の念が湧いてきた。
ずっと向こうとは音信不通というか、連絡を途絶させていたからな。母さんと平塚先生とは定期的にやり取りをしていたが、他の人間とはやり取りを控えていた——というより、拒絶していたようなものだった。
それであいつらが、生徒会のイベントでヘマをしちまったってわけか。それも小学生を相手にするイベントで、そこの小学生の数名を怪我させたという。原因は連絡ミスと誘導ミスが重なった事故のようだ。
「雪ノ下が連絡ミスをするとは思えないが……あいつの中でも慢心が出てきてしまったのか。それとも由比ヶ浜のヤツにほだされたか……」
まあどちらにせよだ。最初は学校側が秘匿するつもりだったらしい。でも、相手側の小学校の方がマスコミ関係者に暴露して、それが表に出ることになったようだ。いくら地元では強い雪ノ下グループでも、全国的に言われてしまったらそれまでか。
それで第三者委員会のようなものが設置され、色々調査しているうちに、俺の件も明るみになったというわけだ。あいつらも色々と調べられて……総武高校の校長たちも、雪ノ下や由比ヶ浜、相模……関係のない連中たちも調べられている途中らしい。そして親父に小町も……。
あいつらがどうなろうが知ったこっちゃない。ただ、平塚先生や母さんに何かないかだけが心配だ。それだけだ。
そして最後に、戸塚や川崎の謝罪の言葉が載っていた。さらに材木座は、俺を主人公にしたフィクション物を書いているらしい。何でも成り上がっていくものらしいのだが。昔なら『ふざけんな』と思っただろうが、今はあいつがあいつらしく生きていけるのなら、執筆してもいいとそう思えている。
材木座や戸塚、川崎と、高校卒業までにどこかで会えればいいのだが。この手紙の返信は、材木座に送ればいいのか。
なんかあいつの住所まで書かれているしな。
今日明日は返事は書けないが、巽完二の件が落ち着いたら書くとしよう。何しろ明日は張り込みだからな。体力勝負だ……だから早めに寝ることにする。
今回は昼間投稿です。
もう一度、アンケートを取ります。鳴上悠のヒロインは誰がよろしいですか?
-
1ー里中千枝
-
2ー天城雪子
-
3ー久慈川りせ
-
4ー白鐘直斗
-
5ー小沢結実
-
6ー松永綾音
-
7ー海老原あい
-
8ー雪柳綾奈
-
9ー麦野静江