「ケイト、猫拾う感覚で子供捕まえるのやめてね? あと貴方、ケイトを殺しに来たんでしょ? 私としてはちょっと頂けないわね……」
そう言って蒼葉邸の主、銀の髪と蒼い瞳が特徴的な女性、蒼葉アキルが私を睨む。
当然だ、普通人殺しと同居したいとか思わない。
事前情報では「紅い獣」……ケイト・リードは蒼葉アキルのボディガードとして働いていると聞いた。
それならギリギリ許容できるだろう。
自分は殺されないのだから、だが、私は違う。
万が一でも自分に危害を加える様な輩が家にいるだなんて普通は絶対に嫌だろう。
「誓います。蒼葉アキルさん、私はケイト・リード以外には決して危害を加えません。だからどうかこの屋敷に住ませてもらえませんか!」
「うーん……ケイトに担がれながら言われてもねぇ。貴方手ひどくやられたでしょ? やめといた方がいいわよ、ケイトは馬鹿で飲んだくれだけど強さだけは本物、現に貴方手足グチャグチャじゃない」
ん? 何か話がおかしいぞ?
なぜか私の心配をしてないか?
「えっと……なぜ私の心配を?」
「いや、貴方、話だけ聞いたけどデザイナーベビー? だっけ? なんか生い立ちからして苦労してそうだし使命なんか投げ捨てて好きに生きた方がいいんじゃない? うちならどこが相手だろうと踏み潰せるしそっちの方が幸せ……」
それは違う。
それだけはありえない。
私の存在意義に関わる。
「それは違う! 私はケイト・リードを殺す為に人生を捧げたんだ! それを否定するのは許さない!」
「うーん、頑固者ね。まぁ、屋敷に滞在するのは許します。今更人殺し一人増えたところで変わらないし。とりあえずはグレンに治療して貰いなさいな」
そう言って蒼葉アキルは私の滞在をあっさり認めた。
正直、頭がイカれてると思った。
普通人殺しを自分の家に常駐させるか?
……まぁいい、とりあえずこれでケイト・リードを殺せる確率は上がった。
「あ、話終わった? とりあえずグレンとこ行くか」
そう言ってケイト・リードは私を担ぎながら地下へと向かっていく。
「おい、グレン、仕事だぞぅ。なる早でこの娘の四肢治してやって」
「あぁ、例の……つうか無理難題押し付けるの好きだよなこの屋敷の連中は……」
そこにいたのは白髪でボサボサ頭の赤い瞳をした白衣の男だった。
「うわぁ、ひでぇや綺麗にポッキリ折ってやがる……アンタも苦労してんねぇ、あの馬鹿の相手させられるとか」
「……治療には何ヶ月かかりそうですか? なるべく早く奴を殺したいんですけど」
「んー、2時間かなちょっと待ってな」
は? 2時間? 聞き間違いか? 普通このレベルの怪我は数ヶ月は治療に要するはずだ。
それを2時間? 言ってる意味がわからない。
「あ、注射とか大丈夫? あと未知の治療法とか、無理なら4ヶ月な」
「……どっちも大丈夫です」
そのあと四肢に未知の物質を注射されて2時間安静にしていたら本当に治っていた。
「ちなみに何を注射したんだ?」
「企業秘密、まぁ、死ぬ様なもんじゃねぇよ」
「……そうですか」
深く言及するのは辞めよう、治るならどうでもいい。
とにかくケイト・リードを殺しに行かなくては。
「お、治った? ……っていきなりかよ」
首を狙ったが外した。
武器の類は今無い。
それでも肉体がある。
なら殺せる。
「ちょっとはお喋りしようぜ? と言うか技術吸収する前に殺していいのかよ? まぁ、殺されないけど」
二打、三打もかわされる。
と言うか当たらない。
完全に舐められてる。
「ダンマリかよ。しょうがないなぁ、じゃあ一回大人しくしてもらうか」
そう言ってケイト・リードの指が触れる。
瞬間、身体から力が抜けて立っていられなくなる。
「……何をした!」
「秘密。まぁ、落ち着けや。武器使って勝てねぇ相手に素手で挑むのは愚策すぎるだろ。と言うかさっきも言ったけど強くはさしてやるよ、弟子」
「誰が弟子だ!」
「お前だよ、にしても師匠かぁ、ちょっと憧れてたんだよなぁ……案外長生きしてみるもんだなぁ、まだ二十だけど」
こんな隙だらけの酒飲みに勝てない自分に腹が立つ。
私の15年はコイツには遠く及ばないとでも言うのか?
