次の日隣の部屋の不知火さんにこっ酷く叱られた。
「ケイトを殺したいのはわかりますが、その余波で私は死にかけたんですよ! 時と場合を考えてください!」
黒い髪が特徴的な女性、不知火雪奈さんが私を叱る。
「申し訳ありません……以後気をつけます……」
彼女の怒りは当然だ、普通死にかけたら誰だってキレる。
「まぁ、わかったならよろしい。ケイトさんの監督不行き届きもありますしね」
「え? アタシ?」
「当たり前でしょう! ちゃんと節度を守る様に! 貴方一応ローズさんの師匠でしょ!」
「うぅ……そうだけどさぁ……」
「兎に角! お二人とも以後気をつける様に!」
「「はい……」」
そう言って不知火さんはその場を去った。
「かぁー、どうにも雪奈とは相容れねえんだよなぁ、お堅すぎるっつうか……と言うかアイツなら自衛出来るだろうが!」
「ケイト・リード、普通は寝込みに銃弾を弾けない。今回は私たちが悪い」
「寝込みを襲った弟子が悪い」
「言い返せない」
だがふと気になった、不知火さんは自衛ができるとケイト・リードは言った。
つまり彼女も何かしらの技能を持っているのか?
「不知火さんは何かやっているのか?」
「んぁ? 剣術……でいいのか、アレ。まぁ見たかったら雪奈に頼んでみろよ」
ふむ、剣術か。
何か殺しに応用できるかもしれない。
一見の余地ありと見た。
◇◆◇
「私の剣術が見たい、ですか……構いませんがなんの参考にもなりませんよ?」
そう言って不知火さんは適当に石柱を置く。
と言うかかなり重量あるんじゃないかアレ?
そうして刀に手を置く。
数秒後かちゃりと納刀音がしたあと石柱はバラバラになった。
「は?」
「居合術ですよ。ちょっと早くて切れ味の良い、ね」
「見えなかった……と言うか音しかしなかった……これがサムライ……」
「そんな大それたことしてませんよ。ちょっと早い居合術ですって」
不知火さんは照れ気味にそんなことを言うがこれはどう見ても異常だ。
斬撃が見えない、音速の数撃。
圧倒的脅威だ。
これならケイト・リードを殺せる!
「不知火さん! どうかその技術を教えては貰えないでしょうか!」
「え、居合術をですか? ナイフ辺りで応用したい? 構いませんが一朝一夕で獲得できる技術じゃないですよ?」
「構いません! と言うかあの飲んだくれを殺す為だったら何でもします!」
「うーん、複雑……まぁ、ケイトさんならこれくらい余裕でどうにかするでしょうし、いいでしょう! お教えします!」
そうして不知火さん……師匠との特訓の日々が始まった。
「兎に角最初は脱力から! はいもっと力抜いて!」
「速度が甘い! もっと高速に! 音を切る感覚で!」
「無心で切る! これが大事!」
そうして数ヶ月。
遂に……
「……音越え!」
私のナイフは音を越えた。
「ふむ、及第点ですね。この短期間でよく不知火流の居合術を獲得しました! 私から教えることはもうありません!」
「ありがとうございます! 師匠!」
「あのさぁ、盛り上がってるところ悪いんだけど師匠アタシ……」
「なんだケイト・リード、居たのか丁度いい今ここで殺す」
そうして私は身体を風に委ね、音速の斬撃を叩き込む。
「うわ! マジでやるやつがあるか馬鹿!」
だが、ナイフはケイト・リードに掴まれてしまう。
「な……!」
「あっぶねぇ! ちょっと死ぬかと思った!」
「うぅ……せっかく師匠との鍛錬で得た技も効かないなんて……いや、まだ私の努力が足りないんだ! 師匠の技は完璧だ! それがこんな飲んだくれの馬鹿に効かないはずがない!」
「言い方酷くない? そもそもナイフと日本刀だとレンジが違うんだよ! 雪奈の剣術は日本刀前提だからナイフじゃレンジ近すぎて流石に読めるわ!」
「「あ……」」
「え……お前ら気づいてなかったの? 嘘だろ……」
「ローズさん、これは完全に私の失態です……ごめんなさい」
「謝らないでください師匠! 師匠から受け継いだ技術を発展させて必ずケイト・リードを殺して見せます!」
「ねぇ、師匠アタシなんだけど」
「黙れ飲んだくれ!」
「酷いや」
不知火さんから得た技術はケイト・リードにこそ通用しなかったが確実に私の技術のレベルアップにはなった。
音速の斬撃、これは無駄にはしない。
あと、師匠にするなら圧倒的に不知火さんの方が良い。
教え方が丁寧だし優しいし。
あと酒臭くないし。
「……おい、なんか失礼なこと考えてるだろ」
「むしろいつも考えているが?」
「ははは! ちょっと泣かすか?」
「泣かんが?」
「……まぁ良いや、ここでやらかしたら弟子が可哀想だしな! と言うかアタシを殺したいならもっと努力しろ! 具体的に言うとアタシとの稽古にもちゃんと出ろ!」
「チッ、努力しまーす」
「可愛げねぇな、そんなんじゃいつまで経ってもアタシを殺せないぜ?」
「……それは困る。やっぱり努力する」
「それでよろしい」
非常に不服だがこの飲んだくれが異次元レベルに強いのは事実だ。
なら、コイツから技術を吸収する方が効率がいいのも事実だ。
実際見えない斬撃にあの奇襲が合わさればコイツを殺せなくとも怪我をさせるくらいは出来るはずだ。
「ローズさん、頑張ってください! 正直ケイトを殺せるかはだいぶ怪しいですが重傷を負わせて病院送りくらいはできますよ!」
「雪奈酷くない? アタシ達友達だよね?」
「人に借金して飲んだくれてる奴を友とは呼びません。と言うか貴方お金たくさん持ってるでしょ! 早く返してください!」
「あぁー、えぇと、ちょっと今無いかなぁあははは!」
「……斬る」
不知火さんの雰囲気が一気に変わる。
殺意に満ちたサムライのそれだ。
「タイムタイム! 明日! 明日返すから! ちょっと仕事探して返すから!」
「……わかりました。待ちましょう。しかし違えたら斬ります」
「うおぅ怖えや。てことで弟子、明日仕事行くぞ」
「仕事って?」
「んなもん決まってるだろ、殺しだよ。師匠の本気をちょっとだけ見せてやるよ」
そう言ってケイト・リードは笑っていた。
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