「さぁて、何処から教えたもんかねぇ? 基礎……は流石にできてるし近接格闘からかなぁ」
楽しげにケイト・リードは迷っている。
正直ムカつく。
……だけど流石にわかった。
今の私じゃコイツを殺せない。
あまりにも力に差がありすぎる。
なら、当分は大人しく弟子とやらになってやる。
そうして気が熟したら殺す。
「てことで地下シミュレーター室で近接格闘練習な、じゃあ行ってみよう!」
「……わかった。とりあえずこの状態どうにかして」
「あ、悪りい悪りい」
◇◆◇
「とりあえず実践しながらやるかぁ、じゃ始めるぞぉ」
神経を研ぎ澄ます。
どんな攻撃が来ようと反撃を……
「じゃ、スタート!」
は? 消えた? 殺気も無い? 何処に……
「バーン! 今ので一回死んでたぜ?」
そう言ってケイト・リードは私の後頭部に指を当てる。
銃口の暗喩だろう。
「見えなかった……」
「じゃ、ダメだ。最低でも何処に動いたか見えるくらいにはならなくちゃな」
見えなかった、コイツが師弟ごっこをしてなかったら私は死んでいた。
いや、死んだことにすら気づけなかった。
これが伝説の殺し屋「紅い獣」の実力か……
「いやぁ、この初見殺し、毎回引っかかる奴が多いんだけどこれくらいは突破してくれよな、弟子」
「……言われなくても突破してやる。お前を殺すのが私の使命だからな」
「……それがダメなんだよなぁ、ちゃんと心の底から殺したいと思わなきゃ。誰かのためとか、誰かに指図されたからとかじゃ一生アタシは殺せないゾ?」
おちゃらけた雰囲気でケイト・リードは私に言う。
私の殺意が足りない?
……確かに私は政府の為に殺しをしようとしている。
だが、今変わった。
私は根本的にコイツが気に入らない。
絶対に殺す。
「お、いい目になったじゃん? じゃ、続きといきますか」
この日はひたすらケイト・リードの初見殺しの対策練習をした。
なんとか移動方向を目視できるくらいにはなったがそれに対して身体の動きが間に合わないのが殆どだった。
もう少し肉体のチューンナップが必要だ。
「さぁて、あとは晩飯食って風呂入って寝るだけだな」
ケイト・リードは汗ひとつかいていない。
……本当にコイツ人間なのか?
まぁ、今はどうでもいい。
夕食はレーションで済ませよう。
「今、レーションで夕食済ませようとか考えただろ?」
「なんだお前は読心術でも使えるのか? 気持ち悪い」
「弟子が辛辣で辛い……まぁ、晩飯は普通に作ってあるだろうから食えよ? 余らせるとクリスのやつが凹むだろうからな」
「……わかった」
仕方なく夕食をコイツと食べることになった。
夕食は……非常に美味だった。
思えばレーション以外食べたことなかったから当たり前なんだが、それを差し引いても美味だった。
あったかい味がした。
が、それはさておきコイツの寝首を掻く準備をしなくては、とりあえずサイレンサー付きの銃くらいなら用意できる。
部屋は同室、眠ったところで打ち込む。
だが、そう簡単に寝るはずもないか。
少しくらいは警戒するはず……
「zzz〜〜〜」
「嘘だろ……」
完全に寝ている。
……とりあえず脳天撃ち抜くか。
照準を合わせトリガーを引く。
しかし……
「ん〜……」
寝ながら爪で弾きやがった。
追加で3発打ち込むが全部弾かれる。
……アホくさ、寝よ。
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